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第7話 メイドと御者の正体
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「ヘイスト、あなた、何を馬鹿な事を言っているの?」
王妃陛下が怒りからなのか、震える声で尋ねると、ヘイスト殿下は胸に手を当てて悲しげな表情で答える。
「父上、母上、事情は後で説明致します! ですから、キャロとの婚約を認めていただけませんか!?」
「ふざけた事を抜かすな! 当人同士の気持ちを優先する婚約があってもおかしくはないが、お前は王子なんだぞ! そんな大事な事を勝手に決めて良いと思っているのか!」
「王子だからこそ許されるものもあります! 何より、これは僕の使命なんです! それに、アニエスとの婚約破棄は認めてくださったじゃないですか!」
「何が使命だ! まずは王子としての使命をまずは果たせ! 子爵令嬢との婚約をこの場で発表するなど認めておらん! それにアニエスとの婚約破棄を認めたのにもちゃんと理由がある! お前に真実を見極める目をもってほしかったからだ! それが無理ならこちらにも考えがあっての事だ。それを…!」
国王陛下は怒りを必死におさえようとしたのか、一気に言い終えた後に大きく息を吐かれた。
わたしがこんな事を言えた義理ではないのだけれど、両陛下を見ていると、本当にお気の毒に思えてしょうがない。
キャロラインと結婚する事が使命?
わたしの為にキャロラインと結婚するという事が?
本当に意味がわからないわ!
王子の使命ってそんなものじゃないでしょう?
「おい、アニエス! お前はここから出ていけ!」
呆れ返っていたわたしの所へフロイド様が近付いてきて、わたしの肩を掴んで続ける。
「婚約破棄をされた時点で、お前はもうロロアル家の人間じゃないんだ! ただの平民だぞ!」
そう言われればそうだわ。
質問も終えたことだし、用を済ませてお暇しなくては。
「…そうですわね。出ていく事にいたします」
そこまで言った時、無意識に強く握りしめていたポーチに気づき、ジェレミー殿下の方を見ると、彼が壇上からこちらに向かって来るのが見えた。
「アニエス」
紺の燕尾服を着たジェレミー殿下は、柔らかな笑みを浮かべてわたしの元へやって来ると続ける。
「ごめんね。今回の婚約破棄も、どういう理由かはさっぱりわからないけれど、君のためだとか言っているし理解ができない。どうして君の事を信じられないんだろう。君のためを思うなら、君の言葉を信じるべきなんだけどね」
「ジェレミー殿下が謝られる事ではないですわ。それよりもジェレミー殿下、色々とわたしにお気遣いいただき、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げてから、ポーチからハンカチを取り出す。
「約束通り、わたしの手でお返しいたしますね」
そう言ってハンカチを差し出すと、ジェレミー殿下はハンカチを受け取るのではなく、私の手を取った。
「……ジェレミー殿下?」
「許可も取らずに触れてしまってごめん」
そう言って、わたしの手をつかんでいる反対の手でハンカチを取り、ズボンのポケットにしまうと、その場に跪いた。
触れる事くらい、ジェレミー殿下なら全く気にならないので笑顔を返そうとしたけれど、跪かれた事に驚いて焦ってしまう。
「ジェ、ジェレミー殿下!? どうなさったんです!?」
もしかして体調が急に悪くなってしまったのかしら!?
心配になって、慌ててしゃがもうとした時だった。
「君はヘイストとの婚約は解消された。だから、婚約者はいないよね?」
「いません」
「恋人や好きな人は?」
「当たり前ですが、いません」
「では、アニエス、私と結婚していただけませんか?」
ジェレミー殿下の言葉の意味が理解できず、目を瞬かせる。
え…?
いま、なんて?
