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14 言い逃れしようとする侯爵 ①
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ファリアーナがアシュたちの所にたどり着いたのは、シルフィーナがヒステリックに叫んでいた時だった。
「う、嘘です! ロヴァンス様が私を置いて帰るなんてありえません! どうしてそんな嘘をつくのですか!」
「嘘じゃない。本当のことだよ。現に今、彼はここにいないだろう?」
「それは……っ」
焦るシルフィーナを見て、友人たちも不安げな表情になった。彼女たちの中ではアシュは人として最低な男だ。だが、それを決して口に出すわけにはいかない。貴族の令嬢である以上、自分よりも身分が上の人間に逆らうことにメリットなどないことは心得ていた。
彼の前では先程の慇懃無礼な態度を見せることはできず、シルフィーナに無言で助けを求めている。
「アシュ様」
ファリアーナは声が震えないように、大きく深呼吸、て気持ちを落ち着けて声をかけた。
「「ファリアーナ!」」
アシュとシルフィーナの声が重なった。いち早く、アシュがファリアーナの元に近づいてくる。
「ファリアーナ、ここは僕に任せておいてくれたらいい」
「お気持ちは嬉しいですし、有り難いと思っています。ですが、やはり、彼女のことは私が対応したほうが良いかと思ったんです」
(話の通じない相手かもしれないけれど、やっぱり自分でなんとかできるように努力はしないと!)
ファリアーナに見つめられたアシュは、少し驚いたような顔をしたあと苦笑する。
「わかった。せっかくだし、綺麗になった君をニーカ侯爵夫人たちにも見てもらおう」
アシュは彼女の肩を抱いて、シルフィーナたちの元に向かって歩を進める。シルフィーナたちは、赤色のドレスに身を包んだファリアーナを見て、驚きで何も言えなくなっていた。
今までのファリアーナは、オドオドしていて見るだけで苛立ちを覚えたが、今の彼女は違った。儚げな部分は残ってはいるが、攻撃してやろうという気持ちは一切起こらない。それどころか威圧感を感じ、シルフィーナは後ろに下がるほどだった。
「キッファン様にお伝えしたのですが、私はもうソーダ伯爵家とは縁を切りました。あなたとももう他人です。家族だという理由でパーティーに出席しようだなんて甘い考えは捨ててください」
「ファリアーナ、あなた!」
文句を言おうとするシルフィーナを、ファリアーナは睨みつけて黙らせる。そして、すぐに笑顔を作った。
「遅くなりましたが、ニーカ侯爵夫人、ご結婚おめでとうございます。どうぞ、ニーカ侯爵と幸せな家庭を築いてくださいませ」
深々と頭を下げたファリアーナにシルフィーナは尋ねる。
「あなた、その恰好はどうしたの?」
「ご存知の通り、これから披露パーティーなんです。ですから、この恰好ですね」
笑顔のファリアーナから視線を移し、ファリアーナはアシュに尋ねる。
「どういうことですか? まさか、ファリアーナを大事にしているんですか!?」
「そうだよ。僕がお願いして、ファリアーナに嫁に来てもらうことになったんだから」
「お、お願い?」
シルフィーナは目を見開いて驚いたが、すぐに友人たちの視線に気がついて引き下がる。
「ファリアーナにそこまで嫌われているとは思っていませんでした。仲直りしたくてきましたが、本日は失礼させていただきます」
シルフィーナは困惑した様子の友人たちを引き連れて逃げるように去っていった。そんな彼女の背中を見つめて、アシュは呆れ顔で口を開く。
「帰りの足はあるのか?」
「友人の馬車に乗せてもらうのではないでしょうか」
「そうか。ならいいが、ニーカ侯爵はどういうつもりなんだろうな」
「自分は関与していないと言いたいのかもしれませんが、妻の管理ができていないと言われてもおかしくないですよね」
受付や警備の人間に迷惑をかけたことを詫びてから、二人は控室に向かって歩き出す。
「とにかくパーティーが終わってから、ニーカ侯爵家には苦情を入れるよ。彼が直接謝罪に来るかもね」
「ロヴァンス様はシルフィーナさんをどうするつもりなのでしょう。愚行を止めもせずに放置するだなんて……」
「もしかしたら、ファリアーナを捨てて、彼女を選んだことを後悔してるのかもしれないな」
「そんなことはありえません。シルフィーナさんのほうが美人ですし」
ファリアーナは途中で言葉を止めた。性格は少なくとも自分のほうがマシな気がしたからだ。
二人がこんな会話をしている頃、ロヴァンスはアシュへの手紙を書いていた。
それは、妻が迷惑をかけたことに対しての詫びの言葉と、今回は妻が勝手にしたことであり、自分はあずかり知らぬことだったという言い訳の手紙だった。
「う、嘘です! ロヴァンス様が私を置いて帰るなんてありえません! どうしてそんな嘘をつくのですか!」
「嘘じゃない。本当のことだよ。現に今、彼はここにいないだろう?」
「それは……っ」
焦るシルフィーナを見て、友人たちも不安げな表情になった。彼女たちの中ではアシュは人として最低な男だ。だが、それを決して口に出すわけにはいかない。貴族の令嬢である以上、自分よりも身分が上の人間に逆らうことにメリットなどないことは心得ていた。
彼の前では先程の慇懃無礼な態度を見せることはできず、シルフィーナに無言で助けを求めている。
「アシュ様」
ファリアーナは声が震えないように、大きく深呼吸、て気持ちを落ち着けて声をかけた。
「「ファリアーナ!」」
アシュとシルフィーナの声が重なった。いち早く、アシュがファリアーナの元に近づいてくる。
「ファリアーナ、ここは僕に任せておいてくれたらいい」
「お気持ちは嬉しいですし、有り難いと思っています。ですが、やはり、彼女のことは私が対応したほうが良いかと思ったんです」
(話の通じない相手かもしれないけれど、やっぱり自分でなんとかできるように努力はしないと!)
