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30 次は間違えないと言われましても ⑧
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ファルナは怯えた様子で叫びます。
「暴力で解決しようなんて野蛮すぎます!」
「大人しくトーマス様と一緒に自首してくれたら、私はあなたに暴力をふるわなくて済みますけど?」
「ど、どうしてわたくしが自首などしなければならないのですか!」
私が答える前に、トーマス様が割って入ってきます。
「ファルナ、冷静に考えてみたら思い出したんだが、君は昔からユミリーを憎んでいたよな! 君は人殺しの最低な人間だ! それに僕の妻としては失格だ!」
「トーマス様……っ」
ファルナの目から大粒の涙がこぼれました。トーマス様は怒りの表情から微笑みに変えて、彼女に話しかけます。
「僕を好きになってくれてありがとう。僕は犯罪者は好きじゃないんだ。君が罪を認めて刑務所に入って罪を償ってくれたら嬉しいな」
「トーマス様、公爵家の料理人に毒を渡したのはあなたです。他人事ではありませんよ」
ランフェスが冷たい声で言うと、トーマス様は彼を睨みつけました。
「僕はファルナに頼まれただけだ」
「トーマス様のため……、そうよ。トーマス様のためなのよ!」
ファルナは泣きながら呟き、ギラギラした目で私を見つめました。
「そうよ……。そうだわ! ユミリー様を殺せば私は愛してもらえる!」
「どうしてそうなるんですか」
「ユミリー!」
呆れ返った私に殴りかかってくるファルナをランフェスが止めようとしましたが、トーマス様に阻まれてしまいまいました。私としてはそれで良かったです。ランフェスにケガをさせたくありませんからね。
令嬢は殴り方なんて普通は知りません。ファルナは大きく腕を振り、私の頬を平手打ちしようとしたようでした。でも、素早く私の腕が動き、ファルナが叩いたのはシルバートレイでした。
鈍い音と共に「痛っ!」とファルナは右手を左手で押さえます。
「そのシルバートレイはなんなんですの!?」
「このシルバートレイは重さはそのままで材質が状況に合わせて変化するの。はっきりとは分からないけれど、あなたの手が触れる前にもっと硬いものに変化したのかもしれないわ」
ユミから聞いた話では、『ティアトレイ』という商品名のシルバートレイに魔法を付与すると、魔法をかけた人間の希望の効力が出るわけではないそうです。シルバートレイが持ち主に合うと思われる効力を持つとのことで、私の場合は材質の変化だと思っていたのですが、それだけではなかったようです。
「いやあああっ」
ファルナが悲鳴を上げたので彼女の視線の先を見ると、彼女の手が真っ赤に腫れ上がっていました。
「金属アレルギーかもを強制的に起こさせているのかもな。あんなに酷いのは初めて見た」
ランフェスの話を聞いて思ったことは、シルバートレイは触れた部分にだけ、金属アレルギーを起こしているのではないかということでした。どうすれば治まるのかはわかりませんが、所持者の意思を尊重するようですから、さすがに死んでしまうような効果はないでしょう。そう判断し、シルバートレイをトーマス様に向けて話しかけます。
「あなたもああなりたくなければ、大人しく自首をしてもう二度と私の前に現れないでくださいませ」
「待ってくれ、ユミリー! 誤解だ! 僕は何もしていない! 君を誤解させてしまったのなら謝る! 次は間違えないから、僕のことを信じてくれ!」
トーマス様は引きつった笑みを浮かべて、私に手を伸ばしてきました。
「次は間違えないと言われましても困ります。次なんてありませんから」
笑顔でシルバートレイの縁の部分をトーマス様の額に当てると、すぐに額に1という数字に似た赤い線が浮き上がりました。
「な、なんだ!? か、かゆい! かゆい!」
トーマス様は私から離れて額をかきむしり始めました。よほどかゆいのか、整えられています前髪はすぐに乱れ、涙を流しています。
「ユミリー! どうにかしてくれ! そ、そうだセレス! 魔法で僕を助けてくれ!」
「そうね。結婚してくれるなら何とかしてあげる」
ユミがにこりと微笑んでトーマス様に言うと、トーマス様は額をかきむしりながら、目だけ動かし私とセレス、そしてランフェスを見ました。
その時、ファルナが叫んだのです。
「もう嫌! このままじゃ、トーマス様はわたくしのものではなくなってしまいますわ! そんなの嫌! 離婚されるくらいなら、全部話ますわ! 一緒に罪を償って生きるんです!」
ファルナは泣きながら、私やランフェス、周りにいた兵士やメイドに訴えます。
