【完結】王女殿下に婚約者を奪われた私が隣国の訳あり国王陛下に嫁いだ結果

風見ゆうみ

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7   明と暗

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 チモチノモ王国は自然豊かな土地で平地が多いが、ネノナカル王国は違う。鉱山に囲まれており、平地は少なく傾斜のある土地が多い。王城も山の上に建てられていて、城下町は王城に続く石畳の急な坂道が続いている。馬車がやっとすれ違えるような細い道をゆっくりと上がっていった先に、左右に二本の円形の塔があり、その間に灰色の王城が見えた。

 シアルリアはチモチノモ王国を出たことがなかったため、他国の王城を見るのが初めてだ。チモチノモ王国の白亜の城と比べて重厚感のある城を一目見た時にはまるで要塞のようだと感動した。

「素敵な王城ですね!」
「カッコいいだろ?」
「はい!」
「シアの部屋も用意しておいたからな!」
「それは楽しみです。ありがとうございます」

  旅をしている間に、ブレイズと打ち解けたシアルリアは、お互いの個人的な話をするようになっていた。好きな食べ物や嫌いな食べ物、やってほしくないことなど、一緒に暮らしていくために必要な情報は、シアルリアの頭にはすでに入っている。しかも、ブレイズはシアルリアが気配を消しても、すぐに彼女に気づいてくれる。それだけでも
、シアルリアにとってはブレイズの婚約者になって良かったと思えた。
 問題は政治的なことや、シアルリアの国での立ち位置だった。
 チモチノモ王国でのガズクもそうだったが、ブレイズもネノナカル王国ではお飾りの国王である。国の顔として存在しているだけで、国内外の政治にはタッチしていない。

(ブレイズ陛下は事情があるから別として、あんな国王陛下に国を任せていられないわよね。成人になったら教えてもらえるという話の中に、ガズク陛下の話もあるのでしょうね)

 ブレイズは今の立ち位置で良いのだろうが、シアルリアはそういうわけにはいかないだろうと考えていた。
 だが、ベルノスに聞いてみても「今は難しい話は考えずに、ネノナカル王国での生活に慣れることを考えてください」と言われるだけだ。

(ブレイズ陛下は別として、私はチモチノモ王国の人たちに歓迎されていないのかもしれない。それはそうよね。元々の婚約者はブレイズ陛下という婚約者がいるのに浮気ばかり。しかも、彼女は王女だったんだから。そんな王女を放置している国民だもの。信用してもらえないのも仕方がない)

 そう諦めていたシアルリアだったが、王城近くにはシアルリアを歓迎する人が多く集まっており、彼女が馬車の窓を開けて顔を見せると歓声が上がった。

(どど、どうしましょう! こんな風に出迎えてもらえるなんて思っていなかったわ!)

 シアルリアが動揺した途端、ギャラリーから疑問の声が上がる。

「シアルリア様が消えたぞ!」
「本当だ! どこに行ってしまわれたんだ?」

 気配を消してしまったシアルリアを多くの人が見失ってしまったが、向かいに座るブレイズが笑いながら、彼女の手に触れると、みんなの目にもまた見えるようになった。

「シアルリアは恥ずかしがり屋なんだな! 大丈夫だ。俺がいるよ!」
「ありがとうございます」

(この方に嫁ぐのは、私にとってはマロックと一緒になることよりも幸せなことなのかもしれない)

 明るい気持ちになったシアルリアは笑顔で窓の外の国民に手を振った。


◇◆◇◆◇◆

 ミナダ公爵家を追い出されたマロックは、メダダ男爵として王城内に暮らしていた。爵位はもらえたが、領地の管理はさせてもらえず、王城内でエルンと一緒に食べては寝るの生活を繰り返している。
 エルンがネノナカル王国に嫁がなくなったことで、ガズクは法改正をしようとしていた。現在、チモチノモ王国は王女が即位することはできないが、それを可能にしようと考えたのだ。

 チモチノモ王国の官僚たちはこうなることを恐れていた。そうならないように、エルンをブレイズに嫁がせようとし、エルンの誘いに乗らないように徹底していたにもかかわらず、マロックが全てぶち壊してしまった。

 昼間から一糸纏わぬ姿でベッドに横になっていたエルンは、マロックの腕に頬を当てて話しかける。

「マロック、浮かない顔をしているな」
「僕がエルン様と婚約したというのに、友人たちは誰も祝ってくれないのです。ひどくないですか」
「なんだと?」
「これも、シアルリアの仕業なのでしょうか」

 この時のマロックたちは、チモチノモ王国の貴族たちが最終手段に出ようとしていることなど考えてもいなかった。

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