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4 一緒に来るんですか!?
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「手紙で知らせてもらっただけだから、らしいとしか言えないが、兄上はそんな嘘をつく人じゃないし、正しい情報だと思う」
そう言って、ロード様は詳しい話を教えてくれた。
王太子殿下は国に戻ってすぐに、宰相から陛下とジーギス殿下のしてきた話を聞いたそうだ。
話を聞いた結果、王太子殿下はジーギス殿下を王城に置いておいても害にしかならないと判断した。
追い出すといっても、ただ放り出すだけでは他の人に迷惑がかかったり、誘拐されたりする恐れもある。
だから、無法地帯のようになっていた土地を買い取り、その土地と爵位をジーギス殿下に授けることに決めたそうだ。
人が多く住む地域などは、ジーギス殿下には任せられないため、人のいない場所を探して買い取ったとのことだった。
ジーギス殿下に授けられた爵位は公爵だった。
側室の子でも国王陛下の子供であることは変わりない。
だから、ロード様と同じで公爵の爵位を授けられたのだと教えてくれた。
領地のことを考えると、ジーギス殿下は弱小公爵とでもいったところかしら。
「ジーギス殿下に与えられた領地は、どんな所なのでしょうか?」
「山とその周辺だよ」
「山ですか?」
「ああ。人が住んでいない山だよ。その周辺もジーギスが管理するけど人は暮らしていない」
「他人に迷惑をかけないようにかはわかりませんが、徹底されていますね」
「そうだな。ジーギスは放っておいたら人に迷惑をかけるだろうしな」
ロード様が苦笑して言った。
兄弟にそこまで言われるのもすごいわね。
そう思ったあと、理由が気になったことがあって質問してみる。
「どうしてジーギス殿下は追い出されたんでしょうか?」
「どういうことだ?」
向かいに座っているロード様は、私の質問を聞いて不思議そうな顔をした。
「申し訳ございません。私はおかしな質問をしてしまったのでしょうか」
「謝る必要はないよ。おかしな質問というわけではないが、どうしてそんなことを聞いてくるのか不思議に思っただけだ。君の姉から嘘の話を吹き込まれたのかもしれないが、事実確認をせずに婚約を破棄した上に、君の姉と婚約しようとしただなんて酷すぎる話だ。兄上がジーギスのことを王家の恥だということで追い出したくなる気持ちはわかるだろう」
ジーギス殿下のことをそんな人だと思い込んでいたから、好き勝手にしているわねとしか思っていなかった自分が怖くなった。
普通ではないことに慣れてしまうのは良くないわ。
私の周りには普通じゃない人が多すぎた。
「あの、ジーギス殿下は本気で私の姉と婚約するつもりなんでしょうか」
「そうみたいだよ。父上が阻止してるみたいだけどね。しかも、阻止してる理由も本当にくだらない」
「まさか、本当に姉を愛人にしようと思っておられるのでしょうか」
「当たりだよ。兄上だけじゃなく母上もその話を聞いて大激怒してる。ジーギスの母は別邸にいるから詳しい話は知らないみたいだけど、聞いたら怒るだろうな」
呆れてものも言えなくなってしまっている私を見て、ロード様は苦笑してから話を続ける。
「君が聞きたくないと思われる話をもう一つしてもいいかな」
「……どうぞ」
「君の姉のことなんだが、ちょっと人とは変わっていたりするのかな」
「ちょっとどころか、かなり変わっていると思います。あの、電報以外で姉が何かご迷惑をおかけしましたか」
恐る恐る尋ねてみると、ロード様はこめかみに手を当てて難しい顔になった。
「君は姉とは仲が良かったんだろうか」
「特に仲が良いわけではありません。姉は私に執着していましたが、私は姉のことをそんなに好きではありませんでした」
実際は好き嫌いというよりか、関わりたくなかった。
でも、それを口にすると冷たい人間だと思われてしまいそうな気がして言えなかった。
「そうか。じゃあ伝えるが、君がここに着くまでに君の姉から何度も電報が送られてきてるんだ。内容は全て君が無事かどうかの確認だよ。まだ着いていないし着くのは明日だと伝えても、おかまいなしに送ってくるし、返事も急かしてくるから本当に困った」
「も、申し訳ございません!」
平謝りしたあと、身を縮こまらせて頭を下げた私を見て、ロード様が慌てて話しかけてくる。
「君を責めているわけじゃないんだ。ただ、そこまでする程に姉妹の仲が良かったのに、引き離すようなことになってしまって申し訳ないと思ってたんだけど、気にしなくて良いということだよな?」
「もちろんです! 私は姉から離れたかったんです!」
私ももう20歳だから、貴族の間では行き遅れだということは、誰かに言われなくてもわかっている。
実は、ジーギス殿下と婚約する前に私には好きな人がいた。
その人と婚約したいという話をしていると、お姉様は「私が見極めてあげる」と言って、私の好きな人を誘惑し、彼はお姉様を選んだ。
