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15 妹の夫の訴え
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「警備員が女性に何やってんだ」
5年前と比べて、顔立ちに幼さがなくなったフェリックス様は、整った顔を歪めて近づいてくる。
「いや、あの、それは」
デイクスは慌てて私から離れると、奥にある廊下のほうに後退していく。
どうせ逃げても一緒なのに、本当に馬鹿だわ。
しようとしたことが未遂であっても、私に乱暴しようとしていたんだから捕まることは目に見えている。
ミシェルに利用された可能性もあるけど、彼の行動に迷いはないように思えた。
それなら彼の意思で行動したということになる。
動けるようになったので、ゆっくりと身を起こして冷たい木の床に座り込む。
派手に倒れたようでワンピースの膝の部分が破れ、ストッキングも両膝は大きな穴ができていて、そこから引き裂かれたように伝線していた。
「逃げても無駄だぞ」
フェリックス様は私の横を駆け抜けると、デイクスの襟首を掴んで、無理矢理足を止めさせた。
後ろにのけ反るような体勢になったディクスはよろめきながら叫ぶ。
「誤解しないでください! シェリル様から誘われたんです! だから僕は」
「何も悪くないってか? そんなわけねぇだろ。って、お前、サンニ子爵令息じゃないか。なんで警備員の格好してるんだ」
フェリックス様の言葉遣いが悪いのは相変わらずだ。
そんなどうでも良いことを考えられるくらい、彼が助けに来てくれたことで、私の心は落ち着いていた。
「違います! 僕は違います! そんな人間は知りません!」
デイクスは必死にフェリックス様の手から逃れようとした。
すると、急にフェリックス様が手を離した。
いきなり手を離されたせいで、デイクスは勢いで後ろに倒れそうになる。
その背中をフェリックス様が押すと今度は前のめりになった。
でも、何とか倒れずに踏みとどまり、今度こそ逃げようとした。
「逃がすかよ」
すぐにフェリックス様はデイクスを追いかけると、すぐに彼を追い越して目の前に立ちはだかった。
「逃げられると思ってんのか」
「う、うう、そんな、僕は本当に……、悪いことをしようとしたわけじゃなくて」
「逃げようとしてるってことは、自分が悪いことしたってことがわかってるんだろうが」
「あの、そのっ」
デイクスは後ろを振り返ったかと思うと、私に向かって叫ぶ。
「義姉さん、助けてください!」
「助けての意味がわからないわ。あなたが私に乱暴しようとしたんじゃないの。そんな人をどうして助けなくちゃいけないの!」
「違います! 義姉さんが逃げようとしたから追いかけようとしただけです!」
「追いかける意味がわからねぇよ」
フェリックス様はデイクスの胸ぐらを掴んで冷笑する。
「こんな格好してる時点で、もうお前は終わりだってわからないのか?」
「ひっ! 嫌だ……! 捕まりたくないっ!」
叫んだディクスはフェリックス様の手を払って距離を取ると、勢いをつけて殴りかかった。
「本当に馬鹿だな」
フェリックス様が鼻で笑った。
それと同時にデイクスの拳は躱され、そのかわりにフェリックス様の拳がデイクスの頬を捉えた。
「ぐあっ」
殴られた左頬を押さえ、デイクスはその場にしゃがみ込んだ。
「正当防衛だからな」
フェリックス様は呆れた顔をして言った。
公爵令息だからといって、何でも許されるわけじゃない。
すぐに暴力で解決することは良くないということで、フェリックス様はデイクスが手を出してくるのを待っていたみたいだった。
「うっ! えっ!」
泣き始めたデイクスをいつの間にか中に入ってきていた騎士たちが取り押さえる。
「リグマ伯爵夫人、大丈夫か?」
デイクスを騎士たちに任せたフェリックス様は、私に駆け寄ってくると、隣にしゃがみ込んで尋ねてきた。
「助けていただきありがとうございます」
心も体も大丈夫とは言い難かった。
だから、それについては触れずにお礼を言うと、フェリックス様は眉尻を下げた。
「もう少し早く来れたら良かった。遅くなって悪い」
「来ていただけただけで本当に助かりました」
頭を下げてから、ふと疑問に思ったことを口にする。
「でも、どうしてフェリックス様がこちらに?」
「……別にいいだろ」
フェリックス様はバツが悪そうに眉根を寄せたあと、騎士たちに命令する。
「ここにいる警備員はすべて捕まえろ。それから職員にも事情を聞け」
チームリーダーらしき風格のある騎士がフェリックス様に尋ねる。
「聴取後は警察に引き渡しますか」
「そうだな。だが、その前にそいつのことは可愛がってやれ」
「承知いたしました」
騎士は口元に笑みを浮かべて一礼した。
フェリックス様は涙で顔がぐちゃぐちゃになっているデイクスに話しかける。
「お前がやろうとしていたことを他の人間がお前にしてくれることになったぞ。どんなに恐ろしい気持ちになるか実感すれば良い」
「そ、そんな、どういう……、僕は何をされるんですか」
「淑女の前では聞かせられない話だ」
デイクスの顔がどんどん青ざめていく。
私にしようとしていたことって、もしかして、デイクスを男性に襲わせようとしているのかしら。
デイクスはそっちの好みはないでしょうから、それは嫌でしょうね。
「嫌だ……! 僕は本当にミシェルに騙されただけなんです! 今回の手配をしてくれたのも、全部ミシェルなんですよ! こんなことになるってわかっていたら、絶対に手を出したりしない!」
