あなたに未練などありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
40 / 40

第36話 幸せを感じられる場所

しおりを挟む
「し、知らない…! 私は何もしていない! そんな嘘をついたらどうなるかわかってるのか!」
「嘘ではありませんし、証拠はあると言っていますでしょう?」

 スノウ様は動揺しているファブロー公爵を鼻で笑った後に続ける。

「ただ、残念ながら、あなたが事故に見せかけて殺した彼女の事件については証拠がつかめていないのですけれど」
「何の話を言っているのかわからん!」

 ファブロー公爵の表情は引きつり、声も上ずっているので何か後ろめたい事があるのは明らかだった。

「その事については、不審死を遂げた記者が証拠をつかんでいた様なので、遺族の了承を得てから、遺品を調べていこうと思っています」
「証拠をつかんでいただと!? そんな訳がない! あの後、ちゃんと調べたんだぞ!」

 ジェレミー殿下の言葉は本当は嘘だった。
 けれど、ミシェルの赤い瞳や、スノウ様の発言に動揺しているファブロー公爵は、そんな事にも気が付かずに、まんまと引っかかってくれた。

「……ちゃんと調べた?」

 ジェレミー殿下が聞き返すと、ファブロー公爵が叫ぶ。

「あの事件に関係している証拠なんてなかったんだ! 周りには口止めもしている! あんなのははったりだ!」
「叔父上、どうしてあなたがそんな事を知ってるんです?」
「……っ!」

 自分がまずい事を口走った事を今になって気付いたみたいで、ファブロー公爵は形成を立て直そうとするためか、踵を返して、この場から去ろうとしたけれど、ミシェルが追いかけていきファブロー公爵の前に回り込むと、うつろな目をして言った。

「わたしは、この方に殺されたんです」

 いつものミシェルの声ではなく低い声だった。
 ゆらゆらと体を横に揺らしながら、ミシェルはファブロー公爵に近付く。

「私を殺すだなんて…。こんな事をする人だからお断りしたんですよ…。どうして、それがわからなかったんです…?」
「ひっ!!」

 ファブロー公爵は悲鳴に近い声を上げてから叫ぶ。

「君が私を選んでいたら、こんな事にならなかったのに…! 君が他の男を選ぶから、他の男のものにするくらいなら、殺してやろうと思ったんだ! 全て君が悪い!!」

 そう言って、ファブロー公爵は我を忘れてしまったのか、ミシェルの首を両手でつかんで締めはじめた。

「ミシェル!」

 彼女を助けようと動いたわたしをジェレミー殿下が手で制してきたので足を止める。

「どうして、死んでまで私を苦しめるんだ! その赤い瞳は私を馬鹿にしているようにしか思えない!」
「叔父上!!」

 ジェレミー殿下が叫び、ミシェルの首を締めていたファブロー公爵の腕を無理やり引き剥がした後、ミシェルに尋ねる。

「大丈夫か…?」

 ミシェルは何度も咳き込みながらも、首を縦に振った。

「……ミシェル、無茶な事をさせてしまってごめんなさい」

 しゃがみこんでいるミシェルの隣にしゃがみ小声で謝ると、ミシェルは笑顔を作って首を横に振ってくれた。

 まさかあそこまで逆上するとは思っていなかった。
 ミシェルを危険な目にあわせてしまった…。

「叔父上、いや、ファブロー公爵を捕まえろ」

 ジェレミー殿下の声が静かになっていた会場内に響き渡った。

「ど、どうして私を捕まえるんだ…!」
「捕まる事をされたからですよ」
「そうです。今、まさに私の娘を殺そうとなさったじゃないですか。捕まらないとでも思っているんですか? 残念ながらこれだけ多くの証人がいるんです。逃げられはしませんよ」

 現れたのはミシェルのお父様であるゲリドン侯爵だった。
 ゲリドン公爵はファブロー公爵が愛した女性と結婚された男性の親友だった。
 2人の死に疑問を感じていて、独自に調べられていたみたいで、今回、わたし達の計画にものってくださった。
 ファブロー公爵家の派閥だったのは、現在のゲリドン侯爵の前の代までだったらしい…というよりかは、親友の死の事もあり、いつかは寝返る事を決めていたようだった。

「くそ、そんな…! そうだ、謝る! 謝ればいいんだろう!? 大体、ミシェル嬢が馬鹿げた真似をするから!」
「その馬鹿げた真似に反応したのは叔父上ですよ」
「そうですわ。それに、あなたの悪事、きちんと暴露させていただきますので、今の内に綺麗な空気をたくさん吸っておいた方がよろしくてよ?」

