愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ

文字の大きさ
3 / 34

3  爵位を継ぐのが目的? 他の人を探してくれない?

しおりを挟む
「何を言っているんだ…。冗談は存在だけにしてくれよ。それとも昨日のショックで頭がおかしくなったのか?」
「冗談は存在だけにしてくれ? あなた、よく、そんな事を人に言えるわね? あなた、一々、人を傷付ける言葉を言わないと気がすまない人間なの? まあ、いいわ。頭がおかしくなったという事にしておきましょう。あ、昼食は部屋に持ってきてね」

 私がミゲルの相手をする事にして、メアリーに声を掛けると、彼女は首を大きく縦に振って、部屋から出て行った。
 メアリーを見送ってから、ミゲルに尋ねる。

「で、何の用ですか?」
「新婚なのに、妻が起きてこないのを心配しない夫だと怪しまれるだろう。僕の気を引きたいのかもしれないが逆効果だから止めてくれ」
「嫌ってもらえるのは嬉しいけど、私もあなたの顔は見たくないし、これからはちゃんと起きるようにするわ。昨日は色々とあって疲れたの。じゃあね」
 
 扉を閉めると、外からミゲルの不満そうな声が聞こえてくる。

「おい! 何を考えているんだよ! 君のお父上が心配してるぞ!」
「ルキアは僕の顔を見ると気分が悪くなるそうです。って伝えておいてくれる?」
「ふざけるなよ!」

 ミゲルは勝手に扉を開けて、中に入ってくると、ルキアの部屋の様子を眺める。

「ほとんど何もないじゃないか」
「人の部屋に無断で入ってきておいて、入って一言目が部屋の感想を言うなんて呆れるわ」

 実際、ミゲルのいう通り、ルキアの部屋には無駄なものは一切置かれていないといった感じだった。
 ルキアは元の世界の言葉でいえば、ミニマリストだったのかもしれない。
 服に関しては別かもしれないけど。

 それにしても、なぜ、私はこの状況をすんなり受け入れられているのか謎だわ。
 小説や漫画の読みすぎ?
 あまりやりすぎて、悪役令嬢にならない様に気を付けないと。
 だって、この体は私のものじゃなくて、ルキアのものだもの。
 そういえば、ルキアはどうなってしまったのかなあ…。

「さっきも言ったけれど、昨日とはまるで別人だな。そんな器用な事が出来るなら、最初からそうしておけば、いじめられるなんて恥ずかしい目に合わずにすんだのに…」
「……は?」

 聞き捨てならない事を言われて、声を低くして聞き返すと、ミゲルは鼻で笑ってから言う。

「いじめられるなんて恥じゃないか。普通の人間はいじめられないんだから」
「そんな訳ないでしょう」

 もし。
 この国の法律に、不愉快な事を言われた場合は、その相手を殴っても良いというものがあったなら、迷わずに鈍器を使って殴っていたと思う。

 けれど、ルキアの記憶を探っても、そんな事が許される世の中ではなさそう…。

 まあ、当たり前か。

「自分を正当化するのはやめた方がいい」
「何も言ってないでしょ」
「いじめられるのはいじめられる側に問題が」
「それ以上言うと、殴るわよ」

 睨みつけると、ミゲルは怯んだのか、口を閉じた。

「どうして、いじめを正当化するのかわからないのよ。もちろん、いじめられる方にも原因はあるかもしれないけど、いじめなんかしなきゃいい事だし、いじめられてるのは恥だなんておかしいでしょ。いじめる方がおかしいんだから、普通はそっちが恥じるべきなんじゃないの?」
「そ、それは、そうかもしれないが、原因があるからで…」
「じゃあ、私があなたをいじめれば、あなたも私と同じ立場になるんだけど? 同じ立場になっても、そんな事が言えるかしら?」

 聞き返すと、ミゲルは私を睨んだけれど、それ以上は何も言わない。
 顔を見るだけで気分が悪くなるので、彼から目を背けて言う。

「とりあえず、出ていって?」
「駄目だ。君のお父上が、僕達の関係を疑っている。君が、うまくやってくれないせいで…」
「何言ってるのよ。あなたが、下手くそなだけじゃない? 大体、疑われたくないなら、昨日は私を部屋に戻すべきじゃなかったわね。あなたが、ソファーか何かで寝れば良かっただけ」
「どうして僕が!」
「は? ここは私の実家よ。あなたなんて、離縁してしまえば終わりなんだけど? というか、今すぐ、離縁してくれない?」
「そんなの出来るわけないだろう! 僕は、爵位を継ぐのが目的なんだ!」
「なら、私じゃなくてもいいでしょう。他の人を探してくれない? あなた、性格は最悪だけど、見た目は良いから、きっと他に貰い手があるわよ」

 はっきり言うと、ミゲルは顔を真っ赤にして、私を睨んだ。

「とにかく部屋から出ていって。お父様には後で私から話をしておくから」
「一体、何があったって言うんだ!? もしかして、君はルキアの影武者か何かか!?」
「影武者って…。というか、中身が違う事は確かだし、そっくりさんでもない事は確か。この身体はルキアのものよ。偽者じゃない」
「一体、どうなってるんだ? このままじゃ、僕の思う通りにならないじゃないか!」
「癇癪をおこすのは止めて。怒るのは勝手だけど、部屋から出て行ってよ。書類上は夫婦でも、あなたも私もお互いにそうだとは思ってない。だから、この部屋に、あなたが入っているのはおかしいのよ」

 早く出ていけと言わんばかりに手を振ると、ミゲルは舌打ちしてから、私に言う。

「とにかく、夕食は一緒に取ろう。あと、君のお父上にはちゃんと話をして、誤解をといておいてくれよ?」
「誤解も何も、本当の事なんだけど」
「うるさい!」

 ミゲルはそう叫ぶと、大股で歩いて部屋を出ていくと、乱暴に扉を閉めた。

 私も若い頃は物に当たってたなぁ。
 いや、扉を乱暴に閉めるのは今でもやってるか。
 ただ、人がやってるのを見ると、駄目だと思うし、これからは私も気を付けないと。

 そんな事を思っていると、メアリーではない、違うメイドが昼食をワゴンに乗せて持ってきてくれた。

 彼女を見た瞬間、頭の中で警報が鳴った気がした。
 持ってきてくれたメイドは、毒見役で、ルキアの事をあからさまに嫌っている態度を見せるメイドだったからだ。
 私にもそんな態度を取るようなら、間違いなくクビだわ。
 だって、毒見役がそんな態度だったら、命を預けられるわけがないじゃない。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う

棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。 他サイトにも投稿しています。

【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との
恋愛
「彼が亡くなった?」 突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。 「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて! 家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」 次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。 家と会社の不正、生徒会での横領事件。 「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」 『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。 人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

処理中です...