あなたに未練などありません

風見ゆうみ

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第29話 侍女の狂愛

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 ミシェルはとても可愛らしい見た目の令嬢で、金色の巻毛の髪にブルーの瞳。
 女性としても小柄な方で、女性の平均身長よりも少し高いくらいの私の肩に届くか届かないかくらいの身長、小顔でぱっちりとした目は男性の庇護欲を掻き立てそうだった。

 わたしの中では可愛らしい人は性格が良いか悪いか、のどちらかだと勝手に思い込んでいたのだけれど、ミシェルに関しては判断しかねた。
 性格が悪いわけでもなさそうだけれど、ヘイスト様の事に関しては暴走気味で、ちょっと心配になってしまうくらいの言動をするからだった。

 しかも彼女はとても頭が良いので、自分が理解できているのに、他の人が理解できない事がわからない。
 私が一度間違えたものをまた間違えたりすると、どうして同じ間違いをするのかと不思議そうにする。
 私も間違えたくて間違えているんではないと言い返したいのだけれど、母国語以外では難しい言葉を返せないので、とにかく謝るしかなかった。

 それに、彼女は嫌な意味でそう言っている訳ではない事もわかってきたから、過ごしていく内に私も嫌な気分になる事はなくなった。

 驚く事にミシェルはヘイスト様の事が本当に好きだった。
 ううん。
 本当に、ではなく、病的にといってもおかしくないかもしれないくらいに愛していた。

「ヘイスト様って可愛いんですわよ」

 これが彼女の口癖だった。

 ヘイスト様の顔はまあ、可愛いと思うけれど、性格はどうなのかしら…?
 でも、個人の好みだものね。

 ティータイムの時間は母国語を話す事を許されているから、いつもこの時間に気になっている話を聞く事にしているのだけれど、今日はそれどころではなくなってしまった。

 ミシェルから彼女とヘイスト様の婚約披露パーティーに来てくれないかと誘われたから。

「改めておめでとう。ヘイスト様と婚約出来て良かったわね」
「ありがとうございます! ぜひ、アニエス様とジェレミー殿下には、わたくし達の婚約披露パーティーにご出席いただきたいのです!」
「あのねミシェル、あなたは知らないかもしれないけれど、ヘイスト様とジェレミー殿下はあまり仲が良くないの。だって、養子に出てしまうくらいなのよ? それにわたしだってそうだわ。ヘイスト様に婚約破棄されたんですもの。だから、申し訳ないんだけれど…」
ヘイスト様がご迷惑をおかけした事は知っておりますわ。申し訳ございませんでした。ヘイスト様の代わりに謝りますわ。それから、わたくしもわかっておりますのよ。ヘイスト様がまだ、アニエス様の事をお好きな事を…」
「ちょ、ちょっと待って。ヘイスト様はまだわたしの事を何か言っているの?」

 ヘイスト様とはもう2年以上会っていないし、ミシェルの事もあるから、わたしの事は忘れてくれていると思っていたのに…。

「ヘイスト様は一途な方ですわよね。そこが魅力的なんですの。ああ、あの方はいつ、わたくしに振り向いてくださるのかしら…」

 夢見る少女の様に瞳をキラキラさせて言うミシェルに苦笑しつつも、ヘイスト様にはミシェルの様な人が合うのかもしれないと勝手な事を思ってしまった。

 あと、一途なところが魅力だと言っているけれど、ヘイスト様が彼女に振り向いてしまったら一途じゃないとか文句を言い出さない事を祈りたい。

「アニエス様、心配なさらなくても大丈夫です。もちろん、ご挨拶の際にはお話しなければならないかと思いますが、それ以外はヘイスト様をアニエス様に近付けさせる事は絶対にありませんから」
「…そ、そうなの?」
「もちろんですわ! 王太子妃になられる予定のアニエス様が元婚約者とお話だなんて、世間に何を言われるかわかりませんから!」
「気を遣ってもらえるのは有り難いけれど、そう思うのなら、わたし達を無理して婚約披露パーティーに呼ばなくてもいいのよ?」
「…と、わたくしも思ったのですけれど、ファブロー公爵がどうしても、お二人をお呼びしたいと…。それに、ヘイスト様はなんだかんだ理由をつけて、アニエス様に会おうとなさっています」

 ファブロー公爵がわたし達を呼べと言っているなんて、そんな事を聞いたら逆にもっと行きたくなくなってしまったわ。

「お願いします、アニエス様! ヘイスト様がアニエス様の事を忘れる事が出来るように、ヘイスト様の前でジェレミー殿下との甘い関係を見せつけて下さいませ!」
「あ、甘い関係って…、わたし達は婚約者同士なだけで…」
「お二人の仲に割って入る隙間はないというところを見せてあげていただきたいんです。そうすれば、わたくしの事を見てくれるかも…」
「もし、それをしてみてもヘイスト様が諦めなかったらどうするつもりなの?」

 聞いてみたのは単なる好奇心だった。

 けれど、ミシェルから返ってきた答えに、わたしは質問した事を後悔する。

「それはもう…、そうですわね。ヘイスト様が他の女性を見れなくなる様な事をしてさしあげるしかないですわよね…」
「ま、待って。わたしに何かするという事…?」
「まさか! アニエス様は悪くありませんもの! 悪いのは、婚約者がいるというのに、前の婚約者の事が忘れられないヘイスト様ですわ…」

 ミシェルが可愛い顔を歪めて、くつくつと笑った。
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