価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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32.5 恐怖するルピノ視点

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 私は今、鉄格子と石の壁に囲まれた部屋にいた。

 ベッドや簡易トイレ、書き物机はあるけれど、ペンや紙などはない。

 どうして、私がこんな狭い所に閉じ込められないといけないの?

 ベッドの上で膝を抱えて、最初はそんなことばかり考えていた。

 アズの名前を出そうとしたけれど、お母様から止められた。
 私が世話になっていた家は、アズと敵対している人達だから、アズの名前を出せば、その家の人達にアズのスパイだと思われる可能性があって、最悪の場合は、その人達に殺されてしまうかもしれないんだそう。

 こんな所で死にたくなんかないわ。
 アズとの結婚を諦めたわけじゃないけれど、死んでしまったら意味がない。
 
 ここを出たら、お母様に言われた通り、私は女優になるの。
 そして有名になってアズに見つけてもらうのよ。
 王族も演劇を観る事があるって聞くし、私が有名女優になれば、アズは私を見つけてくれるはずだわ。

 今は、こんなボロボロの姿を見られたくないから、アズと会えなくても我慢できる。

 それに離れれば離れた分だけ、愛は深まるはずだから。

 アズには綺麗になった私を見てもらうの。

 そんな風にアズとの再会を妄想していた、その時だった。

 職員の人から面会だと言われ、面会室に向かった。

 いつもなら、お母様だけなのに、今日は伯父様もいた。

 もしかしたら、伯父様がここから出してくれるのかもしれないわ!

 そう思って、必死に訴える。

「伯父様! 助けてください!」
「やめて!」

 お母様が悲鳴のような声を上げた。

 良く見てみると、お母様の口元が紫色になっていることに気が付いた。
 だから、私はお母様の顔をよく見てみた。

 化粧で隠してはいるけれど、頬にもアザがある。

「お母様……、いえ、ノーラル様、その怪我は?」
「……なんでもないわ」

 職員の人の目があるからか、お母様と言うのはやめた。

 だって、今の私はルピノじゃないんだもの。

 というか、一体、どういう事なの?
 
 お母様の後ろに立っている伯父様の顔がとても怖くて、お母様もなぜか震えているように見えた。

 そういえば、部屋にいる職員の人、さっき、私を部屋に連れてきてくれた人じゃないわ。

「ルピノ、伯父さんはただでお金をあげるとは言ってなかったねぇ? 対価を払ってもらわないといけないよねぇ?」

 伯父様はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて言った。

 それと同時にお母様が泣き始める。

 この時、私はお母様が無理やり、ここに連れてこられたのだと気付いた。
 そして、職員だと思っていた、部屋の中にいる人間が、伯父様の手配した人間なのだとわかった。

「さあ、気付かれない内に逃げようねぇ?」

 伯父様が私に手を伸ばしてきた。

 この手をとってはいけない。

 でも、どうすればいいの!?
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