あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

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第6章 王族との接触

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 わたしとランシード様の婚約についての書類を用意するということで、ランシード様は席を外し、わたしはシドナ様と二人きりになった。
 メイドにお茶を淹れてもらい、温かいお茶で一息ついたところで、シドナ様が笑顔で話しかけてきた。

「ランシードのこと、最初はあんな人が貴族? って思ったでしょう?」
「はい。言葉遣いも態度もとても悪かったものですから驚きました」
「そうよね。でも、あなたが思ったような印象を持ってもらうのが狙いだったの」

 シドナ様もお茶を一口飲んでから話を続ける。

「そのほうが命を狙われにくくなるでしょう?」
「それで、あんな乱暴な言葉遣いと態度になっていたのですね。普通の貴族なら、公爵家と関わりがある上に、常識のない人なんてお近づきになりたくないですから」
「問題は、そんな態度を続けていく内に、どっちが本当の自分なのか忘れてしまったみたいなのよ。本当に困ったわ。極端すぎるんだもの」
「まるで二重人格者のようになっていますものね」

 頬に手を当ててため息をついた、シドナ様の言葉に苦笑して頷く。

「周りはどうしてあの子が養子になったのかと最初は不思議がっていたようね。でも、関わりたくない気持ちのほうが強くなって、ノーマークになったのだと思うわ。それに、ロロゾフ王国は平和主義な人が多いし」
「そうですわね。多くの人が事を荒立てることを嫌います。たとえ、それが必要だったとしても、気づかないふりをする可能性があります」
「そう考えると、ランシードの態度は逆に目立ってしまっていたのかもしれないわね」
「それはそうかもしれませんが、普通の貴族なら近づきたくないと思いますし、厄介だと思われても危険人物とは思われなかったと思います」

 言ってしまってから、失言だったかもしれないと焦る。

「ランシード様に対して、失礼なことを申し上げて申し訳ございませんでした」
「気にしなくて大丈夫よ」

 王妃陛下は金色の長い髪をさらりと揺らして微笑む。

「あなたも色々と大変ね。家のこともそうだけど、ランシードに目を付けられるなんて」
「どういうことでしょうか?」
「私は他国の子爵令嬢だったの」
「そうだったんですね」
「ええ。お忍びで来ていた陛下に見初められて妻になったのよ」

 詳しく聞いてみたかったけれど、わたしと王妃陛下は、今日初めて会ったばかりだ。
 あまり、馴れ馴れしい態度を取るわけにはいかない。

 そう思って、無難な言葉を返す。

「運命の出会いだったんですね」
「どうかしら? でも、結婚までしているのだから、そうかもしれないわね」

 ふふふ、と笑ってから、シドナ様は話を続ける。

「陛下はこれと決めたら、よっぽどの理由がない限り諦めない人なの。それはランシードも同じよ。あなたも覚悟を決めたほうが良いわね」
「別にわたしはランシード様と運命の出会いをしたわけではありません」
「あなたはそう思っていても、ランシードはそう思っていないかもしれないわ。あの子、陛下とそっくりなところが多いから。惚れっぽいわけじゃないんだけれど、何て言ったら良いのかしら。あなたとランシードの出会いだって、中々あるものじゃないでしょう? 運命の出会いだと思ってると思うわ」
「そうかもしれません。お姫様と言われましたから」
 
 苦笑して頷いてから、シドナ様に問いかける。

「わたしは何をすれば良いのでしょうか」

 それだけで、何のことを聞いているのかわかってくれたらしく、シドナ様は笑みを消して答えてくれる。

「そうね。ロロゾフの王女も王妃も表立って、あなたには何もできないはずよ。だから、どうにかして陰から接触しようとしてくるでしょう」
「わたしたち家族に執着するのはなぜなのでしょう?」
「本人に聞いてみないとわからないけれど、もしかすると、あなたたちも同じように追い込まれると思っているのかもしれないわ」
「わざと、わたしたちを死に追いやろうとしているんですか」

 シドナ様はわたしの質問には答えず、話題を変えてくる。

「きっと、彼女たちはあなた、もしくはあなたの姉に接触しようとするはずよ。その時、あなたが多少、無礼なことをしても理由があれば向こうは罪に問えないわ。バックにいるのは、私たちだから。それで、何か仕掛けられたらやり返してほしいんだけれど、それは出来るかしら?」
「もちろんです」

 シドナ様の問いかけに、わたしは大きく頷いた。

 その後、ランシード様と一緒に婚約に関する書類を持って、エルテ公爵邸に戻った。
 けれど、すんなりと屋敷の中には入れなかった。

 エルテ公爵邸の家の前に二台の馬車が停まっていたからだ。
 馬車には家紋が施されていて、どこの家のものかはすぐにわかった。

 一台はデスタの家のロイアン家、そして、もう一台はロビースト様のラソウエ公爵家のものだった。
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