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6 旅立ち
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白い軍服に身を包んだブレイズは、目を見張るような美青年だが、表情や発言は子供のように無邪気だった。
ストレートの黒髪を揺らして赤い瞳をシアルリアに向ける。
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます。ブレイズ陛下自らがお迎えに来てくださったのですか?」
驚いたシアルリアが尋ねると、ブレイズはにっこりと笑う。
「だって、俺のお嫁さんだもん。ちゃんと迎えに行かないとね」
見た目が立派な成年なだけに、発言とのギャップに戸惑ったが、気持ちはとても嬉しく感じた。
「そうでしたか。ご足労をいただき、誠にありがとうございます」
「ご足労……」
(体以外は成長が止まっているみたいだし、言葉が難しかったかも)
首をひねるブレイズに、シアルリアが言葉を言い換えようとした時、チモチノモの国王、ガズクが叫ぶ。
「無礼だぞ! お前と私なら私が格上だということくらい覚えておけ!」
「それはどのような理由でしょうか」
兵士たちをかき分け、いかにも神経質そうな顔立ちをした中年の男性がガズクとシアルリアたちの間に立って尋ねた。
彼はネノナカル王国の宰相、ベルノス・アハカで、幼い精神のままのブレイズを今まで支えてきた人物の一人である。
「親の首が目の前で飛んだからといって、いつまでショックを受け続けているんだ! 体は成長しているんだ。頭も追いつかないとおかしいだろう!」
(殺されてしまったことは聞いていたけれど、詳しい話を聞いていなかった。実際はそんなにひどい状況だったの? 小さな子供の目の前でなんてむごいことを!)
ブレイズを今まで以上に気の毒に思い、シアルリアはブレイズを見つめて息を呑む。笑みを浮かべてはいるが、チモチノモ王国の国王を見つめるブレイズから強い殺意を感じたからだ。
(子供のままなら、言っていいことと悪いことの区別がつかない。下手に無礼なことを言ったらブレイズ陛下の立場が悪くなるかもしれない)
「ブレイズ陛下」
シアルリアは無意識のうちに彼の手を握りながら、ブレイズに呼びかけた。すると、ブレイズは目を瞬かせたあと柔らかな表情になって、シアルリアに尋ねる。
「な、何? あのおじさん、何を言ってるの?」
「ブレイズ陛下が気にしなくてもいいことです。もう、私はここにいたくありません。陛下、私を連れ出してくださいませんか?」
「うん! 一緒に行こう!」
ブレイズは手を握り返すと、シアルリアを引っ張って急かす。
「ほら、早く! あの人、性格悪そうだし、長く一緒にいると、お姉ちゃんの性格も悪くなっちゃうよ!」
「そうですね」
シアルリアがベルノスに目を向けると、彼は無言でうなずき、ガズクに話しかける。
「申し訳ございませんが、ブレイズ陛下はあのような状態です。お話は私が聞かせていただきます」
「ま、まだ、シアルリアとの話が終わっておらん!」
「そうでした。あなたはネノナカル王国の王妃陛下となる方に鞭打ちをしようとしていましたね」
ベルノスから発された殺気に気圧され、ガズクはよろよろと後ろに下がる。
「し、仕方がないだろう。悪いことをしたのはあの女だ!」
「詳しい話をお聞かせください。ネノナカル王国側で判断させていただきます。それにしても、鞭打ちをしなければいけない女性をわが陛下の婚約者にしようとしていらっしゃったとは……」
「うぐ……っ」
ガズクは返す言葉が見つからず、護衛騎士たちの後ろに隠れた。
「お父様、お兄様、また連絡いたします!」
「気をつけてな。ブレイズ陛下、娘をよろしくお願いいたします」
シアルリアの父が頭を下げると、その横でシャインも深々と頭を下げた。
「任せて! 前の婚約者のお姉ちゃんより、シアルリアのほうが絶対いいもん!」
「な、何だと!?」
ブレイズの発言を聞いたエルンとガズクが怒りを露わにしたが、ベルノスの圧を受けて口を閉ざした。
「シアルリア、可哀想に。僕の愛人になりたいと言えばこんなことにならずに済んだのに」
マロックの呟きは、シアルリアの耳に届くことはなかった。
