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3 追い出した!?
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キューンキューン。
あまり聞き慣れない音が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。
見慣れない白い天井をぼんやりと見つめたあと、さっきの音はどこから聞こえて来たのだろうかと不思議に思って、首だけ左右に動かした。
また、キューンキューンという音が聞こえてきて、それが犬の鳴き声だということに気がついた。
意識がはっきりしていくと同時に、カリカリと扉をひっかくような音とメイドらしき人の遠慮がちな声が、扉の向こうから聞こえてくる。
「ハヤテ、駄目ですよ。ミレニア様はまだ眠っておられるんです。眠っているのを邪魔しては駄目ですよ。ああ、メル、お座りしてお利口にして待っていても扉は開けませんよ」
そんな話が聞こえてしまった以上、このまま二度寝する気にはなれないので、ゆっくりと体を起こした。
窓のカーテンの隙間からは明るい光が漏れていて、ベッド脇に置いてある時計を見ると、朝の10時近くなっていた。
「大変だわ! 初日なのにこんな時間まで眠ってしまうなんて!」
慌てて飛び起きると、私の声がハヤテくんの耳に届いたのか、ハヤテくんがバウバウと吠え始める。
「もう! ハヤテ、やめてちょうだい! 起こしてしまったらどうするの!? ……あら、メルも尻尾を振ってるわ。 ということは」
私が目を覚ましたことに気付いたのか、躊躇いがちに扉がノックされたので返事をする。
「おはようございます! 起きています! 寝坊してしまって本当にごめんなさい!」
「とんでもございません。扉を開けてもよろしいでしょうか」
「かまいません!」
寝間着のままではあるけれど、着替えがどこにあるのかわからないので聞かなければならない。
だから返事をすると、ハヤテくんを片手で抱っこした状態でメイドが中に入ってきた。
「おはようございます、ミレニア様。おやすみのところを邪魔してしまい申し訳ございません。ベッドの寝心地はいかがでしたでしょうか」
「気にしないでください。もう起きないといけない時間ですもの。それに、ベッドも快適でした。疲れていたのもあるかもしれませんが、心地よくて、こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりです」
「そう言っていただけますと、とても嬉しいです」
「これから、このベッドで眠れるなんて本当に幸せです」
笑顔で言うと、メイドは困ったような顔をして言う。
「ミレニア様、わたくしに敬語を使っていただく必要はございません。メイドに当主様のお客様が敬語を使っているところを見たことがありません」
「ああ、えっと、そうね。気をつけるわ。助言してくれてありがとう。ところで、あなたの名前は?」
「シャルと申します」
「シャルね。私はミレニアよ。私は養女だったし、実の姉に問題があって、向こうの邸のメイドたちは姉の世話で精一杯だったの。だから、申し訳ないけれど私の侍女や専属メイドはいなくて、一人も連れてこれていないのよ」
普通なら侯爵令嬢がお供を連れてこないだなんてありえない。
ロード様には、手紙などでこのことを伝えていたけれど、使用人たちに伝わっていない可能性もあるので、シャルにも一応伝えておいた。
すると、赤毛の髪をシニヨンにした、私と同年代くらいの見た目のシャルは微笑む。
「詳しい話はロード様からお聞きしております。ですが、よろしければミレニア様からも、今までどのように過ごされていらしたのかお聞かせ願えますと光栄です。それから」
バウッ!
シャルが話している途中で、ハヤテくんが大人しく我慢できなくなったのか、彼女に抱っこされた状態で私に向かって吠えた。
「こら!」
ハヤテくんは私のところに来たいみたいで、シャルに怒られても気にせずに彼女の腕の中で暴れまくっている。
「ハヤテくん、おいで」
手を伸ばすとハヤテくんは「そっちに行く!」と言わんばかりに、さっきよりも暴れ始めた。
「ミレニア様、ハヤテはとても重いのですがよろしいですか?」
「一度、抱っこしてみても良いかしら」
「もちろんでございます」
シャルからハヤテくんを受け取ると、思った以上に重かった。
だけど、持てないほど重いというわけでもない。
ハヤテくんは私に抱っこされると、今度は必死に顔を舐めようとしてきた。
さすがに寝起きに顔はちょっとと思ったので、暴れるハヤテくんを何とか落ち着かせていると、トントンと足に何かが触れた。
目だけ下に向けると、メルちゃんが自分もここにいると言わんばかりに、口をぱかっと開けて笑っているみたいな顔で私を見上げていた。
「メルちゃんもおはよう」
挨拶をするとふさふさの尻尾を大きく振ってくれた。
「2匹とも人懐っこいのね」
持てないことはないけれど、長時間抱き続けるには辛い重さなので、ハヤテくんをシャルにまた預けると不満そうに吠えてきた。
そんなハヤテくんの頭を撫でてから、今度はしゃがんでメルちゃんの相手をする。
「メルちゃんはまったく吠えなくて偉いわね」
「ハヤテはお客様が大好きで、よほどのことがない限り懐きます。ですが、メルは人を選びます。屋敷内に入ったことがあり、ロード様と和やかに話をしているところを見ない限り、メルは人に心を許しません」
「そうなのね。私の場合は昨日、ロード様と話をしているのを見たから仲良くしてくれているのね」
メルちゃんの顔を両手で包んで撫で撫ですると、メルちゃんは喜んでいるのかパタパタと尻尾を振った。
