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8 新たな出会い 2
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次の日の朝、主食であるパンを買おうと、窓から向かいのパン屋さんを見てみると、すでにオープンしていて、人が出入りしている姿が見えた。
家のキッチンにオーブンはあるけれど、さすがに料理を一から覚える人間に、パン作りはハードルが高すぎる気がしたので、今日もパンを買いに行こうと思う。
スープは昨日の間にたくさん作っておいて、魔法のボックスの中に入れておいたから、必要な分を取り出して温めるだけでいい。
魔法のボックスというのは、白くて四角い開閉式の箱で、私の家のボックスは、私の腰くらいの高さまであり、横幅と奥行きは私の二人分くらいの大きさで、その中にいれた食べ物のみ、時間を止める事が出来る。
なぜ、食べ物だけなのかはわからない。
必要だと感じない事以外は、特に興味もないので調べていないけど、動物や人間を入れたりしようとする人間が出てくるかもしれないから、そういう制限をかけたのかもしれない。
顔を洗って歯を磨いて、膝丈のベージュのワンピースドレスに着替えて、早速、出かける事にしようとした時だった。
コンコン、と扉が叩かれた。
こんな時間に誰なの?
また、リュシリュー男爵とかじゃないわよね?
不審に思いつつも、言葉を返してみる。
「どちら様ですか?」
「あ、左隣に住んでるんだけど」
「私は右隣!」
男性と女性の声が聞こえて、恐る恐る、扉に近付きながら聞いてみる。
「あの…、何か御用でしょうか?」
「ほら、やっぱり警戒されてるじゃない! だから、止めておこうって言ったのにぃ!」
「ローズだって、隣の女の子がどんな子か見てみたいって言ってたじゃねぇか」
扉に付いている覗き窓から見てみると、私と年齢の変わらなさそうな、若い男の子と女の子がいた。
男の子の方はシルバー色の短髪、長身でやんちゃそうな雰囲気だけれど、整った顔立ちをしていて、その彼に寄り添う女の子は、ブロンドの髪をツインテールにした、またあどけなさの残る可愛らしい顔立ちの少女だった。
二人はカップルなのか、扉の前でイチャイチャしている。
というか、女の子の方が彼の腕に腕をからませて甘えているというか…。
こっちは失恋したばかりなので、そういうのは今は見たくない。
それに朝っぱらからイチャイチャするのは悪い事ではないけれど、初対面の相手に対して、それはどうなのよ。
「あの、私、今からパンを買いに行く予定なのですが…?」
言いたいことを何でも口に出していい訳ではない。
ご近所付き合いは大事!
かといって、断らないといけない時は断る事も大事!
なので、今は迷惑だという事を遠回しに伝えると、ローズと呼ばれた女の子が言う。
「じゃあ、一緒に行かない? 向かいのパン屋以外にもパン屋さんがあるから、連れて行ってあげるわ!」
うう。
遠回しでは駄目だったか…。
それとも、パン屋に連れて行って欲しいと言っている様に思われてしまった…?
諦めて、扉を開ける事にする。
「おはようございます。申し訳ないんですが、先程起きたばかりでして、まだ支度が出来ていないんです」
「やだぁ! そんなにかしこまらないでよぉ!」
私より少し背の低い細身の少女は、ばしんと私の腕を叩いてから続ける。
「お母さんから聞いたわ! あなた、私と同じ年みたい! 仲良くしましょうよぉ!」
「あ、え、うん…。ありがとう…」
叩かれた腕が痛いけれど、こういうタイプにはそれを伝えても意味がなさそうなので黙っておく。
あまりにも酷かったら、ちゃんと伝えよう。
「あ、自己紹介をしていなかったわね! 私はローズよ! 野菜を売っている店の三女なの。よろしくね!」
「リディアです。よろしくお願いします」
「どうして敬語? もしかしてリディアって、いいとこのお嬢様だったりする?」
「会ったばかりなんだから、敬語でもおかしくないでしょ?」
「もう! そういうおかたい話は無しにしましょ!」
ローズが私の腕をつかんで続ける。
「準備ができるまで、お家の中で待たせてもらってもいい?」
「うーん、ごめん。まだ、家の中が片付いてなくて…。せっかくのお誘いだけど、今日は遠慮しておくわ」
「えぇ…。ちょっと、トータスも何か言ってよぉ!」
「……」
トータスと呼ばれた少年は口をぽかんと開けたまま、私を凝視していた。
「あの?」
苦笑して、私よりもだいぶ背の高い彼を見上げると、耳まで赤くして、彼は言った。
「えっと、あ、いや、ごめん。その、思ってたより可愛くて…」
「ちょっと!? トータス!?」
「ローズ、今は帰ろう。リディア、あと、どれくらいで用意できる?」
「えーっと、さっきも言ったけど、今日は遠慮しておこうかな…」
「でも、街を案内する人間は必要だろ!?」
「今日はまだ、いいかな…」
トータスにドン引きしていると、ローズが怒り出す。
「ちょっとトータス! あんたには私がいるでしょう?」
「ち、違うだろ! お前とはただの幼馴染だろ!」
「酷くない!? 私の気持ちをわかってるくせに!」
痴話喧嘩らしきものが始まってしまったので、これみよがしに大きく息を吐いてから、二人に笑顔で言った。
「二人の邪魔をする気はないから、失礼するわね。気にかけてくれてありがとう」
二人の返事も待たずに、私は乱暴に扉を閉めたのだった。
家のキッチンにオーブンはあるけれど、さすがに料理を一から覚える人間に、パン作りはハードルが高すぎる気がしたので、今日もパンを買いに行こうと思う。
スープは昨日の間にたくさん作っておいて、魔法のボックスの中に入れておいたから、必要な分を取り出して温めるだけでいい。
魔法のボックスというのは、白くて四角い開閉式の箱で、私の家のボックスは、私の腰くらいの高さまであり、横幅と奥行きは私の二人分くらいの大きさで、その中にいれた食べ物のみ、時間を止める事が出来る。
なぜ、食べ物だけなのかはわからない。
必要だと感じない事以外は、特に興味もないので調べていないけど、動物や人間を入れたりしようとする人間が出てくるかもしれないから、そういう制限をかけたのかもしれない。
顔を洗って歯を磨いて、膝丈のベージュのワンピースドレスに着替えて、早速、出かける事にしようとした時だった。
コンコン、と扉が叩かれた。
こんな時間に誰なの?
