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メイド達と一緒にやって来たというのに、お母様は彼女達や他の使用人には持たせる事はなく、大きな樽を軽々と片手で持ち、もう片方の腕には、大きな袋を抱えていた。
「お久しぶりです、お母様」
「本当にそうよ! 早く帰ってきてほしいわ! ソフィーがいないと、食卓がむさ苦しくてしょうがなくって! あたしもガサツで女性らしくないしね!」
お母様は家族の前では自分の事をあたし、という。
部族長の娘だったので、礼儀はしっかりされているのだけれど、家の中ではお祖父様やお祖母様達も、言葉使いが荒く、たまに遊びに行くと、私達で言う平民の人が使う言葉遣いが普通に飛び交っている。
そして、私はその言葉遣いが嫌いではないし、お母様のおかげで身近に感じているというのもあり、大して違和感も感じない。
お母様は小麦色の肌を持ち、黒色の長い髪の毛をポニーテールにした、長身の引き締まった体の持ち主で、ドレスを着ている姿は夜会に出席される時しか見た事がなく、普段は騎士が着るような動きやすい格好をしておられて、現在もそんな感じで、白い長袖のシャツに黒の皮のパンツという、見た目だけでは公爵夫人とは思えない。
顔立ちは娘の私が言うのもなんだけれど、とても美しい顔立ちをされている。
けれど、お顔に傷がたくさんあるので、これもまた公爵夫人と思われにくい一因でもある。
そんなお母様を私はもちろん大好きなのだし、お父様は人前では隠していらっしゃるけれど、家の中ではお母様にメロメロだったりする。
メロメロって言葉は貴族は使うのかしら。
使わないのなら、お母様の影響ね。
「私はお父様に似ているとよく言われますから、お父様に女装でもしていただいたらどうです? 私の様に見えるかもしれません」
「顔はいけるかもしれないけど、体つきは男性だからね。私の可愛いソフィーとは全く違うわよ」
お母様は荷物を置くと、私を優しく抱きしめてくれる。
そうしないと、私の身が危険だからだ。
お父様は何度か骨をおられた事があるらしいけれど、お母様の部族の中には回復魔法を使える人がたくさんいるので、嫁入りと一緒に付いてきてくれた魔法使いが、毎回治してくださったらしい。
そうしている内に、お兄様が生まれ、力加減を覚えていかれたのだそう。
自分の子供を抱きしめられないのが辛かったみたい。
というか、回復魔法を使える人がいないと、部族間同士の結婚だと、お互いに怪我をさせてしまうくらい力が強いのだからすごい。
そして、私にもその力は受け継がれているのだけれど、私の場合はコントロールが出来るので助かっている。
「で、話したい事って何かしら? そろそろ殿下の首をとってもいいっていう話?」
「違いますよ。国王陛下の事についての話です。お母様は陛下が何者かに狙われていた話を知っておられますか?」
毒の話を知っているのかわからないので、遠回しに聞いてみると、お母様は椅子に座って足を組んだ後、大きく頷かれる。
「知ってるわ。誰かに毒を飲まされていたんでしょ? どういう事? 犯人がわかったの? で、そいつには毒を飲ませるの? どうせ犯人はバカか裏切り女なんでしょ? ソフィーに嫌な思いをさせたんだから、晒し首にでもする? それとも、1つ1つ指を切り落としていくとか?」
「お母様、落ち着いてください! そんな事をしたら、ケイティと同じことを考えてるのと一緒じゃないですか」
「全然違うわよ。ソフィーは罪人じゃないけど、向こうは罪人なんだから」
「まだ罪人と決まったわけでは…って、まあ、そうなのかもしれませんが…」
ゼント殿下は認めていないけれど、ケイティは罪を認めた様なものだし、何より、彼女は平民。
これだけ、王家を掻き乱しているんだから、それくらいの事をされてもおかしくはない。
本人は自分がそんなに大変な事をしているなんて、考えた事もないんでしょうけれど。