 スノウ様の言葉を聞いたファブロー公爵の表情が歪んだと同時、彼の両腕はやって来た騎士につかまれた。

「やめろ! はなせ! 私は雇い主なんだぞ!」

 王太子殿下の命令でやって来た騎士に向かって叫んでも無駄だった。

 ファブロー公爵は自分が雇っている騎士達に引きずられ、会場を後にする事になったのだった。






 あの後、パーティーは強制的にお開きとなった。
 その日の主役だったヘイスト様は、わたしに大勢の前でふられた事と、尊敬していた叔父…ではなく、現在の父親が犯罪者だった事を知って呆然となっていたこともあり、パーティーをのんびり続けられる様子でもなかったからだ。

 パーティーの出来事について簡単に説明すると、どうしてスノウ様が出てきてくれたかというと、実は前々からファブロー公爵の事を疑っていて、秘密裏に実家に頼んで調べてもらっていたらしかった。

 離縁した時点で、公表しようかとも考えたけれど、実子であるアーリー様の事を考えると出来なかったらしい。
 けれど、アーリー様が養子に出され、ファブロー公爵家と無関係になったところで、スノウ様の心配事はなくなったらしく、わたし達に協力してくださる事になったのだ。

 ファブロー公爵は警察に連れて行かれ、最初は罪について否定を繰り返していたけれど、記者殺害の実行犯が見つかり、司法取引で実行犯がファブロー公爵に指示されたと証言した為、罪が確定となっただけでなく、スノウ様が調べていてくれた赤い瞳の女性の不審死の事件にも関わっている事がわかり、当たり前だけれど公爵位は剥奪され、灼熱の地域での掘削作業を言い渡された。
 人手が足りないけれど、一般人は来たがらない場所の為、罪人が送られる場所として有名になっているそうで、体力的に、とても厳しいらしく死んだ方がマシだと罪人に思わせられるくらいに辛い環境らしかった。

 ヘイスト様は公爵位はなくなったものの、裏で動いてくれていたゲリドン侯爵家が王家からの褒美として、ヘイスト様への爵位を求め、ヘイスト様は伯爵位をもらう事になり、ミシェルは伯爵家に嫁ぐ事になった。

 ちなみにミシェルの瞳は以前に、ジェレミー殿下が赤い瞳を隠す為に使っていたレンズの赤いものバージョンらしく、あの時、聞かされていなかったわたしが本当に驚いたから、よりリアリティを出せたみたいだった。

 それから約20日経った、ある日の昼下がり。

 雲一つない晴天に恵まれているけれど、日差しも柔らかかったため、城の中庭のガゼボでジェレミー殿下と話をしていた。

「ヘイストは伯爵になってから、周りの人間に色々と怒られる様になったみたいで、今は大人しくなってきている様だね」
「今までは相手が王子だったから言えなかった事がたくさんあったでしょうから、怒られてもしょうがないですね。ミシェルが結婚の準備をすすめているようですが、駄々をこねる様子もないらしいですから、観念したといったところでしょうか」

 今までちやほやされていたヘイスト様だけれど、社交場はお茶会は別として、男性がメインの場だから荒波に飲まれて、少しは成長してほしいと思う。
 そうじゃないと、ミシェルや、彼女達の間にいつか生まれてくる子供が可哀想だもの。

「君はミシェル嬢とヘイストの結婚に夢中なようだけれど、私との結婚は考えてくれているんだよね?」

 密着する形で隣に座っているジェレミー殿下が微笑んで、わたしの顔を覗き込んできた。

「も、もちろんです!」
「じゃあ、私達もそろそろ日取りを決めようか。問題もなくなったし、君の王太子妃教育も進んでいるようだから」
 
 膝の上に置いていた手を握られて、心臓が高鳴る。
 ジェレミー殿下の赤い瞳と目があって、ふと思う。

「わたしとジェレミー殿下の子供ですと、赤い瞳が生まれるんでしょうか?」
「可能性はあるね。でも、私達の子供なら瞳の色なんて関係ないだろう?」
「……はい」

 ジェレミー殿下の顔が近付いてきたので、ゆっくりと目を閉じると、私の唇にジェレミー殿下のそれが触れた。

 このガゼボは、ヘイスト様に婚約破棄された悲しみを思い出す場所だった。

 けれど、今は違う。
 何度も来たくなる場所に変わった。
 約束通り、ジェレミー殿下が幸せを感じられる場所に変えてくれたから――






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただき、本当にありがとうございました!

胃カメラと大腸カメラを受けるので、ストックの為の執筆を優先しようと思い感想は閉じておりますが、今まで感想いただいた方、お気に入り、しおり、そしてエールを送って下さった方、本当にありがとうございました。

そして、新作「あなたの妃になるのは私ではありません」を投稿開始しました。
ご興味ありましたら、読んでいただけると嬉しいです。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
少しでも楽しんで読んでいただけていたら幸せです。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。 けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。 それなら構いません。 婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。 祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。 ――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...