彼は私のものではないので、お姉様との幸せを願って、私は彼のことを諦めた。
でも、お姉様は相手が私の好きな人じゃなくなったことがわかると、すぐに熱が冷めて相手を簡単に捨ててしまった。
今回のジーギス殿下の件も、お姉様がいう「見極め」だったとしたら、すぐに別れそうな気がしたけど、相手が王族だからさすがに厳しいでしょう。
お姉様から逃れられたし、ロード様もルシエフ邸の人も皆優しいし、可愛い犬たちもいる。
これで私も幸せになれる。
そう思っていたのに、どうしてお姉様はここまで私に執着するのかしら。
私がここで幸せになろうとしていると聞いたら、絶対にその幸せを奪いに来るはずだわ。
電報を何度も送ってきているのも、私の様子を知りたいからなんでしょう。
本人は悪気なくやっているみたいだから、本当にたちが悪い。
婚約者を妹から奪うなんて明らかに駄目な行為だとわからないことだって恐ろしい。
もしかしたら、今までのようにロード様を奪おうとしてくるのかしら。
「ジーギスに与えられた領地は、僕が管理している領地の隣なんだ。だから、ルシエフ邸から近いといえば近い。それから、ここから馬車で2時間くらいの場所にジーギスの住む家を建てると聞いてる」
「ま、まさか、お姉様も一緒に住むつもりだったりしませんわよね」
「残念ながら、そのつもりらしい」
「どうして、お姉様がジーギス殿下と一緒に来るんですか!? 婚約者になったんだとしても、一緒に住むのは結婚してからで良いでしょう!」
ロード様に言ってもしょうがないのだけれど、つい声を荒らげて言ってしまった。
そんな私の態度に気分を害した様子もなく、ロード様は優しい口調で答えてくれる。
「兄上は父のことも表舞台から遠ざけたいらしくて、ジーギスと一緒にその領地に追いやるつもりだ。ジーギスだけでも迷惑なのに、あの父親まで一緒だなんて最悪だよな」
「それは、国王陛下を退位に追い込むということでしょうか」
「君はあんな人間が国王で良いと思ってるのか?」
問われても、言葉に詰まるだけだった。
まさか、あんな国王陛下では嫌です、だなんて、私が口に出せるはずがない。
不敬罪で捕まってしまうもの。
私の様子で理解してくださったのか、ロード様は微笑する。
「皆、思っていることは同じだ。兄上が国王になったほうが国は良くなる」
そういえばロード様は国王陛下と折り合いが悪くなって、除籍されて、公爵の爵位をもらったのよね。
相手があの国王陛下だから、理由はくだらない気もするけれど、何があったのか気になってしまった。
そう言って、ロード様は詳しい話を教えてくれた。
王太子殿下は国に戻ってすぐに、宰相から陛下とジーギス殿下のしてきた話を聞いたそうだ。
話を聞いた結果、王太子殿下はジーギス殿下を王城に置いておいても害にしかならないと判断した。
追い出すといっても、ただ放り出すだけでは他の人に迷惑がかかったり、誘拐されたりする恐れもある。
だから、無法地帯のようになっていた土地を買い取り、その土地と爵位をジーギス殿下に授けることに決めたそうだ。
人が多く住む地域などは、ジーギス殿下には任せられないため、人のいない場所を探して買い取ったとのことだった。
ジーギス殿下に授けられた爵位は公爵だった。
側室の子でも国王陛下の子供であることは変わりない。
だから、ロード様と同じで公爵の爵位を授けられたのだと教えてくれた。
領地のことを考えると、ジーギス殿下は弱小公爵とでもいったところかしら。
「ジーギス殿下に与えられた領地は、どんな所なのでしょうか?」
「山とその周辺だよ」
「山ですか?」
「ああ。人が住んでいない山だよ。その周辺もジーギスが管理するけど人は暮らしていない」
「他人に迷惑をかけないようにかはわかりませんが、徹底されていますね」
「そうだな。ジーギスは放っておいたら人に迷惑をかけるだろうしな」
ロード様が苦笑して言った。
兄弟にそこまで言われるのもすごいわね。
そう思ったあと、理由が気になったことがあって質問してみる。
「どうしてジーギス殿下は追い出されたんでしょうか?」
「どういうことだ?」
向かいに座っているロード様は、私の質問を聞いて不思議そうな顔をした。
「申し訳ございません。私はおかしな質問をしてしまったのでしょうか」
「謝る必要はないよ。おかしな質問というわけではないが、どうしてそんなことを聞いてくるのか不思議に思っただけだ。君の姉から嘘の話を吹き込まれたのかもしれないが、事実確認をせずに婚約を破棄した上に、君の姉と婚約しようとしただなんて酷すぎる話だ。兄上がジーギスのことを王家の恥だということで追い出したくなる気持ちはわかるだろう」
ジーギス殿下のことをそんな人だと思い込んでいたから、好き勝手にしているわねとしか思っていなかった自分が怖くなった。
普通ではないことに慣れてしまうのは良くないわ。
私の周りには普通じゃない人が多すぎた。
