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1 精神年齢が子供の婚約者
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伯父様のことを昔から、身体の弱い人なのだろうなと感じ取ってはいた。
でも、重病を患っているだなんて知らなかった。
お父様は兄弟なだけに伯父様の病気のことを知っていたようで、わたしの口から伯父様の余命の話を伝えると「やっとか。長かったな」という、家族が発するとは思えないような恐ろしい言葉を口にした。
「伯父様が亡くなるということは、家督はどうなるんです!?」
「このままいけば、私が継ぐことになるだろうな」
お兄様の質問に、お父様は口と鼻の間にハの字型に伸ばした髭を触りながら、誇らしげな顔をして答えた。
「ということは、わたくしたちは公爵家の令嬢と令息になるわけですのね!?」
お姉様はお母様と一緒に手と手を取り合って喜んでいる。
伯父様がもうすぐ亡くなってしまうかもしれない。
それなのに、ショックを受ける様子もなく、逆に喜んでいる家族を見て、虚しさしか感じなくなり、何も言わずにその場をあとにした。
******
2日後、朝からレイ様に執務室で仕事を教えてもらっている時だった。
伯父様の所には相続についての話をするために弁護士がやって来ていて、今は別室で話をしている。
「どうせなら、伯父様の財産も家督もお父様に継がせないように遺言書を書いてくださらないかしら」
「……どうかしたのか」
小さく呟いたつもりが、怒りのせいで思っていた以上に声が大きくなってしまったらしい。
レイ様が切れ長の目を向けて尋ねてきた。
わたしと同じく伯父様の側近である、レイ・シュールド様とは幼い頃からの付き合いで、二つ年上の彼のことをわたしは昔から本当の兄のように慕っていた。
黒髪の短髪に私と同じ赤色の瞳を持つ彼は、長身痩躯で眉目秀麗で頭も良いため、女性に人気がある。
それなのに、次男というだけで未だに婚約者が決まらないのだから、貴族は面子のことしか考えていないということがわかる。
公爵の側近に何の爵位も与えられないなんてことはないはずだし、伯父様の人柄的に彼のために爵位は用意していると思う。
「……どうして見つめてくるんだ」
「レイ様は今日も素敵だなと思いまして」
「目を医者に診てもらったほうが良い」
わたしよりも頭一つ分背が高いレイ様は、呆れたような表情になったあと、書類を整えながら話す。
「ここだけの話にしてほしいんだが、僕は君の姉と婚約することになった」
「……とうとう自暴自棄になってしまわれたんですか。焦らなくても、レイ様にはもっと素敵な方がいらっしゃるかと思います」
「違う。閣下の命令だ」
「……伯父様の?」
レイ様が閣下と呼ぶのは伯父様だけだ。
どうして、伯父様はあんな人をレイ様の婚約者にしようとしているのか、全くわからないわ。
自分の姪っ子だから?
「レイ様はそれで良いのですか?」
「閣下のことだから何か考えがあってのことだと思っている。それに君だってそうだろう」
「……そうですね。最悪な婚約者がいます」
考えただけでも嫌になるような婚約者が、1年前にできてしまった。
わたしの場合も伯父様の紹介だった。
その時は「どうせなら、レイ様が良かったです」と本人のいないところで伯父様に話したことを覚えている。
レイ様の場合、伯父様の余命が残り少ないのであれば、望み通りにしてあげたいと思っているのでしょうね。
でも、お姉様にレイ様は勿体なさすぎる。
それは、わたしが相手でも同じことではある。
でも、レイ様の中では、お姉様よりかはわたしのほうがマシだという自信があった。
複雑な気分になっていると、噂の人物がメイドに案内されてやって来た。
「よう、リウリウ」
「……ごきげんよう、フサス様。それから、わたしはリウリウではありません。リウです。何度お伝えすれば覚えていただけるのですか」
「うるせぇな、このペチャパイ」
わたしの婚約者であるフサス・テングットは子爵家の長男だ。
彼のお父様と伯父様の仲が良かったため、フサス様とわたしの婚約が決まったと聞いている。
金色の癖っ毛の長い髪を後ろで一つにまとめた中肉中背のフサス様は、子供みたいな悪口を言うのが趣味だった。
いや、趣味だということにしている。
