私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ

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 数日後の事。
 学園が休みの日、私の家にミランがミーグス公爵夫妻を連れてきた。

「やっぱり、アンダーソン君は嘘をついてたよ。彼はご両親にこっぴどく叱られたみたいで、これ以上、恥を晒すなら縁を切るとまで言われたみたいだ」

 私の横に座るミランが、私に向かって笑顔で言った。

 リビングのソファーでは、四人も座れないので、ダイニングテーブルの椅子に座ってもらって話す事にしたんだけれど、公爵夫妻が平民の暮らす家にいるのかと思うと、何だか変な感じがした。

 正式には私は男爵令嬢ではあるけれど、住んでいる家は平民と変わらないので、平民の暮らす家という事にしておく。

「そう…。結局、ジッシーはどうなるの?」
「卒業までは学園に通うみたいだ。そして、卒業後すぐに結婚らしいけど、彼が婚約者以外の女性に手を出せない様に、しっかり見張りがつくみたいだ」
「どういう事?」
「ご両親が彼の友人を買収したらしくて、そういう気配があれば、すぐに両親に知らせがいくんだってさ」
「ジッシーはその事を知ってるの?」
「いや、知らないらしいけど、両親のスパイかと彼に聞かれたら、そうだと答えても良いと言ってるらしいよ」

 友達に裏切られていたなんて知ったら、私ならショックを受けるけれど、ジッシーはあまり気にしたりしなさそうだし、大丈夫かしら。

 あんなに大勢の人に見られて婚約破棄してまで付き合った相手に、すぐにフラれても、普通に学園に行っていたみたいだしね。
 神経が図太いというか、心が強いというか…。

「それはいいとして、リディア、君は僕の両親とは会った事がないはずだよな? 僕の両親は君に会った事がないって言ってるんだ」

 笑顔で聞いてくるミランだけど、そうじゃないとわかっていて言っているところが性格が悪い。
 でも、こっちも苦労したから、ミーグス公爵夫妻が罰が悪そうにしている姿を見るのは、それはそれで良いかと思う事にする。

「いいえ」

 たまたまかもしれないけれど、変な人に出会いすぎて、正直、疲れてしまった。
 楽しく過ごせるどころか、このままでは外出するにも危険になりそう。
 ミランは、昨日のうちに、私のところにやって来て、今日の話について説明してくれた後、私達の家族の事を守ってくれると約束してくれた。
 だから、正直に話す事にする。

「ミランの為に姿を消すように私にお願いしてこられたのは、このお二人です」

 私が開き直ってしまった事を感じたのか、公爵夫妻は私に頭を下げてきた。

「息子の為とはいえ、無理なお願いをしてごめんなさい」
「本当にすまなかった」
「本当に余計な事をしてくれましたよ。誰も得にならない事をしただけですから」

 ミランの言葉を聞いたミーグス公爵は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「元々は自分の息子が言い出した事なのに、親がそれを反対し、それだけではなく諦めさせるために、男爵令嬢を一人で遠くの地へ夜逃げのように引っ越させたなんて、世間が知ったら、どう思うでしょうね?  普通なら自分の息子をどうにかしようとするはずですから。何より、あなた達が愛してやまないラウルが、この事を知ったら、あなた達を軽蔑するかもしれませんね?」

 ミランの言葉を聞いて、夫人の方は私が辛い思いをしなければならなくなるから、婚約は止めておいた方がいいと言った。

 それは私もそう思う。

 元々、大人しくて穏やかな性格でもないし、どちらかというと小さい頃は木登りとかして、はしたない、と怒られたタイプだから、ミランと結婚して公爵夫人だなんて、自分自身でも想像できないし、絶対に世間から何か言われるに決まっている。

 けれど、ミランは私も守ると言った。

 もし、嫌なら、社交場に出なくてもいいとまで言ってくれた。

 公爵夫人がそれはどうかと思うけど、ミランがそこまで覚悟を決めてくれたのなら、私も覚悟を決めるしかなかった。

 もちろん、これ、相手が好きな人じゃなければ、本当に迷惑な話だ。
 ミランの事を好きになっていなければ、ここまで苦労しなかったんだろうな。
 ミランも、私が彼の事を好きだとわかっていたから、結婚を申し込んでくれたみたいだし、しょうがないけど。

 公爵夫妻は、よほど、ミランの弟や世間に軽蔑されたくなかったのか、ミランの言う通りにすると言い、私とミランの婚約は認められ、私も実家に戻る事を許され、テストを受けずとも学園に復帰出来る事になった。

 魔道具で先に公爵夫妻が帰っていった後、隣に座るミランに聞いてみる。

「そんなに、ご両親はあなたの弟さんを溺愛しているの?」
「ああ。二人にとっては念願の子供だったから」

 そう言われてみれば、ミランと弟さんの年齢は離れているし、お二人の間にお子さんが出来るまでに、色々とあったのかもしれない。
 
 ただ、それだけ溺愛しているのに、当の本人であるミランの弟さんは、ミランに一番懐いているのだから皮肉なものよね。

「さて、荷造りでもしようか」
「いいわよ。そんなに持ってきてないし、何より、見られたくないものの方が多いから」
「さすがに女性の部屋に入らないよ。僕はキッチン周りをするから」

 ミランが立ち上がると、二階に隠れていたワイズが飛んできて、私を見て言う。

「ワイズハ、ニヅクリシテル、フタリヲ、オウエンスルネ!」
「ありがとう、ワイズ。あ、ミラン、その前に、両親に連絡をしてもいい?」
「連絡なら僕から入れてるから大丈夫」

 ミランが笑顔で言った。

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