役立たずの聖女はいらないと他国に追いやられましたが、色々あっても今のほうが幸せです

風見ゆうみ

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20 代理聖女だった者との再会

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 ショックを受けて固まってしまったピッキーをレッテムに任せて、わたしはソーンウェル王国に戻った。
 レッテムの言ったことは嘘ではないし、意識が戻ったら、ちゃんとレッテムが話をしてくれるはずだから、いつまでも相手にしていられなかった。
 たとえ、ピッキーが素敵な精霊だったとしても、人間と精霊が結ばれることはない。
 それがわかっている時点で諦めてほしいと思うんだけど、そうならないのはピッキーの気持ちがそれだけ真剣だからなのか。

 ペットが恋人と言う人だっているものね。
 ピッキーもそんな感じで、わたしのことを見ているのかもしれない。

 ――わたしがそんなことを思うのは失礼だわ。
 ピッキーがどれくらいの思いでわたしを好きなのかわからないんだから。

 家に帰ると、ディオン殿下から手紙が届いていた。
 内容はルルミー様たちのことで、ルルミー様はエレーナ様の所へ行きたいと言っているけれど、それをエレーナ様が断ったというものだった。

 エレーナ様にしてみれば、ルルミー様は恋のライバルだから、ノーンコル王国に来てほしくないという気持ちはわからないでもない。
 わたしとしてもルルミー様から離れることは良いとは思う。
 でも、エレーナ様のことだから、新たに依存できる相手を探そうとすると思われる。
 そしてそれが、フワエル殿下である可能性が高い。

 エレーナ様は可愛らしい顔立ちをしておられるから、聖なる力がちゃんと使えるとわかればフワエル様も彼女を認めてくれるはず。

 フワエル様のことをおすすめはできないけれど、人の気持ちを他人が左右できるものじゃないから、わたしは見守っておくだけにしようと思っている。
 エレーナ様が納得できるまで頑張ることは悪いことではない。

 でも、わたしのように傷つかないでほしいとは思う。

 気分が重くなったので、今日は休憩日にさせてもらい、城の庭園を散策することにした。

 レイカたちと一緒に庭園の花を見ながら歩いていると、ディオン殿下がやって来た。

 息を切らしているから、離れた場所からわざわざ走ってきてくれたようだった。

「邪魔をして悪い。今は散策中か?」
「邪魔だなんてことはありません。おっしゃる通り散歩中でしたが、どうかされましたか」
「執務室で仕事をしていたんだが、お茶を淹れに来てくれたメイドが君が庭園を散策していると教えてくれたんだ」
「そうだったんですね。ここまで来ていただき、ありがとうございます」

 ディオン殿下の執務室がどこにあるかはわからない。
 でも、城内にあることは確かだから、ここまで来るのに、かなりの距離があったと思われるのでお礼を言った。

「一緒に歩いてもいいかな」
「もちろんです」
「ありがとう。そういえば、手紙は読んでくれたか?」
「はい。お返事が遅くなって申し訳ございません。少し、頭を整理してから返そうと思っていたんです」

 エレーナ様とルルミー様の意見、どちらかを優先させるとしたら、聖女であるエレーナ様の気持ちが優先になるのだと思う。

 ルルミー様に会いたくないとエレーナ様が思っているのなら、ルルミー様の気持ちは気にせずにエレーナ様の気持ちを押し通して良いのか判断がつかない。

「ルルミーのことは俺たちに任せてくれても良いが、君はどうしたい?」
「そうですね。お任せできたら有り難いのですが、今のルルミー様の様子も気になるんです」
「見張りの人間から聞いたところによると、手の怪我は治るどころか酷くなっているらしい」
「そうなんですか?」

 わたしに何ができるかはわからない。
 でも、手の怪我がどうしても気になる。
 エレーナ様に会わせるよりかは、わたしが相手をしたほうが良い気がした。

「ディオン殿下、ルルミー様の怪我の様子を確認してもらって良いでしょうか。手の怪我が治るどころか酷くなるという理由がわからないので気になります」
「わかった。確認してみよう」
「ありがとうございます」

 一礼したあとに、並んで歩きながら、わたしがルルミー様のことが気になる理由を話す。

「ルルミー様は闇落ちの一歩手前だったのかもしれません。だから、闇の力が傷を悪化させているのではないかと思うんです」
「闇落ちするギリギリに聖女の任を解かれたということか?」
「はい。精霊から聞いたところ、ルルミー様は精霊に酷いことをしたみたいなんです」
「……ということは、ルルミーが闇落ちの一歩手前で邪神の力が入り始めていたから、精霊に危害を加えようとして触れたことで火傷をしたということだろうか」
「その可能性があるかと思います。魔物が結界に触れた時のようなパターンかと思ったんです」

 ルルミー様に流れていた聖なる力を闇の力がのみ込もうとしていた。
 でも、レッテムという聖なる精霊を掴んだことで、聖なる力が闇の力を浄化しようとして火傷したような状態になったのではないかというのが、わたしの考えだった。

 傷が治らないのは表面が浄化されただけで、闇の力がルルミー様の中にまだ留まっているのかもしれない。

「ルルミー様を呼んでいただけますか。闇の力が悪さをしているのであれば、聖女の誰かが治癒魔法をかければ浄化ができて、少なくとも傷が広がるということはなくなるでしょう。ルルミー様は闇の力に取り込まれたわけではないようですから」
「わかった。だけど、君はそれで良いのか?」
「命にかかわるかもしれませんので、個人的な感情を表に出すわけにはいきません」

 厳しい口調で応えると、ディオン殿下は微笑む。

「君のことをお人好しだと言う人がいるかもしれないが、俺はそんな君が好きだよ」
「そ、それは、その、ありがとうございます」

 照れてしまって、それ以上は何も言えなかった。



*****


「痛いのよ、助けてよ!」

 5時間後、ルルミー様が両腕を女性騎士に捕まれて、わたしの家へとやって来た。
 挨拶もなしに言うものだから注意しておく。

「ルルミー様、ごきげんよう。あなたも一応、貴族なのですから、マナーは守ったほうが良いかと思います」
「マナーって何よ。挨拶ということ?」
「挨拶も必要ですし、わたしたちはもう同じ立場ではありません」
「……っ!」

 ルルミー様は悔しそうな顔をした。
 でも、そんなことを気にしていられないくらいに手が痛いようだった。
 包帯を巻かれた右手からは、やはり禍々しい何かを感じた。

「ルルミー様は神様を裏切ろうとしたのですか?」

 問われたルルミー様は一瞬だけ、驚いた顔をしたけれど、すぐに平静を装って首を振る。

「そんなわけないじゃないですか」
「そうですか。では、わたしの治療は必要ありませんね」
「待って! どんどん悪くなっていくなんておかしいでしょう!?」
「ルルミー様の傷からは禍々しい気を感じます。神様の信仰を忘れなければ、そんな気があなたに付くはずがないと思いますが」

 正面に座っているルルミー様を見つめると、悔しそうな顔になった。



次の話はルルミー視点です。
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