人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

文字の大きさ
6 / 59

5  どうせ夢なら

しおりを挟む
「な、何だお前は! 無礼だぞ!」

 お父様は怒ってエディ様の手を振り払ったけれど、すぐに相手が誰だか気が付いて慌てた顔になる。

「ま、まさか、エディ様!? これは失礼しました。もう、ニーソン公爵閣下と一緒にいらしたのですか!?」

 手を放してもらったお父様は、エディ様に向かってペコペコと頭を下げる。
 こんなに威厳のないお父様を見たのは初めてだったので驚いた。

 普段はこうやって偉い人に頭を下げているから、私に八つ当たりしているのかしら。

 そんなことを考えて見つめていると、お父様が睨んでくる。

「何を見ているんだ! お前のせいで私が怒られているんだぞ!」
「も、申し訳」
「リゼ嬢は謝らなくていいんだよ?」

 エディ様は謝ろうとした私の言葉を止めて、私に優しく微笑んでくれた。

 けれど、すぐにお父様には冷たい目を向ける。

「リゼ嬢のせいで僕は怒っているんじゃない。あなたが原因で怒っている。父親が娘の胸ぐらを掴むだなんてありえない話なんだが?」
「そ、それは……、その、申し訳ございません。とにかく、立ち話もなんですから場所を移動いたしましょう」

 そう言って、お父様はエディ様を応接室に案内するように、近くにいたメイドに命令した。

 エディ様に見惚れていたメイドは、はっと我に返り「ご案内いたします!」と叫んでエディ様の前に立った。

 メイドのあとについて歩き、応接室の前まで行くと、エディ様と護衛として付いてきているキノン伯爵令嬢に頭を下げる。

「申し訳ございません。カバンを部屋に置いてまいります。すぐに戻って参りますので」
「焦らなくてもいいからね」
「ありがとうございます」

 カバンを置きに行きたいのと、服はこのままで良いとして、ハーフツインテールはやめようと決めた。
 部屋に戻り、カバンを定位置に置いてから、ドレッサーの椅子に座り、自分で髪をほどく。
 櫛で整えてから、鏡の中の自分を見つめ、気合を入れるために両頬を叩く。

 話し合いがどうなるかわからないけれど、本当に私とエディ様の婚約が決まるなら、お父様たちは私に手が出せなくなるはず。

 夢物語みたいな気もするけれど、夢なら夢でいいわ。

 そう思ったほうが気持ちが楽。
 目が覚めて現実に戻って、どうせがっかりするんだもの。
 夢の世界なら好きなように生きてみよう。

 意気揚々と部屋を出たけれど、すぐに足を止める。
 部屋の前には私の世話をしてくれているメイドが立っていたから。

 メイドはハーフツインをやめた私を見て眉根を寄せる。

「どうして髪型を変えているんですか」
「……あなたには関係ないでしょう」

 そう言って歩き出すと、メイドは追いかけてくる。

「関係なくありません。あなたが馬鹿な格好をしていないと、私がトワナ様から怒られるんです!」
「そんなこと、私の知ったことじゃないわ! それにハーフツインテールは馬鹿な格好ではないから良いでしょう?」
 
 こんな風に言い返したりするのは初めてで、緊張と興奮で体が熱くなる。

「私に言い返すだなんて!」

 メイドが叫んでくるけれど気にしない。

 あと、もう少しで応接室というところまで来たところで、メイドは私の肩を掴んで言う。

「私の言うことを聞かないのであれば、旦那様にお伝えしていつものように鞭で打たれることになりますよ!」
「馬鹿者っ!」

 メイドの叫び声のあとに、お父様の怒鳴り声が聞こえた。

「ほら、怒られましたね」

 メイドは私を見てにやりと笑ったけれど、すぐに表情を引きつらせた。

 お父様の声が聞こえた方向に目を向けると、そこにはお父様ともう一人男性がいた。

 エディ様に似ていると言えば似ているけれど、背も高いし、もっと大人びた感じの方だった。

 黒の外套を着た、髪色と瞳の色がエディ様と全く同じ色の男性は、こめかみに手を当てて大きな息を吐く。

「まさか、こんなことになったいたなんて……」
「あ、あの、ニーソン公爵閣下、誤解です!」

 お父様は必死に誤魔化そうとしたけれど無駄だった。
 ニーソン公爵閣下は私に目を向けて口を開く。

「リネ嬢に聞く。鞭で打たれたというのは本当か?」

 ニーソン公爵閣下の後ろでお父様が否定しろと言わんばかりに首を横に振る。

 今までの私なら、何も言えずに首を横に振っていただけだと思う。

 でも、今は夢の中、何も怖くないわ。

「はい。私がお父様にとって気に食わないことをすると鞭で打たれています」

 大きく頷くと、お父様は表情を歪めたあと顔を覆った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。 公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。 周囲にそう期待されて育って来た。 だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。 そんなある日、 殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。 決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう── 婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。 しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、 リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に…… ※先日、完結した、 『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』 に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...