上 下
19 / 30

15   余計なお世話

しおりを挟む
 ワイズは近くにある店の屋根の方まで飛んでいき、私達は人の邪魔にならない様に横に避けてから、話を開始する。

「ミラン、どうして、こんな所にいるの? あなた、ご両親から何も聞いてない訳ではないわよね?」
「ワイズが君を探し出してくれたから、君を迎えに来た。まあ、すぐに連れて帰れる訳じゃないけど、とにかく話をしたい」
「迎えに来た……って、えっと、その、怒ってるわけではないのね?」
「怒ってるかと言われれば、怒ってるかもしれない。それは君に対してだけじゃなくて、自分自身や、両親にもだけど」

 ミランはにっこりと笑うと、私に尋ねてくる。

「とにかく、人目を気にせずに、ゆっくり話せる場所はないか?」
「私の家の方が良いと思う。飲食店も近くにはあるけど、誰が聞き耳を立てているかわからないから」
「そうだな。君の周りには変わった人間がいるみたいだから、その方がいいだろう」
「変わった人間って、ワイズから聞いたの?」

 尋ねてから、自分の家の方に向かって歩き出すと、ミランが答える。

「まあね。だから、逃げても無駄だよ。またワイズが君を探すから。というか、もう逃さないけど」
「ミラン、あなた、さっきも言ったけど、あなたのご両親からは何も言われてないの? 大体、私はあなたから逃げたんじゃないのよ!」
「わかってるよ。俺の両親がどうせ、君や君の両親に何か言ったんだろ?」

 ミランは私の手をつかんで、先を歩こうとする。

「とりあえず、君の家に案内してくれる?」
「それはかまわないけど、どうして手をつかむの。それにあなたが先に歩いたら意味がないでしょ。私の家を知らないくせに」
「大丈夫だよ。ワイズが教えてくれるから」

 言われて、上を見上げると、ワイズが家や店の屋根を先に飛んで、ミランを案内している。

「ワイズは本当に賢い子ね」
「まあね」
「もしかして、あなたの使い魔だったりする?」
「当たり。だけど、両親にも言ってないから、その事は誰にも言わないでくれ」
「え!? どうして? 隠す事でもないでしょ?」

 魔法を使える人間の全てが使い魔を持てる訳ではない。
 使い魔を持てる人って、この国ではすごい事だから、隠すものでもないと思うんだけど…。
 色々とあるのかしら?

「知られていない方がいい時が多いだろ?」
「だからって、家族にまで言わないの?」
「家族だって裏切る事があるだろ? 今回みたいに」

 家族が裏切るで思い出す。
 私はミランの為と思って、この暮らしを始めたけど、きっかけとしては、ミランの家族から脅されたのだし、彼と一緒にいるのは良くない。

 私の家族に何かあってはいけないもの。

「聞いて、ミラン」

 彼の手を振り払おうとしたけど無理だったので、足を止めて続ける。

「私とあなたの事、あなたのご両親は良く思われていないの」
「知ってるよ。あの手この手で、俺と君との仲を裂こうとしてる」
「やっぱり、あなたもご両親から何か言われたの?」
「ご丁寧に、俺の失恋を癒やすために、婚約者候補を探してくれていたみたいだ」
「ねえ、聞いて、ミラン、お二人はあなたの将来を考えたのよ!」

 もうこうなったら、素直にぶちまけてやろうと思った時だった。

「リディア?」

 後ろからトータスの声が聞こえた。
 トータスは私の腕を掴んでいるミランに気付き、こちらへ近寄ってくる。
 そして、私と一緒に立ち止まって、振り返ったミランを睨みながら尋ねた。

「あんたがストーカーか?」
「は? ストーカー?」

 ミランが聞き返す。

 しまった!
 トータスはミランをストーカーだと思ってるみたい!
 って、どうしてトータスがストーカーの事を知ってるの?

「待って、トータス! 彼は違うわ! 絶対に彼じゃない! それに、どうして、あなたがその事を知ってるのよ!」
「今は、そんな事は関係ないだろ!」
「関係あるわよ! 私、あなたには教えてないし、他の人にも口止めしたのよ!?」
「パン屋から聞いたんだよ! それに、そいつがストーカーじゃないって、どうしてそう思えるんだよ?! イケメンって以外は、いかにもって感じの顔じゃねぇか」

 ストーカーにいかにもって顔があるの?
 目の下のクマがひどいから?
 にしたって、意味がわからない!
 イケメンでもストーカー気質の人がいてもおかしくないし!

「リディア、彼とは知り合い?」

 ミランが私の耳に彼の口を寄せて聞いてくるので、こんな時なのに、ゾクゾクしてしまい、声を上げそうになるのをこらえてから答える。

「私の住んでいる家の隣の家に住んでる人の息子さんよ。簡単に言うと、隣の住人」
  
 ミランに答えてから、今度はトータスに向かって言う。

「トータス、前に言ったでしょう。好きな人がいるって。彼がそうなの」

 ミランの方を手で示すと、トータスは不機嫌そうな顔になる。

「女って皆、顔で選ぶんだな」
「ちょっと、それってどういう意味!?」

 聞き捨てならなくて言い返すと、トータスは言う。

「そいつのせいでリディアは引っ越してきたんだろ!? それなのに、どうしてそいつを憎んだりしないんだよ!?」
「彼のせいじゃないからよ!」
「そうやって庇うんだな!」
「あなた、自分が何を言ってるかわかってるの!? それに私にとっては、あなたの言ってる事は余計なお世話なんだけど!? 私、あなたの所有物じゃないのよ!?」

 ほんと、この人、何を言ってるのかわかんないんだけど!?
 
 トータスが何か言い返してくる前に、ミランが私の肩を持って、トータスに言う。

「僕の顔を褒めてくれるのは有り難いけど、君だって、黙っていれば整った顔立ちだと思うよ? リディアに興味がある様だけど、残念ながら、彼女は君のものにはならない」
「そうよ! 悪いけど、私、あなたみたいなタイプは男性として好みじゃない! 心配してくれる気持ちは有り難いけど、踏み込みすぎよ!」
「思わせぶりな態度をみせやがって!」
「はあ!?」

 捨て台詞を吐いて、去っていくトータスの背中に向かって言い返してやりたかったけど、ミランに止められる。

「ああいう奴には何を言っても無駄だ」
「だけど、思わせぶりな態度って、私、記憶にないんだけど!?」
「少し優しくしただけで、自分を好きだと思い込む人もいるみたいだから、そういうタイプかもしれないな」

 ミランは呆れた顔で言った後、続ける。

「とりあえず君の家に行ってもいいかな? また、変な邪魔が入っても困るから」
「そうね」

 頷いてから、何とか怒りをおさえて、ミランと一緒に私の家に向かったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,219pt お気に入り:3,933

【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:915pt お気に入り:3,465

カラダラッパー!

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:0

素直になれない彼女と、王子様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:15

生徒会長の弟の恋愛感情

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:49

処理中です...