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第3話 初恋の終わり
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次の日、いつもの時間に学園に行くと、普段なら挨拶をしてくれていたキャロライン達は、わたしが教室に入って挨拶をしても知らんぷりだった。
わたしの席の隣のヘイスト殿下に挨拶をすると、朝の挨拶を返してはくれたけれど、申し訳無さそうな顔をしただけで、すぐにわたしから目をそらした。
わたしの好きだった殿下は、こんな人だったのかしら。
いつも温かくて優しい笑みを浮かべてくれたヘイスト殿下。
何か嫌なことがあったりすると、すぐに気付いてくれて、わたしの力になってくれた。
もちろん、自分1人で乗り越えないといけない時は、何も言わないけれど、そばで見守ってくれていた。
そんなヘイスト殿下が大好きだった。
ヘイスト殿下とは10年以上の付き合いになる。
殿下との婚約が決まったのは、お母様が亡くなってすぐの事だったから。
キャロラインとは学園で出会って7年も友人だった。
その年数はヘイスト殿下だって同じ。
3年の差なんて簡単に埋められてしまうものなのね。
そう思うと、とても惨めな気持ちになった。
どうせ父に縁を切られたら、学園に通う事もなくなるのだから、明日からは学園に来るつもりはない。
というか、今日も私物を取りに来たのと、自分の使っていた机を掃除しに来ただけだった。
荷物をまとめたら職員室に行って、先生に退学する事を告げるだけでいい。
私物といっても家から持ってくるのを忘れた時の為に、ペンなどの予備を置いていただけだから、大した荷物にもならない。
キャロライン達がわたしの方を見ながらひそひそと話をしているけれど、気にしていないふりをする。
傷付いていると思われるのが嫌だった。
すると、わざとなのか甲高い声を上げてキャロラインが笑った。
それに続いて友人だと思っていた人達も笑う。
耳障りなので、さっさと掃除を済ませて教室を出た。
教室で文句を言えば、わたしがいじめていたなんて馬鹿げた事を真実にしようとするだろうから、本当は何か言ってやりたいけど言わないでおく。
どうせ、彼女もパーティーに出席するだろうから、侯爵令嬢でいる間に言いたい事を言ってしまおうと思う。
職員室に向かうついでに手を洗おうと考えながら歩いていると、なぜかキャロラインが追いかけてきた。
赤茶色のツインテールの髪を揺らし、茶色の大きな丸い目がチャームポイントで、スタイルも良くて可愛らしい容姿が男子生徒に人気のあるキャロライン。
わたしは、どちらかというと大人しく見える顔立ちだから、彼女とは正反対。
だけど、わたしはわたし。
彼女は彼女。
そう思っていたから妬んだりした事はなかった。
「待ってよ、アニエス!」
呼び止める声が聞こえたけれど、立ち止まる気にもならず、振り返りもせずに告げる。
「もうわたし達は友人なんかじゃないんだから放っておいて」
「そんな冷たい事を言わないでよ。どうしたの、帰るの?」
「あなたに答える義理はないわ」
「最後まで謝らないの?」
キャロラインに聞かれ、さすがに頭にきて立ち止まって振り返る。
すると、わたしの視界に入ったのはキャロラインだけではなかった。
心配そうな表情でわたしを見つめる、ヘイスト殿下の姿があり、切ない気持ちと苛立ちで感情がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「どうしたんだよ、アニエス。もうすぐ授業が始まるよ。昨日の事で辛いのはわかる。僕だって辛いんだ。だけど、授業は受けなくちゃ。大体、君が悪いんだから」
あなたが辛いと言っている意味がわからない。
そう言い返したかったけれど、ヘイスト殿下の言葉は無視して、キャロラインに言う。
「キャロライン、どうしてわたしが謝らないといけないの? わたしはあなたに酷い事をした覚えはないし、本当は逆でしょう? あなたがわたしに酷い事をしてるんじゃないの」
そう言ってからまた前を向いて歩き出そうとすると、「待って!」とキャロラインは叫び、私の隣に駆け寄ってくると、ヘイスト殿下には背を向けて、にんまりと笑った。
「赤い瞳って損よね。それだけで差別されちゃうんだから」
「キャロライン、あなた…、どういう事?」
「その赤い瞳、ずっと前から気持ち悪いって思ってた」
キャロラインは嫌な笑みを消し、泣き出しそうな顔に変えた後、「パーティーで会いましょう? 絶対よ!」私の手を握ってそう言うと、ヘイスト殿下の所に駆け寄っていき、殿下のシャツの腕をつかむように見せかけて、彼のシャツで自分の手を拭いていた。
そんなに嫌なら触らなければいいのに。
無駄な事をするのね。
それとも、ヘイスト殿下と仲良さげにしているところを見せつけたい?
