人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 59

6  勘違いしている家族

しおりを挟む
「……そうか。可哀想に。誰も守ってくれなかったのか?」

 ニーソン公爵閣下は応接室の前を通り過ぎて私に近づいてくると、そう尋ねてきた。

「はい。お父様たちはお姉様だけが可愛いんです」
「たち、というのは?」
「お母様もです。そして、この家の使用人も」
「違います! 私は旦那様に命令されているからでございます!」

 メイドが首を横に振ったけれど、閣下は気にする様子もなく、私に話しかけてくる。

「とにかく話を終わらせよう。そうじゃないと介入しにくい」
「……介入ですか?」

 聞き返すと、閣下は無言で頷いてから、お父様のほうを見る。

「さっさと話を終わらせよう。息子は今どこに?」
「こ、こちらにいらっしゃいます!」

 顔を覆っていたお父様だったけれど、まだチャンスがあると思ったのか、手を顔から離すと笑顔になった。
 そして、閣下を応接室へと案内する。

 閣下と一緒に中へ入ると、外の会話が聞こえていたのか、エディ様がとても不機嫌そうな顔でソファに座っていた。
 エディ様の座っているソファの後ろに立っていたキノン伯爵令嬢がエディ様の左隣に座るように笑顔で薦めてこられたので、「失礼します」と一声掛けて隣に座らせてもらう。
 すると、エディ様の表情が満面の笑みに変わった。

「リネ嬢、髪型を変えたんだね。どんな格好でも可愛いけど、この髪型の君も可愛いね」
「ありがとうございます。さっきの髪型はメイドがお姉様に指示されてやってくれていた髪型なのでやめることにしたんです。あの、もちろん、ハーフツインテール自体は悪くないんです。お姉様に決められていたから嫌なだけで」
「そうなんだね」

 エディ様は私に触れようとして、慌てて手を引っ込める。
 
 婚約者でも何でもない男性が女性に触れるのは良くないものね。

 私とエディ様が会話をしている間に、エディ様の右隣に座った閣下がお父様と話をしていた。

「今回、ここに来たのは、ティファス伯爵家と縁を結ぼうと思ったからだ」
「そ、そうなのですね! やはり、トワナの美しさは公爵閣下やご子息の目に留まるものでしたか!」

 お父様はお姉様が婚約者に選ばれたのだと思い込んで、目を輝かせた。
 それと同時に扉がノックされたので、お父様が返事をする。
 相手はお母様とお姉様だったので、お父様が許可を出すと2人は意気揚々と中に入ってきた。
 
 お姉様はまるで今からどこかへ出かけるみたいに気合の入った服装とメイクで、明らかにエディ様を意識しているといった感じだった。
 お姉様はエディ様の向かい側に座ると、にこりと微笑む。

 普通の男性なら、ここでお姉様に反応して照れてしまったりするものだけれど、エディ様は全く相手にしなかった。

「リネ嬢はどんなタイプの男性が好きなのかな」
「は、はい?」
「ほら、僕は今、短髪だし、長い髪のほうが好きなら伸ばそうかなって」
「わ、私は今のままのエディ様でも素敵だと思います!」
「本当に!?」

 エディ様は素敵なプレゼントをもらった子供みたいに嬉しそうな笑顔を見せてくれている。

「おい、エディ。浮かれている気持ちはわかるが、ちゃんと話をしろ」
「承知しました」

 閣下に促されたエディ様は表情を引き締めると、期待の眼差しを向けてくるお父様に告げる。

「本日はぜひ、ティファス家のお嬢さんを貰い受けたくてやって参りました」
「もちろんです!」
「もちろんですわ!」

 お父様だけでなく、お母様も笑顔で頷いた。

 お姉様は恥ずかしそうに頬を染めて俯いている。

 相手はお姉様だと信じて疑っていないみたい。

 そんなお姉様を見たあと、エディ様は厳しい表情で、お父様に尋ねる。

「では、婚約を認めていただけるのですね?」
「もちろんです。契約書を用意いたしましょうか?」
「いや、それはこちらで用意している」

 閣下がそう言ってキノン伯爵令嬢を見ると、彼女はすぐに部屋を出ていく。

 閣下もエディ様も婚約者がお姉様なのか私なのかはっきりさせていない。
 わざとなのかしら?

 それとも、私は夢の中でも意地悪なことをされてしまうの?

 悲しい気持ちになった時だった。

「リネ嬢、もう少しだけ待って」

 エディ様が耳元に口を寄せてそう囁いてくれた。
 そうしている内に、閣下の側近の方らしき人が中に入ってきて、書類とペンをお父様に渡した。

 お父様は上機嫌でサインをしようとしたけれど、途中で動きを止めた。

「ニーソン公爵閣下、名前が間違っています。こちらにいる娘はリネではなくトワナで……」
「いいからサインしろ」

 閣下が冷たい声で急かすと、お父様は何か言いたげにしつつも急いでサインをした。

 あとで間違いに気づくと思ったのだと思う。

「これでエディとリネ嬢との婚約は成立した」

 閣下は書類を手に取り側近の人に渡す。
 それを受け取った側近の人は満足げな様子で、書類をカバンの中に入れて部屋の外へ出て行った。

「リネ嬢、これからよろしくね」

 にこりとエディ様は微笑むと、照れくさそうな顔で尋ねてくる。

「手を握ってもいいかな?」
「は、はい。どうぞ」
 
 手を差し出すと、エディ様は私の手を優しく握って呟く。

「手、細い。折れそう。指は長いのに僕より手が小さい。可愛い」
「あの、エディ様?」

 私が困惑して何も言えないでいると、お姉様がエディ様の名を呼んでから尋ねる。

「あなたの婚約者は私ですわよね?」
「は? 僕の婚約者はリネだ。大体、君には婚約者がいるだろう? 何を馬鹿なことを言ってるんだ」

 エディ様は私の手を優しく握ったまま、お姉様を睨みつけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...