わたしと同じ年の彼が本気で先程のような低レベルの発言をしてくるのであれば、本当にお断りしたい。
「胸が小さくても、わたしは困りません」
「俺が困るんだ。俺は大きいほうが好きなんだよ」
「では、ファーシバル公爵にその旨を伝えておきますわ」
ファーシバル公爵というのは伯父様のことだから、それを聞いたフサス様は焦った顔になる。
「やめろよ! ペチャパイは訂正する。平民好き好き野郎でどうだ」
「もうそれで良いです」
話をするだけ無駄だわ。
それにしても、この人が来るだなんて聞いていなかった。
そう思ったのはわたしだけではないようで、レイ様がフサス様に尋ねる。
「何をしに来たんだ」
「いや、その、ファーシバル公爵閣下の病状が気になりまして」
「君は医者か?」
「え、あ、いえ」
「約束してないなら帰ってくれ」
レイ様はそう告げると、フサス様を連れてきたメイドに告げる。
「連れて行けと脅されたのだろうから罰するつもりはないが、これからは許可を取ってくれ」
「申し訳ございませんでした」
メイドが泣きそうな顔になって謝った。
フサス様は悪びれる様子もなく聞いてくる。
「ファーシバル公爵閣下の調子はどうなんだ? 悪いのか? もう死ぬ」
言葉の途中だったけれど、わたしはフサス様の言葉を遮る。
「帰ってください」
「玄関までお連れします」
騎士たちも怒りの表情を見せて、フサス様を羽交い締めにすると、問答無用で連れて行ってくれた。
「伯父様はどうしてあんな人とわたしを結婚させようとするのよ!」
怒りが抑えられなくて、壁に向かって叫んでいると、レイ様が横に立って冷静な口調で言う。
「わざとかもしれないな。君の姉は僕が婚約者であることを知らないと言っていたから」
「……わざと?」
聞き返した時、伯父様の部屋から弁護士が出てきたので、慌てて会話をやめた。
でも、重病を患っているだなんて知らなかった。
お父様は兄弟なだけに伯父様の病気のことを知っていたようで、わたしの口から伯父様の余命の話を伝えると「やっとか。長かったな」という、家族が発するとは思えないような恐ろしい言葉を口にした。
「伯父様が亡くなるということは、家督はどうなるんです!?」
「このままいけば、私が継ぐことになるだろうな」
お兄様の質問に、お父様は口と鼻の間にハの字型に伸ばした髭を触りながら、誇らしげな顔をして答えた。
「ということは、わたくしたちは公爵家の令嬢と令息になるわけですのね!?」
お姉様はお母様と一緒に手と手を取り合って喜んでいる。
伯父様がもうすぐ亡くなってしまうかもしれない。
それなのに、ショックを受ける様子もなく、逆に喜んでいる家族を見て、虚しさしか感じなくなり、何も言わずにその場をあとにした。
******
2日後、朝からレイ様に執務室で仕事を教えてもらっている時だった。
伯父様の所には相続についての話をするために弁護士がやって来ていて、今は別室で話をしている。
「どうせなら、伯父様の財産も家督もお父様に継がせないように遺言書を書いてくださらないかしら」
「……どうかしたのか」
小さく呟いたつもりが、怒りのせいで思っていた以上に声が大きくなってしまったらしい。
レイ様が切れ長の目を向けて尋ねてきた。
わたしと同じく伯父様の側近である、レイ・シュールド様とは幼い頃からの付き合いで、二つ年上の彼のことをわたしは昔から本当の兄のように慕っていた。
黒髪の短髪に私と同じ赤色の瞳を持つ彼は、長身痩躯で眉目秀麗で頭も良いため、女性に人気がある。
それなのに、次男というだけで未だに婚約者が決まらないのだから、貴族は面子のことしか考えていないということがわかる。
公爵の側近に何の爵位も与えられないなんてことはないはずだし、伯父様の人柄的に彼のために爵位は用意していると思う。
「……どうして見つめてくるんだ」
「レイ様は今日も素敵だなと思いまして」
「目を医者に診てもらったほうが良い」
わたしよりも頭一つ分背が高いレイ様は、呆れたような表情になったあと、書類を整えながら話す。
「ここだけの話にしてほしいんだが、僕は君の姉と婚約することになった」
「……とうとう自暴自棄になってしまわれたんですか。焦らなくても、レイ様にはもっと素敵な方がいらっしゃるかと思います」
「違う。閣下の命令だ」
「……伯父様の?」
レイ様が閣下と呼ぶのは伯父様だけだ。
どうして、伯父様はあんな人をレイ様の婚約者にしようとしているのか、全くわからないわ。
自分の姪っ子だから?