そうこうしている内に他のメイドも私が起きたことに気が付いて、朝食はいつでもとれるようにしていると声をかけてくれた。
*****
身支度を終えてからの朝食後、改めてロード様に挨拶しようと思い、執務室まで連れてきてもらった。
メイドにお茶を淹れてもらい、彼女が部屋から出ていったあと、改めてロード様に挨拶をすると、寝坊をしたことを気にされる様子もなく笑顔で話しかけてくる。
「昨日はよく眠れたか?」
「はい。お部屋もとても快適でした。言い訳にしかなりませんが、そのせいで寝坊してしまい申し訳ございません」
「長旅で疲れてるんだから気にしなくていい。あと、普段の生活で不自由に感じることがあれば遠慮なく言ってほしい」
「そんなわけにはいきません! 王命とはいえ、私は押しかけてきたようなものですから」
「僕はそんな風に思っていないから、君が恐縮する必要はない。逆に遠慮されると困るんだよ」
そう言って、ロード様は優しく微笑んでくれた。
不自由に感じることではないけれど、お姉様がロード様に何か連絡をしていないか気になって尋ねてみる。
「私には姉がいるのですが、ロード様に何か連絡をしてきていたりしませんでしょうか」
「君の姉は変わっているよな」
特に何もなかったなら、こんな返しはしてこない。
お姉様はロード様に何か連絡してきたんだわ。
焦って、ロード様に尋ねる。
「姉はなんと連絡してきたのでしょうか」
「……そうだな。色々と連絡してくれたよ」
「い、色々とですか? それに、姉は何度も電報を打ってきたんでしょうか」
嫌な予感を感じつつも聞き返すと、ロード様は大きなため息を吐いて頷く。
「そうだな。一度や二度じゃなかった。まあ、その話は後で話すとして、こちらから伝えておきたいことを先に話してもいいかな」
「もちろんです」
大きく頷くと、ロード様が眉根を寄せて話し始める。
「この話はすぐに公になると思うが、兄上がジーギスを王城から追い出した」
「王城から追い出した!?」
何もお咎めがないはずはないと思っていたけれど、追い出すなんてことは予想外だったため、大きな声で聞き返してしまった。
あまり聞き慣れない音が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開ける。
見慣れない白い天井をぼんやりと見つめたあと、さっきの音はどこから聞こえて来たのだろうかと不思議に思って、首だけ左右に動かした。
また、キューンキューンという音が聞こえてきて、それが犬の鳴き声だということに気がついた。
意識がはっきりしていくと同時に、カリカリと扉をひっかくような音とメイドらしき人の遠慮がちな声が、扉の向こうから聞こえてくる。
「ハヤテ、駄目ですよ。ミレニア様はまだ眠っておられるんです。眠っているのを邪魔しては駄目ですよ。ああ、メル、お座りしてお利口にして待っていても扉は開けませんよ」
そんな話が聞こえてしまった以上、このまま二度寝する気にはなれないので、ゆっくりと体を起こした。
窓のカーテンの隙間からは明るい光が漏れていて、ベッド脇に置いてある時計を見ると、朝の10時近くなっていた。
「大変だわ! 初日なのにこんな時間まで眠ってしまうなんて!」
慌てて飛び起きると、私の声がハヤテくんの耳に届いたのか、ハヤテくんがバウバウと吠え始める。
「もう! ハヤテ、やめてちょうだい! 起こしてしまったらどうするの!? ……あら、メルも尻尾を振ってるわ。 ということは」
私が目を覚ましたことに気付いたのか、躊躇いがちに扉がノックされたので返事をする。
「おはようございます! 起きています! 寝坊してしまって本当にごめんなさい!」
「とんでもございません。扉を開けてもよろしいでしょうか」
「かまいません!」
寝間着のままではあるけれど、着替えがどこにあるのかわからないので聞かなければならない。
だから返事をすると、ハヤテくんを片手で抱っこした状態でメイドが中に入ってきた。
「おはようございます、ミレニア様。おやすみのところを邪魔してしまい申し訳ございません。ベッドの寝心地はいかがでしたでしょうか」
「気にしないでください。もう起きないといけない時間ですもの。それに、ベッドも快適でした。疲れていたのもあるかもしれませんが、心地よくて、こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりです」
「そう言っていただけますと、とても嬉しいです」
「これから、このベッドで眠れるなんて本当に幸せです」
笑顔で言うと、メイドは困ったような顔をして言う。
「ミレニア様、わたくしに敬語を使っていただく必要はございません。メイドに当主様のお客様が敬語を使っているところを見たことがありません」
「ああ、えっと、そうね。気をつけるわ。助言してくれてありがとう。ところで、あなたの名前は?」
「シャルと申します」
「シャルね。私はミレニアよ。私は養女だったし、実の姉に問題があって、向こうの邸のメイドたちは姉の世話で精一杯だったの。だから、申し訳ないけれど私の侍女や専属メイドはいなくて、一人も連れてこれていないのよ」
普通なら侯爵令嬢がお供を連れてこないだなんてありえない。
ロード様には、手紙などでこのことを伝えていたけれど、使用人たちに伝わっていない可能性もあるので、シャルにも一応伝えておいた。
すると、赤毛の髪をシニヨンにした、私と同年代くらいの見た目のシャルは微笑む。
「詳しい話はロード様からお聞きしております。ですが、よろしければミレニア様からも、今までどのように過ごされていらしたのかお聞かせ願えますと光栄です。それから」
バウッ!