「……あの、いま、なんておっしゃいました?」
「アニエスに私が結婚を申し込んだんだよ。もちろん、今すぐとは言わない。学園を卒業してからでいい」
「え!? はい!? 一体、どういう…!?」
「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?」
「お、驚きますわ! それに、ジェレミー殿下、お気持ちは嬉しいですが、わたしはもう平民なんです! 王太子殿下が平民と結婚だなんて――!」
「そうですわ!」
わたしの言葉を肯定したのは、1人だけじゃなかった。
キャロラインとベル様がそれぞれ違うところから近寄ってきて叫ぶ。
「彼女は平民です! ジェレミー殿下と結婚なんて出来るはずがありません!」
「そうですわ! 結婚相手が誰でも良いと言うのであれば、私はいかがです!? 侯爵令嬢ですので王妃になる資格は十分にございますわ!」
「君達に意見は求めていないし、君達が私に気軽に話しかけてきて良いなんて許可を出していないけどね?」
ジェレミー殿下は2人に向かって冷たく答えると、わたしの手を離して立ち上がった。
「ロロアル侯爵令嬢とセバン子爵令嬢、その事でしたら心配は無用ですわ」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには先程までメイド姿だったローブランシュが、紫色のイブニングドレスを着て立っていた。
「ローブランシュ!?」
「エミリア様、改めてご挨拶いたします。私はエミリア様の従姉妹になります、ローニャ・モナウと申します。そしてこちらが私の夫になりますエッカートです」
彼女に紹介された男性は、さっきまで御者をしてくれていた男性だった。
彼も正装していて、先程までとは全く違う雰囲気だった。
化粧をして正装しているローニャを見て気が付いた事があった。
ローニャに見覚えがあった理由がわかったわ。
若い頃の写真のお母様に似ていたのよ!
たしか、ローニャはお母様のお兄様の娘にあたるから、雰囲気が似ていてもおかしくないわ。
予想もしていなかった出来事に、パニックになる。
ローニャの事もそうだけれど、モナウという姓に聞き覚えがあったから。
「ローブランシュっていう名前は何だったの? それに、モナウというのは、あのモナウ家なの?」
「申し訳ございません。偽名です。そして、あのモナウ家です」
ローニャは申し訳なさそうに頭を下げた後、呆気にとられているベル様やキャロラインに向かって尋ねる。
「身分の差に関して気にされていたようですが、アニエス様が辺境伯令嬢であれば許されますわよね?」
「そ、それは、まあ、そうですけど、アニエスが辺境伯令嬢だなんて、そんな馬鹿げた事」
「そうですわ。一体、あなたは何が言いたいんですか?」
ベル様が聞き返すと、ローニャではなくエッカート様が答える。
「私の父は、アニエス様のお祖父様に大変お世話になっていたそうで今回の話を聞き、どうしてもアニエス様のお役に立ちたいと言っているんです」
モナウ家は王都から一番離れた辺境伯家の名前で、エッカート様は確か長男だったはず。
今は辺境伯令息というお立場だから、お父様の代わりにここまで来て下さったって事?
「モナウ卿、話をしてもらう前ににロロアル侯爵に聞かなければならないことがある」
「失礼致しました」
ジェレミー殿下はモナウ卿が一礼したのを確認してから、わたしの父だった人に話しかける。
「ロロアル侯爵、陛下から聞いてるが、あなたの口からも聞いておきたい。ヘイストとの婚約がなくなれば、アニエスとの縁を切るという話をしていたんだったな?」
「そ、そうでございます! あんな赤い瞳を持つ女は我が家にはいりません! ジェレミー殿下、その娘は今は平民でございます! 奥方をご所望でしたら、ぜひ我が娘のベルを…!」
「それについては悪いが遠慮しておく。では、モナウ卿、先程の続きを頼む」
「承知いたしました」
モナウ卿ははジェレミー殿下に一礼した後、わたしに向かって笑顔を向ける。
「現在のモナウ家の子供は私を含め男性しかおらず、母は娘を欲しがっていたんです。そこへ、アニエス様を養女にする気はないかという話がスリング辺境伯の元へいったと聞きまして、父がぜひ、アニエス様を養女にしたいと」
「お父様から相談されたんです。私はスリング家を出ていますが、娘である事に変わりはないから、新たに家族が増えても良いか確認したいと。お祖父様やお祖母様、そしてお父様は、叔母様の葬儀の際にアニエス様を連れて帰らなかった事を悔いており、ぜひスリング家の養女にしたいと言っておりました。私も賛成して、国王陛下からモナウ家に話をする事は許可を得ておりましたので、お義父様にその話をしたところ、ぜひモナウ家に、という事になったんです」
スリング家というのはわたしのお母様の実家の名だ。
それにしても悔いていたというのはどういう事なのかしら?
