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18 今更ですが信じてみる事にしました
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「ケイン・アトラスと申します。ケインと呼んでいただければ光栄です」
交代で我が家を見守ってくれる事になった一人である、ストレートの茶色の長い髪を後ろでまとめている彼、ケイン・アトラス様は頭をかきながら笑って言われました。
ラルフ様ほどではないけれど、背は高めで、可愛らしいと言っては失礼かもしれませんが、優しい顔立ちをしていらっしゃるので、腰に剣を携えていると違和感を覚えてしまいますが、ラルフ様に聞いたところ、とても腕の立つ方なんだそうです。
ラルフ様から、ディーンが人の手柄を横取りした発言を聞いて、詳しい話を聞いたところ、ディーンは敵に関する重大な情報を仕入れたらしいのですが、それは自分で仕入れたものではなく、今、目の前にいるケイン様が、上官に報告する前に整理しておこうと書いていたメモをディーンが盗んだようです。
ケイン様とディーンは諜報部隊にいて、パートナーだったらしく、あてがわれた部屋も同室だったため、ケイン様が留守中に彼の机の中をディーンが漁ったとみられています。
「さぞかし腹が立ったのでは?」
「それについては、わざとあいつに手柄を横取りさせたんです。だから、気にしてませんよ?」
「わざとですか? ですが、名を揚げる大きなチャンスでしたでしょうに」
「戦いが少しでも早く終わるのなら、それで良かったんです。それに僕は平民でしたが、騎士の称号もいただきましね」
「…そうなのですか」
ラルフ様がこの事実を知ったのはディーンに叙爵した後で、ケイン様のご友人がいてもたってもいられず、彼に報告したから、という事でした。
平民の方であれば、この国の場合、騎士という称号は貴族に近いものになりますから、充分だとケイン様は仰りたいんでしょうけど。
ディーンの事です。
この方が欲のない方だとわかっていたから、そんな事をしたのでしょう。
「お話を聞かせていただき、ありがとうございました」
「とんでもない。こちらこそ快適な寝床を提供していただいているんですから、これくらいはさせてもらわないと」
「その分、何かあった時にはしっかり働いていただくつもりですよ?」
にっこり笑うと、ケイン様は苦笑してから「お礼にもう一つ」と右手の人さし指を立ててから続けました。
「ブルーミング伯爵令嬢とラルフ様は一度、お会いになっていますよ」
「…はい?」
「ラルフ様には内緒にしておいて下さいね。ラルフ様本人も僕が知っている事は知りませんから」
「え? えっと、どういう事です?」
「内緒です。いつか本人から伝えるでしょうから、深く考えずにお待ち下さい」
「で、でも、会っているなら思い出せそうなものなのですが!」
少しでも情報が欲しくて食い下がると、ケイン様は苦笑してから首を横に振る。
「僕からは詳しくは言えません。でも、ブルーミング伯爵令嬢が思い出せないのはどうしようもない事です。ですから、あなたには今のラルフ様を見てあげてもらえると嬉しいです」
にっこり笑って、ケイン様は頭を下げました。
「それはもちろん、そうするつもりではいますが…」
「よろしくお願いします。では、仕事に戻らせていただきます」
話はここまで、と打ち切られた形です。
まあ、彼もお仕事中なのですから、あまり話しかけても良くないのかもしれませんが…。
それにしても、気になる事が出来てしまいました。
ラルフ様本人に問いただしたいところですが、聞いてしまったらケイン様の事を話さないといけなくなりますし、何より、内緒にしておいてくれ、と言われたので、そうする訳にもいきません。
こんな事なら教えてくれなくても良かったのです。
なんて、そんな風に嫌な考えが浮かんできましたが、すぐに振り払う。
きっと、ケイン様はラルフ様が好きで、ラルフ様が私との結婚を望んでいるなら、そうして欲しいという気持ちがあって教えて下さったのでしょう。
だって、今の状態だと私の中でのラルフ様は付きまとい行為をしている人間に近いですから。
ただ、会ったことがあるというなら、その気持ちも変わってきますし…。
