31 / 32
29 次は間違えないと言われましても ⑦
しおりを挟む
「何を言っているんだよ、ユミリー。さっきの僕を見ただろう!? 君が生きていたとわかって、とても喜んでいたじゃないか!」
「死んだと思っていた人が生きていたら喜ぶのは普通ですし、たとえそうでなかったとしても、生きていたのかと本人の目の前でがっかりする人のほうがおかしいですわ」
「そ……、それはそうかもしれないけど、僕は違う! ユミリー、僕は君を愛しているんだよ!」
トーマス様から『愛している』という言葉を聞いた時、背筋に悪寒が走りました。この人は私が何も知らないと思っているから、そんなことが言えるのかもしれません。
ユミとファルナに目を向けると、ファルナは私、ユミはトーマス様を睨んでいました。ファルナの視線を無視して、私はトーマス様に微笑みかけます。
「そうでしたか。申し訳ございませんが、私のことはお忘れになってくださいませ」
「そんな冷たいことを言わないでくれよ!」
「トーマス様、あなたは大事なことを忘れてしまっていますよ」
「な、何がかな?」
トーマス様は引きつり笑いを浮かべて尋ねてきました。本当に忘れてしまっているのなら大変なことです。私はファルナに目を向けて答えます。
「トーマス様、あなたはファルナと結婚しているのですよね? 私のことを愛しているだなんて言っても良いのですか?」
「そ……、それはっ……」
トーマス様は目を泳がせましたが、ランフェスの顔を見たからか冷静になったようです。
「君が死んだと思ったからファルナと結婚したんだ。君が生きているなら、ファルナはいらない」
「最低ですね」
辟易した気分になって気持ちを素直に伝えた時でした。
「あなたがっ! あなたがいなければわたくしが幸せになっていましたのに!」
ファルナが叫びながら私に掴みかかろうとしましたが、彼女の顔の前にシルバートレイを突き出して牽制します。
「お顔に傷をつけたくありません。大人しく後ろに下がってくださいませ」
「な……、なんて野蛮な」
ファルナは唇を噛んで後退すると、トーマス様に訴えます。
「トーマス様! このような方のどこが良いというのですか!?」
「シルバートレイで戦う女性なんて素敵じゃないか」
「なんですって?」
ファルナは目を吊り上がらせると、トーマス様に詰め寄ります。
「トーマス様! あなたはいつまでユミリー様にこだわるんですか!?」
ファルナはまだ、トーマス様が私にこだわっていると思っているんですね。なんだか気の毒になって見つめていると、トーマス様は答えます。
「命ある限りだよ。僕はユミリーを愛している。そして、ユミリー、君も僕と一緒にいれば僕を愛するようになるはずだ」
「そのようなことは絶対に起こりません」
「ユミリー、まずは僕の誠意を見せよう。ファルナ」
トーマス様は私から視線をファルナに移して口を開きます。
「離婚しよう。僕を自分のものにしたいからって、ユミリーを殺そうとするような人なんてお断りだ」
「そ、そんな!」
ショックを受けているファルナを一瞥したあと、私はトーマス様に自分の気持ちを伝えます。
「トーマス様、私はランフェスの傷ついた姿を見たいがために、私を殺そうとする人なんてお断りです」
「な、何を馬鹿なことを言っているんだ! ユミリー! 僕は本当に君を愛していて」
「「嘘よ!」」
トーマス様の言葉をユミとファルナが声を揃えて遮ると、ユミが先に話し始めます。
「トーマス! あなたは自分よりも優れているランフェス様に嫉妬しているだけよ! ユミリー様、この人はあなたを愛してなんかいません」
「知っているわ」
「セレス! お前はなんてことを言うんだ!」
「うるさいわね! 本当のことじゃないの! トーマス、あなたはもう馬鹿なことを考えるのはやめて、ユミリー様を殺そうとしたファルナと離婚することだけ考えればいいのよ!」
もともと、ドロドロした関係だとわかっていましたが、目の前にしてみると引いてしまいます。それはランフェスも同じようで眉根を寄せていました。
「信じられない!」
黙っていたファルナは突然叫んだかと思うと、私を指さしました。
「どうしてあなたはわたくしの邪魔ばかりするのですか!」
ファルナにとって悪いのはトーマス様ではなく私のようです。もう、こんなやり取りはうんざりです。もう終わりにしましょう。私はシルバートレイを握り締め、ファルナに近づいたのでした。
「死んだと思っていた人が生きていたら喜ぶのは普通ですし、たとえそうでなかったとしても、生きていたのかと本人の目の前でがっかりする人のほうがおかしいですわ」
「そ……、それはそうかもしれないけど、僕は違う! ユミリー、僕は君を愛しているんだよ!」