ローニャの言葉を聞いて、わたしは理解出来ない事があったので素直に聞いてみる。
「お祖父様やお祖母様とやり取りしていた手紙は、お母様が亡くなってから返事が来なくなったわ。伯父様からの手紙も来なくなったし、会いにも来てくれなくなった。それなのに、わたしを養女にしようとしてくれていたの…? わたしを切り捨てたわけではなかったの…?」
「その事についてはロロアル侯爵、あなたの口から説明願おうか」
ジェレミー殿下に冷たい声で言われ、こそこそと逃げようとしていたロロアル侯爵はびくりと体を震わせた。
王妃陛下が怒りからなのか、震える声で尋ねると、ヘイスト殿下は胸に手を当てて悲しげな表情で答える。
「父上、母上、事情は後で説明致します! ですから、キャロとの婚約を認めていただけませんか!?」
「ふざけた事を抜かすな! 当人同士の気持ちを優先する婚約があってもおかしくはないが、お前は王子なんだぞ! そんな大事な事を勝手に決めて良いと思っているのか!」
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わたしがこんな事を言えた義理ではないのだけれど、両陛下を見ていると、本当にお気の毒に思えてしょうがない。
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わたしの為にキャロラインと結婚するという事が?
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そう言われればそうだわ。
質問も終えたことだし、用を済ませてお暇しなくては。
「…そうですわね。出ていく事にいたします」
そこまで言った時、無意識に強く握りしめていたポーチに気づき、ジェレミー殿下の方を見ると、彼が壇上からこちらに向かって来るのが見えた。
「アニエス」
紺の燕尾服を着たジェレミー殿下は、柔らかな笑みを浮かべてわたしの元へやって来ると続ける。
「ごめんね。今回の婚約破棄も、どういう理由かはさっぱりわからないけれど、君のためだとか言っているし理解ができない。どうして君の事を信じられないんだろう。君のためを思うなら、君の言葉を信じるべきなんだけどね」
「ジェレミー殿下が謝られる事ではないですわ。それよりもジェレミー殿下、色々とわたしにお気遣いいただき、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げてから、ポーチからハンカチを取り出す。
「約束通り、わたしの手でお返しいたしますね」
そう言ってハンカチを差し出すと、ジェレミー殿下はハンカチを受け取るのではなく、私の手を取った。
「……ジェレミー殿下?」
「許可も取らずに触れてしまってごめん」
そう言って、わたしの手をつかんでいる反対の手でハンカチを取り、ズボンのポケットにしまうと、その場に跪いた。
触れる事くらい、ジェレミー殿下なら全く気にならないので笑顔を返そうとしたけれど、跪かれた事に驚いて焦ってしまう。
「ジェ、ジェレミー殿下!? どうなさったんです!?」
もしかして体調が急に悪くなってしまったのかしら!?
心配になって、慌ててしゃがもうとした時だった。
「君はヘイストとの婚約は解消された。だから、婚約者はいないよね?」
「いません」
「恋人や好きな人は?」
「当たり前ですが、いません」
「では、アニエス、私と結婚していただけませんか?」
ジェレミー殿下の言葉の意味が理解できず、目を瞬かせる。
え…?
いま、なんて?
「……あの、いま、なんておっしゃいました?」
「アニエスに私が結婚を申し込んだんだよ。もちろん、今すぐとは言わない。学園を卒業してからでいい」
「え!? はい!? 一体、どういう…!?」
「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?」
「お、驚きますわ! それに、ジェレミー殿下、お気持ちは嬉しいですが、わたしはもう平民なんです! 王太子殿下が平民と結婚だなんて――!」
「そうですわ!」
わたしの言葉を肯定したのは、1人だけじゃなかった。
キャロラインとベル様がそれぞれ違うところから近寄ってきて叫ぶ。
「彼女は平民です! ジェレミー殿下と結婚なんて出来るはずがありません!」
「そうですわ! 結婚相手が誰でも良いと言うのであれば、私はいかがです!? 侯爵令嬢ですので王妃になる資格は十分にございますわ!」
「君達に意見は求めていないし、君達が私に気軽に話しかけてきて良いなんて許可を出していないけどね?」
ジェレミー殿下は2人に向かって冷たく答えると、わたしの手を離して立ち上がった。
「ロロアル侯爵令嬢とセバン子爵令嬢、その事でしたら心配は無用ですわ」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには先程までメイド姿だったローブランシュが、紫色のイブニングドレスを着て立っていた。
「ローブランシュ!?」
「エミリア様、改めてご挨拶いたします。私はエミリア様の従姉妹になります、ローニャ・モナウと申します。そしてこちらが私の夫になりますエッカートです」
彼女に紹介された男性は、さっきまで御者をしてくれていた男性だった。
彼も正装していて、先程までとは全く違う雰囲気だった。
化粧をして正装しているローニャを見て気が付いた事があった。
ローニャに見覚えがあった理由がわかったわ。
若い頃の写真のお母様に似ていたのよ!