ファリアーナに見つめられたアシュは、少し驚いたような顔をしたあと苦笑する。
「わかった。せっかくだし、綺麗になった君をニーカ侯爵夫人たちにも見てもらおう」
アシュは彼女の肩を抱いて、シルフィーナたちの元に向かって歩を進める。シルフィーナたちは、赤色のドレスに身を包んだファリアーナを見て、驚きで何も言えなくなっていた。
今までのファリアーナは、オドオドしていて見るだけで苛立ちを覚えたが、今の彼女は違った。儚げな部分は残ってはいるが、攻撃してやろうという気持ちは一切起こらない。それどころか威圧感を感じ、シルフィーナは後ろに下がるほどだった。
「キッファン様にお伝えしたのですが、私はもうソーダ伯爵家とは縁を切りました。あなたとももう他人です。家族だという理由でパーティーに出席しようだなんて甘い考えは捨ててください」
「ファリアーナ、あなた!」
文句を言おうとするシルフィーナを、ファリアーナは睨みつけて黙らせる。そして、すぐに笑顔を作った。
「遅くなりましたが、ニーカ侯爵夫人、ご結婚おめでとうございます。どうぞ、ニーカ侯爵と幸せな家庭を築いてくださいませ」
深々と頭を下げたファリアーナにシルフィーナは尋ねる。
「あなた、その恰好はどうしたの?」
「ご存知の通り、これから披露パーティーなんです。ですから、この恰好ですね」
笑顔のファリアーナから視線を移し、ファリアーナはアシュに尋ねる。
「どういうことですか? まさか、ファリアーナを大事にしているんですか!?」
「そうだよ。僕がお願いして、ファリアーナに嫁に来てもらうことになったんだから」
「お、お願い?」
シルフィーナは目を見開いて驚いたが、すぐに友人たちの視線に気がついて引き下がる。
「ファリアーナにそこまで嫌われているとは思っていませんでした。仲直りしたくてきましたが、本日は失礼させていただきます」
シルフィーナは困惑した様子の友人たちを引き連れて逃げるように去っていった。そんな彼女の背中を見つめて、アシュは呆れ顔で口を開く。
「帰りの足はあるのか?」
「友人の馬車に乗せてもらうのではないでしょうか」
「そうか。ならいいが、ニーカ侯爵はどういうつもりなんだろうな」
「自分は関与していないと言いたいのかもしれませんが、妻の管理ができていないと言われてもおかしくないですよね」
受付や警備の人間に迷惑をかけたことを詫びてから、二人は控室に向かって歩き出す。
「とにかくパーティーが終わってから、ニーカ侯爵家には苦情を入れるよ。彼が直接謝罪に来るかもね」
「ロヴァンス様はシルフィーナさんをどうするつもりなのでしょう。愚行を止めもせずに放置するだなんて……」
「もしかしたら、ファリアーナを捨てて、彼女を選んだことを後悔してるのかもしれないな」
「そんなことはありえません。シルフィーナさんのほうが美人ですし」
ファリアーナは途中で言葉を止めた。性格は少なくとも自分のほうがマシな気がしたからだ。
二人がこんな会話をしている頃、ロヴァンスはアシュへの手紙を書いていた。
それは、妻が迷惑をかけたことに対しての詫びの言葉と、今回は妻が勝手にしたことであり、自分はあずかり知らぬことだったという言い訳の手紙だった。
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