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27 期待してはいけない
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ココルとの一件があってからの私は、今まで以上にリアムのために頑張ろうと思うようになった。
かといって、本人に何をされたら嬉しいかと尋ねても「アイリスが幸せならそれで良いよ」という答えが返ってくるだけで、まったく参考にならない。
自己満足だということも、下手なことはしないのが一番だとわかっているけれど、どうしても恩返しがしたかった。
よく晴れた、とある日のティータイムに、ガゼボでお茶を飲みながら、どうすればリアムに喜んでもらえるかを、お義母様に相談した。
すると、私が想像していなかったことを言われた。
「前に言っていたけれど、ウエディングドレスを着て、リアムに見せてあげるなんてどうかしら?」
「そんなことでリアムが喜びますでしょうか?」
「喜ぶに決まっているわよ! リアム様からリアムと呼び方を変えただけで喜ぶような子よ? まったく、我が息子ながら奥手にもほどがあるわね」
お義母様は右手を頬に当てて小さく息を吐いた。
「リアムが奥手かどうかはわかりませんが、恥ずかしがり屋さんではありますよね」
先日、お店の中で、リアムは私の頬などにキスをしたけれど、そのことについても、後から何度も謝ってくれた。
気持ちが高ぶってしまったと言っていた。
嫌いな人に、あんなことをするような人には思えないから、恥ずかしかったけれど嬉しかった。
でも、その気持ちは伝えられない。
「本当に喜んでもらえるなら着てみます。ただ、恥ずかしいので人には見られたくないです」
「リアムはもちろんだけれど、私には見せてくれるかしら?」
「もちろんです。お義母様やお義父様が望まれるのでしたら見せますし、ドレスはお義母様が選んでくれたら嬉しいです」
「本当に!?」
お義母様は目を輝かせたと思うと、少し離れたところに立っていた、御自分の侍女に声を掛ける。
すると、侍女は薄い本のようなものを手に近付いてくると、それをお義母様に手渡した。
「これで、選んでみない?」
お義母様が私に見せてきたのは、ウエディングドレスのカタログだった。
用意周到というか、もしかすると、私がこの話をすることを待っておられたのかもしれない。
「あの、私にはセンスがないので、お義母様が選んでくださいませんか?」
「駄目よ、アイリスさん、一緒に選びましょう? 自分が好きだからって、好みをお嫁さんに押し付けてはいけないって、本にも書いてあったの。それに、あなたが着るんだから、あなたが気に入ったものを着なくちゃ」
「……わかりました」
微笑んで頷いた時だった。
「僕にも見せてくれるんだよね?」
「ひぃっ!?」
気が付くとリアムが私の横に立っていて、私は淑女らしからぬ悲鳴を上げてしまった。
「驚かせてごめん」
「いいえ! こちらこそ、変な声を上げてしまって申し訳ございません」
謝ってくれたリアムに私も謝ると、お義母様はため息を吐く。
「リアム、あなたはお父様に似て、気配を消すのが上手ね」
「申し訳ございません」
「責めているわけではないけれど、聞かれたくない話だってあるのだから、私達が相手の時は気配を消すのはやめてちょうだい」
「承知しました」
お義母様に説教されたリアムは、私を見て、もう一度謝ってくる。
「ごめんね。これからは気を付けるよ」
「気になさらないでください」
「ありがとう。で、僕にも見せてくれるんだよね?」
「そ、それはもちろんですが、どうしてですか? 見てみたいものですか?」
私のウエディングドレス姿なんて、リアムが見ても意味がないはずなのに……。
「どうしてって…、見たいだけだよ」
「リアムに満足していただけるとは思えないのです」
「それはアイリスが決めることじゃないだろ」
「それはそうかもしれませんが、見たら後悔なさるかもしれませんよ?」
「どうして?」
リアムが不思議そうにして聞いてきた。
だから、眉根を寄せて答える。
「私みたいな地味な女性のウエディングドレス姿なんて、美しい女性をよく見ているリアムには目を汚すだけになると思います」
「そんなことない。僕は他の女性のウエディングドレス姿には興味はないけど、アイリスのウエディングドレス姿は見たい」
「そ、それは……、その、そうなんですね!」
リアムから視線をそらして頷いた。
私を見つめるリアムの目がどこか熱っぽくて、変な期待をしてしまいそうになる。
駄目よ。
期待してはいけない。
自分に言い聞かせていると、お義母様が呟く。
「いい傾向だわ」
笑顔を見せた、お義母様は助け舟を出すかのように、リアムに尋ねる。
「で、リアム、あなた、用事があってここに来たんじゃないのかしら?」
「そうでした」
リアムは頷いたあと、私に言う。
「前にココル嬢が言っていたゴロツキの話だけれど、あの男は逮捕はされていないけど、色々と酷いことをしているとわかった。だから、痛い目にあわせることにしたんだけど」
「捕まえるだけじゃないんですか?」
聞き返すと、リアムはしまった、と言わんばかりの顔をして視線をそらしたあと、いつもの表情に戻して頷く。
「もちろん捕まえるよ。ただ、そうなったらまた、ココル嬢の興味が君に向くことになると思う。街に出たいときには段取りをするから事前に教えてくれるかな」
「わかりました」
頷くと、リアムは「お邪魔しました」と言って去っていく。
「ゴロツキって何の話かしら? ああ、それも気になるけれど、先にドレスを選びましょう!」
テーブルの上にお義母様がカタログを広げはじめたので、私も今だけは憂鬱なことは忘れて、そちらに集中することにした。
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「必要ないと判断したのはそちらでしょう?」というタイトルで新作を始めました。
