あなたに未練などありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
28 / 40

第25話 予想外の出来事 (ヘイストside)

しおりを挟む
 アニエスに会えない日が続いていて、とても辛い。
 
 彼女は今頃はどうしているんだろう。
 もしかして、兄上とイチャイチャしていたりするのかな?
 そんなの絶対に許せない!

 だって、アニエスはずっと、僕の婚約者だったのに、突然現れた兄上に盗られるだなんて、そんなの納得できるわけがない…!

 自分の部屋に閉じ込められて、アニエスへの手紙も書けず、僕は兄上からいじめられている。
 病弱だと思っていた兄上は仮病で、赤い瞳を持っていた。

 兄弟である僕にまで嘘をついていた。

 なんて酷い兄なんだろう!

 その上に、アニエスまで奪うなんて!
 これだから赤い瞳を持つ人間は嫌いなんだ…。

 そういえば、アニエスも赤い瞳を持っていたっけ。
 それはそれだ。
 アニエスは少なくとも、僕に嘘なんてついていない。
 赤い瞳にもな人間がいるという事なんだろうな。

 アニエスは良い子だから、兄上の外面にコロリと騙されてしまった。
 僕がキャロラインに騙されてしまったのと同じだ。

 アニエスが目を覚ましてくれたら、僕は笑顔で許してあげなくちゃいけない。

 だって、アニエスに冷たい態度を取られた時に、僕は本当に辛かったから。
 そんな思いを彼女に味合わせるわけにはいかない。
 それが僕なりの優しさで、その時にアニエスも僕の愛を改めて感じてくれるはずだ。

 そんな事を考えていた時に、父上と母上と叔父上が揃って僕の部屋にやって来た。

 今までは部屋から一歩も外に出られなかったけれど、学園に通う事は許してくれるという。

 そして、父上は衝撃的な事を口にした。
 ファブロー家の養子になりたいかと僕に聞いてきたんだ。

「父上は…、僕を捨てるつもりなんですか?」
「そういうつもりじゃない。お前が望まないのであれば、この話は無しにする」
「……」

 苦しげな顔をしている父上と悲しげな顔をしている母上を見て、やはり、僕は2人に愛されているのだと思った。

 兄上は王太子としてふさわしくないという事も感じた。
 
 だって、僕はこんなにも両親に愛されているんだから、僕が王太子になるべきだ。

 だから、養子の話はお断りしようと口を開こうとした時、叔父上が言った。

「ヘイスト、お前が私の家に来るというのであれば、アニエスがこれから住む事になるモナウ領のすぐ近くの学園に転入させてあげよう」
「ほ、本当ですか!?」

 アニエスがこれから行く場所は王都からだとかなり遠い。
 
 王族のままでいれば、アニエスと会う機会がなくなるけれど、公爵家の息子になれば、アニエスと会える様になる!

 少なくとも、兄上とアニエスが会うよりもアニエスが僕と会う時間の方が、かなり多くなるはずだ。

 そうしたらきっと、アニエスも僕との愛を思い出してくれるはず…。

「それなら、僕は叔父上の養子になります!」

 公爵家の養子になったとしたら、僕はファブロー家を継ぐんだから、王子じゃなくても次期公爵だし、アニエスもきっと喜んでくれるはずだ。

 叔父上は優しいし、父上と母上の様に口うるさく言う事もないから、良い事ばかりじゃないか!

「本当にそれでいいのね…?」

 母上の目から涙がこぼれた。

 だけど、もう決めたんだ。
 男に二言はない。

「もちろんです!」

 頷いた僕を見て、父上が残念そうな顔で言う。

「……ヘイスト、お前が通う学園については、こちらで決めさせてもらう。それがお前が養子にいく際の条件の一つだ」
「そんな…! 僕はアニエスのいる所に行きたいんです!」
「わかっている。アニエスが通う学園に近い学園にする事は約束する」

 父上が難しい顔をして言った。

 僕が息子じゃなくなる事が本当に辛いみたいだ。
 申し訳ない気持ちにもなるけれど、僕とアニエスの仲が壊れたのは、父上と母上のせいでもある。

 責任をとってもらわないといけない事は確かだ。

「父上と母上には申し訳ございませんが、愛を貫かせていただきます。そして、叔父上、僕に力を貸して下さい」
「もちろんだ。アニエスとの事を周りが反対したとしても、お前は気にしなくていい。いつかきっと、アニエスにはお前の思いが届くはずだ」
「叔父上…、ありがとうございます!」

 僕の言葉を聞いた母上は、とうとう声を上げて泣き出してしまった。

 しょうがない。
 こうなる運命だったんだ。

 養子縁組の手続きをしている期間中は部屋と学園の行き来しか出来なかった。
 アニエスが旅立ったら、僕も後を追って旅立とうと思う。

 偶然を装って旅の途中で会うのも良いかもしれない。

 僕が追いかけてきたと知ったら、アニエスはどんな顔をするんだろう。
 それを考えるだけでもワクワクした。
 
 数日経ったある日、叔父上が部屋に入ってきて頭を下げてきた。

「すまないヘイスト。兄上にやられた…」
「兄上というのは父上の事ですよね? 一体何があったんです?」

 尋ねると、叔父上は苦虫を噛み潰したような顔をして答えてくれる。

「お前が新しく通う学園の話だが…」
「もう決まったんですね!」

 喜んでいると、叔父上は言う。

「お前が行く学園は全寮制の男子校だ」

 男子校…?
 しかも全寮制…?

「卒業するまでは、長期間の休み以外は学園の敷地内にある寮からは原則は出てはいけないらしい」
「そ…、そんな…、それじゃあ、アニエスに会えないじゃないですか!」
「しっかり確認しておかなかった私が悪い…。いや、兄上の性格が悪いんだ」

 叔父上、いや、新しい父上は悔しそうな顔をして、唇を噛みしめた。

 そんな、ありえない…。
 もちろん、こんな事で諦めたりはしない。

 だけど、僕とアニエスが仲直りできる日が急に遠ざかった様な気がした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。 けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。 それなら構いません。 婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。 祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。 ――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...