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10 愚兄との戦い ②
時刻は夜の10時過ぎで、よっぽどのことがない限り、人様の家に訪ねてくる時間ではない。しかも伯爵家の嫡男が公爵家にやって来ているのだから、身の程知らずにも程がある。
ファリアーナは義父母に騒がしくしていることを詫びてから、アシュと一緒にエントランスホールに向かった。
肌寒くなっているため、アシュはファリアーナが風邪を引いてはいけないと、兄をエントランスホールまで案内させていた。
武者震いだったのだが、ファリアーナが体を震わせたのを見て、アシュは彼女のショールの上から自分の上着をかけた。
「少しは温かいはずだ」
「ありがとうございます、アシュ様」
「当たり前のことだよ」
アシュのファリアーナを見つめる目は、どこか不安そうだ。
(アシュ様は本当にお優しいのね。この人と別れるなんて、お姉様は本当に馬鹿だわ)
ファリアーナは両手に拳を作って、アシュに微笑む。
「アシュ様、暴力沙汰にならない限り負けたりしませんから、ご安心ください!」
「無理をすることを求めているんじゃない。それだけは覚えておいてくれ」
「ありがとうございます」
普段の兄はファリアーナのことは無視をするか、姉が関わればネチネチと文句を言ってくるだけだった。だが、酒に呑まれた時は違った。必要以上に絡んできて、暴力をふるうこともあった。今日はどうだろうと、警戒しながらファリアーナが近寄っていくと、兄のキッファンはファリアーナの姿を見るなり、唾を飛ばして叫ぶ。
「おい、どういうことだ、ファリアーナ! 俺たちを騙したのか!?」
「お兄様、いい加減にしてください! こんな非常識な時間にやって来るなんて信じられません! 公爵家の方に失礼だとは思わないのですか!?」
「生意気な口をきくようになったもんだ」
「当たり前のことを言っただけです」
キッファンは少し太り気味の中背の男性だ。金色の髪に緑色の瞳を持ち、丸顔で目も大きくて丸い。優しそうに見えるがそれは見た目だけで性格は悪い。
やはり酒を吞んでいるらしく、キッファンの白い頬は赤く染まり、目尻が垂れている。
「公爵家の家に訪ねてきていることくらいわかっている。たがなぁ、お前が本当にアシュ様と結婚したのなら、俺は公爵令息の義兄だぞ! 家族じゃないか!」
「お兄様……、いえ、キッファン様!」
「なんだ?」
「わ、わた、わ、私はっ」
酔っぱらっている時のキッファンは、力の制御などできる状態ではない。以前、ファリアーナが平手打ちを食らった時は、頭がクラクラして立ち上がれなかったことを覚えている。恐怖のせいか、ファリアーナの声は震えていた。
「ファリアーナ」
アシュが声をかけてから彼女の両腕を後ろから掴む。
「いきなり無理はしなくていいって言ったろ」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
ファリアーナはアシュを見上げて頷き、キッファンに目を戻すと大きく深呼吸する。
(ここで暴力をふるったらどうなるか、さすがに酔っ払いでもわかるはずよ)
アシュだけでなく、警備兵や騒ぎを聞きつけてやって来た執事やメイド、フットマンたちが心配そうにファリアーナを見つめている。そんな中、ファリアーナは口を開く。
「私はもうソーダ伯爵家の人間ではありません。縁を切りました! ですから、あなたは公爵令息の義兄などではありません!」
「何だと!?」
「前々から、私のような妹はいらないとおっしゃっていたではないですか! 私がソーダ伯爵家の人たちと縁を切ることは、あなたたちの望みであり、私の望みでもあります!」
「生意気なことを言うなっ!」
キッファンが目を吊り上がらせて、ファリアーナに近づこうとすると、アシュが間に割って入る。
「帰れ」
「………は?」
「帰れと言ったんだ。義兄だと思っていたから、入ることを許したんだ。だが、あんたは義兄じゃない。なら、優しくしてあげる必要はないだろ。今日のことは、父からソーダ伯爵家に抗議を入れてもらう」
「……っ! ファリアーナ! お前が馬鹿なことを言うから俺が怒られているんだぞ! 謝れ!」
「申しわけ」
謝りかけてファリアーナは、自分で自分の口を押さえた。
(ここでお兄様……いや、キッファン様に謝るのは違う!)