悪い人や嫌な人でない限り、できれば悪い感情を持ちたくありません。
それに私もラルフ様の事を、今更ながら信じてみたいと思ったのです。
交代で我が家を見守ってくれる事になった一人である、ストレートの茶色の長い髪を後ろでまとめている彼、ケイン・アトラス様は頭をかきながら笑って言われました。
ラルフ様ほどではないけれど、背は高めで、可愛らしいと言っては失礼かもしれませんが、優しい顔立ちをしていらっしゃるので、腰に剣を携えていると違和感を覚えてしまいますが、ラルフ様に聞いたところ、とても腕の立つ方なんだそうです。
ラルフ様から、ディーンが人の手柄を横取りした発言を聞いて、詳しい話を聞いたところ、ディーンは敵に関する重大な情報を仕入れたらしいのですが、それは自分で仕入れたものではなく、今、目の前にいるケイン様が、上官に報告する前に整理しておこうと書いていたメモをディーンが盗んだようです。
ケイン様とディーンは諜報部隊にいて、パートナーだったらしく、あてがわれた部屋も同室だったため、ケイン様が留守中に彼の机の中をディーンが漁ったとみられています。
「さぞかし腹が立ったのでは?」
「それについては、わざとあいつに手柄を横取りさせたんです。だから、気にしてませんよ?」
「わざとですか? ですが、名を揚げる大きなチャンスでしたでしょうに」
「戦いが少しでも早く終わるのなら、それで良かったんです。それに僕は平民でしたが、騎士の称号もいただきましね」
「…そうなのですか」
ラルフ様がこの事実を知ったのはディーンに叙爵した後で、ケイン様のご友人がいてもたってもいられず、彼に報告したから、という事でした。
平民の方であれば、この国の場合、騎士という称号は貴族に近いものになりますから、充分だとケイン様は仰りたいんでしょうけど。
ディーンの事です。
この方が欲のない方だとわかっていたから、そんな事をしたのでしょう。
「お話を聞かせていただき、ありがとうございました」
「とんでもない。こちらこそ快適な寝床を提供していただいているんですから、これくらいはさせてもらわないと」
「その分、何かあった時にはしっかり働いていただくつもりですよ?」
にっこり笑うと、ケイン様は苦笑してから「お礼にもう一つ」と右手の人さし指を立ててから続けました。
「ブルーミング伯爵令嬢とラルフ様は一度、お会いになっていますよ」
「…はい?」
「ラルフ様には内緒にしておいて下さいね。ラルフ様本人も僕が知っている事は知りませんから」
「え? えっと、どういう事です?」
「内緒です。いつか本人から伝えるでしょうから、深く考えずにお待ち下さい」
「で、でも、会っているなら思い出せそうなものなのですが!」
少しでも情報が欲しくて食い下がると、ケイン様は苦笑してから首を横に振る。
「僕からは詳しくは言えません。でも、ブルーミング伯爵令嬢が思い出せないのはどうしようもない事です。ですから、あなたには今のラルフ様を見てあげてもらえると嬉しいです」
にっこり笑って、ケイン様は頭を下げました。
「それはもちろん、そうするつもりではいますが…」
「よろしくお願いします。では、仕事に戻らせていただきます」
話はここまで、と打ち切られた形です。
まあ、彼もお仕事中なのですから、あまり話しかけても良くないのかもしれませんが…。
それにしても、気になる事が出来てしまいました。
ラルフ様本人に問いただしたいところですが、聞いてしまったらケイン様の事を話さないといけなくなりますし、何より、内緒にしておいてくれ、と言われたので、そうする訳にもいきません。
こんな事なら教えてくれなくても良かったのです。
なんて、そんな風に嫌な考えが浮かんできましたが、すぐに振り払う。
きっと、ケイン様はラルフ様が好きで、ラルフ様が私との結婚を望んでいるなら、そうして欲しいという気持ちがあって教えて下さったのでしょう。
だって、今の状態だと私の中でのラルフ様は付きまとい行為をしている人間に近いですから。
ただ、会ったことがあるというなら、その気持ちも変わってきますし…。
悪い人や嫌な人でない限り、できれば悪い感情を持ちたくありません。
それに私もラルフ様の事を、今更ながら信じてみたいと思ったのです。
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