あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

文字の大きさ
17 / 52
第3章 戻ってきた救世主

「わ、わたくしを殴るだなんてありえません! いくら、あなたでもやって良いことと悪いことがあるはずです!」

 ロビースト様は尻もちをついたまま、シード様を睨みつける。

「それを言い出したらお前もだろ。っつーか、どんだけ、セフィリア嬢が好きなんだよ。しつこく絡みやがって」
「べ、べつに好きなわけではありません!」
「そうかよ。なら、どうして無理やり婚約者にしようとする?」
「わたくしは彼女を守ってあげたいだけなのです!」

 ロビースト様はわたしを指差して言葉を続ける。

「知っていますか? ロイアン伯爵令息はセフィリアと再婚約をしようとしているのですよ!」
「なんですって!?」

 驚いた声を上げたのはわたしだった。

「あー、その辺のこともあって、あんたに話をしようと思ってたんだ」

 シード様はあげている前髪をがしがしと触った後にわたしを見る。

「こいつを部屋から出したら、詳しく話をするから、ちょっと待ってくれ」
「わかりました」

 わたしが頷いたのを確認してから、シード様はロビースト様に話しかける。

「兄さん、あんたに用はない。大人しく出てけ」
「い、いやです! こんな姿を見られているのに、ラソウエ公爵家からセフィリアを出すわけにはいきません!」
「そんな状況に持っていったのはお前だろ!」

 シード様は靴のつま先でロビーストの腹を蹴った。
 ゲホゴホと咳き込むロビースト様を見下ろしたシード様は、今度は扉のほうに顔を向けて叫ぶ。

「おい! フィーナ嬢! あんたはこの男が好きなんだろ? とっとと連れてけ! 俺はセフィリア嬢に話があるんだ」
「は、はい!」

 お姉様は私たちの様子を開け放たれた扉の向こうの廊下から見ていたらしい。
 メイド服姿のお姉様はシード様に命令されて、わたしの部屋に入ってくると、ロビースト様に手を差し伸べる。

「戻りましょう?」
「帰りますよ! ただ、あなたとは戻りません!」

 ロビースト様はお姉様の手を払うと、自分一人で立ち上がって部屋から出ていく。
 彼の口からは血が出ていて、お腹を両手で押さえており、かなり苦しそうな表情だった。

「待ってください、ロビースト様!」

 お姉様はロビースト様を追いかけていく際に、わたしのほうに目を向けてきた。
 わたしと目が合うとすぐに逸らして、何の声もかけてくることなく部屋から出ていった。
 扉が閉められたのを確認してから、シード様に頭を下げる。

「助けていただきありがとうございました」
「つーか、何でこんなとこにいんだよ。俺は、あんたの様子を確認しにエルテ家に行ってたんだぞ」
「はい?」
「まあ、あんたに文句を言っても意味がないな。あ、あんたって呼ばれんのは嫌か?」

 シード様はわたしにそう尋ねた後に、安楽椅子をベッドの近くに持ってきて座った。

「それはかまいませんが、わたしの名前は」
「セフィリア嬢だろ。知ってる。あんたは嫌そうだし、セフィリア嬢と呼ぶからな」
「はい、お願いいたします」
 
 もう一度わたしが頭を下げると、シード様はわたしが知らない間に起きていた出来事を話してくれた。

 デスタは王女様に見初められて婚約を迫られた。
 すると、デスタは「セフィリアのことが忘れられません」と言ったんだそうだ。

 わたしのことが忘れられないだなんて絶対に嘘だわ。
 王女殿下と結婚したくないだけじゃないの?

 そう思って聞いてみる。

「王女殿下はいつか女王陛下になられるわけですよね?」
「そうだな。この国には王女以外には両陛下の子供はいねぇから」
「その、なにか問題があったりしますか?」
「王女にか?」
「はい。デスタ、いえ、ロイアン伯爵令息がわたしにこだわる理由がわかりません。となると、よっぽど王女殿下に問題があるのかと……」

 こんなことを聞くのは不敬だとわかっている。
 でも、シード様なら許してもらえそうな気がした。

「問題はある。あの王女が女王になったら大変なことになるだろう」
「……どんなことになるとお考えですか?」
「話が長くなるから今はやめとく。それよりもセフィリア嬢の話をしよう。すぐには体を動かせねぇだろうけど、少しでも早くにここを出るぞ」
「出るのはかまわないのですが、実家に戻らせてもらえるかわかりません」
「その点は気にすんな。エルテ公爵は帰ってきても良いってよ」
「本当ですか!?」

 ロビースト様の妻になれと言われるのかと思っていたのに、家に帰っても良いだなんて!

「ああ。その代わり、二度目の婚約破棄をしてもらわないといけない」
「二度目の婚約破棄? どういうことでしょう?」
「兄さんは知らないみてぇだけど、王女がロイアン伯爵令息とセフィリア嬢の再婚約を求めた。そんで、エルテ公爵は兄さんと結んでいた婚約の仮契約を一方的に破棄して承諾した」
「王女殿下が? でも、どうしてなのですか? 自分がデスタと結婚したいはずなのでは? それに、お父様はなんて勝手なことを! 仮契約のことも知りませんでした」
「エルテ公爵は兄さんよりも良い婚約者がいるならば、そちらにセフィリア嬢を嫁にいかせるという条件で仮契約を結んでた。兄さんは本契約にしたかったみたいだが、それについては俺が握りつぶした。あと、両陛下はエルテ公爵家を潰したい。王女は元婚約者に未練たらたらの男と結婚したくないっていう理由だろうな」

 両陛下がエルテ公爵家を潰したい理由はわかる。
 エルテ公爵家は反王家派の筆頭だもの。
 それは良いとして、デスタがわたしに未練たらたらだなんてありえないわ。

「王女はセフィリア嬢を辱めて、ロイアン卿の愛を冷めさせたいんだ。かといって、セフィリア嬢がそれに付き合う必要はない」
「ですが、父は婚約を承諾したのですよね?」
「ああ。でも、条件付きだ」
「条件付き、ですか?」
「兄さんとの婚約の時と同じだ。セフィリア嬢にロイアン卿よりも良い結婚相手ができたら、ロイアン卿との婚約を破棄しても何のお咎めもないという条件だ」

 シード様は一気に早口で言ってから尋ねてくる。

「良さそうな相手はいるか?」

 良さそうな人なんているわけがないわ。
 いたら、もっと早くにお願いしているもの。

 こうなったら頼れるのは、この人しかいない。

「シード様は婚約者はいらっしゃいますか?」
「いねぇけど」
「恋人は?」
「いねぇよ。ほっといてくれ」
「女性に人気がありそうですのに」
「褒めたって何にも出ねぇぞ」
「それは困ります」
「……まさか!」

 シード様は目を見開いて、自分を指差す。

「俺になれって言ってんのか!?」
「お願いいたします!」

 わたしは頭を下げてシード様にお願いした。

感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ
恋愛
 セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。 「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」  困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。