愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ

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26 どうしてですか? お伝え下さいませ

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「な、なんて失礼な事を言うんですか!」
「気分を害させてしまったのであれば、申し訳ございません。でも、あなたが先に私に酷い言葉を浴びせてきたわけですから、何か言い返される覚悟はお有りですわよね?」
「無価値な人間が言い返すなんて!」
「エイル子爵令嬢…」

 何故、無価値だと彼女に言われないといけないのか。
 あ、彼女の中では無価値なのね…。
 だけど、それ、いちいち、私に言う必要ないよね?

 これみよがしに大きくため息を吐いてから、厳しい口調で彼女に言う。

「私は伯爵令嬢です。その事をお忘れになっておりますね?」
「い、今は私は侯爵令嬢の使いで来ていますから!」
「だからこそ、礼節をわきまえるべきではなくって? あなたは侯爵家の顔として現在、ここにいるんですのに私情をはさんで無礼な態度をとっておられます。そんな方を寄越してくる方のお茶会になど、どんなものかわからないですから、怖くて参加できませんわ」

 こんな事を言いながら、内心、お茶会に行かなくて良くなったと喜んでいたりした。

 この態度は人を招待する立場の人間にしては酷すぎるもの。

 行かなきゃいけないかな、と思ってたけど、そんな迷いは吹っ飛んで、気持ちはお断り一択になってしまった。

 すると、エイル子爵令嬢は言う。

「このお茶会には、サラウラ侯爵家のマリアン様もいらっしゃるんですよ?」
「サラウラ侯爵令嬢も…?」

 どうして、彼女が…?
 この名前に興味を持ってしまい、私は一変、この件の返事に関しては保留にする事にした。

「参加するかどうかについては、後日、ご連絡致しますとお伝え下さいませ」
「ど、どうしてですか!?」
「どうしてですかと言われましても…。言わなくてもおわかりになるかと思うのですけど…。もし、ププルス侯爵令嬢から、どうしてすぐに返事をもらえないのか聞かれましたら、使いの方に誠意が見られませんでしたのでとお伝え下さいませ」

 立ち上がって扉を開けて、お帰りを促すと、エイル子爵令嬢は、今更だけれど、困ったような顔をして、私に頭を下げて部屋から出ていった。

 さて、サラウラ侯爵令嬢の事については、ロゼッタ様にお話を聞いてみる事にしようかな。
 なぜ、そう思ったかというと、サラウラ侯爵令嬢は、ザック様のお兄様である、ザラス様の婚約者だから。

 サラウラ侯爵令嬢、マリアン様は、サラウラ侯爵と夫人にとって念願の子供だった。
 サラウラ侯爵夫妻は、結婚から3年経っても、子宝に恵まれず、後を継ぐ人間が必要だからと、夫人のすすめで侯爵は愛人を迎えた。
 そして、愛人との間に双子の女の子が生まれた。
 その1年後、本妻の侯爵夫人との間に、ザラス様の婚約者であるマリアン様、その2年後に待望の男の子が生まれた。

 マリアン様は本妻の子なのだから、肩身が狭いはずはないのに、性格がそういう性格なのか、いつもオドオド、ビクビクしているという。
 愛人は別邸に暮らしているらしけど、娘達は本邸に暮らしていて、マリアン様と変わらない生活を送っているはずだから、まさか、マリアン様をいじめたりとかはしてないと思うんだけど…。

 でも、どうして、マリアン様がミゲラーのお茶会に?
 こんな事を言ったら偏見かもしれないけど、ミゲラーって思い込みの激しい、気の強い人間しかいなさそうなんだけど?
 といっても、分別のある人間もいないとは限らないか…。
 オタクだって、色々な人がいるもんね。

 まさか、マリアン様が隠れミゲラーだったりしないわよね?
 気になった私は、早速、ロゼッタ様に連絡する事にした。




「惜しいわ、ルキアさん。正確にはミゲラーなのは、双子のご令嬢の方よ」

 ロゼッタ様は優雅にティーカップをソーサーに戻しながら言った。

 うーん。
 ロゼッタ様の口からミゲラーという言葉が…。
 言葉にさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。

「ロゼッタ様は、お詳しいのですか?」
「ミゲファンに誘われた事もあったのよ」
「そ、そうなのですか!?」
「ミゲル様って顔だけは素敵じゃない?」
「まあ、人の好みもありますが、整った顔立ちをしておられますね」
「だから、私の年代の人にもミゲラーがいるの」

 また、ミゲラーと言わせてしまった。
 もういいか。
 嫌がっておられないし…。

「マリアン様が心配だわ。ルキアさんは結局、どうされるおつもり?」
「その、どうしようか迷っていまして…」
「何に迷っているの?」
「ザック様や公爵閣下、ロゼッタ様にお世話になっていますので、せめてもの恩を返す為に、マリアン様の話し相手として出席した方が良いかと思いまして…」
「あら、そんな事は気にしなくていいわ。ザラスが何とかするんじゃないかしら…。といっても、マリアン様がザラスに何も言わなければ動かないわよね…。かといって、ルキアさんは本当ならば行きたくないでしょうし…」

 ロゼッタ様はうーん、と唸ってから目を伏せた後、少しの間、考え込まれた。

「あの、ロゼッタ様。行った方が良いのでしたら行きますよ。マリアン様がご迷惑でなければ…」
「そうだわ! 良い事を思いついたわ! ルキアさんにとっては面倒な事になるかもしれないけど、お願いしても良いかしら? いいえ。やっぱり私から連絡するわ!」
 
 ロゼッタ様は笑顔になって、ぱちんと両手を合わせて私に言うので、意味が全くわからなくて聞いてみる。

「あの、ロゼッタ様、話が見えなくて…。ロゼッタ様は何をお考えになっていらっしゃるのですか?」
「ふふ。こうしようかと思って…」

 ロゼッタ様がそう言って、私に教えてくれた内容は、ロゼッタ様らしいといえば、ロゼッタ様らしいものだった。





 そして、お茶会の日、結局、私は、ププルス侯爵家にやって来ていた。
 メイドに中庭のガゼボまで案内すると言われ、ガゼボが見えてきたところで、ガゼボの中からププルス侯爵令嬢が出て来た。

 金色の長い髪を縦ロールにしていて、日本では周りにいなかった髪型の為、思わず凝視してしまった。

 ププルス侯爵令嬢は、ぽっちゃりとした背の低い可愛らしい見た目で、碧眼の瞳がとても綺麗。
 だけど、その瞳はほとんど瞼に隠されていた。
 
 なぜなら、引きつった笑みを浮かべているから。

 お互いに挨拶をかわした後、ププルス侯爵令嬢が言う。

「ようこそ、おいでくださいましたわ。本日はスペシャルゲストがいらっしゃってましてよ」

 スペシャルゲスト…。

 すでに話を聞いているから知っているけれど、知らないふりをして尋ねる。

「どんな方なのでしょう?」

 すると、ププルス侯爵令嬢が答える前に、本人が話しかけてきてくれた。

「ルキアさーん!」

 ガゼボの中から笑顔で手を振ってくれていたのは、ロゼッタ様だった。
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