デイクスはうつ伏せにされた状態で絶叫した。
※
次の話はミシェル視点になります。
5年前と比べて、顔立ちに幼さがなくなったフェリックス様は、整った顔を歪めて近づいてくる。
「いや、あの、それは」
デイクスは慌てて私から離れると、奥にある廊下のほうに後退していく。
どうせ逃げても一緒なのに、本当に馬鹿だわ。
しようとしたことが未遂であっても、私に乱暴しようとしていたんだから捕まることは目に見えている。
ミシェルに利用された可能性もあるけど、彼の行動に迷いはないように思えた。
それなら彼の意思で行動したということになる。
動けるようになったので、ゆっくりと身を起こして冷たい木の床に座り込む。
派手に倒れたようでワンピースの膝の部分が破れ、ストッキングも両膝は大きな穴ができていて、そこから引き裂かれたように伝線していた。
「逃げても無駄だぞ」
フェリックス様は私の横を駆け抜けると、デイクスの襟首を掴んで、無理矢理足を止めさせた。
後ろにのけ反るような体勢になったディクスはよろめきながら叫ぶ。
「誤解しないでください! シェリル様から誘われたんです! だから僕は」
「何も悪くないってか? そんなわけねぇだろ。って、お前、サンニ子爵令息じゃないか。なんで警備員の格好してるんだ」
フェリックス様の言葉遣いが悪いのは相変わらずだ。
そんなどうでも良いことを考えられるくらい、彼が助けに来てくれたことで、私の心は落ち着いていた。
「違います! 僕は違います! そんな人間は知りません!」
デイクスは必死にフェリックス様の手から逃れようとした。
すると、急にフェリックス様が手を離した。
いきなり手を離されたせいで、デイクスは勢いで後ろに倒れそうになる。
その背中をフェリックス様が押すと今度は前のめりになった。
でも、何とか倒れずに踏みとどまり、今度こそ逃げようとした。
「逃がすかよ」
すぐにフェリックス様はデイクスを追いかけると、すぐに彼を追い越して目の前に立ちはだかった。
「逃げられると思ってんのか」
「う、うう、そんな、僕は本当に……、悪いことをしようとしたわけじゃなくて」
「逃げようとしてるってことは、自分が悪いことしたってことがわかってるんだろうが」
「あの、そのっ」
デイクスは後ろを振り返ったかと思うと、私に向かって叫ぶ。
「義姉さん、助けてください!」
「助けての意味がわからないわ。あなたが私に乱暴しようとしたんじゃないの。そんな人をどうして助けなくちゃいけないの!」
「違います! 義姉さんが逃げようとしたから追いかけようとしただけです!」
「追いかける意味がわからねぇよ」
フェリックス様はデイクスの胸ぐらを掴んで冷笑する。
「こんな格好してる時点で、もうお前は終わりだってわからないのか?」
「ひっ! 嫌だ……! 捕まりたくないっ!」
叫んだディクスはフェリックス様の手を払って距離を取ると、勢いをつけて殴りかかった。
「本当に馬鹿だな」
フェリックス様が鼻で笑った。
それと同時にデイクスの拳は躱され、そのかわりにフェリックス様の拳がデイクスの頬を捉えた。
「ぐあっ」
殴られた左頬を押さえ、デイクスはその場にしゃがみ込んだ。
「正当防衛だからな」
フェリックス様は呆れた顔をして言った。
公爵令息だからといって、何でも許されるわけじゃない。
すぐに暴力で解決することは良くないということで、フェリックス様はデイクスが手を出してくるのを待っていたみたいだった。
「うっ! えっ!」
泣き始めたデイクスをいつの間にか中に入ってきていた騎士たちが取り押さえる。
「リグマ伯爵夫人、大丈夫か?」
デイクスを騎士たちに任せたフェリックス様は、私に駆け寄ってくると、隣にしゃがみ込んで尋ねてきた。
「助けていただきありがとうございます」
心も体も大丈夫とは言い難かった。
だから、それについては触れずにお礼を言うと、フェリックス様は眉尻を下げた。
「もう少し早く来れたら良かった。遅くなって悪い」
「来ていただけただけで本当に助かりました」
頭を下げてから、ふと疑問に思ったことを口にする。
「でも、どうしてフェリックス様がこちらに?」
「……別にいいだろ」
フェリックス様はバツが悪そうに眉根を寄せたあと、騎士たちに命令する。
「ここにいる警備員はすべて捕まえろ。それから職員にも事情を聞け」
チームリーダーらしき風格のある騎士がフェリックス様に尋ねる。
「聴取後は警察に引き渡しますか」
「そうだな。だが、その前にそいつのことは可愛がってやれ」
「承知いたしました」
騎士は口元に笑みを浮かべて一礼した。
フェリックス様は涙で顔がぐちゃぐちゃになっているデイクスに話しかける。
「お前がやろうとしていたことを他の人間がお前にしてくれることになったぞ。どんなに恐ろしい気持ちになるか実感すれば良い」
「そ、そんな、どういう……、僕は何をされるんですか」
「淑女の前では聞かせられない話だ」
デイクスの顔がどんどん青ざめていく。
私にしようとしていたことって、もしかして、デイクスを男性に襲わせようとしているのかしら。
デイクスはそっちの好みはないでしょうから、それは嫌でしょうね。
「嫌だ……! 僕は本当にミシェルに騙されただけなんです! 今回の手配をしてくれたのも、全部ミシェルなんですよ! こんなことになるってわかっていたら、絶対に手を出したりしない!」
デイクスはうつ伏せにされた状態で絶叫した。
※
次の話はミシェル視点になります。
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