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8 妻の幸せと夫の幸せ
「私との婚約を進めるくらいですから、何かあるのだろうなとは思っていましたが、ロヴァンス様が遊び人だったなんてまったく気づきませんでした。お姉様はそれを知っているのに、私から奪おうとしたのでしょうか」
ファリアーナが首を傾げると、アシュは食事をする手を止めて答える。
「あの時の彼女は僕の妻だったから、ニーカ侯爵が自分を好きになっても、自分が彼に奪われることはないと高をくくっていたんじゃないかな」
「普通はそうですよね。となると、やはりロヴァンス様も考え方が普通じゃないということでしょうか」
「だと思う。シルフィーナの言うことをたとえ全面的に信じていたとしても、普通は僕に対してあんなことを言えるはずないんだ」
アシュは小さく息を吐いて呟く。
「僕も舐められたもんだよ」
「私を助けなければ、もっと強く出られましたよね」
「まあね。だけど、あんな状態の君を見捨てられないだろう」
「申し訳ございません」
ファリアーナが目に見えてシュンとしたからか、アシュは苦笑する。
「彼女が僕の妻として世に出るのを防いでくれたんだから気にしなくていい」
「ですが……」
「どうしても気になるなら、もっと自分に自信を持てるようになってくれ」
「……自分に自信、ですか?」
「ああ。君の場合は攻撃されるのを恐れているのかもしれないが、目立たないようにすることに必死になってる気がするし、自己評価も低そうだ」
「うう。それは間違っていません」
ファリアーナが目を伏せると、アシュは眉根を寄せる。
「今すぐに強くなれとは言わない。誰かのための君じゃなく、君自身が自分を好きだと言えるような人になってくれたらいいと僕は思う」
「私自身が私を、ですか?」
「ほぼ無理矢理、君を嫁に迎えたんだ。できる限り、君には幸せになってほしいと思ってる。ただ、僕ができることは僕が考える君の幸せであって、君の望んだものではないかもしれない。違うなら違うとはっきり言えるようになってほしいんだ」
アシュの言葉はファリアーナの心にゆっくりと染みわたっていく。
(そうよ。そうだわ。泣き言なんて言っていられない。自分自身を好きになれたら、自分に自信が持てて堂々とできるはず。そうすれば、アシュ様にかける迷惑を少しでも減らせる)
すぐにポジティブ思考になることはできないが、彼女の中で自分を変えるきっかけができたと感じていた。
「私、頑張ります! アシュ様、私に変わるチャンスをくださり、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
アシュは満足したように頷いてから話題を変える。
「結婚式には君の両親を呼んだほうがいいか?」
「呼ばなくていいです」
即答したファリアーナに、アシュは表情を和らげて話す。
「それなら良かった。対抗するつもりかわからないけど、彼らも同じ日に式を挙げるってさ。君の両親はそっちに行くだろう」
「公爵家と張り合うつもりなんでしょうか。信じられません!」
「いや、ただ単に高位貴族はこっちに来るから、式を挙げる貴族が少なくて、会場がすぐに準備できたんだよ」
「そういうことでしたか。……といっても普通は違う日にすると思うのですが」
「まあ、結婚式の日にちくらい自由にしても良いと思うよ」
ファリアーナの家族は、彼女の惨めな姿を見たくて仕方がないことが調査によってわかっていた。そう考える理由はまだ調査中だが、どうせくだらない理由だろうとアシュは考えていた。
アシュの母親は昔、陰でいじめられており、辛い学生生活を過ごしていたと話してもらったことがある。たとえ、腹が立つことをされたからって、嫌なことをしてもいいわけじゃない。
(悪意になら、少しくらいやり返すのはいいだろう)
今のアシュはどうすれば、ファリアーナのためになるかを考えていた。
仕返しをしたいのはアシュの考えであり、目の前で彼を見つめているファリアーナは、そんなことを考えているようには見えない。 ただ、周りに迷惑をかけないように嫌われないようにしているように見えた。
アシュが彼女に声をかけた時は衝動的なものだった。若き日の母の姿を想像したということもあるが、泣いている彼女が雨の中に捨てられた子猫のように見えて放っておけなかったのだ。ここに来てからもまだファリアーナは弱いままだ。だが、彼女は変わろうとしている。
「あの、アシュ様どうかされましたか?」
「なんでもない。それよりも暮らしには慣れてきた?」
「はい! 毎日がとても楽しいです!」
「それなら良かった」
ファリアーナが笑顔で答えると、アシュは満足そうに頷いた。
アシュはあまり笑顔を見せない。だが、ファリアーナの目には彼が心では笑っている気がして、いつかは笑顔を見れたら良いなと心から思ったのだった。
二人が和やかに会話をしていた頃、ニーカ侯爵家とファリアーナの実家であるソーダ伯爵家には、イクフェ侯爵家とその婚約者の家から、アシュの結婚相手がイクフェ侯爵令嬢だと嘘の噂を流したとして、謝罪と慰謝料を要求する連絡がきていたのだった。
