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25 両親の手のひら返し ③
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アシュから絶縁状を受け取ったメイドが急いで門に向かうと、ソーダ伯爵夫妻はその場から離れておらず、門兵は辟易したような顔をしていた。
騒ぎ立てるならまだしも「娘に会わせてほしい」と拝むだけでは、騎士隊を呼ぶことに躊躇していたのだ。
メイドはちょうど良かったと思いながら、通用口から外に出ると、ソーダ伯爵夫妻に近づき、ソーダ伯爵に封筒を差し出した。
「こちらはファリアーナ様から、お二人宛のお手紙です。必ず家に帰ってから読んでほしいとのことでした」
「本人に会わせてもらえないのか」
「申し訳ございませんが、ファリアーナ様は本日は体調が優れず、話をすることができないため、手紙をしたためられたのです。ご了承くださいませ」
実際は封筒の中に入っているのは、手紙ではなく絶縁状だが、伯爵夫妻はそんなことを知る由もない。
メイドもアシュから「こう言われた時はこう返すように」とレクチャーを受けていたため、言葉に詰まることなく応対することができていたため、不自然さがなかった。
「体調が悪いというのはどういうこと? 私は母親よ。看病させてくれないかしら」
「公爵家にはたくさんの使用人がおります。わたくしも精一杯お世話をさせていただきますので、ご心配なく」
メイドは深々と頭を下げると、通用口から中に入り素早く鍵を締めた。
伯爵夫妻は顔を見合わせてため息を吐く。
「……仕方がない。とにかく帰って手紙を読んでみよう」
「そうね。体調が悪いだなんて心配だけど、よっぽどなら医者に診てもらうでしょうからね」
二人はそう納得し、待たせていた馬車に乗り込んだ。しばらく馬車を走らせた所で、ソーダ伯爵は連れてきていた付き人に、渡された封筒の封を切らせた。
それを見た夫人が夫に尋ねる。
「帰ってから読めと言われていたんじゃないの?」
「わかっている。でもな、お前は何が書かれているのか気にならないのか?」
「気にはなるわ。でも、手紙をくれるということは良いことが書いてあるのではないの?」
「シルフィーナは門前払いだったらしいからな。手紙をくれるだけ、我々には望みがあるのだろう」
笑いながら封筒の中身を取り出し、二つ折りにされた紙を開けた瞬間、伯爵の笑みは消え失せた。
「な……なんだこれはっ!」
「どうしたの? 何が書いてあったの!?」
「み、見ろ! くそっ! 騙された! おい! 今すぐに引き返すんだ!」
伯爵は地団駄を踏んで、付き人に訴えた。慌てて付き人は御者にレイン公爵邸に引き返すように伝えたが、時すでに遅し。
『騒げるものなら騒いでみろ』と言わんばかりに、公爵邸の門の前には、騎士隊が待ち受けていたのだった。
※
終わりが見えてきましたので新作を投稿いたしました。
『無償の愛を捧げる人と運命の人は、必ずしも同じではないのです』になります。
本作が終わるまではのんびり更新ですが、読んでいただけますと幸いです!
騒ぎ立てるならまだしも「娘に会わせてほしい」と拝むだけでは、騎士隊を呼ぶことに躊躇していたのだ。
メイドはちょうど良かったと思いながら、通用口から外に出ると、ソーダ伯爵夫妻に近づき、ソーダ伯爵に封筒を差し出した。
「こちらはファリアーナ様から、お二人宛のお手紙です。必ず家に帰ってから読んでほしいとのことでした」
「本人に会わせてもらえないのか」
「申し訳ございませんが、ファリアーナ様は本日は体調が優れず、話をすることができないため、手紙をしたためられたのです。ご了承くださいませ」
実際は封筒の中に入っているのは、手紙ではなく絶縁状だが、伯爵夫妻はそんなことを知る由もない。
メイドもアシュから「こう言われた時はこう返すように」とレクチャーを受けていたため、言葉に詰まることなく応対することができていたため、不自然さがなかった。
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メイドは深々と頭を下げると、通用口から中に入り素早く鍵を締めた。
伯爵夫妻は顔を見合わせてため息を吐く。
「……仕方がない。とにかく帰って手紙を読んでみよう」
「そうね。体調が悪いだなんて心配だけど、よっぽどなら医者に診てもらうでしょうからね」
二人はそう納得し、待たせていた馬車に乗り込んだ。しばらく馬車を走らせた所で、ソーダ伯爵は連れてきていた付き人に、渡された封筒の封を切らせた。
それを見た夫人が夫に尋ねる。
「帰ってから読めと言われていたんじゃないの?」
「わかっている。でもな、お前は何が書かれているのか気にならないのか?」
「気にはなるわ。でも、手紙をくれるということは良いことが書いてあるのではないの?」
「シルフィーナは門前払いだったらしいからな。手紙をくれるだけ、我々には望みがあるのだろう」
笑いながら封筒の中身を取り出し、二つ折りにされた紙を開けた瞬間、伯爵の笑みは消え失せた。
「な……なんだこれはっ!」
「どうしたの? 何が書いてあったの!?」
「み、見ろ! くそっ! 騙された! おい! 今すぐに引き返すんだ!」
伯爵は地団駄を踏んで、付き人に訴えた。慌てて付き人は御者にレイン公爵邸に引き返すように伝えたが、時すでに遅し。
『騒げるものなら騒いでみろ』と言わんばかりに、公爵邸の門の前には、騎士隊が待ち受けていたのだった。
※
終わりが見えてきましたので新作を投稿いたしました。
『無償の愛を捧げる人と運命の人は、必ずしも同じではないのです』になります。
本作が終わるまではのんびり更新ですが、読んでいただけますと幸いです!
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