愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ

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33 理不尽? ヘラヘラした顔で謝らないで

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 無事に用を足して、軽く化粧を直してから、ザック様の元に戻ると、ザック様はご令嬢達に囲まれていた。
 
 ご令嬢達は、さっきのザック様が素敵だったとか、キャーキャー言っている。
 
 ふむ。

 ここは、悪役令嬢っぽく、私のザック様よ! 近寄らないでちょうだい!

 とか言ってみたら、女伯爵になる人間としての威厳が出るのかな。
 いや、ザック様に頭のおかしい奴と思われてしまうかもしれないから止めておこうか。
 大体、婚約のお話を受けるかどうかという話もまだしていないわけだし。

 ここはどうする事が正解なのか。

 悩みながら見守っていると、先に、ザック様が私が戻ってきた事に気が付いて、女性達の輪の中から抜けてきた。

「戻ってきてるなら声を掛けてくれればいいだろう」
「ザック様、自分はモテないと言ってらっしゃいましたが、すごくモテていらっしゃるじゃないですか」
「たまたまだ。女性は乱暴な事をする男性が好きなのだな」
「どういう事です?」
「あの時、君に乱暴しようとしている様に見えたから思わず手を出してしまったが、あそこまでやる必要はなかっただろう?」

 ザック様に言われて、少しだけ考える。

「まあ、首をつかむまではしなくても良かったかもしれませんが、何だか大事にされているみたいで、悪い気はしなかったですね」
「……」

 なぜか、ザック様が私を見て、動きを止めてしまった。

「どうかしました?」
「いや、そうか…。そういう事なのか…」
「えっと、どういう事なのでしょうか…?」

 ザック様のそういう事なのか、の意味がわからず、首を傾げて聞き返すと、ザック様は首を横に振る。

「いや。ずっと不思議に思っていた事の答えがわかっただけだ。気にしなくていい」
「もやもやしていたものの答えが出たのなら良かったですね」
「そうだな。ただ、これを良かったと言うべきなのかはわからないが」

 ザック様は苦笑してから促す。

「今日はもう帰るつもりだが、それでいいかな?」
「かまいませんけど、大丈夫ですか?」
「まあな」

 ザック様は頷いてくれたけれど、表情は大丈夫そうには見えなかった。


 それから一週間考えた後、やはり、ザック様との婚約の件はお断りする事にした。
 だって、結婚したら、色々とする事がある。
 ルキアの許可がないのに、勝手にザック様と関係を持つなんて駄目だと思ったから。

 そう決めた日の晩、私は夢を見た。

 妙にリアルな夢で、ルキアが私に訴えてくる。

「お願い、スズ! 私の事は忘れて! 私がスズとして生きるから、あなたはルキアとしていきてほしいの!」
「え? ルキアって、そんな話し方だったっけ?」
「あなたの国の話し方に合わせて話せるようになったの! それに、聞いて、スズ! 私、あなたの身体で」

 ルキアが何か言っているけれど、なぜか、どんどん遠くなっていく。
 ルキアの顔が歪み、そして、いつしか見えなくなった。

 どういう事?

 ルキアは、スズとして生きるって言ってた?

 

 目を覚ますと、いつもと違う天井が見えた。

 でも、見覚えのある天井だ。

 え?
 もしかして?

「ルキアちゃん、おはよう」

 声が耳元から聞こえて、顔をそちらに向けると、そこには、ロングの金髪に耳にピアスの穴を何個も開けている、キツネ顔の若い男がいた。

 誰!?

「あ、あ~、もしかして、本当のスズさん?」

 私の驚きの顔を見た金髪ピアス男は続ける。

「ルキアちゃんから聞いてる。っつーか、ほんと、スズさん、ごめん! あん時、脇見してたっす」
 
 そう言われて思い出した。

 私は事故に合ったんだった。
 愛車の中型バイクで友人とツーリングの帰り、信号が青だったので大きな交差点を直進した。
 すると、なぜか右折の単車が突っ込んできたのだ。

「あなたは無事だったわけ?」
「うん。もちろん怪我はしたけどさ。スズさんも頭打って、足を骨折したんだよ。でもまあ、その事故のおかげで、スズさんと付き合う事になったんだけどさ。あ、いや、ルキアちゃんだっけ」
「は? 付き合ってる!?」

 ベッドから上半身を起こすと、布団がはらりと落ちる。

 裸だった。
 いや、パンイチというやつか。

 ルキアぁ!
 私はあなたの為に色々と悩んだのに、何を勝手に人の身体で!
 いや、そりゃ、初めてではないけどさ!

「というわけで、よろしくスズさん」
「よろしくスズさんじゃないわ!」

 上半身を起こして、握手を求めてきたルキアの彼氏の頬を思い切りビンタした。

「り、理不尽っすよ…」
「人を不注意で大怪我させておいて、ヘラヘラした顔で謝らないで」
「すみませんでした!」

 ルキアの彼氏はパンイチの状態で、ベッドの上で土下座した。



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