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2 どちら様?
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私に怒鳴られた女性はガレッド様にすり寄って言う。
「ちょっと、何この人、こっわ~い! ガレッド、助けてよ~!」
「おい! クレア、俺の可愛いレーナになんて口をきくんだ! 謝れ!」
「はい? 人が眠ってるところを叩き起こした上に、人の部屋を荒らすバカが連れてきた女に、あーだこーだ言われる筋合いはないわ!」
怒りに任せて二人に叫ぶと、レーナと呼ばれた女性は、うわ~んと大声で泣き始め、ガレッド様の胸の中に飛び込んだ。
「ガレッド! 何なの、この野蛮な人! 酷くない? あんな言い方しなくても良くない!?」
「レーナ、泣かないでくれ。クレアは頭が悪いんだ。親に捨てられて、ちゃんとした躾もされてないんだ」
「うるさいわね、口が悪いのは認めるわ! だけど、こんな言い方をするのは、常識知らずのバカ共が相手の時だけよ! 大体、あんたも甘やかされて育ってるからね!」
私が言い返すと、ガレッド様は私を睨みつけ、レーナ嬢の泣き声はもっと大きくなった。
声が甲高いから、泣き声だか、鳴き声なんだかわからないわ。
使用人達も騒ぎに気付き、様子を見に来てくれて、廊下から私の部屋の惨状を見て驚いている。
「おい、ちょうど良かった! みんな、聞いてくれ!」
ガレッド様はレーナ嬢を抱きしめて、声高に宣言する。
「俺はクレア・レッドバーンズとの婚約を破棄し、ここにいる、レーナ・アイナスと結婚する!」
使用人達は呆れ返った顔でガレッド様を見ている。
それはそうよね。
この家は私のものになっているから、婚約破棄したりすると、この人、住む家ないものね。
「クレア、さっきも言ったが出ていけ! お前の居場所はこの家にはない!」
「ふざけないでよ! 私がいなくなったら、誰があんたの代わりに家の管理をするのよ!? 先代の子爵から継いだ事業のことだって、まったくわからないくせに!」
「うるさい! お前に出来るものが俺に出来ないわけないだろう! いいから今すぐに出ていけ!」
枕を投げつけられたので、それを受け止めて言い返す。
「この家の権利の名義は私よ!」
「……残念だったな。おい、セブ、あれを持ってこい!」
セブというのは、この家の執事の名で、金庫などの鍵は、全て彼に預けていた。
ひょろりと背の高い年配のセブは、私に申し訳なさげな顔をして、ガレッド様に紙を手渡した。
「ほら、見てみろ」
ガレッド様はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべると、土地家屋の権利書を差し出した。
いつの間にか、所有者名が書き換えられていた。
セブの方を見ると、私からあからさまに視線をそらした。
彼を信用した私が馬鹿だった。
もう何年も一緒にいたし、優しくしてくれていたから、彼に心を許してしまっていた。
こうなった以上、しょうがない。
枕を抱きしめ深呼吸してから、口を開く。
「わかったわよ、出ていくわ! そのかわり出ていく準備をするのに、あんた達は邪魔だから今すぐに部屋から出ていって! 朝には出ていってあげるから! だから、酔っぱらいは部屋に帰って寝て!」
「何だよ偉そうにしやがって!」
「そうよ、そうよっ!」
二人が中々出ていかないもんだから、部屋の奥にいたガレッド様の後ろにまわって、彼の尻を何度も蹴って、レーナ嬢ごと部屋から追い出した。
「おい! 人の尻を蹴るなんておかしいだろ!」
「人に酒瓶をぶつけてくるほうもおかしいわよ!」
「何だと!?」
扉を閉めた後も、ガレッド様とレーナ嬢は、しばらく私の部屋の前の廊下でぶつくさ言っていたようだけど、最終的には諦めて、ガレッド様の部屋に向かった様だった。
行くあてはない。
実家に戻っても家には入れてもらえないだろうし、どうしたものか。
今までは私が婚約者だったし、ムートー家から私の家に援助金が出ていた。
私がいなくなったら、それもなくなるわね。
いきなりお金が入らなくなって困ればいいんだわ。
私自身は、何日間か宿に泊まれるくらいのお金は持っている。
かといって、いつまでも宿に泊まっていられないから、住み込みで働けるところを探さないといけないわ。
よし。
暗いことは考えない!
ガレッドのクソ野郎をどうやってボコボコにしてやろうか考えるのは、新しい生活に慣れた頃でいいわ。
あっ、口が悪いわね。
気を付けないと。
大きなリュックに服や着替えなどを詰めて、枕はロープでリュックに巻き付けた。
夜が明けるのを待ち、部屋から出る。
さあ、私はこれから新たな門出だけど、その前に一言。
ムートー家なんて潰れてしまえ!
私を心配して起きてくれていた使用人達と挨拶をかわし、屋敷を出た。
「この屋敷の人間か?」
門を出たところで、腰に剣を携え、胸当てなどの防具をつけた、一見、騎士のような若い男性に話しかけられた。
私も女性としては、そう低くはないはずなのだけど、目の前の彼は私の頭一つ分くらい背が高く、体格もがっしりとしている。
顔を見てみると、私とそう変わらない年齢だろうか、目は大きくて身体に似合わず、可愛らしい顔立ちをしていた。
「違います」
もう、この家の人間ではないので首を横に振ると、彼は不思議そうな顔をした。
不思議なのはこっちだわ。
まだ朝早いのに、この人はなんでこんな所にいるのかしら?
