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17 毒見
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お母様とは、久しぶりに話をするという事もあり、お話をしていると、あっという間に時間が経ち、その日は休息日として、次の日から行動を開始する事にした。
ワイアットには昨日の内に、自分からもっと積極的に動いていくという連絡を入れておき、城内をウロウロする許可ももらった。
そして、国王陛下から、ゼント殿下に対して、彼が何か良くない事をした場合、私が罰則を決めても良いとの許可もおりた。
陛下の許可があれば、ある意味怖いものなしなので、自分の命が危なくない程度に、挑発していく事に決めた。
ワイアットから、泳がせている毒見役の人間が誰かを聞いていたのと、今日はその彼女が当番の日らしいので、まずは、そちらに接触する事にした。
「ごきげんよう」
「こ、こんにちは…」
次の日の朝、料理を運んでいるメイドに声を掛けると、私に挨拶をされるとは思っていなかったのか、びくりと身体を震わせて、挨拶を返してきた。
「その料理はどちらに運ぶの?」
「これは、国王陛下のお部屋に運ぶものです」
「毒見は終わっているの?」
「まだでございます」
「いつ、毒見をするの?」
メイドは矢継ぎ早に質問する私に怯えながらも、答えを返してくれる。
「陛下の寝室の近くに毒見役の控室がございます。そこで…」
「教えてくれてありがとう。一緒に行っても良いかしら?」
「も、もちろんでございます」
怯えているメイドには少し気の毒だけれど、彼女に何かするつもりはないので、少しの間、我慢してもらいましょう。
毒見役が待っているという部屋に向かうと、扉が開いた時に見えた表情は余裕げに見えたけれど、私の姿を確認した途端、表情が強張った。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう…」
毒見役は座っていた椅子から立ち上がり、カーテシーをした後、ちらりと料理を運んできたメイドに視線を送った。
どういう状況か説明しろと言いたいみたいね。
でも、それを聞きたいのは彼女も一緒だと思うわ。
だから、私が口を開く。
「毒見役って大変なお仕事よね。私の家にもいるのだけれど、毎回、何もない事を祈っているわ。…と、話がずれてしまってごめんなさいね。どんな方が陛下の毒見をしているのか気になってしまったの」
「あ…いえ、陛下の命をお守りできる光栄なお仕事ですから…。ですが、貴族の方に見ていただく様なものでもございません」
メイド服を着た、茶色の髪をシニヨンにした毒見役の中年の女性は、苦笑しながら首を横に振った。
「そう。毒見って、時間はかかるかしら? 時間がかかる様なら、陛下に先にご挨拶に行ってもいいかしら?」
「最近は、側近の方の食事も用意されておりまして、そちらの毒見もしております。ですので、少し、お時間いただきたいのですが…」
ワイアットに聞いたところによると、側近用として用意させている食事には毒らしきものは入っておらず、一応、他の毒見役に側近用の食事の方を毒見させてから、陛下にそちらをお出ししているらしい。
「わかったわ。では、先に陛下にご挨拶に行かせてもらうわね」
本来なら朝食の時間に陛下の所に行くだなんて、そんな失礼な事はありえないんだけれど、毒見役はそれを不思議に思うよりも、自分の悪事がバレない様にする事を考えるだけで頭がいっぱいの様だった。
私の言葉を聞くと、どこかホッとした様な顔をして頷く。
「よろしくお願い致します」
何がよろしくなのかはわからないけれど、毒見役の女性の言葉に頷いて、私はメイドと一緒に部屋を出る。
メイドはなぜ私がこんな時間にやって来たのか、どこか気になる様子だったけれど、さすがに理由を聞いてくる事もなく、その場を立ち去った。
さあ、毒見役の彼女はどうするかしら?
私なら、不審に思って毒を入れる事を今日はやめるかもしれない。
けれど、毎日必ず毒を入れるようにと命令されていたら?
