35 / 59
31 王子の後悔
しおりを挟む
「へ?」
殿下が間抜けな声を上げた瞬間、王妃陛下が殿下の頬を扇で打ちました。
「いい加減にしなさい!」
「は、母上、どうして僕を打つんですか! 酷いことを言ったのはシアリンですよ!」
「言われても仕方のない発言をしたのはあなたよ! どうしてあなたは自分が王太子だという自覚が持てないの!」
「持っていますよ! 王太子だから言いたいことを言ってもいいんじゃないんですか! 僕を叱ることができるのは、父上と母上しかいないんですから! 父上は僕のやることは間違っていないといつも言っていましたよ!」
言いたいことはわかりますが、堂々とワガママを言っても良いというわけではありません。もう子供ではないのですから、それくらい自分で気づかなくては――。
ショックを受けている王妃陛下を気の毒に思いつつ、殿下に話しかけます。
「殿下、それがわかっているのなら、自分が他の人を困らせるような言動をしていないか、自分で気をつけるということをしないのですか?」
「そ……、それは、そうかもしれないが、自分だけでは気づけないことだってあるんだよ!」
「殿下、私はあなたに伝えてきたはずです」
ジェリク様が口を開くと、殿下は唾を飛ばしながら聞き返します。
「何を伝えてきたって言うんだよ! 君はいつも僕に苦言を呈して……」
殿下は自分自身の発言で、いけないことをいけないと伝えてくれている人が、両親以外にもいたことに気がついたみたいです。
「……僕は、ジェリクのように上手く生きられないから嫉妬してた。だから、ジェリクが気にしているシアリンを僕のものにすれば、彼よりも上に立てると思ってた。だけど、違ったんだな」
そんな気はしていましたが、やっぱりそうだったのですね。私に優しくしてくれていたのも、私の気持ちが殿下から離れないようにと計算されたことだったのですね。
そのことをわかっていて、気持ちの区切りはついているはずなのに、やはり胸が痛みました。
「シアリン」
ジェリク様が私を優しく抱き寄せてくれたおかげで、私は我に返ることができました。
そうです。私にはジェリク様がいるのです。他の男性に愛されていなかったことで傷ついている場合ではありません。
「ありがとうございます、ジェリク様」
微笑んで頷いたあと、すぐに殿下に視線を戻して尋ねます。
「私を繋ぎ止めておかなければならなかったのに、どうしてお姉様を選んだのですか?」
「それは、ラーナを愛してしまったからだ。彼女だけが僕に優しくしてくれていたし、本当はずっと惹かれていた」
殿下の目から大粒の涙がこぼれました。そんな彼に王妃陛下が話しかけます。
「サブル、シアリンだってあなたを一番に愛してくれていたはずよ」
「シアリンは僕だけじゃなくて、他の人のことも考えていたんです。予知夢に出てきた人を助けに行かなくちゃって、僕以外の人のことまで考えていました。そんな彼女を見て、僕を一番にしてくれないと、ジェリクよりも上に立てないと思ったんです」
「そこへ、ラーナが近づいたというわけね」
王妃陛下が大きな息を吐くと、殿下は俯いてしゃくりあげました。
「ほっ、本当にっ、反省してるからっ」
殿下は俯いていた顔を上げ、私に向かって手を伸ばします。
「許してくれシアリン! 今度こそっ、大事にするからっ!」
私が避けるよりも先に、ジェリク様が私を守るように前に立ち、殿下の手を掴み、元の位置に戻しました。
「殿下、シアリンはもう私の妻です。許すか許さないかを決めるのは彼女ですが、彼女に正当な理由なく触れようとするのはおやめください」
「ジェリク、頼むよ。シアリンを僕に返してくれ! そうじゃないと僕は追放されてしまうっ!」
懇願する殿下に、私はジェリク様の横に立って事実を伝えます。
「殿下、あなたが追放されることはありません。それから、私がたとえあなたの元に戻っても、あなたへの対処が変わることはないのです」
「じゃ、じゃあ、ぼ、僕はどうなるんだ?」
ぐすぐすと泣く殿下を見ていると、子供の精神のまま大きくなったとしか思えません。
「……私の対応が間違っていたのね」
「いえ。私の存在が殿下にとって邪魔だったことに、私がもっと早く気づくべきでした」
呟くように言った王妃陛下に、ジェリク様が眉尻を下げて言いました。
「……邪魔だったとか、そんなんじゃないんだ。ただ、ジェリクが羨ましかった。僕は男らしさがなかったから」
殿下は腕力がほとんどありません。他の人が鍛えるように勧めても、すぐに諦めて努力をしてこなかったからです。そして、少し重いと思えば、誰かに物を持たせ続けていました。
だから、自分の身を守ろうと必死になったお姉様の力に負けてしまったのでしょう。
部屋の外が騒がしくなり、私が様子を見に行くと、殿下の側近が今にも泣き出しそうな顔で私に訴えます。
「シアリン様! ラーナ様は殿下を殴ったのは貞操を奪われそうになったからだと訴えています!」
「貞操を?」
今のままでは分が悪いと感じたのか、お姉様はここでも嘘をつくことにしたようです。夢では明らかにそんな感じには見えず、どちらかといえばカッとなって殴ろうとした感じでした。
「嘘だ! 僕がラーナに掴みかかったことは確かだが、貞操を奪おうなんてしてない! くそっ! どうして、どうしてラーナはそんなに簡単に嘘がつけるんだ!」
側近の声が聞こえていたらしく、部屋の中から殿下の叫びが聞こえてきました。
お姉様は嘘をつき続ければ、自分が助かると思い込んでいます。現実を教えて差し上げなければなりませんね。
殿下が間抜けな声を上げた瞬間、王妃陛下が殿下の頬を扇で打ちました。