シャルが話している途中で、ハヤテくんが大人しく我慢できなくなったのか、彼女に抱っこされた状態で私に向かって吠えた。
「こら!」
ハヤテくんは私のところに来たいみたいで、シャルに怒られても気にせずに彼女の腕の中で暴れまくっている。
「ハヤテくん、おいで」
手を伸ばすとハヤテくんは「そっちに行く!」と言わんばかりに、さっきよりも暴れ始めた。
「ミレニア様、ハヤテはとても重いのですがよろしいですか?」
「一度、抱っこしてみても良いかしら」
「もちろんでございます」
シャルからハヤテくんを受け取ると、思った以上に重かった。
だけど、持てないほど重いというわけでもない。
ハヤテくんは私に抱っこされると、今度は必死に顔を舐めようとしてきた。
さすがに寝起きに顔はちょっとと思ったので、暴れるハヤテくんを何とか落ち着かせていると、トントンと足に何かが触れた。
目だけ下に向けると、メルちゃんが自分もここにいると言わんばかりに、口をぱかっと開けて笑っているみたいな顔で私を見上げていた。
「メルちゃんもおはよう」
挨拶をするとふさふさの尻尾を大きく振ってくれた。
「2匹とも人懐っこいのね」
持てないことはないけれど、長時間抱き続けるには辛い重さなので、ハヤテくんをシャルにまた預けると不満そうに吠えてきた。
そんなハヤテくんの頭を撫でてから、今度はしゃがんでメルちゃんの相手をする。
「メルちゃんはまったく吠えなくて偉いわね」
「ハヤテはお客様が大好きで、よほどのことがない限り懐きます。ですが、メルは人を選びます。屋敷内に入ったことがあり、ロード様と和やかに話をしているところを見ない限り、メルは人に心を許しません」
「そうなのね。私の場合は昨日、ロード様と話をしているのを見たから仲良くしてくれているのね」
メルちゃんの顔を両手で包んで撫で撫ですると、メルちゃんは喜んでいるのかパタパタと尻尾を振った。
そうこうしている内に他のメイドも私が起きたことに気が付いて、朝食はいつでもとれるようにしていると声をかけてくれた。
*****
身支度を終えてからの朝食後、改めてロード様に挨拶しようと思い、執務室まで連れてきてもらった。
メイドにお茶を淹れてもらい、彼女が部屋から出ていったあと、改めてロード様に挨拶をすると、寝坊をしたことを気にされる様子もなく笑顔で話しかけてくる。
「昨日はよく眠れたか?」
「はい。お部屋もとても快適でした。言い訳にしかなりませんが、そのせいで寝坊してしまい申し訳ございません」
「長旅で疲れてるんだから気にしなくていい。あと、普段の生活で不自由に感じることがあれば遠慮なく言ってほしい」
「そんなわけにはいきません! 王命とはいえ、私は押しかけてきたようなものですから」
「僕はそんな風に思っていないから、君が恐縮する必要はない。逆に遠慮されると困るんだよ」
そう言って、ロード様は優しく微笑んでくれた。
不自由に感じることではないけれど、お姉様がロード様に何か連絡をしていないか気になって尋ねてみる。
「私には姉がいるのですが、ロード様に何か連絡をしてきていたりしませんでしょうか」
「君の姉は変わっているよな」
特に何もなかったなら、こんな返しはしてこない。
お姉様はロード様に何か連絡してきたんだわ。
焦って、ロード様に尋ねる。
「姉はなんと連絡してきたのでしょうか」
「……そうだな。色々と連絡してくれたよ」
「い、色々とですか? それに、姉は何度も電報を打ってきたんでしょうか」
嫌な予感を感じつつも聞き返すと、ロード様は大きなため息を吐いて頷く。
「そうだな。一度や二度じゃなかった。まあ、その話は後で話すとして、こちらから伝えておきたいことを先に話してもいいかな」
「もちろんです」
大きく頷くと、ロード様が眉根を寄せて話し始める。
「この話はすぐに公になると思うが、兄上がジーギスを王城から追い出した」
「王城から追い出した!?」
何もお咎めがないはずはないと思っていたけれど、追い出すなんてことは予想外だったため、大きな声で聞き返してしまった。
応援ありがとうございます!
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