何より、陛下に用意された食事を、他の人間が横取りする様な真似をするとは思わないでしょう。
なら、毒を入れても、今までのようにバレる事はないと思うかもしれない。
彼女がそう賢くない人間である事を祈りながら、陛下の部屋へ向かうと、事前に話をしていたからか、ワイアットが出迎えてくれた。
「どうします? 陛下にお会いしますか?」
「いいえ。さすがにこんな時間に失礼だわ」
「今日は陛下の身体の調子も良さそうですし、陛下はあなたに会いたいと言っておられますが」
「そんな事を聞いてしまったら、ご挨拶しないわけにはいかないわね。でも、やる事を終えてからにさせてもらうわ」
「本当に実行するつもりですか?」
ワイアットが苦虫を噛み潰した様な顔をして聞いてくるので、苦笑しながら頷く。
「後手後手になるのは御免なのよ。危険を冒してでもやらないといけない時はあるでしょう?」
「かといって、あなたがそれをする必要はないでしょう?」
「私の様な人間がする事によって、大事に出来るのよ」
「危険ですよ」
「何を言ってるの。あなたもやった事じゃない」
「それは私は陛下の側近だからですよ」
陛下の寝室は今いる部屋の奥にある扉の向こうの為、陛下には私達の会話は聞こえていない。
それでも、ワイアット達が用意した他の毒見役の人はいるから、声をひそめて言う。
「少しでも早く、ケイティ達を捕まえたいのよ。これ以上、犠牲者は出せないわ」
「その気持ちはわかりますが…」
そんな話をしていると、部屋の扉が叩かれた。
ワイアットが扉を開けると、さっきの毒見役の女性が二人分の食事をのせたワゴンを押して中に入ってくると、説明を始める。
「こちらが陛下へのお食事になります。そして、こちらは側近の方のものになります」
一番上の段にのせられているのは、陛下がそうたくさん食べられないからか、全体的に量の少ないもので、その下の段には、同じメニューではあるけれど、陛下のものよりも量の多い皿が置かれていた。
「ありがとう」
ワイアットが礼を言うと、毒見役は部屋を出ていこうとした。
そんな彼女に聞こえるように、私は言葉を発する。
「ねえ、ワイアット、私、お腹が減っているの。陛下は今日は朝食はいらないと言っておられたので、私がいただいてもいいかしら?」
そんな事を陛下は言っておられないし、何より、そんな無礼な事をするだなんてありえない。
けれど、毒見役の女性は、まんまと引っかかってくれた。
「いけません!」
「…何がいけないの?」
「あ…、そ、それは…、その陛下へのお食事でございますから…」
「それはそうね。では、陛下に許可を」
「で、でしたら、新しいお食事を!」
「そんなのもったいないじゃない。だって、この料理はどうせ捨てられてしまうのよ? それなら、私が食べた方が良いじゃない? 毒見も終わっている事だし安全よね?」
そこでわざと言葉を区切り、笑顔を作ってから尋ねる。
「私が食べると困る事でもあるのかしら?」
「い、いいえ…」
毒見役は俯き、震える声で答えた。
「では、いただく事にするわね」
こんな、はしたない事はありえないんだけど。
「待って下さい。僕が先にいただきます」
スプーンを手に取ろうとした私より先にワイアットが奪う様にスプーンを取ると、スープをすくい、あっという間に口に入れてしまった。
「ワイアット!」
「……っ!!」
驚いて叫ぶ私と、声にならない声を上げる毒見役の女性。
ワイアットはスープを飲み込まずに、自分の持っていたハンカチに吐き出すと、毒見役の女性に向かって言う。
「あなたは本当に毒見をしたんですか?」
「は…、はい…」
毒見役の女性の身体が震え始める。
「おかしいとは思わなかったんですか?」
「………」
ワイアットの質問に、毒見役の女性は俯いたまま、答える事が出来ない。
「味がおかしいです。毒が入っている入っていない以前に、こんな味がするものだろうかとは思わなかったんですか…」
「そ、それは…っ!」
泣き出しそうな顔で何か言おうとした毒見役に、私が険しい顔で尋ねる。
