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35 元妹に起こっていること
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次の日、シド公爵家から派遣されていた男性から、ミシェルのことで報告を受けた。
サウニ子爵家から門前払いされ、エルンベル男爵家に助けを求めたミシェルだったけれど、そこに待ち受けていたのは警察だった。
警察から逃れるために、雷雨の中走り出したところで、近くの木に雷が落ち、近くにいたミシェルはその衝撃波を受けて意識を失った。
ミシェルは現在は意識はあるものの、一時だけ心肺停止状態にあったらしい。
でも、その場にいた警察官が心肺蘇生措置をしてくれたので、脳への障害も少ないだろうと言われている。
「ミシェルさんは今はどうされているんでしょうか」
「現在は診療所で治療を受けていますが、後遺症が残るかもしれないとのことでした」
「そうですか。雨の中、本当にありがとうございました」
頭を下げると、また「これが仕事ですから。何かあればまたご報告いたします」と言って、男性は去っていった。
*****
それから数十日経っても、ミシェルの状態は悪くなりはしないものの良くもならなかった。
本人に直撃したわけではないし、心肺停止の時間も短かった。
普通ならもっと早くに回復するはずなのに、ミシェルの場合は今までの事例に比べて、かなり重症なので後遺症だろうと判断された。
ミシェルは神様の怒りを買ったのかもしれない。
私だけじゃなく、フェリックスもミオ様も、他の多くの人もそう思った。
自分のことを考えることは悪くない。
でも、彼女はあまりにも自分勝手すぎた。
今はデイクスからもらった慰謝料で医療代を支払えているけれど、この国の治療費は自由診療で安くもない。
平民向けの診療所とはいえ、入院が長く続けば、ミシェルはお金を払えなくなって診療所を追い出されてしまう。
現在のミシェルは上半身が麻痺した状態らしく、誰かの補助がなければ自分一人では生活が厳しい。
警察はミシェルが退所次第、逮捕するつもりだそうだけれど、このままではどうなるかわからない。
この間に元伯爵夫妻は警察に捕まっていた。
夫人は息子を逆恨みしていて罪を犯そうとする夫を止めなかったことや加担しようとしたこと、元伯爵はミシェルに言われるがままに良くないものだとわかっていて、人によっては毒にもなるものを送りつけたということで罪に問われた。
平民が貴族にしたことであり、自分勝手な理由と一時の感情だけで自分の孫の命を危険にさらしたということで懲役刑が決まった。
長年、貴族の生活の暮らしを続けていた夫妻には厳しい生活のようで、毎日、泣き言を言いながら過ごしていると聞いた。
といっても、住む場所のない彼らにしてみれば、雨風のしのげる場所にいられるのなら、まだマシなのかもしれない。
元伯爵よりも罪が少し軽い夫人は刑期を終えて出てきた時に待ってくれている人はいない。
出所後の支援制度はこの国にはないから、どうやって暮らしていくのかわからない。
ソラン様のところに行く可能性もあるけれど、受け入れてもらえるはずがない。
反省しているのであれば、絶対に行けない場所でもある。
「シェリル」
談話室の窓際に立ち、ぼんやりと窓の外を眺めていると、後ろから声をかけられて振り返る。
「フェリックス! また来たの?」
「婚約者相手に、また来たのはないだろ」
「だって、あなたの住んでいる所からここはかなり離れているじゃないの。それなのに、10日に一度くらいは来ているわよ」
「10日に一度ってことはない。往復に約5日、仕事は5日。シェリルに会えるのは1日だろ。だから11日だな。往復の馬車の中でも仕事はしてるし心配するな」
「細かいことを言わないで。そんな生活をしていたら、あなたの体が心配よ。5年も会っていなかったんだから、30日くらいに一度会えるだけでも嬉しいわ」
右手を伸ばしてフェリックスの頬を撫でると、彼はその手を取って口付けた。
「5年も会ってなかったんだから、余計に会いたいんだよ。それにシェリルが嫁に来てくれれば、こんな生活を送らなくて済む」
「ミオ様の結婚が決まるまでは駄目よ」
現在はロータス様がミオ様に猛アタック中だ。
でも、ミオ様が鈍すぎて好きだとストレートに伝えても伝わらなくて苦労している。
「そんなこと言って、ミオがロータスと結婚したら、ロータスの妹だし、ミオの侍女だからっていって、ロータスの邸に行くんだろ」
「そうなったら、あなたと結婚してから行くことにするわ」
「仕事のために離れ離れで暮らす夫婦もいるが、せめて新婚期間は一緒にいてくれ」
フェリックスはそう言って、優しく唇を重ねてきた。
「そうね、そうするわ」
唇が離れたあと、笑って頷いた時だった。
足音が近づいてくることに気が付き、フェリックスが眉根を寄せて、扉のほうに顔を向けた。
すぐに扉が叩かれて、メイドの声が聞こえる。
「シェリル様、お取り込み中のところ申し訳ございません。お手紙が届いています」
「手紙? 誰から?」
扉を開けることを許可すると、中に入ってきたメイドは私に手紙を差し出してきた。