というか、どちら様?
「ちょっと、何この人、こっわ~い! ガレッド、助けてよ~!」
「おい! クレア、俺の可愛いレーナになんて口をきくんだ! 謝れ!」
「はい? 人が眠ってるところを叩き起こした上に、人の部屋を荒らすバカが連れてきた女に、あーだこーだ言われる筋合いはないわ!」
怒りに任せて二人に叫ぶと、レーナと呼ばれた女性は、うわ~んと大声で泣き始め、ガレッド様の胸の中に飛び込んだ。
「ガレッド! 何なの、この野蛮な人! 酷くない? あんな言い方しなくても良くない!?」
「レーナ、泣かないでくれ。クレアは頭が悪いんだ。親に捨てられて、ちゃんとした躾もされてないんだ」
「うるさいわね、口が悪いのは認めるわ! だけど、こんな言い方をするのは、常識知らずのバカ共が相手の時だけよ! 大体、あんたも甘やかされて育ってるからね!」
私が言い返すと、ガレッド様は私を睨みつけ、レーナ嬢の泣き声はもっと大きくなった。
声が甲高いから、泣き声だか、鳴き声なんだかわからないわ。
使用人達も騒ぎに気付き、様子を見に来てくれて、廊下から私の部屋の惨状を見て驚いている。
「おい、ちょうど良かった! みんな、聞いてくれ!」
ガレッド様はレーナ嬢を抱きしめて、声高に宣言する。
「俺はクレア・レッドバーンズとの婚約を破棄し、ここにいる、レーナ・アイナスと結婚する!」
使用人達は呆れ返った顔でガレッド様を見ている。
それはそうよね。
この家は私のものになっているから、婚約破棄したりすると、この人、住む家ないものね。
「クレア、さっきも言ったが出ていけ! お前の居場所はこの家にはない!」
「ふざけないでよ! 私がいなくなったら、誰があんたの代わりに家の管理をするのよ!? 先代の子爵から継いだ事業のことだって、まったくわからないくせに!」
「うるさい! お前に出来るものが俺に出来ないわけないだろう! いいから今すぐに出ていけ!」
枕を投げつけられたので、それを受け止めて言い返す。
「この家の権利の名義は私よ!」
「……残念だったな。おい、セブ、あれを持ってこい!」
セブというのは、この家の執事の名で、金庫などの鍵は、全て彼に預けていた。
ひょろりと背の高い年配のセブは、私に申し訳なさげな顔をして、ガレッド様に紙を手渡した。
「ほら、見てみろ」
ガレッド様はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべると、土地家屋の権利書を差し出した。
いつの間にか、所有者名が書き換えられていた。
セブの方を見ると、私からあからさまに視線をそらした。
彼を信用した私が馬鹿だった。
もう何年も一緒にいたし、優しくしてくれていたから、彼に心を許してしまっていた。
こうなった以上、しょうがない。
枕を抱きしめ深呼吸してから、口を開く。
「わかったわよ、出ていくわ! そのかわり出ていく準備をするのに、あんた達は邪魔だから今すぐに部屋から出ていって! 朝には出ていってあげるから! だから、酔っぱらいは部屋に帰って寝て!」
「何だよ偉そうにしやがって!」
「そうよ、そうよっ!」
二人が中々出ていかないもんだから、部屋の奥にいたガレッド様の後ろにまわって、彼の尻を何度も蹴って、レーナ嬢ごと部屋から追い出した。
「おい! 人の尻を蹴るなんておかしいだろ!」
「人に酒瓶をぶつけてくるほうもおかしいわよ!」
「何だと!?」
扉を閉めた後も、ガレッド様とレーナ嬢は、しばらく私の部屋の前の廊下でぶつくさ言っていたようだけど、最終的には諦めて、ガレッド様の部屋に向かった様だった。
行くあてはない。
実家に戻っても家には入れてもらえないだろうし、どうしたものか。
今までは私が婚約者だったし、ムートー家から私の家に援助金が出ていた。
私がいなくなったら、それもなくなるわね。
いきなりお金が入らなくなって困ればいいんだわ。
私自身は、何日間か宿に泊まれるくらいのお金は持っている。
かといって、いつまでも宿に泊まっていられないから、住み込みで働けるところを探さないといけないわ。
よし。
暗いことは考えない!
ガレッドのクソ野郎をどうやってボコボコにしてやろうか考えるのは、新しい生活に慣れた頃でいいわ。
あっ、口が悪いわね。
気を付けないと。
大きなリュックに服や着替えなどを詰めて、枕はロープでリュックに巻き付けた。
夜が明けるのを待ち、部屋から出る。
さあ、私はこれから新たな門出だけど、その前に一言。
ムートー家なんて潰れてしまえ!
私を心配して起きてくれていた使用人達と挨拶をかわし、屋敷を出た。
「この屋敷の人間か?」
門を出たところで、腰に剣を携え、胸当てなどの防具をつけた、一見、騎士のような若い男性に話しかけられた。
私も女性としては、そう低くはないはずなのだけど、目の前の彼は私の頭一つ分くらい背が高く、体格もがっしりとしている。
顔を見てみると、私とそう変わらない年齢だろうか、目は大きくて身体に似合わず、可愛らしい顔立ちをしていた。
「違います」
もう、この家の人間ではないので首を横に振ると、彼は不思議そうな顔をした。
不思議なのはこっちだわ。
まだ朝早いのに、この人はなんでこんな所にいるのかしら?
というか、どちら様?
応援ありがとうございます!
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