「まさか、あなたは陛下に味のおかしい料理を食べさせようとしていたの…?」
「違います! 違うんです!」
何が違うのかはわからないけれど、私達が黙って彼女を冷ややかな目で見ていると、私達が聞かなくとも、彼女は勝手に真相を話し始めた。
ワイアットには昨日の内に、自分からもっと積極的に動いていくという連絡を入れておき、城内をウロウロする許可ももらった。
そして、国王陛下から、ゼント殿下に対して、彼が何か良くない事をした場合、私が罰則を決めても良いとの許可もおりた。
陛下の許可があれば、ある意味怖いものなしなので、自分の命が危なくない程度に、挑発していく事に決めた。
ワイアットから、泳がせている毒見役の人間が誰かを聞いていたのと、今日はその彼女が当番の日らしいので、まずは、そちらに接触する事にした。
「ごきげんよう」
「こ、こんにちは…」
次の日の朝、料理を運んでいるメイドに声を掛けると、私に挨拶をされるとは思っていなかったのか、びくりと身体を震わせて、挨拶を返してきた。
「その料理はどちらに運ぶの?」
「これは、国王陛下のお部屋に運ぶものです」
「毒見は終わっているの?」
「まだでございます」
「いつ、毒見をするの?」
メイドは矢継ぎ早に質問する私に怯えながらも、答えを返してくれる。
「陛下の寝室の近くに毒見役の控室がございます。そこで…」
「教えてくれてありがとう。一緒に行っても良いかしら?」
「も、もちろんでございます」
怯えているメイドには少し気の毒だけれど、彼女に何かするつもりはないので、少しの間、我慢してもらいましょう。
毒見役が待っているという部屋に向かうと、扉が開いた時に見えた表情は余裕げに見えたけれど、私の姿を確認した途端、表情が強張った。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう…」
毒見役は座っていた椅子から立ち上がり、カーテシーをした後、ちらりと料理を運んできたメイドに視線を送った。
どういう状況か説明しろと言いたいみたいね。
でも、それを聞きたいのは彼女も一緒だと思うわ。
だから、私が口を開く。
「毒見役って大変なお仕事よね。私の家にもいるのだけれど、毎回、何もない事を祈っているわ。…と、話がずれてしまってごめんなさいね。どんな方が陛下の毒見をしているのか気になってしまったの」
「あ…いえ、陛下の命をお守りできる光栄なお仕事ですから…。ですが、貴族の方に見ていただく様なものでもございません」
メイド服を着た、茶色の髪をシニヨンにした毒見役の中年の女性は、苦笑しながら首を横に振った。
「そう。毒見って、時間はかかるかしら? 時間がかかる様なら、陛下に先にご挨拶に行ってもいいかしら?」
「最近は、側近の方の食事も用意されておりまして、そちらの毒見もしております。ですので、少し、お時間いただきたいのですが…」
ワイアットに聞いたところによると、側近用として用意させている食事には毒らしきものは入っておらず、一応、他の毒見役に側近用の食事の方を毒見させてから、陛下にそちらをお出ししているらしい。
「わかったわ。では、先に陛下にご挨拶に行かせてもらうわね」
本来なら朝食の時間に陛下の所に行くだなんて、そんな失礼な事はありえないんだけれど、毒見役はそれを不思議に思うよりも、自分の悪事がバレない様にする事を考えるだけで頭がいっぱいの様だった。
私の言葉を聞くと、どこかホッとした様な顔をして頷く。
「よろしくお願い致します」
何がよろしくなのかはわからないけれど、毒見役の女性の言葉に頷いて、私はメイドと一緒に部屋を出る。
メイドはなぜ私がこんな時間にやって来たのか、どこか気になる様子だったけれど、さすがに理由を聞いてくる事もなく、その場を立ち去った。
さあ、毒見役の彼女はどうするかしら?
私なら、不審に思って毒を入れる事を今日はやめるかもしれない。
けれど、毎日必ず毒を入れるようにと命令されていたら?