手紙の差出人はミシェルが世話になっている診療所の先生の奥様からだった。
手紙にはミシェルの手が上手く動かないので代筆していること、彼女が私とどうしても話をしたいと言っていると書かれていた。
サウニ子爵家から門前払いされ、エルンベル男爵家に助けを求めたミシェルだったけれど、そこに待ち受けていたのは警察だった。
警察から逃れるために、雷雨の中走り出したところで、近くの木に雷が落ち、近くにいたミシェルはその衝撃波を受けて意識を失った。
ミシェルは現在は意識はあるものの、一時だけ心肺停止状態にあったらしい。
でも、その場にいた警察官が心肺蘇生措置をしてくれたので、脳への障害も少ないだろうと言われている。
「ミシェルさんは今はどうされているんでしょうか」
「現在は診療所で治療を受けていますが、後遺症が残るかもしれないとのことでした」
「そうですか。雨の中、本当にありがとうございました」
頭を下げると、また「これが仕事ですから。何かあればまたご報告いたします」と言って、男性は去っていった。
*****
それから数十日経っても、ミシェルの状態は悪くなりはしないものの良くもならなかった。
本人に直撃したわけではないし、心肺停止の時間も短かった。
普通ならもっと早くに回復するはずなのに、ミシェルの場合は今までの事例に比べて、かなり重症なので後遺症だろうと判断された。
ミシェルは神様の怒りを買ったのかもしれない。
私だけじゃなく、フェリックスもミオ様も、他の多くの人もそう思った。
自分のことを考えることは悪くない。
でも、彼女はあまりにも自分勝手すぎた。
今はデイクスからもらった慰謝料で医療代を支払えているけれど、この国の治療費は自由診療で安くもない。
平民向けの診療所とはいえ、入院が長く続けば、ミシェルはお金を払えなくなって診療所を追い出されてしまう。
現在のミシェルは上半身が麻痺した状態らしく、誰かの補助がなければ自分一人では生活が厳しい。
警察はミシェルが退所次第、逮捕するつもりだそうだけれど、このままではどうなるかわからない。
この間に元伯爵夫妻は警察に捕まっていた。
夫人は息子を逆恨みしていて罪を犯そうとする夫を止めなかったことや加担しようとしたこと、元伯爵はミシェルに言われるがままに良くないものだとわかっていて、人によっては毒にもなるものを送りつけたということで罪に問われた。
平民が貴族にしたことであり、自分勝手な理由と一時の感情だけで自分の孫の命を危険にさらしたということで懲役刑が決まった。
長年、貴族の生活の暮らしを続けていた夫妻には厳しい生活のようで、毎日、泣き言を言いながら過ごしていると聞いた。
といっても、住む場所のない彼らにしてみれば、雨風のしのげる場所にいられるのなら、まだマシなのかもしれない。
元伯爵よりも罪が少し軽い夫人は刑期を終えて出てきた時に待ってくれている人はいない。
出所後の支援制度はこの国にはないから、どうやって暮らしていくのかわからない。
ソラン様のところに行く可能性もあるけれど、受け入れてもらえるはずがない。
反省しているのであれば、絶対に行けない場所でもある。
「シェリル」
談話室の窓際に立ち、ぼんやりと窓の外を眺めていると、後ろから声をかけられて振り返る。
「フェリックス! また来たの?」
「婚約者相手に、また来たのはないだろ」
「だって、あなたの住んでいる所からここはかなり離れているじゃないの。それなのに、10日に一度くらいは来ているわよ」
「10日に一度ってことはない。往復に約5日、仕事は5日。シェリルに会えるのは1日だろ。だから11日だな。往復の馬車の中でも仕事はしてるし心配するな」
「細かいことを言わないで。そんな生活をしていたら、あなたの体が心配よ。5年も会っていなかったんだから、30日くらいに一度会えるだけでも嬉しいわ」
右手を伸ばしてフェリックスの頬を撫でると、彼はその手を取って口付けた。
「5年も会ってなかったんだから、余計に会いたいんだよ。それにシェリルが嫁に来てくれれば、こんな生活を送らなくて済む」
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現在はロータス様がミオ様に猛アタック中だ。
でも、ミオ様が鈍すぎて好きだとストレートに伝えても伝わらなくて苦労している。
「そんなこと言って、ミオがロータスと結婚したら、ロータスの妹だし、ミオの侍女だからっていって、ロータスの邸に行くんだろ」
「そうなったら、あなたと結婚してから行くことにするわ」
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フェリックスはそう言って、優しく唇を重ねてきた。
「そうね、そうするわ」
唇が離れたあと、笑って頷いた時だった。
足音が近づいてくることに気が付き、フェリックスが眉根を寄せて、扉のほうに顔を向けた。
すぐに扉が叩かれて、メイドの声が聞こえる。
「シェリル様、お取り込み中のところ申し訳ございません。お手紙が届いています」
「手紙? 誰から?」
扉を開けることを許可すると、中に入ってきたメイドは私に手紙を差し出してきた。
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