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第3章 戻ってきた救世主

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 シード様が傍にいてくれていることと、無事にこの家から抜け出せそうだとわかってホッとしたのか、わたしはシード様に声を掛けることも忘れて、また眠りについてしまっていた。

 そして、次の日の朝、目を覚ました時には、すでにシード様は目を覚まして本を読んでいた。

 横になったままのわたしと目が合うと、シード様は本から目を上げて微笑む。

「おはよう、セフィリア」
「おはようございます!」
「夜中の内に紙に書いてることを読んだだろうから知ってると思うけど、うちのほうは許可が下りた。でもまだ、エルテ公爵からの許可は得れてないから、そっちは今、連絡を入れてるとこだ。今の段階では仮の婚約者だが、あんなこともあったし、昨日はこの部屋で眠らせてもらった」
「声を掛けてくだされば、ベッドを空けましたのに」
「女性からベッドを奪い取る程、俺様思考じゃねぇよ」

 シード様は目を細めて、わたしを軽く睨んだ。
 慌てて上半身だけ起こして頭を下げる。

「失礼なことを申し上げまして、大変申し訳ございません。あの、話は変わるのですが、わたしのほうはどうでしたでしょう? ロビースト様と婚約していることになっていたのでしょうか。それとも、デスタと?」
「再度確認したが、兄さんとの婚約は解消されている。でも、ロイアン卿とは再婚約してることになってる」
「そんな! 信じられません! お父様は娘を何だと思っているんでしょうか!」
「さあな。エルテ公爵の考えてることは俺にもわからねぇ。言えるのは、最低な父親だということと、エルテ公爵なりにセフィリアには期待してるってとこか?」
「わたしに期待? どういうことでしょうか?」

 お父様がわたしに期待なんかしているわけがないわ。

 そう思って、少し声を荒らげて聞き返すと、シード様は苦笑する。

「俺に怒んなよ。ロイアン卿に嫁がせようとしてたのも、奴の家の経営権云々が表向きの目的だったかも知らねぇが、実際はそれだけのことじゃなさそうだぞ。その証拠に、姉には無関心だろ?」
「そう言われてみればそうですが、下の娘を都合よく利用し、上の娘は放置というのは父親としてどうかと思いますわ」
「それは俺も思ってるよ。それより、セフィリア」
「はい」 
「俺との婚約、それから結婚はエルテ公爵を喜ばせることになるぞ? どうするつもりだ?」

 シード様に問われて、言葉に詰まってしまう。

 正直に言えば、お父様を喜ばせるだなんて嫌だわ。
 でも、背に腹はかえられない。

「喜ばせるかもしれませんが、父が喜ばない何かを考えてやり返そうと思います」
「そっか。それは良いかもな!」

 シード様は楽しそうに笑ってから、声を掛けてくる。

「じゃあ、俺は外で待ってっから。侍女と騎士が心配してたぞ。早く顔を見せてやれ」

 そうだわ。
 エルファとマディアスにもう一度謝らなくちゃ。 

「ありがとうございます! シード様も中で待ってくださっても大丈夫ですが」
「着替えねぇの?」

 シード様に言われて、自分がネグリジェのままだったことを思い出した。
 そうだわ。
 さすがに着替えを見せるわけにはいかない。

「セフィリアがお望みなら俺が着替えを手伝うが?」
「お気持ちは有り難いですが結構です!」

 にやりと笑ったシード様に強い口調でお断りの言葉を述べたあと、部屋の外で待ってくれているであろう、エルファの名を呼んだ。



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