そうよね。
あなたにはヘイスト殿下への恋心を打ち明けていたもの。
自分とヘイスト殿下が仲良さげにしていたら、わたしがショックを受ける事くらいわかってるわよね。
赤い瞳が気持ち悪いと思っていたなら、どうしてわたしと友達になったの?
最初からヘイスト殿下が目的だった…?
いつまでも立ち止まっている訳にもいかないので、気持ちを切り替えて、今度こそ職員室に向かおうとした時、ヘイスト殿下に話しかけられる。
「待ってくれ! アニエス、君は…」
もう一度だけ。
もう一度だけ聞いてみよう。
未練がましくて心が弱いわたしは立ち止まり、ヘイスト殿下と視線を合わせて尋ねる。
「……殿下はまだ、わたしの言う事ではなく、キャロラインの言う事を信じているんですか?」
「しょうがないじゃないか! 事実が物語ってる! 僕だって君を信じてあげたいよ! だけど…っ!」
「事実とは? あなたはわたしがキャロラインに何かしているところを見たのですか?」
「そっ…それは…、見ては…いない」
わたしに問われて、ヘイスト殿下は驚いた表情をした。
嘘でしょう。
まさか、その事を今頃になって気が付いたの?
「ヘイスト殿下」
「……っ!」
わたしが軽く睨んだからか、ヘイスト殿下は今度はびくりと体を震わせた。
「わたしとの婚約破棄後はどうされるおつもりで…?」
「どうされるとは…?」
「新しい婚約者です」
「そ、それは、まだ考えていないが…、責任は取るつもりだ」
「責任…?」
何の責任かわからなくて聞き返すと、ヘイスト殿下は彼の隣に立っているキャロラインを見て言う。
「僕のせいで君がキャロを傷付けたというのなら、僕に責任がある」
ヘイスト殿下のせいで、わたしがキャロラインを傷付けた?
小馬鹿にしそうになってしまい、慌てて冷静に戻る。
相手は第2王子殿下なのよ。
失礼な事をするわけにはいかない。
「ヘイスト殿下のせいというのはどういう事です?」
「…キャロから聞いたよ。君は、キャロに僕をとられると思ったんだろう?」
「……何を仰ってるんです?」
「しらばっくれないでくれ! 君が僕を思うあまりにキャロをいじめたんだろう!? それなら、君にそこまでさせる様な思いをさせてしまった僕の責任だ!」
ヘイスト殿下は今にも泣き出しそうな顔でわたしに言った。
何を言っているのかしら。
それが責任をとる事になるとでも思っているの?
大体、ヘイスト殿下を思うあまりに、わたしがキャロラインをいじめるという理由が全くわからないわ。
「ヘイスト殿下、今現在、わたしはあなたの婚約者なのですよね?」
「そうだけど…」
「では、過去のわたしがどうしてキャロラインにあなたをとられると思ったんでしょうか?」
「そ、それは、僕の事が好きだから」
「理解出来ません。もちろん、わたしはヘイスト殿下の事をお慕いしていました。そして、わたしはあなたの婚約者なのです。大人しくしていれば、いつかあなたと結婚できたのです。それなのになぜ、わざわざキャロラインをいじめるというような馬鹿な事をしなければならないんですか?」
「そう言われてみれば…、そうだね。どうしてなんだい、キャロ」
ヘイスト殿下は戸惑った顔をしてキャロラインを見つめた。
すると、キャロラインは目に涙を浮かべて、ヘイスト殿下に縋りついた。
「ヘイスト殿下、騙されないで下さい。アニエスが私をいじめたと証言しているのは私だけじゃありません!」
「それは、そうかもしれないが、アニエスの言う通り、理由がわからないんだ。それに冷静に考えてみれば、兄上達はキャロが嘘をついているのだと…」
「何を今更言ってらっしゃるんですか! あなたのお兄様のジェレミー殿下はアニエスの事をよく知らないだけです」
「そうなの…かな?」
キャロラインに簡単に言いくるめられてしまうヘイスト殿下を見て、彼を好きだった気持ちがどんどん冷めていくのがわかった。
キャロラインのせいで、彼は変わってしまった?
