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13 話し合い③
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セルロッテ様とお話をした次の日、リアド辺境伯と辺境伯令嬢のシャーロット様と話をすることになった。
リアド辺境伯とシャーロット様から、オズックの件でのお詫びと慰謝料についての話をされた。
謝罪は受け入れたけれど、慰謝料については遠慮しておいた。
この話を知ったのは婚約を破棄すると決めたあとなので、彼女から受けた精神的ダメージはないし、逆にオズックを忘れる良い後押しにもなったからだ。
それに、わたしのお父様やリアド辺境伯から聞いた話では、20歳になるシャーロット様は引っ込み思案な性格で友人もおらず、婚約者も未だにいないんだそうだ。
シャーロット様はお尻あたりまである紺色のストレートの髪をおろしていて、顔はほとんど前髪で隠れてしまっている。
自分に自信がないのか、猫背になり、ずっと俯いている状態で私と目線が合ったのも謝罪してくれた時だけだった。
肌の色は白くて儚げな見た目だけれど、驚くくらいに痩せ細っていて何かの病気ではないかと疑いたくなってしまう。
「シャーロット様は浮気を許すような方には見えないのですが、何か理由でもあったのでしょうか」
気が弱そうな方だから、婚約者がいるとわかっている男性とお付き合いするようなタイプには思えない。
そう思って聞いてみると、シャーロット様は「本当に申し訳ございません」と謝ったあとに、長くなると前置きしてから話をしてくれた。
シャーロット様のお母様のリアド辺境伯夫人はシャーロット様を生んだあと、当時は特効薬のなかった流行り病にかかって亡くなられた。
シャーロット様はお母様の記憶がまったくなく、自分を生んだせいでお母様が死んでしまったのだと思い込み、自分なんて生まれなければ良かったと思い続けていたらしい。
お父様である辺境伯も彼女の3人の兄たちもお母様が亡くなったのはシャーロット様のせいではないということを何度も言い続けてきたらしい。
それでも、彼女は信じられなかった。
家族は優しいから嘘をついてくれているのだと思ったのだそう。
学園時代は辺境伯令嬢ということでいじめられることはなかったけれど、いつも一人ぼっちで、卒業後は検問所の事務職に就いたけれど、職場になじめずにいた
そんな彼女に優しい言葉をかけてくれたのがオズックだった。
オズックから優しくされた彼女は舞い上がってしまい、何かと気にかけてくれる彼にのめり込んだ。
彼が金銭で困っているという話を聞けば、お金を請求されてもいないのに自分からお金を差し出したんだそうだ。
二人の関係は職場で人知れず話すだけで、オズックにとって彼女は都合のいい女だった。
救いは、彼と肉体関係を結んでいないことで、オズックは後々、問題になりそうな女性とは肉体関係を結んでいないようだった。
彼女の感じからすると、オズックはシャーロット様をただの金蔓にしていただけで、恋愛感情や結婚などをほのめかせるような言葉は言っておらず、シャーロット様が勝手にその気になってしまったというように判断する人がいてもおかしくない状態だった。
だから、リアド辺境伯家はオズックを責めることができない。
「オズック様から、もう君と仲良くできないと言われた時には胸が張り裂けそうで死んでしまうかと思いました。でも、本当にアルミラ様には申し訳ないことをしたと思っています」
シャーロット様は涙を流しながら言った。
「シャーロット様は、わたしに対して悪いことをしたと思ってくださっているんですよね」
「もっ……、もちろんですっ!」
そう言って顔を上げたシャーロット様の顔をよく見ると、頬はこけ目の下にクマができていた。
ここまで苦しんだのなら、それがわたしに対する懺悔のせいではなくても責める気にはなれない。
「今、あなたは、自分のお部屋で引きこもっていると聞きました」
「……はい。職場も私の代わりに三男のフィリップお兄様が出勤してくださっています」
「復職しろとまでは言いません。あなたの都合で人が入れ替わるのは他の方に迷惑がかかりますから。でも、部屋から出て、まずは自分のしたいことをしてみてください。オズックのためにこれ以上、人生を無駄にしてほしくありません。あなたが前を向いてくれたら、あなたのことは許します」
サーラと同じで恋愛経験がゼロの女性にオズックのような男性が優しい言葉をかければ、その気になってしまう気持ちはわかる。
だけど、オズックのせいで人生を狂わされて良いわけでもない。
引きこもっていることが絶対に悪いとは言えない。
でも、働いていたということは外に出る意思はあったはず。
あんな男のために部屋から出られない生活を送る必要はない。
「私なんかが外に出ても良いんでしょうか」
「駄目なわけないじゃないですか。あなたがオズックを忘れられたら、一緒に彼を殴りに行きませんか。暴力は駄目ですから精神的に」
