30 / 32
28 次は間違えないと言われましても ⑥
しおりを挟む
「ど、どうして……っ!」
トーマス様だけでなく、ファルナまでもが驚いた顔をしています。それはそうですよね。死んだと思っていた人間が生きているんですもの。
「私だって生きていたいんです。あなたたちのために大切な命を犠牲にしたくありませんから」
シルバートレイを握りしめて言うと、呆然としていたトーマス様が突然笑い始めます。
「あ、あははっ! な、なんだ! 生きていたのか、ユミリー! 会いたかったよ!」
トーマス様が私に近づこうとしましたが、ランフェスが間に入って止めてくれます。
「彼女に近づかないでください」
「死んだと思っていた元婚約者が生きていたんだ! 喜んでも良いだろう?」
「喜ぶのはお好きにどうぞ。ですが、彼女に近づく必要はありません」
ランフェスが冷たい声で言うと、トーマス様は唇を噛み締めてランフェスを睨みます。私に背中を向けているランフェスの表情が、どんなものかはわかりません。きっと、軽蔑の視線を送っているのでしょう。
ファルナが悔しそうな顔で私に訴えます。
「ユミリー様! こんな嘘をついて良いと思っているんですの!?」
「ファルナ、あなたに言われたくありません」
「どういうことですか?」
「あなたはトーマス様を自分のものにするために嘘をついたのでしょう?」
「そ……、それは……、そうですけど。嘘をつかれて嫌な思いをしたのなら、自分は嘘をつかないようにすべきなのではないでしょうか」
エントランスホールには私たち以外にも人がいまから、ファルナは小声で答えました。彼女たちが言う時間が巻き戻る前の私は、ファルナの嘘が発端で殺されているようですから、彼女も嘘が駄目だという自覚はあるようです。
「人を傷つける嘘はよくありませんが、自分の身を守るための嘘は許されても良いのではありませんか? 今回に限っては、この嘘で誰も命を落とすことはありません。それに騙されたのはあなたたちだけです」
「そ、そうかもしれませんけどっ」
ファルナは悔しそうな顔をして、私からユミに視線を向ける。
「あなた、どういうことですの!? 魔法が失敗したんじゃなくって!? ユミリー様が生きているではないですか!」
「生きていて良かったじゃないの」
「ふざけないでちょうだい! 良くないわよ! ユミリー様を殺すことがあなたの役目だったのでしょう!?」
「役目じゃないわ。頼まれただけ。だから、魔法はかけてない」
「「……は?」」
聞き返したのはファルナだけでなく、トーマス様もでした。二人とも、呆然とした表情でユミを見つめており、ユミはそんな二人に満足気な様子で口を開きます。
「私はユミリー様の死なんて望んだことは一度もないわ。トーマス、私はあなたと幸せになりたいだけ。そして」
ユミはファルナに冷たい目を向けて続けます。
「あなたが邪魔だったの。でも、これで排除できる」
「……は? どういうことですの?」
「ねえ、トーマス。あなたはユミリー様を殺したいだなんて思ったことはないわよね?」
ユミが微笑んで尋ねると、トーマス様は一瞬驚いた顔をしたあと、彼女の意図がわかったのか笑顔で頷きます。
「そうだよ。僕はユミリーの死なんて望んでいない。ファルナ、僕は君に頼まれて、ある男に小袋を渡した。もしかしてそれは、ユミリーを殺すための何かだったのか?」
「トーマス様!? 何を言っておられるのですか!」
トーマス様に裏切られたファルナは、今にも泣き出しそうな顔で叫びました。
信じられません。ユミはまだしも、トーマス様までファルナを見捨てたようです。ファルナに全ての罪を押し付けて自分は何も悪くないと持っていくつもりかもしれませんが、そうはいきません。
「トーマス様、まさかそんな話が通じるだなんて本気で思っていらっしゃいませんわよね?」
シルバートレイを叩きながら笑顔で尋ねると、トーマス様の笑みが引きつったのでした。
トーマス様だけでなく、ファルナまでもが驚いた顔をしています。それはそうですよね。死んだと思っていた人間が生きているんですもの。
「私だって生きていたいんです。あなたたちのために大切な命を犠牲にしたくありませんから」
シルバートレイを握りしめて言うと、呆然としていたトーマス様が突然笑い始めます。
