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17 義母からの手紙
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フェリックス様はミオ様と一緒に裁判所に向かう馬車の中で、今までの経緯を聞いてくれていた。
ミシェルのために、わたしとフェリックス様の仲を引き裂いたと知って、フェリックス様は私の両親にに恨みに近い感情を持ったようだった。
エイト公爵邸に戻ってすぐ、常駐しているお医者様に診てもらい、傷の手当てをしてもらった。
しばらく安静にするようにと言われたけれど、歩けないわけではない。
だから、私に付いてくれているメイド、ソミナと一緒に部屋に向かっていると、フェリックス様が前方から現れて声をかけてきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「骨が折れたりしているわけではなさそうです。安静にするようには言われましたが、ご覧の通り歩けます」
「そうか」
フェリックス様は片足を引きずるようにして歩いている私を見て悲しそうな顔になった。
この怪我は彼のせいではないので笑いかける。
「そんなに悲しい顔をしないでください。わたしは本当にフェリックス様に感謝しています」
「今回のことだけじゃなくて、俺がもっとちゃんとしてたら、こんなことにならなかっただろ」
眉尻を下げたフェリックス様の顔を見て、胸がドキドキしてしまう自分に腹が立つ。
忘れたつもりだったのに、気持ちが再燃しそうになっている。
駄目よ。
私はまだ、ロン様の妻なんだから。
フェリックス様だってそれはわかってくれているはず。
「ソミナ、シェリルさんが歩きやすいように松葉杖を持ってきてちょうだい」
階段前の廊下で立ち話をしていたからか、セレナ様が階段を下りてくるところとかち合った。
セレナ様は私の怪我を心配してくれたあとに、一度、フェリックス様を見てからソミナに指示をした。
「承知いたしました。シェリル様、申し訳ございませんが、こちらでお待ちいただけますか。松葉杖を持ってまいります」
「自分で部屋に戻れるから戻って部屋で待っていても良いかしら」
「ですが、お一人では心配です」
「俺が送る」
フェリックス様が言うと、ソミナではなくセレナ様が笑顔で頷く。
「それが良いわ」
セレナ様はわたしとフェリックス様が二人で話す機会を作ってくれたようだった。
ソミナもその意図を瞬時に理解したみたいだ。
セレナ様とのソミナか一緒に歩いていってしまったので、廊下に残された私たちは少しの間だけ、その場を動かないだけでなく、何も話さなかった。
沈黙を破ったのは、私だった。
「……フェリックス様」
「フェリックスでいい」
「申し訳ございませんが、公爵令息のあなた様をそのように呼ぶことはできません」
「……そうか、そうだよな」
フェリックス様の声のトーンが一気に低くなった。
「……フェリックス様」
あからさまに落ち込んだ様子を見せて歩き始めた彼の背中に声を掛ける。
「どうした?」
「私は今は人妻です。しかも、離婚したいと願っています。それは夫に浮気をされたからです」
フェリックス様は足を止め、真剣な表情で私の言葉の続きを待っている。
「離婚するまでは、フェリックス様との未来は見えません。……でも、離婚してからはフェリックス様次第です」
「……シェリル」
フェリックス様は驚いた顔で、私のほうに手を伸ばそうとした。
でも、すぐにその手を下ろすと、はにかんだ笑みを浮かべる。
「その言葉を聞けただけで頑張れそうだ」
「……フェリックス様は趣味が悪いですね」
自然消滅だと思いこんで、親が決めたとはいえ婚約者と仲良くなって結婚までしてしまった私なんかを好きでいてくれたことは、本当に奇跡みたいな話だと思う。
昔みたいに憎まれ口を叩くと、フェリックス様は頷く。
「だから、誰かさんしか好きになれないんだ」
何か言い返したくなったけれどやめた。
気を緩めては駄目だ。
ロン様のこともそうだけれど、ミシェルたちとのこともままだ何も終わってないんだから。
ゆっくり、私の部屋に向かって足を進めていると、今度はミオ様がやって来た。
「シェリル! リグマ伯爵のお母様からお手紙が届いていますわよ。あなたが良いのであれば、危険物が入っていないか調べさせますわ」
「開けてくださってかまいません」
今更、義母は私に何の用事なのかしら。
そう思ったあと、使用人たちがどうなったか調べてもらうことにしていたことを思い出した。
「そういえば、使用人たちはどうなりましたか」
「誰かが解雇されたとか、そんなことはないみたいですから安心してくださいな。向こうもきっと、下手に解雇などして自分たちがしたことをバラされたくはないのでしょう」
「守秘義務が生じますものね」
使用人は本来は邸内で起こったことを口外してはならない。
でも、不当解雇をしようものなら、守秘義務を無視して、元雇い主を訴える可能性があるから、下手に解雇ができないのでしょう。
調べてもらったお礼を言って、フェリックス様と部屋に戻ると、ミオ様が手紙を持ってきてくれた。
手紙にはどうしても私と直接会って話をしたいと書かれていた。
和解してくれるつもりなのかどうかは書かれていないのでわからない。
レファルド様とセレナ様に相談してみると、場所はエイト公爵邸内で交渉代理人も同席することを条件に、会うことを許可された。
