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34.5 天罰(ミシェル視点)

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※ミシェル視点が不快になる方は読み飛ばしてください。
(どんなことが起こったかは、シェリルが次の話で簡単に説明はいたします)




 急いで子爵家に戻ると、馬車は屋敷の門の前で停まった。
 普段なら、ポーチの前で停まるはずなのに、そうじゃないことに不安になる。
 雨脚はまだ強いままだから、ここから邸まで歩くなんてありえない。

 門番と御者が話をしているのが窓から見えた。

 少ししてから、馬車はまた動き出して今度こそポーチの前で停まった。
 御者に扉を開けてもらい、慌てて降りると、邸の扉が開かれてデイクスが出てきた。

「ミシェル、君の望み通りに離婚届を提出しておいたよ」
「ちょっと待って、デイクス! わたしはやっぱり離婚することをやめようと思っているのよ!」
「何を言ってるんだ。あれだけ離婚したがっていたんだ。今更、そんなことを言われても迷惑だ。僕は君の望み通りに離婚届を提出して受理されたよ」
「そ……、そんな」

 何か言おうと考えていると、フットマンがトランクケースを5つ持ってきてポーチに置いた。

「君たちの荷物をまとめておいた。あと、これは僕と両親からだ」

 そう言って、デイクスは茶封筒を差し出してきた。
 
「な、何なの?」
「中身は慰謝料だよ。君に騙されたとはいえ、僕のしたことはやってはいけないことだった。それから長い間、離婚を渋っていて申し訳なかった」
「申し訳ないと思うなら離婚はやめてよ! あなたに見捨てられたら、わたしたちはどうなるのよ!」
「……聞くけど、離婚したがっていた時に離婚していたらどうなっていたんだ?」
「お兄様の邸でもっと幸せになれていたわよ!」

 離婚したあとはお兄様の元へ行って、そこでフェリックス様に愛されるまで頑張るつもりだった。
 わたしが公爵夫人になれると思っていたのに!
 それなのに、フェリックス様はわたしではなく、シェリルを選んだ!

 悔しくて涙が溢れてくる。
 わたしの何が悪いの? 
 だって、わたしはきっかけを与えただけで実行はしてないわ! 

「助けてよ、デイクス! わたしは平民に負けたのよ! 可哀想だと思うでしょう!?」
「ミシェル、君ももう平民だよ。それから、君の兄は絶対に君たちを助けないだろうね」

 そこで一度言葉を区切り、デイクスは悲しげに微笑む。

「さようなら、ミシェル。僕のしたことは許されることじゃない。罪滅ぼしになるかはわからないけれど、領民のために自分にできることを頑張っていくよ」
「待って、デイクス! 今、あなたに見捨てられたら、わたしたちはどうなるの!」

 背を向けたデイクスを追いかけようとすると、扉の前に立っていた騎士に止められてしまう。

「放して! 放してよ! デイクス! 待って! わたしが悪かったわ! 謝るから、これから心を入れ替えるから!」
 
 謝ったのに、デイクスは許してくれなかった。
 彼は一度も振り返ることなく邸の中に入っていき、ドアマンの手によって扉が閉められた。

 わたしが抵抗をやめると、騎士は私から離れてくれた。
 お父様たちは呆然とした表情で立ち尽くしているだけで、激しい雨が地面や窓などにぶつかる音だけが耳に聞こえてくる。
 
「わたしは平民になんかなりたくない!」

 馬車はまだその場に停まっていたので御者に向かって叫ぶ。

「エルンベル男爵邸に向かって!」

 今までわたしを放置してきたんだから、こんな時こそ面倒を見てもらわないと!

 御者は文句一つ言うこともなく、トランクケースをのせてくれた。
 そして、わたしが馬車の中に乗り込むと、両親も一緒に乗り込んでくる。

「今まで育ててきてやったんだ。ソランには恩を返してもらう。元々は私の爵位だったんだ!」

 お父様は馬車の中でそう叫んだ。




*****



 エルンベル男爵邸に着く頃には、夕刻になっていた。
 雨は一向に止むようすはなく、先程から雷が鳴り響いていて、その音はどんどん近づいてきているようにも思える。

 エルンベル男爵邸はこじんまりとした三階建ての木造だったけれど、わたしたちが住めるくらいの部屋数があった。
 庭はそう広くはなく、背の高い木が数本立っているくらいで、花壇などはない。
 門から邸まで続く道は整備されているけれど、その他は荒れ地のように見える。
 門の前には知らない馬車が停まっていて、来客が来ているようだった。
 でも、わたしはお兄様の妹なんだから、そんなことは関係なく中に入れるはずだ。

 お兄様に面倒を見てもらって貴族の誰かを紹介してもらって結婚すれば、また、わたしは貴族に戻れる。
 
 そう思っていた。
 馬車から降りて、扉を開けて出てきた執事らしき男性に、お父様がお兄様と面会したいと言った。
 中には入れてもらえず、ポーチで待っていると扉が開いて、中から人が出てきた。
 出てきたのは、お兄様ではなかった。

 スーツ姿の女性は、わたしたちの前に立つと、胸ポケットから警察手帳を取り出して話しかけてくる。

「ミシェルさんとそのご両親ですね。ちょうどお話を聞かせていただきたくて、サンニ子爵家に伺おうとしていたんです」
「な、何なんですか」

 どうして、警察がわたしに用事があるのよ!
 あるとしたら、お父様にでしょう!?

 後退りながら尋ねると、女性は言う。

「ここでお話するのもなんですので、皆さん、わたくしどもにご同行願えますか」
「嫌よ。わたしは何も話すことなんてないわ!」

 大雨の中、荷物をおろし終えて、サンニ子爵家に戻っていこうとする馬車を追いかけて走り出した時だった。

 光と共に耳を劈くような雷鳴が響き、全身が熱に包まれた気がした。

 それと同時に、わたしは地面に倒れ込み目を閉じた。
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