愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

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15 .5 犯罪者の妻(ミシェル視点)

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 慌ただしい足音がわたしのいる部屋に、どんどん近づいてくる。
 そして、その足音はわたしの部屋の前で止まり、すぐに扉がノックされた。

「ミシェル様、大変です! デイクス様が!」

 連絡が遅いと思っていたので、やっとかという気持ちだった。
 慌てた様子でメイドは部屋の中へ入って来ると、わたしが待ち望んでいた報告をしてくれる。

「デイクス様が警察に捕まったと連絡がありました!」
「まあ! 捕まったというのはどういうことなの?」
「そ、それが、シェリル様に乱暴しようとしたそうなんです!」
「お姉様に!? お姉様は無事なの!?」

 精一杯、心配した顔を作るとメイドは何度も頷く。

「はい! デイクス様がシェリル様を襲おうとしたところで、フェリックス様が助けに入られたのだそうです」
「……フェリックス様が?」
「はい! 妹のミオ様がシェリル様の護衛をフェリックス様に頼まれたそうです」
「そ、そうなの。ミオ様が……」

 何なのよ。
 フェリックス様がお姉様の護衛ですって?
 ミオ様はなんてことをしてくれるのよ!

 デイクスもデイクスだわ。
 フェリックス様がいるのに、どうしてお姉様を襲ったりするのよ。
 失敗するに決まっているんだから、普通は計画を中止するでしょうに。
 
 デイクスがお姉様を襲ったあとに、内通させていた職員が2人を見つける予定だった。

 それなのに、未遂だった上にフェリックス様がお姉様を助けただなんてありえない。
 フェリックス様が助けてくれるのなら、わたしだって誰かに襲われてみたい。

 わたしが憧れている状況をお姉様が経験するだなんて!

「ミシェル様、ショックですわよね」
「……ええ。かなりショックよ。だから、決めたわ。お姉様を襲おうとする人と夫婦生活は続けていられない」
「……ミシェル様?」

 不思議そうな顔になっているメイドに宣言する。

「わたしもお姉様のように別居させてもらうことにするわ」
「で、ですがミシェル様! こういう時こそデイクス様はミシェル様に寄り添ってほしいのではないでしょうか」
「犯罪者に寄り添えと言うの?」

 余計なことを言うメイドを睨みつけると、すぐに大人しくなった。

「ごちゃごちゃ言わないで! わたしは実家に帰るから荷造りをしてちょうだい!」
「承知いたしました!」

 すぐにフットマンや他のメイドも部屋に入ってきて荷造りを始めた。

 デイクスはロン様のように離婚したくないなんて言わないでしょう。
 ……言えなくするというほうが正しいかしら。
 離婚を認めてくれれば、減刑を求めてあげると言えば彼も彼の両親も離婚を受け入れるしかないでしょう。

 フェリックス様が出てきたのは予想外だったけれど、今のところは上手くいっている。

 お姉様が裁判所に行くという情報をロン様の交渉代理人から聞いたあと、実家に頼んで色々と手配してもらった。

 急だったこともあり、警備員の格好をして乗り込ませるという粗末なやり方になってしまったのは悔やまれる。

 デイクスにお姉様と合流して、裁判所の中で行為をするように言うと、デイクスは小心者だから最初は断ってきた。
 でも、最後はお姉様を抱いてみたいという欲望に負けた。

 彼は今回の件はわたしに言われたと言うでしょうけれど証拠はない。
 金を渡した警備会社の人間は、実家が手配しているから、わたしが関与していることは知らない。
 だから、そんなことは言っていないと言えばいいだけ。

 別にデイクスがお姉様を襲えなくても良かった。
 わたしは離婚する理由がほしかっただけなんだから。

 デイクスは本当に馬鹿だわ。 
 愛すべき馬鹿と言ってあげましょう。

 まだ、お姉様を自分のものにできていたら、救いがあったんでしょうけどね。

 離婚したら、今度こそフェリックス様をわたしのものにするわ。

 お姉様には絶対にフェリックス様を渡したりなんかしない。

 フェリックス様の運命の相手はわたしなのよ。

 わたしがフェリックス様を落とすまでは、お姉様とロン様を絶対に離婚なんてさせないわ。

 離婚したら、お姉様がわたしとフェリックス様の仲を邪魔してくるに決まっているもの。

「……そうだわ。どうして、フェリックス様が裁判所にいたの? もしかして、お姉様とフェリックス様は内緒でお付き合いしていたんじゃないの?」

 荷造りをしているメイドに話しかけると、困ったような顔をする。

「先程申し上げましたが、ミオ様がシェリル様の護衛をフェリックス様に頼まれたと聞いております」

 そんな情報は入ってきていない。
 そうだわ。
 これを理由にお姉様を貶めましょう。

「そんなの嘘よ! ……そうだわ。浮気よ。お姉様はロン様の浮気を理由にして別居しているけれど、フェリックス様と浮気していたんだわ!」

 わたしとロン様の関係はメイドたちには知られていない。
 それなのに、メイドたちはどこか冷めた目でわたしを見つめたのだった。
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