たしか、ローニャはお母様のお兄様の娘にあたるから、雰囲気が似ていてもおかしくないわ。
予想もしていなかった出来事に、パニックになる。
ローニャの事もそうだけれど、モナウという姓に聞き覚えがあったから。
「ローブランシュっていう名前は何だったの? それに、モナウというのは、あのモナウ家なの?」
「申し訳ございません。偽名です。そして、あのモナウ家です」
ローニャは申し訳なさそうに頭を下げた後、呆気にとられているベル様やキャロラインに向かって尋ねる。
「身分の差に関して気にされていたようですが、アニエス様が辺境伯令嬢であれば許されますわよね?」
「そ、それは、まあ、そうですけど、アニエスが辺境伯令嬢だなんて、そんな馬鹿げた事」
「そうですわ。一体、あなたは何が言いたいんですか?」
ベル様が聞き返すと、ローニャではなくエッカート様が答える。
「私の父は、アニエス様のお祖父様に大変お世話になっていたそうで今回の話を聞き、どうしてもアニエス様のお役に立ちたいと言っているんです」
モナウ家は王都から一番離れた辺境伯家の名前で、エッカート様は確か長男だったはず。
今は辺境伯令息というお立場だから、お父様の代わりにここまで来て下さったって事?
「モナウ卿、話をしてもらう前ににロロアル侯爵に聞かなければならないことがある」
「失礼致しました」
ジェレミー殿下はモナウ卿が一礼したのを確認してから、わたしの父だった人に話しかける。
「ロロアル侯爵、陛下から聞いてるが、あなたの口からも聞いておきたい。ヘイストとの婚約がなくなれば、アニエスとの縁を切るという話をしていたんだったな?」
「そ、そうでございます! あんな赤い瞳を持つ女は我が家にはいりません! ジェレミー殿下、その娘は今は平民でございます! 奥方をご所望でしたら、ぜひ我が娘のベルを…!」
「それについては悪いが遠慮しておく。では、モナウ卿、先程の続きを頼む」
「承知いたしました」
モナウ卿ははジェレミー殿下に一礼した後、わたしに向かって笑顔を向ける。
「現在のモナウ家の子供は私を含め男性しかおらず、母は娘を欲しがっていたんです。そこへ、アニエス様を養女にする気はないかという話がスリング辺境伯の元へいったと聞きまして、父がぜひ、アニエス様を養女にしたいと」
「お父様から相談されたんです。私はスリング家を出ていますが、娘である事に変わりはないから、新たに家族が増えても良いか確認したいと。お祖父様やお祖母様、そしてお父様は、叔母様の葬儀の際にアニエス様を連れて帰らなかった事を悔いており、ぜひスリング家の養女にしたいと言っておりました。私も賛成して、国王陛下からモナウ家に話をする事は許可を得ておりましたので、お義父様にその話をしたところ、ぜひモナウ家に、という事になったんです」
スリング家というのはわたしのお母様の実家の名だ。
それにしても悔いていたというのはどういう事なのかしら?
ローニャの言葉を聞いて、わたしは理解出来ない事があったので素直に聞いてみる。
「お祖父様やお祖母様とやり取りしていた手紙は、お母様が亡くなってから返事が来なくなったわ。伯父様からの手紙も来なくなったし、会いにも来てくれなくなった。それなのに、わたしを養女にしようとしてくれていたの…? わたしを切り捨てたわけではなかったの…?」
「その事についてはロロアル侯爵、あなたの口から説明願おうか」
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