「あの、ジーギス殿下は本気で私の姉と婚約するつもりなんでしょうか」
「そうみたいだよ。父上が阻止してるみたいだけどね。しかも、阻止してる理由も本当にくだらない」
「まさか、本当に姉を愛人にしようと思っておられるのでしょうか」
「当たりだよ。兄上だけじゃなく母上もその話を聞いて大激怒してる。ジーギスの母は別邸にいるから詳しい話は知らないみたいだけど、聞いたら怒るだろうな」
呆れてものも言えなくなってしまっている私を見て、ロード様は苦笑してから話を続ける。
「君が聞きたくないと思われる話をもう一つしてもいいかな」
「……どうぞ」
「君の姉のことなんだが、ちょっと人とは変わっていたりするのかな」
「ちょっとどころか、かなり変わっていると思います。あの、電報以外で姉が何かご迷惑をおかけしましたか」
恐る恐る尋ねてみると、ロード様はこめかみに手を当てて難しい顔になった。
「君は姉とは仲が良かったんだろうか」
「特に仲が良いわけではありません。姉は私に執着していましたが、私は姉のことをそんなに好きではありませんでした」
実際は好き嫌いというよりか、関わりたくなかった。
でも、それを口にすると冷たい人間だと思われてしまいそうな気がして言えなかった。
「そうか。じゃあ伝えるが、君がここに着くまでに君の姉から何度も電報が送られてきてるんだ。内容は全て君が無事かどうかの確認だよ。まだ着いていないし着くのは明日だと伝えても、おかまいなしに送ってくるし、返事も急かしてくるから本当に困った」
「も、申し訳ございません!」
平謝りしたあと、身を縮こまらせて頭を下げた私を見て、ロード様が慌てて話しかけてくる。
「君を責めているわけじゃないんだ。ただ、そこまでする程に姉妹の仲が良かったのに、引き離すようなことになってしまって申し訳ないと思ってたんだけど、気にしなくて良いということだよな?」
「もちろんです! 私は姉から離れたかったんです!」
私ももう20歳だから、貴族の間では行き遅れだということは、誰かに言われなくてもわかっている。
実は、ジーギス殿下と婚約する前に私には好きな人がいた。
その人と婚約したいという話をしていると、お姉様は「私が見極めてあげる」と言って、私の好きな人を誘惑し、彼はお姉様を選んだ。
彼は私のものではないので、お姉様との幸せを願って、私は彼のことを諦めた。
でも、お姉様は相手が私の好きな人じゃなくなったことがわかると、すぐに熱が冷めて相手を簡単に捨ててしまった。
今回のジーギス殿下の件も、お姉様がいう「見極め」だったとしたら、すぐに別れそうな気がしたけど、相手が王族だからさすがに厳しいでしょう。
お姉様から逃れられたし、ロード様もルシエフ邸の人も皆優しいし、可愛い犬たちもいる。
これで私も幸せになれる。
そう思っていたのに、どうしてお姉様はここまで私に執着するのかしら。
私がここで幸せになろうとしていると聞いたら、絶対にその幸せを奪いに来るはずだわ。
電報を何度も送ってきているのも、私の様子を知りたいからなんでしょう。
本人は悪気なくやっているみたいだから、本当にたちが悪い。
婚約者を妹から奪うなんて明らかに駄目な行為だとわからないことだって恐ろしい。
もしかしたら、今までのようにロード様を奪おうとしてくるのかしら。
「ジーギスに与えられた領地は、僕が管理している領地の隣なんだ。だから、ルシエフ邸から近いといえば近い。それから、ここから馬車で2時間くらいの場所にジーギスの住む家を建てると聞いてる」
「ま、まさか、お姉様も一緒に住むつもりだったりしませんわよね」
「残念ながら、そのつもりらしい」
「どうして、お姉様がジーギス殿下と一緒に来るんですか!? 婚約者になったんだとしても、一緒に住むのは結婚してからで良いでしょう!」
ロード様に言ってもしょうがないのだけれど、つい声を荒らげて言ってしまった。
そんな私の態度に気分を害した様子もなく、ロード様は優しい口調で答えてくれる。
「兄上は父のことも表舞台から遠ざけたいらしくて、ジーギスと一緒にその領地に追いやるつもりだ。ジーギスだけでも迷惑なのに、あの父親まで一緒だなんて最悪だよな」
「それは、国王陛下を退位に追い込むということでしょうか」
「君はあんな人間が国王で良いと思ってるのか?」
問われても、言葉に詰まるだけだった。
まさか、あんな国王陛下では嫌です、だなんて、私が口に出せるはずがない。
不敬罪で捕まってしまうもの。
私の様子で理解してくださったのか、ロード様は微笑する。
「皆、思っていることは同じだ。兄上が国王になったほうが国は良くなる」
そういえばロード様は国王陛下と折り合いが悪くなって、除籍されて、公爵の爵位をもらったのよね。
相手があの国王陛下だから、理由はくだらない気もするけれど、何があったのか気になってしまった。
応援ありがとうございます!
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