「あ、あははっ! な、なんだ! 生きていたのか、ユミリー! 会いたかったよ!」
トーマス様が私に近づこうとしましたが、ランフェスが間に入って止めてくれます。
「彼女に近づかないでください」
「死んだと思っていた元婚約者が生きていたんだ! 喜んでも良いだろう?」
「喜ぶのはお好きにどうぞ。ですが、彼女に近づく必要はありません」
ランフェスが冷たい声で言うと、トーマス様は唇を噛み締めてランフェスを睨みます。私に背中を向けているランフェスの表情が、どんなものかはわかりません。きっと、軽蔑の視線を送っているのでしょう。
ファルナが悔しそうな顔で私に訴えます。
「ユミリー様! こんな嘘をついて良いと思っているんですの!?」
「ファルナ、あなたに言われたくありません」
「どういうことですか?」
「あなたはトーマス様を自分のものにするために嘘をついたのでしょう?」
「そ……、それは……、そうですけど。嘘をつかれて嫌な思いをしたのなら、自分は嘘をつかないようにすべきなのではないでしょうか」
エントランスホールには私たち以外にも人がいまから、ファルナは小声で答えました。彼女たちが言う時間が巻き戻る前の私は、ファルナの嘘が発端で殺されているようですから、彼女も嘘が駄目だという自覚はあるようです。
「人を傷つける嘘はよくありませんが、自分の身を守るための嘘は許されても良いのではありませんか? 今回に限っては、この嘘で誰も命を落とすことはありません。それに騙されたのはあなたたちだけです」
「そ、そうかもしれませんけどっ」
ファルナは悔しそうな顔をして、私からユミに視線を向ける。
「あなた、どういうことですの!? 魔法が失敗したんじゃなくって!? ユミリー様が生きているではないですか!」
「生きていて良かったじゃないの」
「ふざけないでちょうだい! 良くないわよ! ユミリー様を殺すことがあなたの役目だったのでしょう!?」
「役目じゃないわ。頼まれただけ。だから、魔法はかけてない」
「「……は?」」
聞き返したのはファルナだけでなく、トーマス様もでした。二人とも、呆然とした表情でユミを見つめており、ユミはそんな二人に満足気な様子で口を開きます。
「私はユミリー様の死なんて望んだことは一度もないわ。トーマス、私はあなたと幸せになりたいだけ。そして」
ユミはファルナに冷たい目を向けて続けます。
「あなたが邪魔だったの。でも、これで排除できる」
「……は? どういうことですの?」
「ねえ、トーマス。あなたはユミリー様を殺したいだなんて思ったことはないわよね?」
ユミが微笑んで尋ねると、トーマス様は一瞬驚いた顔をしたあと、彼女の意図がわかったのか笑顔で頷きます。
「そうだよ。僕はユミリーの死なんて望んでいない。ファルナ、僕は君に頼まれて、ある男に小袋を渡した。もしかしてそれは、ユミリーを殺すための何かだったのか?」
「トーマス様!? 何を言っておられるのですか!」
トーマス様に裏切られたファルナは、今にも泣き出しそうな顔で叫びました。
信じられません。ユミはまだしも、トーマス様までファルナを見捨てたようです。ファルナに全ての罪を押し付けて自分は何も悪くないと持っていくつもりかもしれませんが、そうはいきません。
「トーマス様、まさかそんな話が通じるだなんて本気で思っていらっしゃいませんわよね?」
シルバートレイを叩きながら笑顔で尋ねると、トーマス様の笑みが引きつったのでした。
335
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
婚約破棄ですか?勿論お受けします。
アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。
そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。
婚約破棄するとようやく言ってくれたわ!
慰謝料?そんなのいらないわよ。
それより早く婚約破棄しましょう。
❈ 作者独自の世界観です。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる