価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

１９ 侍女の姉について

「向こうも一応、仲介人を何人も介していて、慎重にはやって来ているが、トーリやキトロフ夫妻の警戒心の方が上でね」
「マーニャ嬢とは色々とありまして、彼女がアザレアに近付かない様に、キトロフ夫妻には監視してもらっていたんです」

　アズの言葉の後に、トーリが難しい顔をして言った。

　どんな事があったのか、私にはわからないけれど、アザレアにとって、よっぽど嫌な事があったみたいね。

　私のせいで、姉の事を思い出させるはめになってしまったのなら申し訳ないわ。

「どうしたら良いでしょうか。私がルピノを呼び出して、直接対決した方が早いですわよね？」

　アズに尋ねると、アズは苦笑してからトーリの方を見て、トーリは困った顔をして私を見る。

「どうかした？」
「いえ、ルリ様はその…」
「王太子妃なり王妃になるのなら、多少、鈍感なところも必要だと思っているの。危機管理とは別としてね？」

　トーリは私の答えに満足したわけではなかったみたいだけれど、何も言わずに黙った。

「だから、ルリはそう言うって言っただろ？」

　アズはトーリに向かって言った後、私の方に顔を向ける。

「キトロフ家でのお茶会の誘いがあっただろ？」
「はい。キトロフ伯爵夫人のシエラ様からのお誘いでしたので、お受けしましたが、不穏な事になりそうですね」
「……やめておくか？」
「いいえ」

　ルピノと会う前に、マーニャという女性と会って、彼女が迷惑な人だというのなら潰しておきたい。

　きっぱりと答えると、アズは微笑む。

「変わってないね」
「多少の気の強さは必要ですから変えようと思っていませんでした。それに、ルピノやノーラル様を相手にしてましたし。お茶会の件に話を戻しますが、その時に、その、マーニャという女性は何か仕掛けてくるでしょうか？」
「条件にもよるだろう。アザレアを悲しませる為に、先にルリに何かしろという指示なら、マーニャとかいう女性は何かしてくるだろう。ただ、ルピノ嬢の狙いがわからない」

　アズにしてみれば、ルピノに興味がなかったから、彼女の事をしつこい女性というくらいにしか思っていなくて、どんな性格かとは詳しくは知らないみたいなのよね。

　だから、アズに理由を伝える。

「ルピノはアズを私から奪いたいんだと思います。それくらい好きなんですわ」
「奪うって…？　僕は王太子なんだけど、どうやって奪うつもりなんだ？」
「あなたに好きになってもらえたら、私から奪ったことになるじゃないですか」
「……僕の何がいいんだ…？　そんなに執着するもんでもないだろ」
「ルピノに媚びないところとか、外見も良いからでは？」
「それなら、トーリだってそうだろ」

　アズはトーリに視線を送った後、小さく息を吐いてから言う。

「僕のせいで君やアザレアに何かがあっても困るんだ。出来ればお茶会には行ってほしくないんだけど？」
「アザレアは友人です。私が守ります。私が行く事によって、マーニャという女性を罠にかけて、アザレアにルピノが何も出来ない状態にさせます」
「守るって…、アザレアは君の侍女だろ」
「侍女ですが友人でもあります。私がいつか王妃になるのであれば、大切な国民の１人ですわ。それにアズのお友達でもありますし、トーリの婚約者でもあるでしょう」
「マーニャ嬢も国民の１人だが？」

　アズの言葉に対して、私はトーリを見る。

「マーニャ嬢は犯罪行為は犯してないの？」
「……犯してますが、アザレアやミノン家の名誉もありますので…」
「そうね。もしバレたら、あなたとアザレアも結婚できなくなるかもしれないわね」

　大きく息を吐いてから、トーリに尋ねる。

「そのマーニャという女性はどんな人なの？　賢いの？」
「いいえ」

　トーリは考える事もなく、きっぱりと首を横に振って言った。




※次話はルピノ視点です。