役立たずの聖女はいらないと他国に追いやられましたが、色々あっても今のほうが幸せです

風見ゆうみ

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20.5 腹黒聖女(ルルミー視点)

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 エレーナはあたしを裏切った。
 学生時代に面倒をみてやった恩も忘れて、助けを求めているあたしを放ったらかしにしている。
 本当に許せない。

 あたしと仲良くしたいと近づいてきたのはエレーナのほうで、あたしから誘ったわけじゃない。
 一緒にいてもイライラするから、ちょっと遠ざけようと思ってパシりに使ったり、遊びに行くのに誘わなかっただけでいじめだなんてディオン殿下に言われて、本当に迷惑だった。

 昔のことを思い出してイライラしていたら、あのクズ女があたしに会いたいと言っているという連絡がきた。
 こんな惨めな状態で、あんな女に会いたくない。

 でも、とにかく手が痛いほうが辛いから、何とかしてもらおうと考えた。

 背に腹は代えられないって言うもんね。
 
 準備をして外に出ると、馬車が待っていて、王城まで連れて行ってくれた。
 ただ治してほしいだけなのに、クズ女はあたしと顔を合わせると説教じみた話をしてきた。

 信仰なんて自由じゃないの。
 あたしはあたしの信じる道を行くのよ。

 だって、もう聖女じゃないんだから。
 でも、そのことをを素直に話せば治してもらえないと思った。
 闇の力を感じるんだと言うのならなおさらよ。

 闇の力は人間の体に害を及ぼすと聞いてる。
 放っておいたら魔物になるとも聞いたことがあるわ。

 あたしは絶対にあんな醜いものになったりしない。
 禍々しい気を感じると言われたから、クズ女に訴える。

「何を言っておられるのかわかりません。私は今、神様に助けを求めています。そして、これだけは言えます。私は邪神の手先になんてなりたくありません。あんな醜い姿になるのは絶対に嫌です!」

 クズ女はあたしを睨みつけるようにして無言で見つめてきた。

 すると、いきなり手の痛みがなくなった。
 慌てて、巻いていた包帯をほどくと手が綺麗になっている。

「ありがとうございます」

 心からの感謝を伝えた。
 クズ女に礼を言うよりも、魔物になるほうがよっぽど嫌だからね。
 あたしの傷を治してくれたし、呼び方をクズ女から鈍足女に変えてあげよう。

「これから、どうされるおつもりですか」

 鈍足女が聞いてきたので首を傾げる。

「どういうことでしょうか」
「ルルミー様はエレーナ様の元へ向かうのですか」
「もちろんです。代理じゃなくなったからって、あとは知らないっていうのも聖女として酷くないですか? それに精霊のせいで、私は歩きにくい体になったんです。その分の慰謝料をエレーナからもらうつもりです」
「そうですか。精霊に傷つけられたのは自業自得だと思いますが、アフターケアがないのもどうかと思いますね」

 鈍足女は大きなため息を吐いたあと、すぐに笑顔を作って話しかけてくる。

「もうお互いに用はありませんね。闇の力は一部を除き浄化しましたので、ルルミー様が魔物になることはないでしょう。ですが、何をしても良いわけではありませんよ」
「……どういうことです?」
「申し訳ないのですが、わたしはあなたを信用していません」

 冷たい言い方にカチンときたけれど、何を言い出すつもりなのか全く見当がつかないので話は遮らないでおく。
 すると、鈍足女は衝撃発言をする。

「闇の力ですが全てを取り切ってはいません」
「どういうことです!? それじゃあ、また痛くなるということですか!?」
「闇の力が悪さをしないように聖なる力を使って、残った闇の力を結界を張るような形で覆っています。ですが、あなたの心が闇に染まれば、闇の力が、その薄い膜を破るでしょう」
「聖なる力の膜なら闇の力を浄化できるんじゃないの!?」
「そうですね。結界を破るような悪意を持たない限りは大丈夫です」

 ここまで聞いて、鈍足女が言おうとしている意味がわかった。
 極悪なことを考えたら闇の力が聖なる力に勝って、あたしを魔物に変えると言いたいのね。

「あんた、大人しそうな顔してるけど、性格悪いわね」
「あなたに言われたくありません」

 いきなり、砕けた話し方に変えたのに鈍足女は一切、表情を変えない。
 覚悟を決めてんのね。

 思ったよりも根性があるじゃない。

「魔物になりたくなければ悪いことを考えるな。信仰心を忘れるな。神様を恨むなって言ってんのね。わかったわよ。でもさぁ、人の嫌がるものを盾にして脅すなんて、聖女がやることじゃないわよ」
「代理聖女をしていた時に好き勝手やっていたあなたに言われたくありません」

 鈍足女改め、腹黒女は立ち上がって促す。

「今日はありがとうございました。気をつけてお帰りください。それから、エレーナ様の所へ行くことはおすすめできません。この意味はわかりますね」
「わかったわよ。本当に恐ろしい女だわ」

 あたしは吐き捨てるように言ってから部屋を出た。

 腹黒女が言っていたことは本当か嘘かはわからない。
 そんな繊細な力の使い方があの女に出来るわけがない。
 
 エレーナの所に行って慰謝料をもらうか、フワエル殿下を誘惑してやろう。
 そう思った時、胸に痛みが走った。

「あ……っ」

 息が苦しくなり、喉を押さえてその場に跪いた。
 
「ごめ……、ごめんなさ……」

 咳き込みながら謝ると、胸の痛みはなくなって呼吸が一気に楽になった。

 最悪だわ。
 これからちょっと悪いことを考えただけでも、こんなことになるってこと?
 そして、これを我慢して悪いことをした時には――

 魔物の姿を思い出して体を震わせる。

 あたしは絶対に魔物にはならない。
 悔しいけど、エレーナへの嫌がらせや、神様や精霊、他の人間に対して悪意を持つことは控えなければいけないと思った。
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