ファリアーナが首を傾げると、アシュは食事をする手を止めて答える。
「あの時の彼女は僕の妻だったから、ニーカ侯爵が自分を好きになっても、自分が彼に奪われることはないと高をくくっていたんじゃないかな」
「普通はそうですよね。となると、やはりロヴァンス様も考え方が普通じゃないということでしょうか」
「だと思う。シルフィーナの言うことをたとえ全面的に信じていたとしても、普通は僕に対してあんなことを言えるはずないんだ」
アシュは小さく息を吐いて呟く。
「僕も舐められたもんだよ」
「私を助けなければ、もっと強く出られましたよね」
「まあね。だけど、あんな状態の君を見捨てられないだろう」
「申し訳ございません」
ファリアーナが目に見えてシュンとしたからか、アシュは苦笑する。
「彼女が僕の妻として世に出るのを防いでくれたんだから気にしなくていい」
「ですが……」
「どうしても気になるなら、もっと自分に自信を持てるようになってくれ」
「……自分に自信、ですか?」
「ああ。君の場合は攻撃されるのを恐れているのかもしれないが、目立たないようにすることに必死になってる気がするし、自己評価も低そうだ」
「うう。それは間違っていません」
ファリアーナが目を伏せると、アシュは眉根を寄せる。
「今すぐに強くなれとは言わない。誰かのための君じゃなく、君自身が自分を好きだと言えるような人になってくれたらいいと僕は思う」
「私自身が私を、ですか?」
「ほぼ無理矢理、君を嫁に迎えたんだ。できる限り、君には幸せになってほしいと思ってる。ただ、僕ができることは僕が考える君の幸せであって、君の望んだものではないかもしれない。違うなら違うとはっきり言えるようになってほしいんだ」
アシュの言葉はファリアーナの心にゆっくりと染みわたっていく。
(そうよ。そうだわ。泣き言なんて言っていられない。自分自身を好きになれたら、自分に自信が持てて堂々とできるはず。そうすれば、アシュ様にかける迷惑を少しでも減らせる)
すぐにポジティブ思考になることはできないが、彼女の中で自分を変えるきっかけができたと感じていた。
「私、頑張ります! アシュ様、私に変わるチャンスをくださり、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
アシュは満足したように頷いてから話題を変える。
「結婚式には君の両親を呼んだほうがいいか?」
「呼ばなくていいです」
即答したファリアーナに、アシュは表情を和らげて話す。
「それなら良かった。対抗するつもりかわからないけど、彼らも同じ日に式を挙げるってさ。君の両親はそっちに行くだろう」
「公爵家と張り合うつもりなんでしょうか。信じられません!」
「いや、ただ単に高位貴族はこっちに来るから、式を挙げる貴族が少なくて、会場がすぐに準備できたんだよ」
「そういうことでしたか。……といっても普通は違う日にすると思うのですが」
「まあ、結婚式の日にちくらい自由にしても良いと思うよ」
ファリアーナの家族は、彼女の惨めな姿を見たくて仕方がないことが調査によってわかっていた。そう考える理由はまだ調査中だが、どうせくだらない理由だろうとアシュは考えていた。
アシュの母親は昔、陰でいじめられており、辛い学生生活を過ごしていたと話してもらったことがある。たとえ、腹が立つことをされたからって、嫌なことをしてもいいわけじゃない。
(悪意になら、少しくらいやり返すのはいいだろう)
今のアシュはどうすれば、ファリアーナのためになるかを考えていた。
仕返しをしたいのはアシュの考えであり、目の前で彼を見つめているファリアーナは、そんなことを考えているようには見えない。 ただ、周りに迷惑をかけないように嫌われないようにしているように見えた。
アシュが彼女に声をかけた時は衝動的なものだった。若き日の母の姿を想像したということもあるが、泣いている彼女が雨の中に捨てられた子猫のように見えて放っておけなかったのだ。ここに来てからもまだファリアーナは弱いままだ。だが、彼女は変わろうとしている。
「あの、アシュ様どうかされましたか?」
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「はい! 毎日がとても楽しいです!」
「それなら良かった」
ファリアーナが笑顔で答えると、アシュは満足そうに頷いた。
アシュはあまり笑顔を見せない。だが、ファリアーナの目には彼が心では笑っている気がして、いつかは笑顔を見れたら良いなと心から思ったのだった。
二人が和やかに会話をしていた頃、ニーカ侯爵家とファリアーナの実家であるソーダ伯爵家には、イクフェ侯爵家とその婚約者の家から、アシュの結婚相手がイクフェ侯爵令嬢だと嘘の噂を流したとして、謝罪と慰謝料を要求する連絡がきていたのだった。
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