「馬鹿なことは言っていません! お帰りください!」
ファリアーナが叫ぶと、アシュが警備兵に目で合図をした。警備兵は頷くと、抵抗するキッファンを取り押さえ、夜の道端に放り出したのだった。
ファリアーナは義父母に騒がしくしていることを詫びてから、アシュと一緒にエントランスホールに向かった。
肌寒くなっているため、アシュはファリアーナが風邪を引いてはいけないと、兄をエントランスホールまで案内させていた。
武者震いだったのだが、ファリアーナが体を震わせたのを見て、アシュは彼女のショールの上から自分の上着をかけた。
「少しは温かいはずだ」
「ありがとうございます、アシュ様」
「当たり前のことだよ」
アシュのファリアーナを見つめる目は、どこか不安そうだ。
(アシュ様は本当にお優しいのね。この人と別れるなんて、お姉様は本当に馬鹿だわ)
ファリアーナは両手に拳を作って、アシュに微笑む。
「アシュ様、暴力沙汰にならない限り負けたりしませんから、ご安心ください!」
「無理をすることを求めているんじゃない。それだけは覚えておいてくれ」
「ありがとうございます」
普段の兄はファリアーナのことは無視をするか、姉が関わればネチネチと文句を言ってくるだけだった。だが、酒に呑まれた時は違った。必要以上に絡んできて、暴力をふるうこともあった。今日はどうだろうと、警戒しながらファリアーナが近寄っていくと、兄のキッファンはファリアーナの姿を見るなり、唾を飛ばして叫ぶ。
「おい、どういうことだ、ファリアーナ! 俺たちを騙したのか!?」
「お兄様、いい加減にしてください! こんな非常識な時間にやって来るなんて信じられません! 公爵家の方に失礼だとは思わないのですか!?」
「生意気な口をきくようになったもんだ」
「当たり前のことを言っただけです」
キッファンは少し太り気味の中背の男性だ。金色の髪に緑色の瞳を持ち、丸顔で目も大きくて丸い。優しそうに見えるがそれは見た目だけで性格は悪い。
やはり酒を吞んでいるらしく、キッファンの白い頬は赤く染まり、目尻が垂れている。
「公爵家の家に訪ねてきていることくらいわかっている。たがなぁ、お前が本当にアシュ様と結婚したのなら、俺は公爵令息の義兄だぞ! 家族じゃないか!」
「お兄様……、いえ、キッファン様!」
「なんだ?」
「わ、わた、わ、私はっ」
酔っぱらっている時のキッファンは、力の制御などできる状態ではない。以前、ファリアーナが平手打ちを食らった時は、頭がクラクラして立ち上がれなかったことを覚えている。恐怖のせいか、ファリアーナの声は震えていた。
「ファリアーナ」
アシュが声をかけてから彼女の両腕を後ろから掴む。
「いきなり無理はしなくていいって言ったろ」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
ファリアーナはアシュを見上げて頷き、キッファンに目を戻すと大きく深呼吸する。
(ここで暴力をふるったらどうなるか、さすがに酔っ払いでもわかるはずよ)
アシュだけでなく、警備兵や騒ぎを聞きつけてやって来た執事やメイド、フットマンたちが心配そうにファリアーナを見つめている。そんな中、ファリアーナは口を開く。
「私はもうソーダ伯爵家の人間ではありません。縁を切りました! ですから、あなたは公爵令息の義兄などではありません!」
「何だと!?」
「前々から、私のような妹はいらないとおっしゃっていたではないですか! 私がソーダ伯爵家の人たちと縁を切ることは、あなたたちの望みであり、私の望みでもあります!」
「生意気なことを言うなっ!」
キッファンが目を吊り上がらせて、ファリアーナに近づこうとすると、アシュが間に割って入る。
「帰れ」
「………は?」
「帰れと言ったんだ。義兄だと思っていたから、入ることを許したんだ。だが、あんたは義兄じゃない。なら、優しくしてあげる必要はないだろ。今日のことは、父からソーダ伯爵家に抗議を入れてもらう」
「……っ! ファリアーナ! お前が馬鹿なことを言うから俺が怒られているんだぞ! 謝れ!」
「申しわけ」
謝りかけてファリアーナは、自分で自分の口を押さえた。
(ここでお兄様……いや、キッファン様に謝るのは違う!)
「馬鹿なことは言っていません! お帰りください!」
ファリアーナが叫ぶと、アシュが警備兵に目で合図をした。警備兵は頷くと、抵抗するキッファンを取り押さえ、夜の道端に放り出したのだった。
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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