次は間違えないと言われましても

風見ゆうみ

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28  次は間違えないと言われましても ⑥

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「ど、どうして……っ!」

 トーマス様だけでなく、ファルナまでもが驚いた顔をしています。それはそうですよね。死んだと思っていた人間が生きているんですもの。

「私だって生きていたいんです。あなたたちのために大切な命を犠牲にしたくありませんから」

 シルバートレイを握りしめて言うと、呆然としていたトーマス様が突然笑い始めます。

「あ、あははっ! な、なんだ! 生きていたのか、ユミリー! 会いたかったよ!」
  
 トーマス様が私に近づこうとしましたが、ランフェスが間に入って止めてくれます。

「彼女に近づかないでください」
「死んだと思っていた元婚約者が生きていたんだ! 喜んでも良いだろう?」
「喜ぶのはお好きにどうぞ。ですが、彼女に近づく必要はありません」

 ランフェスが冷たい声で言うと、トーマス様は唇を噛み締めてランフェスを睨みます。私に背中を向けているランフェスの表情が、どんなものかはわかりません。きっと、軽蔑の視線を送っているのでしょう。
 ファルナが悔しそうな顔で私に訴えます。

「ユミリー様! こんな嘘をついて良いと思っているんですの!?」
「ファルナ、あなたに言われたくありません」
「どういうことですか?」
「あなたはトーマス様を自分のものにするために嘘をついたのでしょう?」
「そ……、それは……、そうですけど。嘘をつかれて嫌な思いをしたのなら、自分は嘘をつかないようにすべきなのではないでしょうか」

 エントランスホールには私たち以外にも人がいまから、ファルナは小声で答えました。彼女たちが言う時間が巻き戻る前の私は、ファルナの嘘が発端で殺されているようですから、彼女も嘘が駄目だという自覚はあるようです。

「人を傷つける嘘はよくありませんが、自分の身を守るための嘘は許されても良いのではありませんか? 今回に限っては、この嘘で誰も命を落とすことはありません。それに騙されたのはあなたたちだけです」
「そ、そうかもしれませんけどっ」

 ファルナは悔しそうな顔をして、私からユミに視線を向ける。

「あなた、どういうことですの!? 魔法が失敗したんじゃなくって!? ユミリー様が生きているではないですか!」
「生きていて良かったじゃないの」
「ふざけないでちょうだい! 良くないわよ! ユミリー様を殺すことがあなたの役目だったのでしょう!?」
「役目じゃないわ。頼まれただけ。だから、魔法はかけてない」
「「……は?」」

 聞き返したのはファルナだけでなく、トーマス様もでした。二人とも、呆然とした表情でユミを見つめており、ユミはそんな二人に満足気な様子で口を開きます。

「私はユミリー様の死なんて望んだことは一度もないわ。トーマス、私はあなたと幸せになりたいだけ。そして」

 ユミはファルナに冷たい目を向けて続けます。

「あなたが邪魔だったの。でも、これで排除できる」
「……は? どういうことですの?」
「ねえ、トーマス。あなたはユミリー様を殺したいだなんて思ったことはないわよね?」

 ユミが微笑んで尋ねると、トーマス様は一瞬驚いた顔をしたあと、彼女の意図がわかったのか笑顔で頷きます。

「そうだよ。僕はユミリーの死なんて望んでいない。ファルナ、僕は、ある男に小袋を渡した。もしかしてそれは、ユミリーを殺すための何かだったのか?」
「トーマス様!? 何を言っておられるのですか!」

 トーマス様に裏切られたファルナは、今にも泣き出しそうな顔で叫びました。

 信じられません。ユミはまだしも、トーマス様までファルナを見捨てたようです。ファルナに全ての罪を押し付けて自分は何も悪くないと持っていくつもりかもしれませんが、そうはいきません。

「トーマス様、まさかそんな話が通じるだなんて本気で思っていらっしゃいませんわよね?」
 
 シルバートレイを叩きながら笑顔で尋ねると、トーマス様の笑みが引きつったのでした。
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