変わってしまった、今のヘイスト殿下は私の好きだった人ではない。
「失礼します」
深々と頭を下げてから顔を上げると、ヘイスト殿下の腕にからみついているキャロラインが私を見て勝ち誇った笑みを浮かべていた。
そして、わたしを情けない表情で見つめているヘイスト殿下を見た時、わたしの初恋は幕を閉じた。
わたしの席の隣のヘイスト殿下に挨拶をすると、朝の挨拶を返してはくれたけれど、申し訳無さそうな顔をしただけで、すぐにわたしから目をそらした。
わたしの好きだった殿下は、こんな人だったのかしら。
いつも温かくて優しい笑みを浮かべてくれたヘイスト殿下。
何か嫌なことがあったりすると、すぐに気付いてくれて、わたしの力になってくれた。
もちろん、自分1人で乗り越えないといけない時は、何も言わないけれど、そばで見守ってくれていた。
そんなヘイスト殿下が大好きだった。
ヘイスト殿下とは10年以上の付き合いになる。
殿下との婚約が決まったのは、お母様が亡くなってすぐの事だったから。
キャロラインとは学園で出会って7年も友人だった。
その年数はヘイスト殿下だって同じ。
3年の差なんて簡単に埋められてしまうものなのね。
そう思うと、とても惨めな気持ちになった。
どうせ父に縁を切られたら、学園に通う事もなくなるのだから、明日からは学園に来るつもりはない。
というか、今日も私物を取りに来たのと、自分の使っていた机を掃除しに来ただけだった。
荷物をまとめたら職員室に行って、先生に退学する事を告げるだけでいい。
私物といっても家から持ってくるのを忘れた時の為に、ペンなどの予備を置いていただけだから、大した荷物にもならない。
キャロライン達がわたしの方を見ながらひそひそと話をしているけれど、気にしていないふりをする。
傷付いていると思われるのが嫌だった。
すると、わざとなのか甲高い声を上げてキャロラインが笑った。
それに続いて友人だと思っていた人達も笑う。
耳障りなので、さっさと掃除を済ませて教室を出た。
教室で文句を言えば、わたしがいじめていたなんて馬鹿げた事を真実にしようとするだろうから、本当は何か言ってやりたいけど言わないでおく。
どうせ、彼女もパーティーに出席するだろうから、侯爵令嬢でいる間に言いたい事を言ってしまおうと思う。
職員室に向かうついでに手を洗おうと考えながら歩いていると、なぜかキャロラインが追いかけてきた。
赤茶色のツインテールの髪を揺らし、茶色の大きな丸い目がチャームポイントで、スタイルも良くて可愛らしい容姿が男子生徒に人気のあるキャロライン。
わたしは、どちらかというと大人しく見える顔立ちだから、彼女とは正反対。
だけど、わたしはわたし。
彼女は彼女。
そう思っていたから妬んだりした事はなかった。
「待ってよ、アニエス!」
呼び止める声が聞こえたけれど、立ち止まる気にもならず、振り返りもせずに告げる。
「もうわたし達は友人なんかじゃないんだから放っておいて」
「そんな冷たい事を言わないでよ。どうしたの、帰るの?」
「あなたに答える義理はないわ」
「最後まで謝らないの?」
キャロラインに聞かれ、さすがに頭にきて立ち止まって振り返る。
すると、わたしの視界に入ったのはキャロラインだけではなかった。
心配そうな表情でわたしを見つめる、ヘイスト殿下の姿があり、切ない気持ちと苛立ちで感情がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「どうしたんだよ、アニエス。もうすぐ授業が始まるよ。昨日の事で辛いのはわかる。僕だって辛いんだ。だけど、授業は受けなくちゃ。大体、君が悪いんだから」
あなたが辛いと言っている意味がわからない。
そう言い返したかったけれど、ヘイスト殿下の言葉は無視して、キャロラインに言う。
「キャロライン、どうしてわたしが謝らないといけないの? わたしはあなたに酷い事をした覚えはないし、本当は逆でしょう? あなたがわたしに酷い事をしてるんじゃないの」
そう言ってからまた前を向いて歩き出そうとすると、「待って!」とキャロラインは叫び、私の隣に駆け寄ってくると、ヘイスト殿下には背を向けて、にんまりと笑った。
「赤い瞳って損よね。それだけで差別されちゃうんだから」
「キャロライン、あなた…、どういう事?」
「その赤い瞳、ずっと前から気持ち悪いって思ってた」
キャロラインは嫌な笑みを消し、泣き出しそうな顔に変えた後、「パーティーで会いましょう? 絶対よ!」私の手を握ってそう言うと、ヘイスト殿下の所に駆け寄っていき、殿下のシャツの腕をつかむように見せかけて、彼のシャツで自分の手を拭いていた。
そんなに嫌なら触らなければいいのに。
無駄な事をするのね。
それとも、ヘイスト殿下と仲良さげにしているところを見せつけたい?