「ソフィー、あなたの優しいところは大好きだけど、それが時には良くない事もあるわよ。あまりゆっくりしていると、傷付かなくていい人間が傷付く可能性があるわ。深く考えない事も時には必要じゃない? 元を断ち切ればそれでいいんだから」
「ですが、王太子がいなくなれば、この国はどうなります?」
「……ソフィー、何とかなるわよ」
「はい?」
「国王陛下がいきていらっしゃる以上、王太子がいなくなっても国はまわるわ。平民の暮らしも、そう大きくは変わらない」
「そ、それはそうかもしれませんが…」
「あのね、ソフィー、王太子がいなくなったらどうするかは、あなたが考える事じゃないのよ。それは他の人間が考える事。あなたがやらないといけない事をやればいいのよ」
私が立ったままでいたからか、お母様は立ち上がって、優しく私の両肩に手を置いて続ける。
「あたしはソフィーの母よ。娘の仕出かした事は責任は取るわ。もちろん、ソフィーが本当に悪い場合は、ソフィーが責任を取らなきゃいけない時もあるけどね」
お母様は悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
それに対して、大きく頷く。
「それはもちろんわかっています。ですが、自分が考える事ではないと、最初から何も考えないのも良くないのではないかと」
「でも、考えてたって一緒じゃない? どうせ答えなんてすぐに出ないんだから、何も始まらないわ。とにかく動いてみましょ。なんとかなるから」
「お母様の様に楽観的な性格でしたら苦労はしておりません」
「深く考えてばっかりでも疲れるだけよ! たまにはこっちから仕掛けるのもいいと思うわよ!」
少し呆れた表情で答えると、お母様は気分を悪くした様子もなく、明るい笑顔を見せてくれる。
お母様の言うことも一理ある。
相手のミスを待っていてもしょうがないわ。
無謀ではなく、計画を立てて、こちらから仕掛けてみるのもいいのかもしれない。
もちろん、お母様の言うような、首をとる、とかではなく。
まずは、殿下とケイティの仲を揺さぶってみる事にしましょうか。
「お久しぶりです、お母様」
「本当にそうよ! 早く帰ってきてほしいわ! ソフィーがいないと、食卓がむさ苦しくてしょうがなくって! あたしもガサツで女性らしくないしね!」
お母様は家族の前では自分の事をあたし、という。
部族長の娘だったので、礼儀はしっかりされているのだけれど、家の中ではお祖父様やお祖母様達も、言葉使いが荒く、たまに遊びに行くと、私達で言う平民の人が使う言葉遣いが普通に飛び交っている。
そして、私はその言葉遣いが嫌いではないし、お母様のおかげで身近に感じているというのもあり、大して違和感も感じない。
お母様は小麦色の肌を持ち、黒色の長い髪の毛をポニーテールにした、長身の引き締まった体の持ち主で、ドレスを着ている姿は夜会に出席される時しか見た事がなく、普段は騎士が着るような動きやすい格好をしておられて、現在もそんな感じで、白い長袖のシャツに黒の皮のパンツという、見た目だけでは公爵夫人とは思えない。
顔立ちは娘の私が言うのもなんだけれど、とても美しい顔立ちをされている。
けれど、お顔に傷がたくさんあるので、これもまた公爵夫人と思われにくい一因でもある。
そんなお母様を私はもちろん大好きなのだし、お父様は人前では隠していらっしゃるけれど、家の中ではお母様にメロメロだったりする。
メロメロって言葉は貴族は使うのかしら。
使わないのなら、お母様の影響ね。
「私はお父様に似ているとよく言われますから、お父様に女装でもしていただいたらどうです? 私の様に見えるかもしれません」
「顔はいけるかもしれないけど、体つきは男性だからね。私の可愛いソフィーとは全く違うわよ」
お母様は荷物を置くと、私を優しく抱きしめてくれる。
そうしないと、私の身が危険だからだ。
お父様は何度か骨をおられた事があるらしいけれど、お母様の部族の中には回復魔法を使える人がたくさんいるので、嫁入りと一緒に付いてきてくれた魔法使いが、毎回治してくださったらしい。