また、リュシリュー男爵とかじゃないわよね?
不審に思いつつも、言葉を返してみる。
「どちら様ですか?」
「あ、左隣に住んでるんだけど」
「私は右隣!」
男性と女性の声が聞こえて、恐る恐る、扉に近付きながら聞いてみる。
「あの…、何か御用でしょうか?」
「ほら、やっぱり警戒されてるじゃない! だから、止めておこうって言ったのにぃ!」
「ローズだって、隣の女の子がどんな子か見てみたいって言ってたじゃねぇか」
扉に付いている覗き窓から見てみると、私と年齢の変わらなさそうな、若い男の子と女の子がいた。
男の子の方はシルバー色の短髪、長身でやんちゃそうな雰囲気だけれど、整った顔立ちをしていて、その彼に寄り添う女の子は、ブロンドの髪をツインテールにした、またあどけなさの残る可愛らしい顔立ちの少女だった。
二人はカップルなのか、扉の前でイチャイチャしている。
というか、女の子の方が彼の腕に腕をからませて甘えているというか…。
こっちは失恋したばかりなので、そういうのは今は見たくない。
それに朝っぱらからイチャイチャするのは悪い事ではないけれど、初対面の相手に対して、それはどうなのよ。
「あの、私、今からパンを買いに行く予定なのですが…?」
言いたいことを何でも口に出していい訳ではない。
ご近所付き合いは大事!
かといって、断らないといけない時は断る事も大事!
なので、今は迷惑だという事を遠回しに伝えると、ローズと呼ばれた女の子が言う。
「じゃあ、一緒に行かない? 向かいのパン屋以外にもパン屋さんがあるから、連れて行ってあげるわ!」
うう。
遠回しでは駄目だったか…。
それとも、パン屋に連れて行って欲しいと言っている様に思われてしまった…?
諦めて、扉を開ける事にする。
「おはようございます。申し訳ないんですが、先程起きたばかりでして、まだ支度が出来ていないんです」
「やだぁ! そんなにかしこまらないでよぉ!」
私より少し背の低い細身の少女は、ばしんと私の腕を叩いてから続ける。
「お母さんから聞いたわ! あなた、私と同じ年みたい! 仲良くしましょうよぉ!」
「あ、え、うん…。ありがとう…」
叩かれた腕が痛いけれど、こういうタイプにはそれを伝えても意味がなさそうなので黙っておく。
あまりにも酷かったら、ちゃんと伝えよう。
「あ、自己紹介をしていなかったわね! 私はローズよ! 野菜を売っている店の三女なの。よろしくね!」
「リディアです。よろしくお願いします」
「どうして敬語? もしかしてリディアって、いいとこのお嬢様だったりする?」
「会ったばかりなんだから、敬語でもおかしくないでしょ?」
「もう! そういうおかたい話は無しにしましょ!」
ローズが私の腕をつかんで続ける。
「準備ができるまで、お家の中で待たせてもらってもいい?」
「うーん、ごめん。まだ、家の中が片付いてなくて…。せっかくのお誘いだけど、今日は遠慮しておくわ」
「えぇ…。ちょっと、トータスも何か言ってよぉ!」
「……」
トータスと呼ばれた少年は口をぽかんと開けたまま、私を凝視していた。
「あの?」
苦笑して、私よりもだいぶ背の高い彼を見上げると、耳まで赤くして、彼は言った。
「えっと、あ、いや、ごめん。その、思ってたより可愛くて…」
「ちょっと!? トータス!?」
「ローズ、今は帰ろう。リディア、あと、どれくらいで用意できる?」
「えーっと、さっきも言ったけど、今日は遠慮しておこうかな…」
「でも、街を案内する人間は必要だろ!?」
「今日はまだ、いいかな…」
トータスにドン引きしていると、ローズが怒り出す。
「ちょっとトータス! あんたには私がいるでしょう?」
「ち、違うだろ! お前とはただの幼馴染だろ!」
「酷くない!? 私の気持ちをわかってるくせに!」
痴話喧嘩らしきものが始まってしまったので、これみよがしに大きく息を吐いてから、二人に笑顔で言った。
「二人の邪魔をする気はないから、失礼するわね。気にかけてくれてありがとう」
二人の返事も待たずに、私は乱暴に扉を閉めたのだった。
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