愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

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21 夫婦関係の終わり 前

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※このお話の中での裁判のやり方であり、現実の裁判と一緒にしないことを、ご了承いただいた上でお読みください。




 第一回口頭弁論の日、傍聴席は多くの人で埋まっていて空席はなかった。
 朝早くから並んでいる人もいて、急遽、整理券を配り、私やロン様の関係者や知り合い以外は抽選になったらしい。

 貴族の離婚なんて円満もしくは調停で済ませることが多いから、暇を弄んでいる御婦人たちにしてみれば良い暇つぶしになるのだと思われる。
 お父様やお母様だけでなくお兄様の顔も見えるし、エイト公爵家からもミオ様やフェリックス様だけでなくレファルド様もセレナ様も来てくれていた。
 そして、フェリックス様の隣にはシド公爵もいる。

 シド公爵は、昨日の内に様子を見に来てくれていた。

 トーマツ先生がギャラリーの中にゴシップ誌の記者もいると教えてくれたので、しばらくの間は世間で面白おかしく話をされそうだ。
 
 パトロア様とミシェルは証人席に座っていて、さすがに緊張した面持ちをしている。
 でも、ミシェルのほうは、たまにフェリックス様に視線を向けているから、極度の緊張というわけでもなさそうだった。

 ロン様はわたしと向き合うような形で離れた場所に座っている。
 
 時間になり、長いストレートの白髪を持つ、年配の女性の裁判長の開廷の宣言をした。
 その後、流れ通りにトーマツ先生が訴訟内容を読み上げた。
 トーマツ先生はロン様とミシェルの浮気、デイクスとの関係の強要を理由に、離婚したい旨の話をしてくれた。
 私を軟禁していたという話は、向こうがごねるようなら、もう一つの手として話しをする段取りになっている。

 相手側のブランドン先生は、ロン様とミシェルの浮気は私の思い込みであり、ロン様は私に信じてもらえないショックで夜も眠れないのだと訴えた。
 裁判長のほうがロン様に「何か補足しておきたいことがありますか」と尋ねたので、彼は頷くと立ち上がり、証言台の前に立った。

「僕は昔からシェリルのことを本当に愛していたんです。彼女が僕のものになったと知って嬉しかった」

 ロン様は裁判長から私に視線を移して話しを続ける。

「そんな人にパートナー交換を求めるだなんてありえません」

 よくもまあ、そんな嘘を言えるものね。
 カチンときてしまい、つい眉をひそめてしまった。

 今度は裁判長が私に言いたいことがあるかと聞いてきたので、トーマツ先生を見ると「落ち着いて証言できるのであればかまいません」と言われた。

 感情的になっては意味がない。
 ただ、事実を裁判長や裁判官の人たちに伝えれば良い。

 多くの視線が自分に集まるのを感じながら、証言台に立って口を開く。

「夜だけパートナー交換を、子供ができたら交換すると言われた時のショックは尋常のものではありません。それから、ロン様とミシェルの浮気ですが、エイト公爵家の関係者の方も目撃しています。そして、ロン様の個人的な理由で初夜さえも迎えていないにもかかわらず、孫を欲しがる義両親に子供ができない理由は私のせいだと言った人と、どうやって結婚生活が続けられると言うのでしょうか」

 傍聴席が騒がしくなった。
 私とロン様が初夜を迎えていないということが予想外だったのかもしれない。

 すると、裁判長がガベルを打ち鳴らす。

「静粛に! 騒ぐようでしたら退廷していただきますよ」

 傍聴席は一気に静まり返り、裁判長は一息ついてからロン様に尋ねる。

「今の発言で話をしておきたいことはありますか」
「あります!」

 ロン様は叫ぶと、その場で立ち上がって証言台にいる私に訴えてくる。

「僕は本当に君を傷つけたくなかっただけだ。シェリル! 君は僕のことを愛していなかったのか?」
「……いきなり何を言っておられるのですか?」
「僕のことを愛しているのなら離婚なんて馬鹿なことは考えないはずだ!」
「私のロン様への気持ちが愛であったとしても、あなたの行動によって冷めることだってあるでしょう」
「そんなことはない! 愛しているなら何でもできるんだ! 君が僕のことを愛してくれているなら、君は僕の言葉を受け入れて、離婚だなんて考えないはずだ」

 ロン様の勝手な言い分を聞いて、大きく深呼吸をしてから彼を睨みつけて問う。

「愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか」
「……え?」

 ロン様がぽかんと口を開けて、私を見つめる。

「……ロン様は私を愛しているのですか」
「そうだよ! だから、どんな君だって受け入れるんだ」
「何でもできるんですわよね?」
「そうだよ! だから、君が帰ってきてくれたら初夜をやり直そう!」
「ロン様、もう一度聞きます。私を愛しているんですね? 二言はないですか」
「そうだって言ってるだろ!」

 ふうと息を吐いてから、トーマツ先生を見ると口元に笑みを浮かべて頷いてくれた。
 裁判長や裁判官に目を向けると、私が何を言おうとしているのかわかったようで、ロン様を無表情で見つめている。

「これだけ多くの人の前で証言してくれたのですから間違いはないのでしょう。では、ロン様、私を愛していて、愛しているなら何でもできるというのであれば、私と離婚してください」
「あっ!」

 ロン様の目に一瞬にして大粒の涙が浮かんだのが見えた。



 
 
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