※
どうでもいい話。
モチモチの国王の名前はそのまま。
カネノナル王国の宰相の名前は、とある建物です。(なぜか頭に浮かびました)
ストレートの黒髪を揺らして赤い瞳をシアルリアに向ける。
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます。ブレイズ陛下自らがお迎えに来てくださったのですか?」
驚いたシアルリアが尋ねると、ブレイズはにっこりと笑う。
「だって、俺のお嫁さんだもん。ちゃんと迎えに行かないとね」
見た目が立派な成年なだけに、発言とのギャップに戸惑ったが、気持ちはとても嬉しく感じた。
「そうでしたか。ご足労をいただき、誠にありがとうございます」
「ご足労……」
(体以外は成長が止まっているみたいだし、言葉が難しかったかも)
首をひねるブレイズに、シアルリアが言葉を言い換えようとした時、チモチノモの国王、ガズクが叫ぶ。
「無礼だぞ! お前と私なら私が格上だということくらい覚えておけ!」
「それはどのような理由でしょうか」
兵士たちをかき分け、いかにも神経質そうな顔立ちをした中年の男性がガズクとシアルリアたちの間に立って尋ねた。
彼はネノナカル王国の宰相、ベルノス・アハカで、幼い精神のままのブレイズを今まで支えてきた人物の一人である。
「親の首が目の前で飛んだからといって、いつまでショックを受け続けているんだ! 体は成長しているんだ。頭も追いつかないとおかしいだろう!」
(殺されてしまったことは聞いていたけれど、詳しい話を聞いていなかった。実際はそんなにひどい状況だったの? 小さな子供の目の前でなんてむごいことを!)
ブレイズを今まで以上に気の毒に思い、シアルリアはブレイズを見つめて息を呑む。笑みを浮かべてはいるが、チモチノモ王国の国王を見つめるブレイズから強い殺意を感じたからだ。
(子供のままなら、言っていいことと悪いことの区別がつかない。下手に無礼なことを言ったらブレイズ陛下の立場が悪くなるかもしれない)
「ブレイズ陛下」
シアルリアは無意識のうちに彼の手を握りながら、ブレイズに呼びかけた。すると、ブレイズは目を瞬かせたあと柔らかな表情になって、シアルリアに尋ねる。
「な、何? あのおじさん、何を言ってるの?」
「ブレイズ陛下が気にしなくてもいいことです。もう、私はここにいたくありません。陛下、私を連れ出してくださいませんか?」
「うん! 一緒に行こう!」
ブレイズは手を握り返すと、シアルリアを引っ張って急かす。
「ほら、早く! あの人、性格悪そうだし、長く一緒にいると、お姉ちゃんの性格も悪くなっちゃうよ!」
「そうですね」
シアルリアがベルノスに目を向けると、彼は無言でうなずき、ガズクに話しかける。
「申し訳ございませんが、ブレイズ陛下はあのような状態です。お話は私が聞かせていただきます」
「ま、まだ、シアルリアとの話が終わっておらん!」
「そうでした。あなたはネノナカル王国の王妃陛下となる方に鞭打ちをしようとしていましたね」
ベルノスから発された殺気に気圧され、ガズクはよろよろと後ろに下がる。
「し、仕方がないだろう。悪いことをしたのはあの女だ!」
「詳しい話をお聞かせください。ネノナカル王国側で判断させていただきます。それにしても、鞭打ちをしなければいけない女性をわが陛下の婚約者にしようとしていらっしゃったとは……」
「うぐ……っ」
ガズクは返す言葉が見つからず、護衛騎士たちの後ろに隠れた。
「お父様、お兄様、また連絡いたします!」
「気をつけてな。ブレイズ陛下、娘をよろしくお願いいたします」
シアルリアの父が頭を下げると、その横でシャインも深々と頭を下げた。
「任せて! 前の婚約者のお姉ちゃんより、シアルリアのほうが絶対いいもん!」
「な、何だと!?」
ブレイズの発言を聞いたエルンとガズクが怒りを露わにしたが、ベルノスの圧を受けて口を閉ざした。
「シアルリア、可哀想に。僕の愛人になりたいと言えばこんなことにならずに済んだのに」
マロックの呟きは、シアルリアの耳に届くことはなかった。
※
どうでもいい話。
モチモチの国王の名前はそのまま。
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