「トーマス様はユミリー様を殺そうとしましたわ! 毒を用意したのも毒を料理人に手渡したのもトーマス様です!」
「や、やめろ、ファルナ! わかった! わかったよ! 離婚はしないから!」
「トーマス、離婚しなければそのかゆみは一生治まらないわよ」
「そ、そんな……っ!」
二人の女性に詰め寄られ、トーマス様は情けない声で今度は私に助けを求めます。
「ユミリー! 頼む! 助けてくれ! 何でもするから!」
「自分を殺そうとした人を助けるような優しい心は持っていません」
そう答えてランフェスを見ると、ランフェスは兵士たちに指示をして、彼らを警察に引き渡したのでした。
******
あの日から季節が変わり、暖かな気温から少しずつ寒さを感じ始める気温になった頃には色々な出来事が起こっていました。
トーマス様は最初は私への殺意を認めていませんでしたが、かゆみで眠ることもままならず、二日目の朝には私への殺意を認めました。すると、かゆみはまったくなくなったそうです。ファルナも自白したため、ファルナとユミはトーマス様の共犯者として捕まりました。
罪状は公爵令息の夫人の殺害未遂です。トーマス様たちはランフェスの妻は世間的に発表されている女性ではないと騒ぎましたが、嘘の結婚式の立会人は両陛下で、トーマス様が嘘をついていると証言してくださいました。だって、結婚式の式場にいたのは発表されている女性ですからね。
罰の確定はスムーズに進み、トーマス様は公爵の爵位を剥奪され、ファルナたちと共にハズレー王国にある鉱毒の危険性がある鉱山で働くことになりました。
トーマス様は肉体労働、ファルナたちは鉱山で働いている人たちが住んでいる寮の掃除などを任されるそうです。
ユミには助けてもらいましたので、彼女の罪は重いものにしないように頼もうかとしましたが、彼女はトーマス様と一緒にいたいからと言って、それを拒否しました。
拒否した時のユミは「これでトーマスを逃がすことはないわ」と幸せそうに笑っていました。
よほどの模範囚でない限り、自由になることはないからでしょう。
トーマス様はまだ「次は間違えない」と言って、ユミに時を巻き戻すようにお願いしているそうですが、のらりくらりとかわしていると、先日届いた手紙に書いてありました。
現在の私は自由が増えて、楽しく暮らしています。
「ユミリー様! この文字はなんと読むのですか?」
「それはですね……」
社交場では私の代わりをしてくれる女性、パシャ様もとても良い方で、お互いに異国の文字を教え合ったり、プライベートな話をする仲にもなりました。髪や瞳の色も同じ。体形や顔の雰囲気も似ているので、まるで二卵性の双子の妹ができたみたいです。使用人たちにも真実が知らされ、幼い頃からランフェスを見てきた多くの使用人は、私が生きていたことを本当に喜んでくれました。
ランフェスとは遠くの地でなら一緒に出かけることも許され、その時の私はユミリーと名乗ることはできませんが、彼の妻として行動することを許されました。
そして初めての遠出の日、見送りに来てくれたパシャが笑顔で言いました。
「とうとう初夜ですわね! お二人とも頑張ってくださいませ!」
「「えっ!?」」
顔を赤くして聞き返した私たちとは違い、パシャの本当の夫が焦って彼女を窘めます。
「そういうことは口にするもんじゃないんだよ!」
「えっ? あ、そうなのですか!? 申し訳ございません!」
何度も謝るパシャと笑みを隠しきれない義両親や使用人たちに見送られて、私たちは出発しました。
馬車の中で私たちは恥ずかしさで、しばらくの間は無言でしたが、ランフェスが「宿屋とかではちょっと……、その、帰ってきてからでもいいか?」と聞いてきました。
「もちろん!」
ランフェスとそのようなことをするのが嫌なのではなく、他人のことを気にしなければならない環境が嫌だったので安堵しました。
「お義父様たちはがっかりするかもしれませんので内緒にしておきましょうね」
「……そうなんだけど、考えてみたら同じ部屋で寝るんだよな」
「ランフェスの理性を信じてるわ。ハニートラップにかからない練習だと思ったらとう?」
「ずっと好きだった人と、会ったばかりの人間とはレベルが違いすぎるだろ」
ランフェスが子供みたいに拗ねた顔をするので、可愛らしく思った私は彼の腕にもたれかかって言います。
「我慢できたら、私はランフェスのことをもっと好きになると思うわ」
「……鬼」
「そうかもね」
時間が巻き戻る前から、ランフェスが私のことを好きだったのなら、その気持ちに気づいていなかった私は鬼でしょう。
次は間違えないように……って、この言葉は私たちには禁句ですね!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです!
