【完結】あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです

風見ゆうみ

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10  無理です

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 ワウキロヤ様が大人しくなったので、私は彼の両親の姿を探した。
 婚約の破棄が決まったのであれば、書類を用意しているはずである。ワウキロヤ様が持っていないのであれば、姉かどちらかの両親が持っていなければならない。
 私の家族は持っていないようだし、ワウキロヤ様の手元にもなさそうだ。
 それなら、と思って先ほどまで彼の家族がいた場所に目を向けた。
 しかし、姿は見えずホール内を見回しても見当たらない。ワウキロヤ様のお兄様の姿も見えないし、その婚約者の姿も見つけることができない

 まさか逃げたの?

 逃げるほうが公爵家の名に傷が付くと思うんだけど、知らなかったふりをしてワウキロヤ様を切ろうとしているのかしら。

 私はワウキロヤ様の家族の姿を探すことを諦め、ため息を吐いてから口を開いた。

「正式な書類がないようでしたら、口頭でもよろしいでしょうか?」
「い、いや、それじゃあ破棄されたという証明ができないだろう?」
「これだけの証人がいらっしゃるのです。しかも、その方も王族や高位貴族の方ばかりです。口約束だと言って反故にすることなどできないでしょう?」
「そ、それはそうだが」

 ワウキロヤ様は情けない顔で、姉たちのほうに目を向けた。すると、父が手をすり合わせながら、私に媚び始めた。

「リファ―ラ、何か誤解があるようだが、私たちはお前のことを本当に大事に思っているんだよ」

 私の家族やワウキロヤ様は、私がリック……ではなく、フレデリック殿下と知り合いだということがわかって、強気な態度に出れなくなってしまったみたいね。

 私が黙っていると、父は引きつった笑みを浮かべて続けた。

「今まで色々とすまなかった。これからはお前が結婚するまで家族みんなで仲良く暮らそうじゃないか」

 小声で話していたものの、静まり返っているせいで父の声はホール内にいる人たち全ての耳に届いている。
 皆、呆れ返った顔をして父を見つめていた。

「お父様」
「なんだ?」
「あなたは私が、はい、そうですね、と答えるとでも思っていらっしゃるのですか?」
「え? あ、だから、その悪かったと謝っているじゃないか」
「失礼ですが何に対して悪いと思っていらっしゃるんです?」
「いや、その、その、あの」

 手を出そうとしたことを口に出せるわけがないし、そのことについては、こんな所で口に出してほしくない。他にも言えることはあるはずだ。
 しかし、父は一つも自分が悪いと思ったことを話すことができなかった。

「私たちは何も悪いことはしていない」
「鞭を打ったことについてはどう説明されるのです?」
「それはお前が悪いことをしたと勘違いしていたからだ」
「私が悪いことをしたとおっしゃいますが、どんなことです?」
「キュージーをいじめたんだろう? 実の姉にしていいことじゃない!」
「いじめなどしていませんし、いじめは実の姉だろうが他人だろうが、してもいいことではありません」

 この人と話をしてわかり合うなんて無駄だ。
 お母様だってそうだ。どうせ、何でも私が悪いと言い出すに決まっている。

 強い視線を感じて父の後ろに目を向けると、お姉様が凶悪な顔をして私を睨んでいた。

 本性を出してしまっているけれど大丈夫かしら。私の位置から見えるのだから、クプンマ王国の両陛下やフレデリック殿下にも見えていると思う。

「うわっ」

 ワウキロヤ様の声が聞こえたので視線を動かすと、姉のほうを見て驚いていた。さすがに姉も自分の顔が凶悪犯に見えていることに気がついたようで、一瞬にして表情を弱々しいものに変えて演技を始めた。

「リファ―ラ、本当にごめんなさい。いじめられていると思っていたけれど、勘違いだったのかもしれないわ。今までは誤解がたくさんあったと思うの。これからは仲の良い姉妹として新たな関係を築かない?」

 姉は私の目の前に立つと、顎の下に両手を置いて目を潤ませた。
 
 可愛い女性がこのポーズをとれば、多くの男性が落ちるらしいが、残念ながら私の性別は女性である。ぶりっこ女子が好きな女性もいると思うし、この人なら許せちゃうと思える人もいると思う。
 だけど、私は目の前のこの人については無理だ。

「お姉様」
「なぁに?」

 許してもらえると思ったのか、姉は笑顔で小首を傾げた。

「無理です」
「は?」
「お姉様と仲の良い姉妹として新たな関係を築くのは無理です」
「ど、どうしてよ!?」
「過去にあなたが私に言った言葉を覚えていらっしゃいますか?」
「わ、わからないわ。たくさん話したもの」
「そうですか。では、思い出してもらうためにお伝えしましょう」

 深呼吸をしたあと、私はいつもよりも声のボリュームを上げて姉に伝える。

「死にたくなるまでいじめ抜いてやる。あなたは私にそうおっしゃったのです」
「やめてよ!」

 私が言い終えた瞬間、姉は私に掴みかかろうとした。

 

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