何より、陛下に用意された食事を、他の人間が横取りする様な真似をするとは思わないでしょう。
なら、毒を入れても、今までのようにバレる事はないと思うかもしれない。
彼女がそう賢くない人間である事を祈りながら、陛下の部屋へ向かうと、事前に話をしていたからか、ワイアットが出迎えてくれた。
「どうします? 陛下にお会いしますか?」
「いいえ。さすがにこんな時間に失礼だわ」
「今日は陛下の身体の調子も良さそうですし、陛下はあなたに会いたいと言っておられますが」
「そんな事を聞いてしまったら、ご挨拶しないわけにはいかないわね。でも、やる事を終えてからにさせてもらうわ」
「本当に実行するつもりですか?」
ワイアットが苦虫を噛み潰した様な顔をして聞いてくるので、苦笑しながら頷く。
「後手後手になるのは御免なのよ。危険を冒してでもやらないといけない時はあるでしょう?」
「かといって、あなたがそれをする必要はないでしょう?」
「私の様な人間がする事によって、大事に出来るのよ」
「危険ですよ」
「何を言ってるの。あなたもやった事じゃない」
「それは私は陛下の側近だからですよ」
陛下の寝室は今いる部屋の奥にある扉の向こうの為、陛下には私達の会話は聞こえていない。
それでも、ワイアット達が用意した他の毒見役の人はいるから、声をひそめて言う。
「少しでも早く、ケイティ達を捕まえたいのよ。これ以上、犠牲者は出せないわ」
「その気持ちはわかりますが…」
そんな話をしていると、部屋の扉が叩かれた。
ワイアットが扉を開けると、さっきの毒見役の女性が二人分の食事をのせたワゴンを押して中に入ってくると、説明を始める。
「こちらが陛下へのお食事になります。そして、こちらは側近の方のものになります」
一番上の段にのせられているのは、陛下がそうたくさん食べられないからか、全体的に量の少ないもので、その下の段には、同じメニューではあるけれど、陛下のものよりも量の多い皿が置かれていた。
「ありがとう」
ワイアットが礼を言うと、毒見役は部屋を出ていこうとした。
そんな彼女に聞こえるように、私は言葉を発する。
「ねえ、ワイアット、私、お腹が減っているの。陛下は今日は朝食はいらないと言っておられたので、私がいただいてもいいかしら?」
そんな事を陛下は言っておられないし、何より、そんな無礼な事をするだなんてありえない。
けれど、毒見役の女性は、まんまと引っかかってくれた。
「いけません!」
「…何がいけないの?」
「あ…、そ、それは…、その陛下へのお食事でございますから…」
「それはそうね。では、陛下に許可を」
「で、でしたら、新しいお食事を!」
「そんなのもったいないじゃない。だって、この料理はどうせ捨てられてしまうのよ? それなら、私が食べた方が良いじゃない? 毒見も終わっている事だし安全よね?」
そこでわざと言葉を区切り、笑顔を作ってから尋ねる。
「私が食べると困る事でもあるのかしら?」
「い、いいえ…」
毒見役は俯き、震える声で答えた。
「では、いただく事にするわね」
こんな、はしたない事はありえないんだけど。
「待って下さい。僕が先にいただきます」
スプーンを手に取ろうとした私より先にワイアットが奪う様にスプーンを取ると、スープをすくい、あっという間に口に入れてしまった。
「ワイアット!」
「……っ!!」
驚いて叫ぶ私と、声にならない声を上げる毒見役の女性。
ワイアットはスープを飲み込まずに、自分の持っていたハンカチに吐き出すと、毒見役の女性に向かって言う。
「あなたは本当に毒見をしたんですか?」
「は…、はい…」
毒見役の女性の身体が震え始める。
「おかしいとは思わなかったんですか?」
「………」
ワイアットの質問に、毒見役の女性は俯いたまま、答える事が出来ない。
「味がおかしいです。毒が入っている入っていない以前に、こんな味がするものだろうかとは思わなかったんですか…」
「そ、それは…っ!」
泣き出しそうな顔で何か言おうとした毒見役に、私が険しい顔で尋ねる。
「まさか、あなたは陛下に味のおかしい料理を食べさせようとしていたの…?」
「違います! 違うんです!」
何が違うのかはわからないけれど、私達が黙って彼女を冷ややかな目で見ていると、私達が聞かなくとも、彼女は勝手に真相を話し始めた。
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