「いい加減にしなさい!」
「は、母上、どうして僕を打つんですか! 酷いことを言ったのはシアリンですよ!」
「言われても仕方のない発言をしたのはあなたよ! どうしてあなたは自分が王太子だという自覚が持てないの!」
「持っていますよ! 王太子だから言いたいことを言ってもいいんじゃないんですか! 僕を叱ることができるのは、父上と母上しかいないんですから! 父上は僕のやることは間違っていないといつも言っていましたよ!」
言いたいことはわかりますが、堂々とワガママを言っても良いというわけではありません。もう子供ではないのですから、それくらい自分で気づかなくては――。
ショックを受けている王妃陛下を気の毒に思いつつ、殿下に話しかけます。
「殿下、それがわかっているのなら、自分が他の人を困らせるような言動をしていないか、自分で気をつけるということをしないのですか?」
「そ……、それは、そうかもしれないが、自分だけでは気づけないことだってあるんだよ!」
「殿下、私はあなたに伝えてきたはずです」
ジェリク様が口を開くと、殿下は唾を飛ばしながら聞き返します。
「何を伝えてきたって言うんだよ! 君はいつも僕に苦言を呈して……」
殿下は自分自身の発言で、いけないことをいけないと伝えてくれている人が、両親以外にもいたことに気がついたみたいです。
「……僕は、ジェリクのように上手く生きられないから嫉妬してた。だから、ジェリクが気にしているシアリンを僕のものにすれば、彼よりも上に立てると思ってた。だけど、違ったんだな」
そんな気はしていましたが、やっぱりそうだったのですね。私に優しくしてくれていたのも、私の気持ちが殿下から離れないようにと計算されたことだったのですね。
そのことをわかっていて、気持ちの区切りはついているはずなのに、やはり胸が痛みました。
「シアリン」
ジェリク様が私を優しく抱き寄せてくれたおかげで、私は我に返ることができました。
そうです。私にはジェリク様がいるのです。他の男性に愛されていなかったことで傷ついている場合ではありません。
「ありがとうございます、ジェリク様」
微笑んで頷いたあと、すぐに殿下に視線を戻して尋ねます。
「私を繋ぎ止めておかなければならなかったのに、どうしてお姉様を選んだのですか?」
「それは、ラーナを愛してしまったからだ。彼女だけが僕に優しくしてくれていたし、本当はずっと惹かれていた」
殿下の目から大粒の涙がこぼれました。そんな彼に王妃陛下が話しかけます。
「サブル、シアリンだってあなたを一番に愛してくれていたはずよ」
「シアリンは僕だけじゃなくて、他の人のことも考えていたんです。予知夢に出てきた人を助けに行かなくちゃって、僕以外の人のことまで考えていました。そんな彼女を見て、僕を一番にしてくれないと、ジェリクよりも上に立てないと思ったんです」
「そこへ、ラーナが近づいたというわけね」
王妃陛下が大きな息を吐くと、殿下は俯いてしゃくりあげました。
「ほっ、本当にっ、反省してるからっ」
殿下は俯いていた顔を上げ、私に向かって手を伸ばします。
「許してくれシアリン! 今度こそっ、大事にするからっ!」
私が避けるよりも先に、ジェリク様が私を守るように前に立ち、殿下の手を掴み、元の位置に戻しました。
「殿下、シアリンはもう私の妻です。許すか許さないかを決めるのは彼女ですが、彼女に正当な理由なく触れようとするのはおやめください」
「ジェリク、頼むよ。シアリンを僕に返してくれ! そうじゃないと僕は追放されてしまうっ!」
懇願する殿下に、私はジェリク様の横に立って事実を伝えます。
「殿下、あなたが追放されることはありません。それから、私がたとえあなたの元に戻っても、あなたへの対処が変わることはないのです」
「じゃ、じゃあ、ぼ、僕はどうなるんだ?」
ぐすぐすと泣く殿下を見ていると、子供の精神のまま大きくなったとしか思えません。
「……私の対応が間違っていたのね」
「いえ。私の存在が殿下にとって邪魔だったことに、私がもっと早く気づくべきでした」
呟くように言った王妃陛下に、ジェリク様が眉尻を下げて言いました。
「……邪魔だったとか、そんなんじゃないんだ。ただ、ジェリクが羨ましかった。僕は男らしさがなかったから」
殿下は腕力がほとんどありません。他の人が鍛えるように勧めても、すぐに諦めて努力をしてこなかったからです。そして、少し重いと思えば、誰かに物を持たせ続けていました。
だから、自分の身を守ろうと必死になったお姉様の力に負けてしまったのでしょう。
部屋の外が騒がしくなり、私が様子を見に行くと、殿下の側近が今にも泣き出しそうな顔で私に訴えます。
「シアリン様! ラーナ様は殿下を殴ったのは貞操を奪われそうになったからだと訴えています!」
「貞操を?」
今のままでは分が悪いと感じたのか、お姉様はここでも嘘をつくことにしたようです。夢では明らかにそんな感じには見えず、どちらかといえばカッとなって殴ろうとした感じでした。
「嘘だ! 僕がラーナに掴みかかったことは確かだが、貞操を奪おうなんてしてない! くそっ! どうして、どうしてラーナはそんなに簡単に嘘がつけるんだ!」
側近の声が聞こえていたらしく、部屋の中から殿下の叫びが聞こえてきました。
お姉様は嘘をつき続ければ、自分が助かると思い込んでいます。現実を教えて差し上げなければなりませんね。
3,201
あなたにおすすめの小説
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる