次は間違えないと言われましても

風見ゆうみ

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23  次は間違えないと言われましても ① (トーマス視点)

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 ランフェスの結婚は僕が知った次の日には正式に発表された。相手は異国の令嬢で公爵令嬢だそうだ。名前も発表されたので実在の人物か調べようとしたが、その異国というのが厄介だった。ハズレ―王国からかなり離れた場所にあるため、調査をするにしても結婚式の日に間に合いそうになかった。
 普通ならば結婚式の準備はかなり時間をかけてやるものだ。それなのに時間が間に合わないのは、まだ公爵の爵位を継いでいないという理由で、簡易的な結婚式しか挙げないからだ。

「普通は花嫁のために結婚式は盛大にやるものだろう。しかも公爵家だぞ! 怪しい。相手は絶対にユミリーに決まっている」

 自室の安楽椅子で僕が呟くと、セレスとファルナは不満そうに僕を見つめる。

「ユミリーはもういないって言っているじゃないの。諦めなさい」
「そうですわ。トーマス様にはこのわたくしがいるではないですか!」

 普段はとてつもなく仲が悪いのに、ユミリーのことになると二人は結託して忘れろと言う。そんなに簡単に忘れられるわけがない。次は間違えないと心に誓って彼女だけを思ってきたんだ。

「ユミリー様のどこが良いのですか」
「そうよ。見た目が人よりもちょっと可愛い普通の令嬢じゃないの」
「ユミリーは君たちと違ってすぐに怒ったりしない。感情のコントロールができて、僕の全てを温かく受け入れてくれるんだ」

 僕の知っているユミリーはいつも微笑んでいた。僕が浮気をして謝った時も悲しげな笑みにはなっていたが、僕を笑って許してくれた。今思えばあの時、ユミリーを殺めてしまったのは、ランフェスに取られたくない。それだけだった気がする。ランフェスがユミリーに密かに思いを寄せていることは知っていた。だけど、ユミリーは僕のものだ。一番近くでユミリーが僕に染まっていく所を見せてやりたかったから、無理やり彼を彼女の護衛騎士にしたのに。

 ……そうだ。そうだったんだ。

「……トーマス、あなたどうして笑っているの?」
「いや、本当の目的を思い出したんだ」
「どういうこと?」
「どういうことですの?」

 聞き返してきた二人に、僕は笑いながら答える。

「今までは嫉妬でユミリーを殺めたと思い込んでいた。でも、実際は違うんだ。僕は、いつだって変わらないランフェスの表情を悲しみの色に染めたかったんだ」
「はあ? そんなくだらない理由? じゃあ、どうして私に時間を巻き戻させたのよ。彼は十分悲しんだんでしょう?」
「それは、あの時の生活に嫌気が差していたからだよ。あんなことをしなければ、僕は王子でいられたのにって後悔したんだ」

 ユミリーのことは僕なりに愛していた。だけど、執着するほどではなかった。全てランフェスが悪いんだ。僕よりも目立ち、僕よりも周りに愛されていたランフェス。

 今度こそお前を失望させ、僕は幸せになってみせる。次は間違えない。
 
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