あとがきに付き合ってくださる方は下へスクロールをお願いいたします。
本作を読んでいただき、本当にありがとうございました。
間違いたくて間違えているわけではないんですけど、トーマスの場合は次は間違えないと言いながら、その次の選択肢が間違っているということに気づいていないので問題でした。
そして、ユミリーへの独占欲と思わせつつ、結局は自分よりも良い男は許せんみたいな勝手な理由でございました。
魔女も良い人ではないので、ファルナがどうなるかはわかりません。自分本位で生きてますので、ユミリーを可哀想に思っていなければ、今回の展開になっていないと思います。
ファルナは恋に落ちたというより、堕ちたといった感じでしょうか。悪いことはしてるので許されはしませんが、三人の中では一番純粋?なのかもしれません。
ユミリーは巻き戻る前は、ランフェスのことは本当に良い友人でしたので、最終的にランフェスが一番幸せになりました。
トーマスは環境の辛さに嘆き、ランフェスが幸せだという話を聞いて悔しがっておりますので、私としては『ざまぁ』です。
今回はシルバートレイを出ました! 余談ですが、他社レーベル様で出ました今年の1月刊の作品に、シルバートレイがイラスト初デビューしてますので、気になる方はよろしければ手にとってやってくださいませ!
そしてまたもや、本作の完結と同時に新作を公開しております。
「この悪女に溺愛は不要です!」になります。テンプレの転生ものですが、私の作品ですので逆ハーレムみたいな感じにはなりません。
ご興味ありましたら、メンタル鋼のヒロインを応援してやってくださいませ。
長々と書きましたが、お気に入り、エール、いいね、しおりをありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
新作、もしくは他作品でお会いできますと幸いです。
「暴力で解決しようなんて野蛮すぎます!」
「大人しくトーマス様と一緒に自首してくれたら、私はあなたに暴力をふるわなくて済みますけど?」
「ど、どうしてわたくしが自首などしなければならないのですか!」
私が答える前に、トーマス様が割って入ってきます。
「ファルナ、冷静に考えてみたら思い出したんだが、君は昔からユミリーを憎んでいたよな! 君は人殺しの最低な人間だ! それに僕の妻としては失格だ!」
「トーマス様……っ」
ファルナの目から大粒の涙がこぼれました。トーマス様は怒りの表情から微笑みに変えて、彼女に話しかけます。
「僕を好きになってくれてありがとう。僕は犯罪者は好きじゃないんだ。君が罪を認めて刑務所に入って罪を償ってくれたら嬉しいな」
「トーマス様、公爵家の料理人に毒を渡したのはあなたです。他人事ではありませんよ」
ランフェスが冷たい声で言うと、トーマス様は彼を睨みつけました。
「僕はファルナに頼まれただけだ」
「トーマス様のため……、そうよ。トーマス様のためなのよ!」
ファルナは泣きながら呟き、ギラギラした目で私を見つめました。
「そうよ……。そうだわ! ユミリー様を殺せば私は愛してもらえる!」
「どうしてそうなるんですか」
「ユミリー!」
呆れ返った私に殴りかかってくるファルナをランフェスが止めようとしましたが、トーマス様に阻まれてしまいまいました。私としてはそれで良かったです。ランフェスにケガをさせたくありませんからね。
令嬢は殴り方なんて普通は知りません。ファルナは大きく腕を振り、私の頬を平手打ちしようとしたようでした。でも、素早く私の腕が動き、ファルナが叩いたのはシルバートレイでした。
鈍い音と共に「痛っ!」とファルナは右手を左手で押さえます。
「そのシルバートレイはなんなんですの!?」
「このシルバートレイは重さはそのままで材質が状況に合わせて変化するの。はっきりとは分からないけれど、あなたの手が触れる前にもっと硬いものに変化したのかもしれないわ」
ユミから聞いた話では、『ティアトレイ』という商品名のシルバートレイに魔法を付与すると、魔法をかけた人間の希望の効力が出るわけではないそうです。シルバートレイが持ち主に合うと思われる効力を持つとのことで、私の場合は材質の変化だと思っていたのですが、それだけではなかったようです。
「いやあああっ」
ファルナが悲鳴を上げたので彼女の視線の先を見ると、彼女の手が真っ赤に腫れ上がっていました。
「金属アレルギーかもを強制的に起こさせているのかもな。あんなに酷いのは初めて見た」
