愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

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10.5 恋心が再燃する人妻(ミシェル視点)

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 お姉様と血が繋がっていないことを知ったのは、わたしが7歳の時だった。
 お母様たちがお姉様を虐待していただとか、そういうわけではなくて、ただ、お母様のお姉様を見る目が冷たく感じて聞いてみたら、真実を教えてくれた。
 かといって、当時の私はそのことを特に気にしていなかった。

 気にするようになったのは、フェリックス様と出会ってからだ。

 元々、ミオ様とお友達になってほしいと、エイト公爵家から依頼されたのはわたしだった。
 エイト公爵家はお姉様がエルンベル伯爵家の人間ではないと知っていたから選ばなかったんだと思う。

 でも、わたしは断った。
 病気の人と仲良くして、自分にも病気をうつされたら嫌だと思ったからだ。
 すると、お母様たちはエイト公爵家に連絡してお姉様でも良いかと確認を取ってくれた。
 了承を得れたので、ミオ様のところにはお姉様が通うことになった。

 それまでは良かった。
 問題は、別邸にフェリックス様も来ていたことだ。
 彼が来ていると知っていたら、お姉様に譲ることなんてしなかった。

 当時のフェリックス様はスタイルも良く整った顔立ちで、独身女性の間でとても人気だった。
 わたしも彼をパーティーで見かけて一目惚れをしていた。

 いつも眉間にシワを寄せていて、人を寄せ付けないオーラを漂わせているけれど、そんなことは気にならないくらいに、彼はわたしの好みのタイプだった。

 彼がお姉様を婚約者にしたいと申し出た時、わたしの思いを知っていた両親は、お姉様に確認することもなく、その話を断わってくれた。

 お姉様はエルンベル伯爵家の正式な血筋じゃない。
 だから、フェリックス様にはふさわしくない。
 お姉様のような汚い血を持つ人間には、それ相応の人で良い。

 お姉様は気が付いていなかったけれど、ロン様はずっとお姉様のことを遠くから見つめていた。

 両親はロン様のことを気味悪がっていたけれど、だからこそ、お姉様の婚約者にしてくれた。
 その後は、お姉様を邸に閉じ込めて、書いた手紙も都合が悪いことがあったら届けないし、届いた手紙も渡さないようにして、わたしはフェリックス様に近付いた。

「お姉様はフェリックス様とのことは遊びだったと言っていましたわ」

 その時のフェリックス様は私を睨みつけただけで何も言わなかった。
 お姉様にも「わたしとフェリックス様は結婚するの」と伝えたけれど、特に気にする様子もなかったから、二人の関係は終わったのだと確信した。

 フェリックス様が本邸に帰ったあともアタックし続けた。
 それなのに、顔に火傷を負って見るのも痛々しい顔になったと聞いて一気に冷めた。

 だから、顔が良くて、気の弱いデイクスと婚約して今に至る。

「醜い顔だって言うのに、よく来れたものね」

 小さな声で呟くと、デイクスが注意してくる。

「相手は公爵令息だよ。そんな失礼なことを言ってはいけない。誰かに聞かれたらどうするんだ」
「大丈夫よ。皆、彼の仮面に気を取られているに決まっているもの」

 ざわざわと彼を取り囲むように人集りができているのが、その証拠だ。

 騒ぎに気が付いた、パーティーの主催者であるシド公爵が近付いていく姿が見えた。
 彼は若き公爵で、フェリックス様の友人でもあるから、声を掛けに向かったようだった。

 シド公爵の明るい声が聞こえてくる。

「やあ、フェリックス。急に出席したいと言い出すからどうしたのかと思ったら、顔を隠すのをやめたんだね」

 フェリックス様の声は低いからか聞き取れない。

 すると、さっきまで人集りの中にいた女性が遠巻きに見守っていた、パートナーらしき男性の元に駆け寄って興奮気味に話しかける。

「フェリックス様のお顔を見てきたけれど、火傷の痕なんて見当たらなかったわ」
「そうなのか? 時間が経って痕がなくなったのかもしれないな」
「本当に素敵だったわ!」

 傷痕がないですって?

「……嘘でしょう」

 信じられなくて、この目で確かめようと、わたしは人集りに近寄っていく。
 シド公爵の顔も良いから、それで女性が騒いでいるのかと思っていたのに、そうじゃないというの?
 人をかき分けて、フェリックス様が見える位置に来て、思わず息を呑んだ。

 仮面のない素顔のフェリックス様は以前よりも大人びていて、顔のどこにも火傷の痕は見当たらなかった。

 わたしは彼の顔が焼けただれたと聞いたから、彼のことを諦めたのよ。
 なのに、昔よりも素敵になっているだなんて信じられない。

「フェリックス様!」

 人の輪の中心にいるフェリックス様に笑顔で声を掛けると、フェリックス様はわたしを見て眉根を寄せた。

 そんな素っ気ない態度も、わたしにはたまらなかった。
 こんなにも好みの顔の人に、もう二度と出会うことはない。
 
「おや、君はサンニ子爵令息の夫人だったかな」

 シド公爵がわたしに笑顔で話しかけてきたので頷く。

「ミシェルと申します。フェリックス様とは昔から交流がありまして」
「知ってるよ。君はシェリル嬢、いや、現在はリグマ伯爵夫人の妹だよね」
「……はい」

 シド公爵はなぜかわたしに近づいてきて、耳元で囁く。

「姉の夫と堂々と浮気しているらしいじゃないか。そのおかげでシェリルは離婚を考えているようだね」
「う、浮気なんかじゃありません」

 どうしてシド公爵がロン様とのことを知っているのよ!?
 しかも、お姉様のことをシェリルと親しげに呼んでいるなんて……。

 困惑していると、シド公爵はわたしから離れ、今度はフェリックス様に近寄って小声で話しかける。

「リグマ伯爵夫妻は現在、離婚危機にあるらしいよ」
「……今、なんて言った?」

 フェリックス様は動揺した様子で、シド公爵に聞き返した。

 
 
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