トーマス様から『愛している』という言葉を聞いた時、背筋に悪寒が走りました。この人は私が何も知らないと思っているから、そんなことが言えるのかもしれません。
ユミとファルナに目を向けると、ファルナは私、ユミはトーマス様を睨んでいました。ファルナの視線を無視して、私はトーマス様に微笑みかけます。
「そうでしたか。申し訳ございませんが、私のことはお忘れになってくださいませ」
「そんな冷たいことを言わないでくれよ!」
「トーマス様、あなたは大事なことを忘れてしまっていますよ」
「な、何がかな?」
トーマス様は引きつり笑いを浮かべて尋ねてきました。本当に忘れてしまっているのなら大変なことです。私はファルナに目を向けて答えます。
「トーマス様、あなたはファルナと結婚しているのですよね? 私のことを愛しているだなんて言っても良いのですか?」
「そ……、それはっ……」
トーマス様は目を泳がせましたが、ランフェスの顔を見たからか冷静になったようです。
「君が死んだと思ったからファルナと結婚したんだ。君が生きているなら、ファルナはいらない」
「最低ですね」
辟易した気分になって気持ちを素直に伝えた時でした。
「あなたがっ! あなたがいなければわたくしが幸せになっていましたのに!」
ファルナが叫びながら私に掴みかかろうとしましたが、彼女の顔の前にシルバートレイを突き出して牽制します。
「お顔に傷をつけたくありません。大人しく後ろに下がってくださいませ」
「な……、なんて野蛮な」
ファルナは唇を噛んで後退すると、トーマス様に訴えます。
「トーマス様! このような方のどこが良いというのですか!?」
「シルバートレイで戦う女性なんて素敵じゃないか」
「なんですって?」
ファルナは目を吊り上がらせると、トーマス様に詰め寄ります。
「トーマス様! あなたはいつまでユミリー様にこだわるんですか!?」
ファルナはまだ、トーマス様が私にこだわっていると思っているんですね。なんだか気の毒になって見つめていると、トーマス様は答えます。
「命ある限りだよ。僕はユミリーを愛している。そして、ユミリー、君も僕と一緒にいれば僕を愛するようになるはずだ」
「そのようなことは絶対に起こりません」
「ユミリー、まずは僕の誠意を見せよう。ファルナ」
トーマス様は私から視線をファルナに移して口を開きます。
「離婚しよう。僕を自分のものにしたいからって、ユミリーを殺そうとするような人なんてお断りだ」
「そ、そんな!」
ショックを受けているファルナを一瞥したあと、私はトーマス様に自分の気持ちを伝えます。
「トーマス様、私はランフェスの傷ついた姿を見たいがために、私を殺そうとする人なんてお断りです」
「な、何を馬鹿なことを言っているんだ! ユミリー! 僕は本当に君を愛していて」
「「嘘よ!」」
トーマス様の言葉をユミとファルナが声を揃えて遮ると、ユミが先に話し始めます。
「トーマス! あなたは自分よりも優れているランフェス様に嫉妬しているだけよ! ユミリー様、この人はあなたを愛してなんかいません」
「知っているわ」
「セレス! お前はなんてことを言うんだ!」
「うるさいわね! 本当のことじゃないの! トーマス、あなたはもう馬鹿なことを考えるのはやめて、ユミリー様を殺そうとしたファルナと離婚することだけ考えればいいのよ!」
もともと、ドロドロした関係だとわかっていましたが、目の前にしてみると引いてしまいます。それはランフェスも同じようで眉根を寄せていました。
「信じられない!」
黙っていたファルナは突然叫んだかと思うと、私を指さしました。
「どうしてあなたはわたくしの邪魔ばかりするのですか!」
ファルナにとって悪いのはトーマス様ではなく私のようです。もう、こんなやり取りはうんざりです。もう終わりにしましょう。私はシルバートレイを握り締め、ファルナに近づいたのでした。
353
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
婚約破棄ですか?勿論お受けします。
アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。
そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。
婚約破棄するとようやく言ってくれたわ!
慰謝料?そんなのいらないわよ。
それより早く婚約破棄しましょう。
❈ 作者独自の世界観です。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる