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6 勘違いしている家族
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「……そうか。可哀想に。誰も守ってくれなかったのか?」
ニーソン公爵閣下は応接室の前を通り過ぎて私に近づいてくると、そう尋ねてきた。
「はい。お父様たちはお姉様だけが可愛いんです」
「たち、というのは?」
「お母様もです。そして、この家の使用人も」
「違います! 私は旦那様に命令されているからでございます!」
メイドが首を横に振ったけれど、閣下は気にする様子もなく、私に話しかけてくる。
「とにかく話を終わらせよう。そうじゃないと介入しにくい」
「……介入ですか?」
聞き返すと、閣下は無言で頷いてから、お父様のほうを見る。
「さっさと話を終わらせよう。息子は今どこに?」
「こ、こちらにいらっしゃいます!」
顔を覆っていたお父様だったけれど、まだチャンスがあると思ったのか、手を顔から離すと笑顔になった。
そして、閣下を応接室へと案内する。
閣下と一緒に中へ入ると、外の会話が聞こえていたのか、エディ様がとても不機嫌そうな顔でソファに座っていた。
エディ様の座っているソファの後ろに立っていたキノン伯爵令嬢がエディ様の左隣に座るように笑顔で薦めてこられたので、「失礼します」と一声掛けて隣に座らせてもらう。
すると、エディ様の表情が満面の笑みに変わった。
「リネ嬢、髪型を変えたんだね。どんな格好でも可愛いけど、この髪型の君も可愛いね」
「ありがとうございます。さっきの髪型はメイドがお姉様に指示されてやってくれていた髪型なのでやめることにしたんです。あの、もちろん、ハーフツインテール自体は悪くないんです。お姉様に決められていたから嫌なだけで」
「そうなんだね」
エディ様は私に触れようとして、慌てて手を引っ込める。
婚約者でも何でもない男性が女性に触れるのは良くないものね。
私とエディ様が会話をしている間に、エディ様の右隣に座った閣下がお父様と話をしていた。
「今回、ここに来たのは、ティファス伯爵家と縁を結ぼうと思ったからだ」
「そ、そうなのですね! やはり、トワナの美しさは公爵閣下やご子息の目に留まるものでしたか!」
お父様はお姉様が婚約者に選ばれたのだと思い込んで、目を輝かせた。
それと同時に扉がノックされたので、お父様が返事をする。
相手はお母様とお姉様だったので、お父様が許可を出すと2人は意気揚々と中に入ってきた。
お姉様はまるで今からどこかへ出かけるみたいに気合の入った服装とメイクで、明らかにエディ様を意識しているといった感じだった。
お姉様はエディ様の向かい側に座ると、にこりと微笑む。
普通の男性なら、ここでお姉様に反応して照れてしまったりするものだけれど、エディ様は全く相手にしなかった。
「リネ嬢はどんなタイプの男性が好きなのかな」
「は、はい?」
「ほら、僕は今、短髪だし、長い髪のほうが好きなら伸ばそうかなって」
「わ、私は今のままのエディ様でも素敵だと思います!」
「本当に!?」
エディ様は素敵なプレゼントをもらった子供みたいに嬉しそうな笑顔を見せてくれている。
「おい、エディ。浮かれている気持ちはわかるが、ちゃんと話をしろ」
「承知しました」
閣下に促されたエディ様は表情を引き締めると、期待の眼差しを向けてくるお父様に告げる。
「本日はぜひ、ティファス家のお嬢さんを貰い受けたくてやって参りました」
「もちろんです!」
「もちろんですわ!」
お父様だけでなく、お母様も笑顔で頷いた。
お姉様は恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。
相手はお姉様だと信じて疑っていないみたい。
そんなお姉様を見たあと、エディ様は厳しい表情で、お父様に尋ねる。
「では、婚約を認めていただけるのですね?」
「もちろんです。契約書を用意いたしましょうか?」
「いや、それはこちらで用意している」
閣下がそう言ってキノン伯爵令嬢を見ると、彼女はすぐに部屋を出ていく。
閣下もエディ様も婚約者がお姉様なのか私なのかはっきりさせていない。
わざとなのかしら?
それとも、私は夢の中でも意地悪なことをされてしまうの?
悲しい気持ちになった時だった。
「リネ嬢、もう少しだけ待って」
エディ様が耳元に口を寄せてそう囁いてくれた。
そうしている内に、閣下の側近の方らしき人が中に入ってきて、書類とペンをお父様に渡した。
お父様は上機嫌でサインをしようとしたけれど、途中で動きを止めた。
「ニーソン公爵閣下、名前が間違っています。こちらにいる娘はリネではなくトワナで……」
「いいからサインしろ」
閣下が冷たい声で急かすと、お父様は何か言いたげにしつつも急いでサインをした。
あとで間違いに気づくと思ったのだと思う。
「これでエディとリネ嬢との婚約は成立した」
閣下は書類を手に取り側近の人に渡す。
それを受け取った側近の人は満足げな様子で、書類をカバンの中に入れて部屋の外へ出て行った。
「リネ嬢、これからよろしくね」
にこりとエディ様は微笑むと、照れくさそうな顔で尋ねてくる。
「手を握ってもいいかな?」
「は、はい。どうぞ」
手を差し出すと、エディ様は私の手を優しく握って呟く。
「手、細い。折れそう。指は長いのに僕より手が小さい。可愛い」
「あの、エディ様?」
私が困惑して何も言えないでいると、お姉様がエディ様の名を呼んでから尋ねる。
「あなたの婚約者は私ですわよね?」
「は? 僕の婚約者はリネだ。大体、君には婚約者がいるだろう? 何を馬鹿なことを言ってるんだ」
エディ様は私の手を優しく握ったまま、お姉様を睨みつけた。
ニーソン公爵閣下は応接室の前を通り過ぎて私に近づいてくると、そう尋ねてきた。
「はい。お父様たちはお姉様だけが可愛いんです」
「たち、というのは?」
「お母様もです。そして、この家の使用人も」
「違います! 私は旦那様に命令されているからでございます!」
メイドが首を横に振ったけれど、閣下は気にする様子もなく、私に話しかけてくる。
「とにかく話を終わらせよう。そうじゃないと介入しにくい」
「……介入ですか?」
聞き返すと、閣下は無言で頷いてから、お父様のほうを見る。
「さっさと話を終わらせよう。息子は今どこに?」
「こ、こちらにいらっしゃいます!」
顔を覆っていたお父様だったけれど、まだチャンスがあると思ったのか、手を顔から離すと笑顔になった。
そして、閣下を応接室へと案内する。
閣下と一緒に中へ入ると、外の会話が聞こえていたのか、エディ様がとても不機嫌そうな顔でソファに座っていた。
エディ様の座っているソファの後ろに立っていたキノン伯爵令嬢がエディ様の左隣に座るように笑顔で薦めてこられたので、「失礼します」と一声掛けて隣に座らせてもらう。
すると、エディ様の表情が満面の笑みに変わった。
「リネ嬢、髪型を変えたんだね。どんな格好でも可愛いけど、この髪型の君も可愛いね」
「ありがとうございます。さっきの髪型はメイドがお姉様に指示されてやってくれていた髪型なのでやめることにしたんです。あの、もちろん、ハーフツインテール自体は悪くないんです。お姉様に決められていたから嫌なだけで」
「そうなんだね」
エディ様は私に触れようとして、慌てて手を引っ込める。
婚約者でも何でもない男性が女性に触れるのは良くないものね。
私とエディ様が会話をしている間に、エディ様の右隣に座った閣下がお父様と話をしていた。
「今回、ここに来たのは、ティファス伯爵家と縁を結ぼうと思ったからだ」
「そ、そうなのですね! やはり、トワナの美しさは公爵閣下やご子息の目に留まるものでしたか!」
お父様はお姉様が婚約者に選ばれたのだと思い込んで、目を輝かせた。
それと同時に扉がノックされたので、お父様が返事をする。
相手はお母様とお姉様だったので、お父様が許可を出すと2人は意気揚々と中に入ってきた。
お姉様はまるで今からどこかへ出かけるみたいに気合の入った服装とメイクで、明らかにエディ様を意識しているといった感じだった。
お姉様はエディ様の向かい側に座ると、にこりと微笑む。
普通の男性なら、ここでお姉様に反応して照れてしまったりするものだけれど、エディ様は全く相手にしなかった。
「リネ嬢はどんなタイプの男性が好きなのかな」
「は、はい?」
「ほら、僕は今、短髪だし、長い髪のほうが好きなら伸ばそうかなって」
「わ、私は今のままのエディ様でも素敵だと思います!」
「本当に!?」
エディ様は素敵なプレゼントをもらった子供みたいに嬉しそうな笑顔を見せてくれている。
「おい、エディ。浮かれている気持ちはわかるが、ちゃんと話をしろ」
「承知しました」
閣下に促されたエディ様は表情を引き締めると、期待の眼差しを向けてくるお父様に告げる。
「本日はぜひ、ティファス家のお嬢さんを貰い受けたくてやって参りました」
「もちろんです!」
「もちろんですわ!」
お父様だけでなく、お母様も笑顔で頷いた。
お姉様は恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。
相手はお姉様だと信じて疑っていないみたい。
そんなお姉様を見たあと、エディ様は厳しい表情で、お父様に尋ねる。
「では、婚約を認めていただけるのですね?」
「もちろんです。契約書を用意いたしましょうか?」
「いや、それはこちらで用意している」
閣下がそう言ってキノン伯爵令嬢を見ると、彼女はすぐに部屋を出ていく。
閣下もエディ様も婚約者がお姉様なのか私なのかはっきりさせていない。
わざとなのかしら?
それとも、私は夢の中でも意地悪なことをされてしまうの?
悲しい気持ちになった時だった。
「リネ嬢、もう少しだけ待って」
エディ様が耳元に口を寄せてそう囁いてくれた。
そうしている内に、閣下の側近の方らしき人が中に入ってきて、書類とペンをお父様に渡した。
お父様は上機嫌でサインをしようとしたけれど、途中で動きを止めた。
「ニーソン公爵閣下、名前が間違っています。こちらにいる娘はリネではなくトワナで……」
「いいからサインしろ」
閣下が冷たい声で急かすと、お父様は何か言いたげにしつつも急いでサインをした。
あとで間違いに気づくと思ったのだと思う。
「これでエディとリネ嬢との婚約は成立した」
閣下は書類を手に取り側近の人に渡す。
それを受け取った側近の人は満足げな様子で、書類をカバンの中に入れて部屋の外へ出て行った。
「リネ嬢、これからよろしくね」
にこりとエディ様は微笑むと、照れくさそうな顔で尋ねてくる。
「手を握ってもいいかな?」
「は、はい。どうぞ」
手を差し出すと、エディ様は私の手を優しく握って呟く。
「手、細い。折れそう。指は長いのに僕より手が小さい。可愛い」
「あの、エディ様?」
私が困惑して何も言えないでいると、お姉様がエディ様の名を呼んでから尋ねる。
「あなたの婚約者は私ですわよね?」
「は? 僕の婚約者はリネだ。大体、君には婚約者がいるだろう? 何を馬鹿なことを言ってるんだ」
エディ様は私の手を優しく握ったまま、お姉様を睨みつけた。
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