ランフェスの話を聞いて思ったことは、シルバートレイは触れた部分にだけ、金属アレルギーを起こしているのではないかということでした。どうすれば治まるのかはわかりませんが、所持者の意思を尊重するようですから、さすがに死んでしまうような効果はないでしょう。そう判断し、シルバートレイをトーマス様に向けて話しかけます。
「あなたもああなりたくなければ、大人しく自首をしてもう二度と私の前に現れないでくださいませ」
「待ってくれ、ユミリー! 誤解だ! 僕は何もしていない! 君を誤解させてしまったのなら謝る! 次は間違えないから、僕のことを信じてくれ!」
トーマス様は引きつった笑みを浮かべて、私に手を伸ばしてきました。
「次は間違えないと言われましても困ります。次なんてありませんから」
笑顔でシルバートレイの縁の部分をトーマス様の額に当てると、すぐに額に1という数字に似た赤い線が浮き上がりました。
「な、なんだ!? か、かゆい! かゆい!」
トーマス様は私から離れて額をかきむしり始めました。よほどかゆいのか、整えられています前髪はすぐに乱れ、涙を流しています。
「ユミリー! どうにかしてくれ! そ、そうだセレス! 魔法で僕を助けてくれ!」
「そうね。結婚してくれるなら何とかしてあげる」
ユミがにこりと微笑んでトーマス様に言うと、トーマス様は額をかきむしりながら、目だけ動かし私とセレス、そしてランフェスを見ました。
その時、ファルナが叫んだのです。
「もう嫌! このままじゃ、トーマス様はわたくしのものではなくなってしまいますわ! そんなの嫌! 離婚されるくらいなら、全部話ますわ! 一緒に罪を償って生きるんです!」
ファルナは泣きながら、私やランフェス、周りにいた兵士やメイドに訴えます。
「トーマス様はユミリー様を殺そうとしましたわ! 毒を用意したのも毒を料理人に手渡したのもトーマス様です!」
「や、やめろ、ファルナ! わかった! わかったよ! 離婚はしないから!」
「トーマス、離婚しなければそのかゆみは一生治まらないわよ」
「そ、そんな……っ!」
二人の女性に詰め寄られ、トーマス様は情けない声で今度は私に助けを求めます。
「ユミリー! 頼む! 助けてくれ! 何でもするから!」
「自分を殺そうとした人を助けるような優しい心は持っていません」
そう答えてランフェスを見ると、ランフェスは兵士たちに指示をして、彼らを警察に引き渡したのでした。
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あの日から季節が変わり、暖かな気温から少しずつ寒さを感じ始める気温になった頃には色々な出来事が起こっていました。
トーマス様は最初は私への殺意を認めていませんでしたが、かゆみで眠ることもままならず、二日目の朝には私への殺意を認めました。すると、かゆみはまったくなくなったそうです。ファルナも自白したため、ファルナとユミはトーマス様の共犯者として捕まりました。
罪状は公爵令息の夫人の殺害未遂です。トーマス様たちはランフェスの妻は世間的に発表されている女性ではないと騒ぎましたが、嘘の結婚式の立会人は両陛下で、トーマス様が嘘をついていると証言してくださいました。だって、結婚式の式場にいたのは発表されている女性ですからね。
罰の確定はスムーズに進み、トーマス様は公爵の爵位を剥奪され、ファルナたちと共にハズレー王国にある鉱毒の危険性がある鉱山で働くことになりました。
トーマス様は肉体労働、ファルナたちは鉱山で働いている人たちが住んでいる寮の掃除などを任されるそうです。
ユミには助けてもらいましたので、彼女の罪は重いものにしないように頼もうかとしましたが、彼女はトーマス様と一緒にいたいからと言って、それを拒否しました。
拒否した時のユミは「これでトーマスを逃がすことはないわ」と幸せそうに笑っていました。
よほどの模範囚でない限り、自由になることはないからでしょう。
トーマス様はまだ「次は間違えない」と言って、ユミに時を巻き戻すようにお願いしているそうですが、のらりくらりとかわしていると、先日届いた手紙に書いてありました。
現在の私は自由が増えて、楽しく暮らしています。
「ユミリー様! この文字はなんと読むのですか?」
「それはですね……」
社交場では私の代わりをしてくれる女性、パシャ様もとても良い方で、お互いに異国の文字を教え合ったり、プライベートな話をする仲にもなりました。髪や瞳の色も同じ。体形や顔の雰囲気も似ているので、まるで二卵性の双子の妹ができたみたいです。使用人たちにも真実が知らされ、幼い頃からランフェスを見てきた多くの使用人は、私が生きていたことを本当に喜んでくれました。
