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14   密かに望んでいた再会

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 初めて会った日から、ワイズは毎日、遊びにやって来ては、私の話し相手になってくれた。
 賢い子で、明日は何時くらいからならいいよと教えると、本当にその時間にやって来るのだ。
 本当はヨウムじゃなくて、ヨウムの姿をした使い魔なのかもしれないな、と思ってしまう。

 ストーカーらしき人物からの視線は今まで程ではないけれど、ワイズと会った日から、だいぶマシになってきた様な気がした。
 もしかしたら、ワイズが助けてくれているのかも?

 ジッシーとの婚約については、お父様からの連絡では、ミーグス公爵家がアンダーソン家のバックに付いているみたいで、婚約の解消が難しくなっていると教えてくれた。
 私とジッシーが結婚してくれるのが、一番、楽な方法だと思われてしまったのかもしれない。

 ただ、それなら、最初からそうしてくれたら良かったんじゃない?
 思ったよりも、ミランが反抗していたりするのかしら?
 息子が言う事をきかないからって、何でもかんでも、こっちの人生を犠牲にしようとするのは止めてほしい。
 
 そんな苛立ちを覚えながらも、日にちは過ぎて、ワイズと知り合ってから五日目の事だった。

 その日は学校や役所などが休みになる日で、そういう日はいつもよりかは、来店されるお客様が増えるので、朝からお店に出ていた。
 いつもなら、エイディさんと二人なんだけど、エイディさんは用事があって出かけていたので、今日の店番は店主の奥さんとだったから、長い時間でも、やりやすくて助かっていた。

 昼過ぎ、お客様も来ないし、昼食を食べ終えてお腹いっぱいだったから、眠気が襲ってきて、うつらうつらしそうになるのを必死にこらえていた時だった。
 ベルの音が聞こえて、気を引き締める。
 奥さんも音を聞いて、店の奥から出てきてくれた。

 入ってきた人物の姿を確認した途端、眠気は吹っ飛び、頭が真っ白になった。

「あら、見ない顔だね。でも、すごい男前」

 奥さんが耳元で囁いてきたけれど、言葉を返す余裕はなかった。

「見つけた」

 店に入ってきたミランは、私を見るなり、そう呟いて整っている顔を歪めた。

「ミラン…どうして…」
「突然、君が消えて、僕がどんな気持ちだったかわかるか?」
「ミラン、待って、仕事中なの」

 動揺してしまい、そんな言葉しか返せなくて、言ってから後悔してしまう。

 黙っていなくなるっていう、悪い事をしたのは私なんだから、もっと言い方があるわよね…。
 久しぶりに顔が見れたのに!
 というか、何でミランがここに?

「あの、リディアちゃん、大丈夫かい?」
「えーっと、あ、はい、その…」
「…仕事は何時に終わる?」

 奥さんが訝しげにする様子に気が付いたミランが、私に聞いてくる。

「あと二時間後くらいだけど」
「なら、それまで近くの店で時間を潰すよ。失礼しました」
「ミラン…、どうして…」

 彼は、奥さんの方に頭を下げた後、私の言葉には何も返さずに店を出て行く。
 
 久しぶりに会ったミランは、学園で会っていた時とは、全然、雰囲気が違う気がした。
 私の好きだった自信満々の強い瞳はなく、私を見る目は弱々しくて、顔色も悪く、目の下にクマが出来ていた。

 一体、何があったの?

「あの、カッコいい男の子、リディアちゃんの知り合い?」
「はい…。ご迷惑おかけしてすみません。あの、彼は…」

 ミランとの関係をなんと答えたら良いのかわからなくて黙ってしまうと、奥さんが言う。

「今日はもういいから。彼と話をしてきなさい」
「で、でも…」
「雇い主の家族が許可してるんだからいいのよ。もし、主人が何か言うようなら、私が相手になるから!」
「すみません! ありがとうございます、助かります」

 この街の人は、見かけない人間には敏感だから、ただでさえ目立つのに、ミランの容姿なら余計に目立つはず。

 奥の休憩所から自分のショルダーバッグを取ってきて、奥さんに頭を下げる。

「ありがとうございます!」
「頑張って!」

 どう頑張ったら良いかはわからないけれど、とにかく急いで外へ出た。
 人の行き交いが多くあるせいか、ミランの姿は見えなくなっていた。
 だけど、彼の容姿のせいか、女性が振り返っていたりする姿が見えるので、そちらの方に向かって歩いていく。

 見失わないように早足で歩いていると、灰色の鳥がミランの肩にとまった。

 ああ、やっぱりそうだったのね…。

 私が感じていた匂いや、記憶は間違ってなかった。

 ワイズはミランの頬をつついて注意を自分に促してから、羽根で私のいる方向を示してくれた。
 すると、ミランは立ち止まって、私の方に振り返った。

「ミラン!」
「……リディア」

 駆け寄ると、ミランが困った様な顔をして言う。

「どうしたんだ? 仕事中だろ?」
「店主の奥様がミランの所に行けって言って下さったの」
「そうか…。ごめん。突然、押しかけて悪い事をした」

 ミランが申し訳なさそうな顔をするので、首を横に振る。

「いいの。変にあなたがウロウロしている方が目立つわ。この辺の人はほとんど顔見知りみたいだから」

「リディア、ゴメンネ」

 ミランの肩から腕に移動したワイズが謝ってきたので首を傾げる。

「どうして謝るの?」
「ミランニ、イッチャダメ、ッテ、イワレテタカラ、ゴシュジン、ダレカ、イエナカッタ」
「それは気にしなくてもいいわ。それに私も、ワイズのご主人様はミランかもしれないって、薄々、気付いてたのもあるし」

 苦笑して頭を撫でてあげると、ワイズは私の指に顔を寄せてきた。

「ユルシテクレテ、アリガト」
「こちらこそ。見守ってくれて、ありがとうね」
「ドウイタシマシテ」

 ワイズの頭をもう一度撫でた後、ミランの方を見ると、彼が口を開く。

「今から話せる?」
「うん」

 どうしてミランがここにいるのかわからない。
 公爵夫妻はミランを上手く説得できなかった?
 それとも、何も言わずに、何の相談もせずに、この場所に来てしまった私を怒っていて、一発殴ってやりたいとか、そういうのだったりする?

 せっかくの再会だけど、少しの不安を抱えながら、ミランとワイズと一緒に歩き始めた。
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