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26 幸せになっていく妹と不幸になっていく姉 ①
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両親が捕まったことをファリアーナが知ったのは、その日の夜のことだった。
ベッドの上で寝転んだアシュは、境界線のように置かれている抱き枕を退けて、先に横になっていた、ファリアーナの手に触れて話す。
「実はあの時、ソーダ伯爵夫妻が公爵邸前にいたんだ」
「それで、絶縁状を早く書くように促してくれたのですね」
「そういうことだ。家に帰ってから封を開けろと言っても、すぐに開けることは予想できていた。だから、騎士隊には僕から早めに連絡を入れておいた。ちょうどいいタイミングで戻ってきてくれたよ」
「ご迷惑をおかけしただけでなく、色々と手配していただき、本当にありがとうございます」
ファリアーナが微笑むと、アシュも口元に笑みを浮かべる。今のアシュはファリアーナに心を開いており、柔らかな表情を見せるようになっていた。
「アシュ様、部屋で一人でいる時に考えていたのですが、まずは国王陛下に探りを入れてもらうことは可能でしょうか」
「探りを入れる?」
「はい。王弟殿下のやっていることを陛下が認識しておられるのか知りたいのです」
「王弟殿下がキッファンに手を貸していることを、陛下が認識しているかどうかによって、こちらも出方を変えられるしな」
「私もそう思います。それから、できれば王弟殿下に知られずに動いていただきたいです」
「わかった」
アシュの妻になったとはいえ、ファリアーナが国王との謁見の約束を取り付けるのは難しい。そんな理由もあって、ファリアーナはアシュに頼むしかなかった。
「実は両陛下がファリアーナに会ってみたいと言っているんだ。それを理由に謁見させてもらおう。当たり前だが内密にしてもらう」
「ありがとうございます!」
国王が味方についてくれれば、王弟の動きも制御できる。もし、国王が王弟を庇うようなら、揃えた証拠を王弟に突きつけ、家族に知られたくなければ……と話をするつもりだが、ファリアーナとしては王弟の家族を巻き込むことは控えたかった。
一番はシルフィーナたちが大人しくしてくれることだが、シルフィーナがこのまま引き下がるとは、ファリアーナにはどうしても考えられなかった。
◇◆◇◆◇◆
騎士隊に捕まった次の日の朝には、ソーダ伯爵夫妻は保釈金と引き換えに釈放された。
伯爵邸に帰ってきた夫妻は、ファリアーナからの絶縁状に苛立っていたが、心配して近寄ってきたシルフィーナには笑顔を見せた。
「お父様、お母様! 無事で良かったです!」
「ありがとう、シルフィーナ。私たちのことは気にしなくていい。それよりもキッファンと上手くやっているようだな」
「スキンシップが激しくなって迷惑でもありますが、実家に帰ってきてからは、今までよりも仲良くしています」
「そうか。なら、その調子で頼む。もう頼みの綱はお前しかいないのだからな」
「どういうことです?」
シルフィーナが眉根を寄せると、伯爵は笑いながら答える。
「迎えの馬車の中で、執事からキッファンとお前が抱き合っている所を見たと話を聞いた。今のままだと兄と妹だ。結婚する前に、お前を養女に出さなければならないな」
「な、何をおっしゃっているのですか!」
「照れなくていい。私たちはお前とキッファンの結婚に反対はしない」
「い、嫌です! 私はお兄様と結婚なんてしません!」
叫んだシルフィーナの肩を背後から現れたキッファンが抱き寄せる。
「父上、母上、結婚を認めていただきありがとうございます。必ずシルフィーナを幸せにします。そして、お二人の未来も安泰ですよ」
「い、嫌、嫌よ! 放して! 助けてお母様!」
シルフィーナがどんなに泣いて叫んでも、伯爵夫妻は彼女を助けようとはしなかった。
ベッドの上で寝転んだアシュは、境界線のように置かれている抱き枕を退けて、先に横になっていた、ファリアーナの手に触れて話す。
「実はあの時、ソーダ伯爵夫妻が公爵邸前にいたんだ」
「それで、絶縁状を早く書くように促してくれたのですね」
「そういうことだ。家に帰ってから封を開けろと言っても、すぐに開けることは予想できていた。だから、騎士隊には僕から早めに連絡を入れておいた。ちょうどいいタイミングで戻ってきてくれたよ」
「ご迷惑をおかけしただけでなく、色々と手配していただき、本当にありがとうございます」
ファリアーナが微笑むと、アシュも口元に笑みを浮かべる。今のアシュはファリアーナに心を開いており、柔らかな表情を見せるようになっていた。
「アシュ様、部屋で一人でいる時に考えていたのですが、まずは国王陛下に探りを入れてもらうことは可能でしょうか」
「探りを入れる?」
「はい。王弟殿下のやっていることを陛下が認識しておられるのか知りたいのです」
「王弟殿下がキッファンに手を貸していることを、陛下が認識しているかどうかによって、こちらも出方を変えられるしな」
「私もそう思います。それから、できれば王弟殿下に知られずに動いていただきたいです」
「わかった」
アシュの妻になったとはいえ、ファリアーナが国王との謁見の約束を取り付けるのは難しい。そんな理由もあって、ファリアーナはアシュに頼むしかなかった。
「実は両陛下がファリアーナに会ってみたいと言っているんだ。それを理由に謁見させてもらおう。当たり前だが内密にしてもらう」
「ありがとうございます!」
国王が味方についてくれれば、王弟の動きも制御できる。もし、国王が王弟を庇うようなら、揃えた証拠を王弟に突きつけ、家族に知られたくなければ……と話をするつもりだが、ファリアーナとしては王弟の家族を巻き込むことは控えたかった。
一番はシルフィーナたちが大人しくしてくれることだが、シルフィーナがこのまま引き下がるとは、ファリアーナにはどうしても考えられなかった。
◇◆◇◆◇◆
騎士隊に捕まった次の日の朝には、ソーダ伯爵夫妻は保釈金と引き換えに釈放された。
伯爵邸に帰ってきた夫妻は、ファリアーナからの絶縁状に苛立っていたが、心配して近寄ってきたシルフィーナには笑顔を見せた。
「お父様、お母様! 無事で良かったです!」
「ありがとう、シルフィーナ。私たちのことは気にしなくていい。それよりもキッファンと上手くやっているようだな」
「スキンシップが激しくなって迷惑でもありますが、実家に帰ってきてからは、今までよりも仲良くしています」
「そうか。なら、その調子で頼む。もう頼みの綱はお前しかいないのだからな」
「どういうことです?」
シルフィーナが眉根を寄せると、伯爵は笑いながら答える。
「迎えの馬車の中で、執事からキッファンとお前が抱き合っている所を見たと話を聞いた。今のままだと兄と妹だ。結婚する前に、お前を養女に出さなければならないな」
「な、何をおっしゃっているのですか!」
「照れなくていい。私たちはお前とキッファンの結婚に反対はしない」
「い、嫌です! 私はお兄様と結婚なんてしません!」
叫んだシルフィーナの肩を背後から現れたキッファンが抱き寄せる。
「父上、母上、結婚を認めていただきありがとうございます。必ずシルフィーナを幸せにします。そして、お二人の未来も安泰ですよ」
「い、嫌、嫌よ! 放して! 助けてお母様!」
シルフィーナがどんなに泣いて叫んでも、伯爵夫妻は彼女を助けようとはしなかった。
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