ランフェスとは遠くの地でなら一緒に出かけることも許され、その時の私はユミリーと名乗ることはできませんが、彼の妻として行動することを許されました。
そして初めての遠出の日、見送りに来てくれたパシャが笑顔で言いました。
「とうとう初夜ですわね! お二人とも頑張ってくださいませ!」
「「えっ!?」」
顔を赤くして聞き返した私たちとは違い、パシャの本当の夫が焦って彼女を窘めます。
「そういうことは口にするもんじゃないんだよ!」
「えっ? あ、そうなのですか!? 申し訳ございません!」
何度も謝るパシャと笑みを隠しきれない義両親や使用人たちに見送られて、私たちは出発しました。
馬車の中で私たちは恥ずかしさで、しばらくの間は無言でしたが、ランフェスが「宿屋とかではちょっと……、その、帰ってきてからでもいいか?」と聞いてきました。
「もちろん!」
ランフェスとそのようなことをするのが嫌なのではなく、他人のことを気にしなければならない環境が嫌だったので安堵しました。
「お義父様たちはがっかりするかもしれませんので内緒にしておきましょうね」
「……そうなんだけど、考えてみたら同じ部屋で寝るんだよな」
「ランフェスの理性を信じてるわ。ハニートラップにかからない練習だと思ったらとう?」
「ずっと好きだった人と、会ったばかりの人間とはレベルが違いすぎるだろ」
ランフェスが子供みたいに拗ねた顔をするので、可愛らしく思った私は彼の腕にもたれかかって言います。
「我慢できたら、私はランフェスのことをもっと好きになると思うわ」
「……鬼」
「そうかもね」
時間が巻き戻る前から、ランフェスが私のことを好きだったのなら、その気持ちに気づいていなかった私は鬼でしょう。
次は間違えないように……って、この言葉は私たちには禁句ですね!
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最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです!
あとがきに付き合ってくださる方は下へスクロールをお願いいたします。
本作を読んでいただき、本当にありがとうございました。
間違いたくて間違えているわけではないんですけど、トーマスの場合は次は間違えないと言いながら、その次の選択肢が間違っているということに気づいていないので問題でした。
そして、ユミリーへの独占欲と思わせつつ、結局は自分よりも良い男は許せんみたいな勝手な理由でございました。
魔女も良い人ではないので、ファルナがどうなるかはわかりません。自分本位で生きてますので、ユミリーを可哀想に思っていなければ、今回の展開になっていないと思います。
ファルナは恋に落ちたというより、堕ちたといった感じでしょうか。悪いことはしてるので許されはしませんが、三人の中では一番純粋?なのかもしれません。
ユミリーは巻き戻る前は、ランフェスのことは本当に良い友人でしたので、最終的にランフェスが一番幸せになりました。
トーマスは環境の辛さに嘆き、ランフェスが幸せだという話を聞いて悔しがっておりますので、私としては『ざまぁ』です。
今回はシルバートレイを出ました! 余談ですが、他社レーベル様で出ました今年の1月刊の作品に、シルバートレイがイラスト初デビューしてますので、気になる方はよろしければ手にとってやってくださいませ!
そしてまたもや、本作の完結と同時に新作を公開しております。
「この悪女に溺愛は不要です!」になります。テンプレの転生ものですが、私の作品ですので逆ハーレムみたいな感じにはなりません。
ご興味ありましたら、メンタル鋼のヒロインを応援してやってくださいませ。
長々と書きましたが、お気に入り、エール、いいね、しおりをありがとうございました。少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
新作、もしくは他作品でお会いできますと幸いです。
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かゆみは蚊にかまれた(吸われた?)時とか、昔、アトピーだった時のかゆみなどを考えたら辛かったなあと思い返しておりました。
おっしゃる通りトーマスは反省しても自制心ないので、また間違えるでしょうね💦
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました✨️
感想をありがとうございます。
トーマスはやばい奴です。自分の保身で必死ですね。
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