「レイ様はそれで良いのですか?」
「閣下のことだから何か考えがあってのことだと思っている。それに君だってそうだろう」
「……そうですね。最悪な婚約者がいます」
考えただけでも嫌になるような婚約者が、1年前にできてしまった。
わたしの場合も伯父様の紹介だった。
その時は「どうせなら、レイ様が良かったです」と本人のいないところで伯父様に話したことを覚えている。
レイ様の場合、伯父様の余命が残り少ないのであれば、望み通りにしてあげたいと思っているのでしょうね。
でも、お姉様にレイ様は勿体なさすぎる。
それは、わたしが相手でも同じことではある。
でも、レイ様の中では、お姉様よりかはわたしのほうがマシだという自信があった。
複雑な気分になっていると、噂の人物がメイドに案内されてやって来た。
「よう、リウリウ」
「……ごきげんよう、フサス様。それから、わたしはリウリウではありません。リウです。何度お伝えすれば覚えていただけるのですか」
「うるせぇな、このペチャパイ」
わたしの婚約者であるフサス・テングットは子爵家の長男だ。
彼のお父様と伯父様の仲が良かったため、フサス様とわたしの婚約が決まったと聞いている。
金色の癖っ毛の長い髪を後ろで一つにまとめた中肉中背のフサス様は、子供みたいな悪口を言うのが趣味だった。
いや、趣味だということにしている。
わたしと同じ年の彼が本気で先程のような低レベルの発言をしてくるのであれば、本当にお断りしたい。
「胸が小さくても、わたしは困りません」
「俺が困るんだ。俺は大きいほうが好きなんだよ」
「では、ファーシバル公爵にその旨を伝えておきますわ」
ファーシバル公爵というのは伯父様のことだから、それを聞いたフサス様は焦った顔になる。
「やめろよ! ペチャパイは訂正する。平民好き好き野郎でどうだ」
「もうそれで良いです」
話をするだけ無駄だわ。
それにしても、この人が来るだなんて聞いていなかった。
そう思ったのはわたしだけではないようで、レイ様がフサス様に尋ねる。
「何をしに来たんだ」
「いや、その、ファーシバル公爵閣下の病状が気になりまして」
「君は医者か?」
「え、あ、いえ」
「約束してないなら帰ってくれ」
レイ様はそう告げると、フサス様を連れてきたメイドに告げる。
「連れて行けと脅されたのだろうから罰するつもりはないが、これからは許可を取ってくれ」
「申し訳ございませんでした」
メイドが泣きそうな顔になって謝った。
フサス様は悪びれる様子もなく聞いてくる。
「ファーシバル公爵閣下の調子はどうなんだ? 悪いのか? もう死ぬ」
言葉の途中だったけれど、わたしはフサス様の言葉を遮る。
「帰ってください」
「玄関までお連れします」
騎士たちも怒りの表情を見せて、フサス様を羽交い締めにすると、問答無用で連れて行ってくれた。
「伯父様はどうしてあんな人とわたしを結婚させようとするのよ!」
怒りが抑えられなくて、壁に向かって叫んでいると、レイ様が横に立って冷静な口調で言う。
「わざとかもしれないな。君の姉は僕が婚約者であることを知らないと言っていたから」
「……わざと?」
聞き返した時、伯父様の部屋から弁護士が出てきたので、慌てて会話をやめた。
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