次は間違えないと言われましても

風見ゆうみ

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29  次は間違えないと言われましても ⑦

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「何を言っているんだよ、ユミリー。さっきの僕を見ただろう!? 君が生きていたとわかって、とても喜んでいたじゃないか!」
「死んだと思っていた人が生きていたら喜ぶのは普通ですし、たとえそうでなかったとしても、生きていたのかと本人の目の前でがっかりする人のほうがおかしいですわ」
「そ……、それはそうかもしれないけど、僕は違う! ユミリー、僕は君を愛しているんだよ!」

 トーマス様から『愛している』という言葉を聞いた時、背筋に悪寒が走りました。この人は私が何も知らないと思っているから、そんなことが言えるのかもしれません。
 ユミとファルナに目を向けると、ファルナは私、ユミはトーマス様を睨んでいました。ファルナの視線を無視して、私はトーマス様に微笑みかけます。

「そうでしたか。申し訳ございませんが、私のことはお忘れになってくださいませ」
「そんな冷たいことを言わないでくれよ!」
「トーマス様、あなたは大事なことを忘れてしまっていますよ」
「な、何がかな?」

 トーマス様は引きつり笑いを浮かべて尋ねてきました。本当に忘れてしまっているのなら大変なことです。私はファルナに目を向けて答えます。

「トーマス様、あなたはファルナと結婚しているのですよね? 私のことを愛しているだなんて言っても良いのですか?」
「そ……、それはっ……」

 トーマス様は目を泳がせましたが、ランフェスの顔を見たからか冷静になったようです。

「君が死んだと思ったからファルナと結婚したんだ。君が生きているなら、ファルナはいらない」
「最低ですね」

 辟易した気分になって気持ちを素直に伝えた時でした。

「あなたがっ! あなたがいなければわたくしが幸せになっていましたのに!」

 ファルナが叫びながら私に掴みかかろうとしましたが、彼女の顔の前にシルバートレイを突き出して牽制します。

「お顔に傷をつけたくありません。大人しく後ろに下がってくださいませ」
「な……、なんて野蛮な」

 ファルナは唇を噛んで後退すると、トーマス様に訴えます。

「トーマス様! このような方のどこが良いというのですか!?」
「シルバートレイで戦う女性なんて素敵じゃないか」
「なんですって?」

 ファルナは目を吊り上がらせると、トーマス様に詰め寄ります。

「トーマス様! あなたはいつまでユミリー様にこだわるんですか!?」

 ファルナはまだ、トーマス様が私にこだわっていると思っているんですね。なんだか気の毒になって見つめていると、トーマス様は答えます。

「命ある限りだよ。僕はユミリーを愛している。そして、ユミリー、君も僕と一緒にいれば僕を愛するようになるはずだ」
「そのようなことは絶対に起こりません」
「ユミリー、まずは僕の誠意を見せよう。ファルナ」

 トーマス様は私から視線をファルナに移して口を開きます。

「離婚しよう。僕を自分のものにしたいからって、ユミリーを殺そうとするような人なんてお断りだ」
「そ、そんな!」

 ショックを受けているファルナを一瞥したあと、私はトーマス様に自分の気持ちを伝えます。

「トーマス様、私はランフェスの傷ついた姿を見たいがために、私を殺そうとする人なんてお断りです」
「な、何を馬鹿なことを言っているんだ! ユミリー! 僕は本当に君を愛していて」
「「嘘よ!」」

 トーマス様の言葉をユミとファルナが声を揃えて遮ると、ユミが先に話し始めます。

「トーマス! あなたは自分よりも優れているランフェス様に嫉妬しているだけよ! ユミリー様、この人はあなたを愛してなんかいません」
「知っているわ」
「セレス! お前はなんてことを言うんだ!」
「うるさいわね! 本当のことじゃないの! トーマス、あなたはもう馬鹿なことを考えるのはやめて、ユミリー様を殺そうとしたファルナと離婚することだけ考えればいいのよ!」

 もともと、ドロドロした関係だとわかっていましたが、目の前にしてみると引いてしまいます。それはランフェスも同じようで眉根を寄せていました。

「信じられない!」

 黙っていたファルナは突然叫んだかと思うと、私を指さしました。

「どうしてあなたはわたくしの邪魔ばかりするのですか!」

 ファルナにとって悪いのはトーマス様ではなく私のようです。もう、こんなやり取りはうんざりです。もう終わりにしましょう。私はシルバートレイを握り締め、ファルナに近づいたのでした。

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