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31 王子の後悔
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「へ?」
殿下が間抜けな声を上げた瞬間、王妃陛下が殿下の頬を扇で打ちました。
「いい加減にしなさい!」
「は、母上、どうして僕を打つんですか! 酷いことを言ったのはシアリンですよ!」
「言われても仕方のない発言をしたのはあなたよ! どうしてあなたは自分が王太子だという自覚が持てないの!」
「持っていますよ! 王太子だから言いたいことを言ってもいいんじゃないんですか! 僕を叱ることができるのは、父上と母上しかいないんですから! 父上は僕のやることは間違っていないといつも言っていましたよ!」
言いたいことはわかりますが、堂々とワガママを言っても良いというわけではありません。もう子供ではないのですから、それくらい自分で気づかなくては――。
ショックを受けている王妃陛下を気の毒に思いつつ、殿下に話しかけます。
「殿下、それがわかっているのなら、自分が他の人を困らせるような言動をしていないか、自分で気をつけるということをしないのですか?」
「そ……、それは、そうかもしれないが、自分だけでは気づけないことだってあるんだよ!」
「殿下、私はあなたに伝えてきたはずです」
ジェリク様が口を開くと、殿下は唾を飛ばしながら聞き返します。
「何を伝えてきたって言うんだよ! 君はいつも僕に苦言を呈して……」
殿下は自分自身の発言で、いけないことをいけないと伝えてくれている人が、両親以外にもいたことに気がついたみたいです。
「……僕は、ジェリクのように上手く生きられないから嫉妬してた。だから、ジェリクが気にしているシアリンを僕のものにすれば、彼よりも上に立てると思ってた。だけど、違ったんだな」
そんな気はしていましたが、やっぱりそうだったのですね。私に優しくしてくれていたのも、私の気持ちが殿下から離れないようにと計算されたことだったのですね。
そのことをわかっていて、気持ちの区切りはついているはずなのに、やはり胸が痛みました。
「シアリン」
ジェリク様が私を優しく抱き寄せてくれたおかげで、私は我に返ることができました。
そうです。私にはジェリク様がいるのです。他の男性に愛されていなかったことで傷ついている場合ではありません。
「ありがとうございます、ジェリク様」
微笑んで頷いたあと、すぐに殿下に視線を戻して尋ねます。
「私を繋ぎ止めておかなければならなかったのに、どうしてお姉様を選んだのですか?」
「それは、ラーナを愛してしまったからだ。彼女だけが僕に優しくしてくれていたし、本当はずっと惹かれていた」
殿下の目から大粒の涙がこぼれました。そんな彼に王妃陛下が話しかけます。
「サブル、シアリンだってあなたを一番に愛してくれていたはずよ」
「シアリンは僕だけじゃなくて、他の人のことも考えていたんです。予知夢に出てきた人を助けに行かなくちゃって、僕以外の人のことまで考えていました。そんな彼女を見て、僕を一番にしてくれないと、ジェリクよりも上に立てないと思ったんです」
「そこへ、ラーナが近づいたというわけね」
王妃陛下が大きな息を吐くと、殿下は俯いてしゃくりあげました。
「ほっ、本当にっ、反省してるからっ」
殿下は俯いていた顔を上げ、私に向かって手を伸ばします。
「許してくれシアリン! 今度こそっ、大事にするからっ!」
私が避けるよりも先に、ジェリク様が私を守るように前に立ち、殿下の手を掴み、元の位置に戻しました。
「殿下、シアリンはもう私の妻です。許すか許さないかを決めるのは彼女ですが、彼女に正当な理由なく触れようとするのはおやめください」
「ジェリク、頼むよ。シアリンを僕に返してくれ! そうじゃないと僕は追放されてしまうっ!」
懇願する殿下に、私はジェリク様の横に立って事実を伝えます。
「殿下、あなたが追放されることはありません。それから、私がたとえあなたの元に戻っても、あなたへの対処が変わることはないのです」
「じゃ、じゃあ、ぼ、僕はどうなるんだ?」
ぐすぐすと泣く殿下を見ていると、子供の精神のまま大きくなったとしか思えません。
「……私の対応が間違っていたのね」
「いえ。私の存在が殿下にとって邪魔だったことに、私がもっと早く気づくべきでした」
呟くように言った王妃陛下に、ジェリク様が眉尻を下げて言いました。
「……邪魔だったとか、そんなんじゃないんだ。ただ、ジェリクが羨ましかった。僕は男らしさがなかったから」
殿下は腕力がほとんどありません。他の人が鍛えるように勧めても、すぐに諦めて努力をしてこなかったからです。そして、少し重いと思えば、誰かに物を持たせ続けていました。
だから、自分の身を守ろうと必死になったお姉様の力に負けてしまったのでしょう。
部屋の外が騒がしくなり、私が様子を見に行くと、殿下の側近が今にも泣き出しそうな顔で私に訴えます。
「シアリン様! ラーナ様は殿下を殴ったのは貞操を奪われそうになったからだと訴えています!」
「貞操を?」
今のままでは分が悪いと感じたのか、お姉様はここでも嘘をつくことにしたようです。夢では明らかにそんな感じには見えず、どちらかといえばカッとなって殴ろうとした感じでした。
「嘘だ! 僕がラーナに掴みかかったことは確かだが、貞操を奪おうなんてしてない! くそっ! どうして、どうしてラーナはそんなに簡単に嘘がつけるんだ!」
側近の声が聞こえていたらしく、部屋の中から殿下の叫びが聞こえてきました。