私の誘いを聞いたリアド辺境伯は驚いた顔をした。
シャーロット様も目を何度も瞬かせたあと、涙を流しながら頷いた。
リアド辺境伯とシャーロット様から、オズックの件でのお詫びと慰謝料についての話をされた。
謝罪は受け入れたけれど、慰謝料については遠慮しておいた。
この話を知ったのは婚約を破棄すると決めたあとなので、彼女から受けた精神的ダメージはないし、逆にオズックを忘れる良い後押しにもなったからだ。
それに、わたしのお父様やリアド辺境伯から聞いた話では、20歳になるシャーロット様は引っ込み思案な性格で友人もおらず、婚約者も未だにいないんだそうだ。
シャーロット様はお尻あたりまである紺色のストレートの髪をおろしていて、顔はほとんど前髪で隠れてしまっている。
自分に自信がないのか、猫背になり、ずっと俯いている状態で私と目線が合ったのも謝罪してくれた時だけだった。
肌の色は白くて儚げな見た目だけれど、驚くくらいに痩せ細っていて何かの病気ではないかと疑いたくなってしまう。
「シャーロット様は浮気を許すような方には見えないのですが、何か理由でもあったのでしょうか」
気が弱そうな方だから、婚約者がいるとわかっている男性とお付き合いするようなタイプには思えない。
そう思って聞いてみると、シャーロット様は「本当に申し訳ございません」と謝ったあとに、長くなると前置きしてから話をしてくれた。
シャーロット様のお母様のリアド辺境伯夫人はシャーロット様を生んだあと、当時は特効薬のなかった流行り病にかかって亡くなられた。
シャーロット様はお母様の記憶がまったくなく、自分を生んだせいでお母様が死んでしまったのだと思い込み、自分なんて生まれなければ良かったと思い続けていたらしい。
お父様である辺境伯も彼女の3人の兄たちもお母様が亡くなったのはシャーロット様のせいではないということを何度も言い続けてきたらしい。
それでも、彼女は信じられなかった。
家族は優しいから嘘をついてくれているのだと思ったのだそう。
学園時代は辺境伯令嬢ということでいじめられることはなかったけれど、いつも一人ぼっちで、卒業後は検問所の事務職に就いたけれど、職場になじめずにいた
そんな彼女に優しい言葉をかけてくれたのがオズックだった。
オズックから優しくされた彼女は舞い上がってしまい、何かと気にかけてくれる彼にのめり込んだ。
彼が金銭で困っているという話を聞けば、お金を請求されてもいないのに自分からお金を差し出したんだそうだ。
二人の関係は職場で人知れず話すだけで、オズックにとって彼女は都合のいい女だった。
救いは、彼と肉体関係を結んでいないことで、オズックは後々、問題になりそうな女性とは肉体関係を結んでいないようだった。
彼女の感じからすると、オズックはシャーロット様をただの金蔓にしていただけで、恋愛感情や結婚などをほのめかせるような言葉は言っておらず、シャーロット様が勝手にその気になってしまったというように判断する人がいてもおかしくない状態だった。
だから、リアド辺境伯家はオズックを責めることができない。
「オズック様から、もう君と仲良くできないと言われた時には胸が張り裂けそうで死んでしまうかと思いました。でも、本当にアルミラ様には申し訳ないことをしたと思っています」
シャーロット様は涙を流しながら言った。
「シャーロット様は、わたしに対して悪いことをしたと思ってくださっているんですよね」
「もっ……、もちろんですっ!」
そう言って顔を上げたシャーロット様の顔をよく見ると、頬はこけ目の下にクマができていた。
ここまで苦しんだのなら、それがわたしに対する懺悔のせいではなくても責める気にはなれない。
「今、あなたは、自分のお部屋で引きこもっていると聞きました」
「……はい。職場も私の代わりに三男のフィリップお兄様が出勤してくださっています」
「復職しろとまでは言いません。あなたの都合で人が入れ替わるのは他の方に迷惑がかかりますから。でも、部屋から出て、まずは自分のしたいことをしてみてください。オズックのためにこれ以上、人生を無駄にしてほしくありません。あなたが前を向いてくれたら、あなたのことは許します」
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だけど、オズックのせいで人生を狂わされて良いわけでもない。
引きこもっていることが絶対に悪いとは言えない。
でも、働いていたということは外に出る意思はあったはず。
あんな男のために部屋から出られない生活を送る必要はない。
「私なんかが外に出ても良いんでしょうか」
「駄目なわけないじゃないですか。あなたがオズックを忘れられたら、一緒に彼を殴りに行きませんか。暴力は駄目ですから精神的に」
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