そうしている内に、お兄様が生まれ、力加減を覚えていかれたのだそう。
自分の子供を抱きしめられないのが辛かったみたい。
というか、回復魔法を使える人がいないと、部族間同士の結婚だと、お互いに怪我をさせてしまうくらい力が強いのだからすごい。
そして、私にもその力は受け継がれているのだけれど、私の場合はコントロールが出来るので助かっている。
「で、話したい事って何かしら? そろそろ殿下の首をとってもいいっていう話?」
「違いますよ。国王陛下の事についての話です。お母様は陛下が何者かに狙われていた話を知っておられますか?」
毒の話を知っているのかわからないので、遠回しに聞いてみると、お母様は椅子に座って足を組んだ後、大きく頷かれる。
「知ってるわ。誰かに毒を飲まされていたんでしょ? どういう事? 犯人がわかったの? で、そいつには毒を飲ませるの? どうせ犯人はバカか裏切り女なんでしょ? ソフィーに嫌な思いをさせたんだから、晒し首にでもする? それとも、1つ1つ指を切り落としていくとか?」
「お母様、落ち着いてください! そんな事をしたら、ケイティと同じことを考えてるのと一緒じゃないですか」
「全然違うわよ。ソフィーは罪人じゃないけど、向こうは罪人なんだから」
「まだ罪人と決まったわけでは…って、まあ、そうなのかもしれませんが…」
ゼント殿下は認めていないけれど、ケイティは罪を認めた様なものだし、何より、彼女は平民。
これだけ、王家を掻き乱しているんだから、それくらいの事をされてもおかしくはない。
本人は自分がそんなに大変な事をしているなんて、考えた事もないんでしょうけれど。
「ソフィー、あなたの優しいところは大好きだけど、それが時には良くない事もあるわよ。あまりゆっくりしていると、傷付かなくていい人間が傷付く可能性があるわ。深く考えない事も時には必要じゃない? 元を断ち切ればそれでいいんだから」
「ですが、王太子がいなくなれば、この国はどうなります?」
「……ソフィー、何とかなるわよ」
「はい?」
「国王陛下がいきていらっしゃる以上、王太子がいなくなっても国はまわるわ。平民の暮らしも、そう大きくは変わらない」
「そ、それはそうかもしれませんが…」
「あのね、ソフィー、王太子がいなくなったらどうするかは、あなたが考える事じゃないのよ。それは他の人間が考える事。あなたがやらないといけない事をやればいいのよ」
私が立ったままでいたからか、お母様は立ち上がって、優しく私の両肩に手を置いて続ける。
「あたしはソフィーの母よ。娘の仕出かした事は責任は取るわ。もちろん、ソフィーが本当に悪い場合は、ソフィーが責任を取らなきゃいけない時もあるけどね」
お母様は悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
それに対して、大きく頷く。
「それはもちろんわかっています。ですが、自分が考える事ではないと、最初から何も考えないのも良くないのではないかと」
「でも、考えてたって一緒じゃない? どうせ答えなんてすぐに出ないんだから、何も始まらないわ。とにかく動いてみましょ。なんとかなるから」
「お母様の様に楽観的な性格でしたら苦労はしておりません」
「深く考えてばっかりでも疲れるだけよ! たまにはこっちから仕掛けるのもいいと思うわよ!」
少し呆れた表情で答えると、お母様は気分を悪くした様子もなく、明るい笑顔を見せてくれる。
お母様の言うことも一理ある。
相手のミスを待っていてもしょうがないわ。
無謀ではなく、計画を立てて、こちらから仕掛けてみるのもいいのかもしれない。
もちろん、お母様の言うような、首をとる、とかではなく。
まずは、殿下とケイティの仲を揺さぶってみる事にしましょうか。
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