会う必要はないかもしれない。
でも、会うことによって、こちらがより有利になることが起きると判断したからだった。
ミシェルのために、わたしとフェリックス様の仲を引き裂いたと知って、フェリックス様は私の両親にに恨みに近い感情を持ったようだった。
エイト公爵邸に戻ってすぐ、常駐しているお医者様に診てもらい、傷の手当てをしてもらった。
しばらく安静にするようにと言われたけれど、歩けないわけではない。
だから、私に付いてくれているメイド、ソミナと一緒に部屋に向かっていると、フェリックス様が前方から現れて声をかけてきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「骨が折れたりしているわけではなさそうです。安静にするようには言われましたが、ご覧の通り歩けます」
「そうか」
フェリックス様は片足を引きずるようにして歩いている私を見て悲しそうな顔になった。
この怪我は彼のせいではないので笑いかける。
「そんなに悲しい顔をしないでください。わたしは本当にフェリックス様に感謝しています」
「今回のことだけじゃなくて、俺がもっとちゃんとしてたら、こんなことにならなかっただろ」
眉尻を下げたフェリックス様の顔を見て、胸がドキドキしてしまう自分に腹が立つ。
忘れたつもりだったのに、気持ちが再燃しそうになっている。
駄目よ。
私はまだ、ロン様の妻なんだから。
フェリックス様だってそれはわかってくれているはず。
「ソミナ、シェリルさんが歩きやすいように松葉杖を持ってきてちょうだい」
階段前の廊下で立ち話をしていたからか、セレナ様が階段を下りてくるところとかち合った。
セレナ様は私の怪我を心配してくれたあとに、一度、フェリックス様を見てからソミナに指示をした。
「承知いたしました。シェリル様、申し訳ございませんが、こちらでお待ちいただけますか。松葉杖を持ってまいります」
「自分で部屋に戻れるから戻って部屋で待っていても良いかしら」
「ですが、お一人では心配です」
「俺が送る」
フェリックス様が言うと、ソミナではなくセレナ様が笑顔で頷く。
「それが良いわ」
セレナ様はわたしとフェリックス様が二人で話す機会を作ってくれたようだった。
ソミナもその意図を瞬時に理解したみたいだ。
セレナ様とのソミナか一緒に歩いていってしまったので、廊下に残された私たちは少しの間だけ、その場を動かないだけでなく、何も話さなかった。
沈黙を破ったのは、私だった。
「……フェリックス様」
「フェリックスでいい」
「申し訳ございませんが、公爵令息のあなた様をそのように呼ぶことはできません」
「……そうか、そうだよな」
フェリックス様の声のトーンが一気に低くなった。
「……フェリックス様」
あからさまに落ち込んだ様子を見せて歩き始めた彼の背中に声を掛ける。
「どうした?」
「私は今は人妻です。しかも、離婚したいと願っています。それは夫に浮気をされたからです」
フェリックス様は足を止め、真剣な表情で私の言葉の続きを待っている。
「離婚するまでは、フェリックス様との未来は見えません。……でも、離婚してからはフェリックス様次第です」
「……シェリル」
フェリックス様は驚いた顔で、私のほうに手を伸ばそうとした。
でも、すぐにその手を下ろすと、はにかんだ笑みを浮かべる。
「その言葉を聞けただけで頑張れそうだ」
「……フェリックス様は趣味が悪いですね」
自然消滅だと思いこんで、親が決めたとはいえ婚約者と仲良くなって結婚までしてしまった私なんかを好きでいてくれたことは、本当に奇跡みたいな話だと思う。
昔みたいに憎まれ口を叩くと、フェリックス様は頷く。
「だから、誰かさんしか好きになれないんだ」
何か言い返したくなったけれどやめた。
気を緩めては駄目だ。
ロン様のこともそうだけれど、ミシェルたちとのこともままだ何も終わってないんだから。
ゆっくり、私の部屋に向かって足を進めていると、今度はミオ様がやって来た。
「シェリル! リグマ伯爵のお母様からお手紙が届いていますわよ。あなたが良いのであれば、危険物が入っていないか調べさせますわ」
「開けてくださってかまいません」
今更、義母は私に何の用事なのかしら。
そう思ったあと、使用人たちがどうなったか調べてもらうことにしていたことを思い出した。
「そういえば、使用人たちはどうなりましたか」
「誰かが解雇されたとか、そんなことはないみたいですから安心してくださいな。向こうもきっと、下手に解雇などして自分たちがしたことをバラされたくはないのでしょう」
「守秘義務が生じますものね」
使用人は本来は邸内で起こったことを口外してはならない。
でも、不当解雇をしようものなら、守秘義務を無視して、元雇い主を訴える可能性があるから、下手に解雇ができないのでしょう。
調べてもらったお礼を言って、フェリックス様と部屋に戻ると、ミオ様が手紙を持ってきてくれた。
手紙にはどうしても私と直接会って話をしたいと書かれていた。
和解してくれるつもりなのかどうかは書かれていないのでわからない。
レファルド様とセレナ様に相談してみると、場所はエイト公爵邸内で交渉代理人も同席することを条件に、会うことを許可された。
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