ご興味ありましたら読んでいただけますと嬉しいです。
かといって、本人に何をされたら嬉しいかと尋ねても「アイリスが幸せならそれで良いよ」という答えが返ってくるだけで、まったく参考にならない。
自己満足だということも、下手なことはしないのが一番だとわかっているけれど、どうしても恩返しがしたかった。
よく晴れた、とある日のティータイムに、ガゼボでお茶を飲みながら、どうすればリアムに喜んでもらえるかを、お義母様に相談した。
すると、私が想像していなかったことを言われた。
「前に言っていたけれど、ウエディングドレスを着て、リアムに見せてあげるなんてどうかしら?」
「そんなことでリアムが喜びますでしょうか?」
「喜ぶに決まっているわよ! リアム様からリアムと呼び方を変えただけで喜ぶような子よ? まったく、我が息子ながら奥手にもほどがあるわね」
お義母様は右手を頬に当てて小さく息を吐いた。
「リアムが奥手かどうかはわかりませんが、恥ずかしがり屋さんではありますよね」
先日、お店の中で、リアムは私の頬などにキスをしたけれど、そのことについても、後から何度も謝ってくれた。
気持ちが高ぶってしまったと言っていた。
嫌いな人に、あんなことをするような人には思えないから、恥ずかしかったけれど嬉しかった。
でも、その気持ちは伝えられない。
「本当に喜んでもらえるなら着てみます。ただ、恥ずかしいので人には見られたくないです」
「リアムはもちろんだけれど、私には見せてくれるかしら?」
「もちろんです。お義母様やお義父様が望まれるのでしたら見せますし、ドレスはお義母様が選んでくれたら嬉しいです」
「本当に!?」
お義母様は目を輝かせたと思うと、少し離れたところに立っていた、御自分の侍女に声を掛ける。
すると、侍女は薄い本のようなものを手に近付いてくると、それをお義母様に手渡した。
「これで、選んでみない?」
お義母様が私に見せてきたのは、ウエディングドレスのカタログだった。
用意周到というか、もしかすると、私がこの話をすることを待っておられたのかもしれない。
「あの、私にはセンスがないので、お義母様が選んでくださいませんか?」
「駄目よ、アイリスさん、一緒に選びましょう? 自分が好きだからって、好みをお嫁さんに押し付けてはいけないって、本にも書いてあったの。それに、あなたが着るんだから、あなたが気に入ったものを着なくちゃ」
「……わかりました」
微笑んで頷いた時だった。
「僕にも見せてくれるんだよね?」
「ひぃっ!?」
気が付くとリアムが私の横に立っていて、私は淑女らしからぬ悲鳴を上げてしまった。
「驚かせてごめん」
「いいえ! こちらこそ、変な声を上げてしまって申し訳ございません」
謝ってくれたリアムに私も謝ると、お義母様はため息を吐く。
「リアム、あなたはお父様に似て、気配を消すのが上手ね」
「申し訳ございません」
「責めているわけではないけれど、聞かれたくない話だってあるのだから、私達が相手の時は気配を消すのはやめてちょうだい」
「承知しました」
お義母様に説教されたリアムは、私を見て、もう一度謝ってくる。
「ごめんね。これからは気を付けるよ」
「気になさらないでください」
「ありがとう。で、僕にも見せてくれるんだよね?」
「そ、それはもちろんですが、どうしてですか? 見てみたいものですか?」
私のウエディングドレス姿なんて、リアムが見ても意味がないはずなのに……。
「どうしてって…、見たいだけだよ」
「リアムに満足していただけるとは思えないのです」
「それはアイリスが決めることじゃないだろ」
「それはそうかもしれませんが、見たら後悔なさるかもしれませんよ?」
「どうして?」
リアムが不思議そうにして聞いてきた。
だから、眉根を寄せて答える。
「私みたいな地味な女性のウエディングドレス姿なんて、美しい女性をよく見ているリアムには目を汚すだけになると思います」
「そんなことない。僕は他の女性のウエディングドレス姿には興味はないけど、アイリスのウエディングドレス姿は見たい」
「そ、それは……、その、そうなんですね!」
リアムから視線をそらして頷いた。
私を見つめるリアムの目がどこか熱っぽくて、変な期待をしてしまいそうになる。
駄目よ。
期待してはいけない。
自分に言い聞かせていると、お義母様が呟く。
「いい傾向だわ」
笑顔を見せた、お義母様は助け舟を出すかのように、リアムに尋ねる。
「で、リアム、あなた、用事があってここに来たんじゃないのかしら?」
「そうでした」
リアムは頷いたあと、私に言う。
「前にココル嬢が言っていたゴロツキの話だけれど、あの男は逮捕はされていないけど、色々と酷いことをしているとわかった。だから、痛い目にあわせることにしたんだけど」
「捕まえるだけじゃないんですか?」
聞き返すと、リアムはしまった、と言わんばかりの顔をして視線をそらしたあと、いつもの表情に戻して頷く。
「もちろん捕まえるよ。ただ、そうなったらまた、ココル嬢の興味が君に向くことになると思う。街に出たいときには段取りをするから事前に教えてくれるかな」
「わかりました」
頷くと、リアムは「お邪魔しました」と言って去っていく。
「ゴロツキって何の話かしら? ああ、それも気になるけれど、先にドレスを選びましょう!」
テーブルの上にお義母様がカタログを広げはじめたので、私も今だけは憂鬱なことは忘れて、そちらに集中することにした。
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「必要ないと判断したのはそちらでしょう?」というタイトルで新作を始めました。
ご興味ありましたら読んでいただけますと嬉しいです。
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