そうよね。
あなたにはヘイスト殿下への恋心を打ち明けていたもの。
自分とヘイスト殿下が仲良さげにしていたら、わたしがショックを受ける事くらいわかってるわよね。
赤い瞳が気持ち悪いと思っていたなら、どうしてわたしと友達になったの?
最初からヘイスト殿下が目的だった…?
いつまでも立ち止まっている訳にもいかないので、気持ちを切り替えて、今度こそ職員室に向かおうとした時、ヘイスト殿下に話しかけられる。
「待ってくれ! アニエス、君は…」
もう一度だけ。
もう一度だけ聞いてみよう。
未練がましくて心が弱いわたしは立ち止まり、ヘイスト殿下と視線を合わせて尋ねる。
「……殿下はまだ、わたしの言う事ではなく、キャロラインの言う事を信じているんですか?」
「しょうがないじゃないか! 事実が物語ってる! 僕だって君を信じてあげたいよ! だけど…っ!」
「事実とは? あなたはわたしがキャロラインに何かしているところを見たのですか?」
「そっ…それは…、見ては…いない」
わたしに問われて、ヘイスト殿下は驚いた表情をした。
嘘でしょう。
まさか、その事を今頃になって気が付いたの?
「ヘイスト殿下」
「……っ!」
わたしが軽く睨んだからか、ヘイスト殿下は今度はびくりと体を震わせた。
「わたしとの婚約破棄後はどうされるおつもりで…?」
「どうされるとは…?」
「新しい婚約者です」
「そ、それは、まだ考えていないが…、責任は取るつもりだ」
「責任…?」
何の責任かわからなくて聞き返すと、ヘイスト殿下は彼の隣に立っているキャロラインを見て言う。
「僕のせいで君がキャロを傷付けたというのなら、僕に責任がある」
ヘイスト殿下のせいで、わたしがキャロラインを傷付けた?
小馬鹿にしそうになってしまい、慌てて冷静に戻る。
相手は第2王子殿下なのよ。
失礼な事をするわけにはいかない。
「ヘイスト殿下のせいというのはどういう事です?」
「…キャロから聞いたよ。君は、キャロに僕をとられると思ったんだろう?」
「……何を仰ってるんです?」
「しらばっくれないでくれ! 君が僕を思うあまりにキャロをいじめたんだろう!? それなら、君にそこまでさせる様な思いをさせてしまった僕の責任だ!」
ヘイスト殿下は今にも泣き出しそうな顔でわたしに言った。
何を言っているのかしら。
それが責任をとる事になるとでも思っているの?
大体、ヘイスト殿下を思うあまりに、わたしがキャロラインをいじめるという理由が全くわからないわ。
「ヘイスト殿下、今現在、わたしはあなたの婚約者なのですよね?」
「そうだけど…」
「では、過去のわたしがどうしてキャロラインにあなたをとられると思ったんでしょうか?」
「そ、それは、僕の事が好きだから」
「理解出来ません。もちろん、わたしはヘイスト殿下の事をお慕いしていました。そして、わたしはあなたの婚約者なのです。大人しくしていれば、いつかあなたと結婚できたのです。それなのになぜ、わざわざキャロラインをいじめるというような馬鹿な事をしなければならないんですか?」
「そう言われてみれば…、そうだね。どうしてなんだい、キャロ」
ヘイスト殿下は戸惑った顔をしてキャロラインを見つめた。
すると、キャロラインは目に涙を浮かべて、ヘイスト殿下に縋りついた。
「ヘイスト殿下、騙されないで下さい。アニエスが私をいじめたと証言しているのは私だけじゃありません!」
「それは、そうかもしれないが、アニエスの言う通り、理由がわからないんだ。それに冷静に考えてみれば、兄上達はキャロが嘘をついているのだと…」
「何を今更言ってらっしゃるんですか! あなたのお兄様のジェレミー殿下はアニエスの事をよく知らないだけです」
「そうなの…かな?」
キャロラインに簡単に言いくるめられてしまうヘイスト殿下を見て、彼を好きだった気持ちがどんどん冷めていくのがわかった。
キャロラインのせいで、彼は変わってしまった?
変わってしまった、今のヘイスト殿下は私の好きだった人ではない。
「失礼します」
深々と頭を下げてから顔を上げると、ヘイスト殿下の腕にからみついているキャロラインが私を見て勝ち誇った笑みを浮かべていた。
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