お姉様は嘘をつき続ければ、自分が助かると思い込んでいます。現実を教えて差し上げなければなりませんね。
殿下が間抜けな声を上げた瞬間、王妃陛下が殿下の頬を扇で打ちました。
「いい加減にしなさい!」
「は、母上、どうして僕を打つんですか! 酷いことを言ったのはシアリンですよ!」
「言われても仕方のない発言をしたのはあなたよ! どうしてあなたは自分が王太子だという自覚が持てないの!」
「持っていますよ! 王太子だから言いたいことを言ってもいいんじゃないんですか! 僕を叱ることができるのは、父上と母上しかいないんですから! 父上は僕のやることは間違っていないといつも言っていましたよ!」
言いたいことはわかりますが、堂々とワガママを言っても良いというわけではありません。もう子供ではないのですから、それくらい自分で気づかなくては――。
ショックを受けている王妃陛下を気の毒に思いつつ、殿下に話しかけます。
「殿下、それがわかっているのなら、自分が他の人を困らせるような言動をしていないか、自分で気をつけるということをしないのですか?」
「そ……、それは、そうかもしれないが、自分だけでは気づけないことだってあるんだよ!」
「殿下、私はあなたに伝えてきたはずです」
ジェリク様が口を開くと、殿下は唾を飛ばしながら聞き返します。
「何を伝えてきたって言うんだよ! 君はいつも僕に苦言を呈して……」
殿下は自分自身の発言で、いけないことをいけないと伝えてくれている人が、両親以外にもいたことに気がついたみたいです。
「……僕は、ジェリクのように上手く生きられないから嫉妬してた。だから、ジェリクが気にしているシアリンを僕のものにすれば、彼よりも上に立てると思ってた。だけど、違ったんだな」
そんな気はしていましたが、やっぱりそうだったのですね。私に優しくしてくれていたのも、私の気持ちが殿下から離れないようにと計算されたことだったのですね。
そのことをわかっていて、気持ちの区切りはついているはずなのに、やはり胸が痛みました。
「シアリン」
ジェリク様が私を優しく抱き寄せてくれたおかげで、私は我に返ることができました。
そうです。私にはジェリク様がいるのです。他の男性に愛されていなかったことで傷ついている場合ではありません。
「ありがとうございます、ジェリク様」
微笑んで頷いたあと、すぐに殿下に視線を戻して尋ねます。
「私を繋ぎ止めておかなければならなかったのに、どうしてお姉様を選んだのですか?」
「それは、ラーナを愛してしまったからだ。彼女だけが僕に優しくしてくれていたし、本当はずっと惹かれていた」
殿下の目から大粒の涙がこぼれました。そんな彼に王妃陛下が話しかけます。
「サブル、シアリンだってあなたを一番に愛してくれていたはずよ」
「シアリンは僕だけじゃなくて、他の人のことも考えていたんです。予知夢に出てきた人を助けに行かなくちゃって、僕以外の人のことまで考えていました。そんな彼女を見て、僕を一番にしてくれないと、ジェリクよりも上に立てないと思ったんです」
「そこへ、ラーナが近づいたというわけね」
王妃陛下が大きな息を吐くと、殿下は俯いてしゃくりあげました。
「ほっ、本当にっ、反省してるからっ」
殿下は俯いていた顔を上げ、私に向かって手を伸ばします。
「許してくれシアリン! 今度こそっ、大事にするからっ!」
私が避けるよりも先に、ジェリク様が私を守るように前に立ち、殿下の手を掴み、元の位置に戻しました。
「殿下、シアリンはもう私の妻です。許すか許さないかを決めるのは彼女ですが、彼女に正当な理由なく触れようとするのはおやめください」
「ジェリク、頼むよ。シアリンを僕に返してくれ! そうじゃないと僕は追放されてしまうっ!」
懇願する殿下に、私はジェリク様の横に立って事実を伝えます。
「殿下、あなたが追放されることはありません。それから、私がたとえあなたの元に戻っても、あなたへの対処が変わることはないのです」
「じゃ、じゃあ、ぼ、僕はどうなるんだ?」
ぐすぐすと泣く殿下を見ていると、子供の精神のまま大きくなったとしか思えません。
「……私の対応が間違っていたのね」
「いえ。私の存在が殿下にとって邪魔だったことに、私がもっと早く気づくべきでした」
呟くように言った王妃陛下に、ジェリク様が眉尻を下げて言いました。
「……邪魔だったとか、そんなんじゃないんだ。ただ、ジェリクが羨ましかった。僕は男らしさがなかったから」
殿下は腕力がほとんどありません。他の人が鍛えるように勧めても、すぐに諦めて努力をしてこなかったからです。そして、少し重いと思えば、誰かに物を持たせ続けていました。
だから、自分の身を守ろうと必死になったお姉様の力に負けてしまったのでしょう。
部屋の外が騒がしくなり、私が様子を見に行くと、殿下の側近が今にも泣き出しそうな顔で私に訴えます。
「シアリン様! ラーナ様は殿下を殴ったのは貞操を奪われそうになったからだと訴えています!」
「貞操を?」
今のままでは分が悪いと感じたのか、お姉様はここでも嘘をつくことにしたようです。夢では明らかにそんな感じには見えず、どちらかといえばカッとなって殴ろうとした感じでした。
「嘘だ! 僕がラーナに掴みかかったことは確かだが、貞操を奪おうなんてしてない! くそっ! どうして、どうしてラーナはそんなに簡単に嘘がつけるんだ!」
側近の声が聞こえていたらしく、部屋の中から殿下の叫びが聞こえてきました。
お姉様は嘘をつき続ければ、自分が助かると思い込んでいます。現実を教えて差し上げなければなりませんね。
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